イベントレポート

100社がリブラ協会にそろって初めてガバナンスが実現。日本企業の力が必要

Facebook子会社カリブラ幹部がb.tokyo2019で登壇

Calibra・ビジネス開発ディレクターのキャサリン・ポーター(Catherine Porter)氏

N.Avenueが主催するブロックチェーンカンファレンスb.tokyo2019にて10月3日、Facebook子会社のCalibra・ビジネス開発ディレクターのキャサリン・ポーター(Catherine Porter)氏が登壇した。ポーター氏の講演は基本的には発表済みの事項を改めて説明するものであり、新たな情報は伝えなかった。だが、リブラ協会が日本企業の加入を求めていることや、通貨バスケットの設計に言及している。

カリブラ(Calibra)は、Facebookが2020年に提供予定の仮想通貨リブラ(Libra)用のウォレットを開発している。リブラを運用するリブラ協会には、Fecebookとカリブラを合わせて1組織という形で加盟している。リブラ開発の中核企業でもある。米下院の公聴会では、同社CEOのデイビッド・マーカス(David Marcus)氏が召喚された。

リブラ協会には日本企業の力も必要

現在、リブラを運営するリブラ協会には当初発表された28社が参画している。これらの企業がノードを運用し、リブラのブロックチェーンにおける分散性を担保する。協会は、2020年のローンチまでに加盟企業を100社まで増やす方針だ。

ポーター氏は「100社がそろった段階ではじめて協会のガバナンスが実現する。1つ1つの組織が、リブラの運用に平等に関わることとなる。是非日本企業にも参加して欲しい」と述べた。

7月にマネックスグループが、リブラ協会に参加申請を行ったことを明らかにしている。コインテレグラフの報道によると、SBIホールディングスの北尾氏もリブラ協会への参加を検討中とコメントしている。いずれも子会社に仮想通貨交換所を持つため、協会に加入となればリブラの国内展開には大きな影響を与えるだろう。

バスケット通貨にシンガポールドルを採用する理由

リブラは世界中すべての人に金融サービスを提供するというファイナンス・インクルージョン(金融包摂)の実現を主目的としている。なぜ既存の仮想通貨にそれができなかったのか、ポーター氏はBitcoinとEthereumを挙げ、メインストリームに必須の導入が行われていないことを指摘した。ボラティリティの欠如とパフォーマンスの不足が原因だという。

「仮想通貨がどれだけ普及しても、ボラティリティがなければ人々が日常的に利用することは不可能だ。財布に何円入っているのか分からないとしたら、そんな状態で買い物ができるだろうか」(ポーター氏)

カリブラのイメージ。テキストメッセージを送る感覚で送金できる

リブラは、仮想通貨が抱える価格変動(ボラティリティ)の問題に対して、複数国の法定通貨に連動した通貨バスケット制を採用することで価値の安定化を図る。独シュピーゲル紙の発表によると、米ドル50%、ユーロ18%、日本円14%、英ポンド11%、シンガポールドル7%がその比率だ。

リブラの通貨バスケットは、国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)の設計と似ている。異なる点は、ペッグ通貨に中国人民元が含まれない点で、代わりにシンガポールドルを採用している。シンガポールドル採用の理由についてポーター氏は通貨バスケットの仕組みはリブラ協会が取り決めていると前置き、「歴史的かつ安定性のある通貨」を採用していると話した。

リブラが選択した通貨バスケットの中身について、ChainGrokが分析を行っている。同社は2019年9月4日時点でのバスケット通貨の価格を1とし、1999年以降の価格変動をまとめた。また、バスケットの割合の反映してリブラの価格変動も試算し、紫色の折れ線で示している。

通貨バスケットから見るリブラのボラティリティ分析(ChainGrokより引用)

この図を見ると、シンガポールドルは2008年9月のリーマンショックから向こう1年にわたり米ドルと反発し、リブラのボラティリティ制御を実現することが読み取れる。また、直近の5年間では英ポンドや日本円比で低度のボラティリティを示している。こうした観点で、シンガポールドルはポーター氏の言う歴史・安定という要素を満たした通貨と考えられる。

まとめ

リブラがローンチ時には世界で同時に使えるようにすることも、改めて確認された。欧州はリブラを排除する方針を示しているなど、リブラへの対応は国や地域で異なる。世界同時ローンチが困難な道のりとなることは明らかだが、現時点でもそれを目指す方針は変わっていないという。講演の終わりにポーター氏は、リブラが実現する未来像を語った。

「リブラはテキストメッセージを送るのと同じぐらい、国際送金をシンプルにする。10年後には、世界中の人がこの通貨を使い、スマートフォンを用いて金融サービスを受けられるようにする。数億の人に新たに金融サービスを提供すれば、新しいレベルのGDPが生まれるだろう。この事業を進めた先に金融包摂があると我々は信じている。」(ポーター氏)

CoinDesk Japanの佐藤茂氏(写真左)、Calibraのキャサリン・ポーター氏(写真右)

お詫びと訂正: 記事初出時、リブラの準備通貨の構成比率の記述に誤りがございました。お詫びして訂正させていただきます。

日下 弘樹