イベントレポート

仮想通貨・ICOのリスクとは? 〜金融庁後援イベント

仮想通貨・ブロックチェーンフォーラム2018

約700人が参加した「仮想通貨・ブロックチェーンフォーラム2018」

 5月11日に東京・千代田区美土代町のベルサール神田にて開催された「仮想通貨・ブロックチェーンフォーラム2018」は、定員700席が満席になり、多くの企業が仮想通貨やブロックチェーンに対して高い関心を寄せていることを裏付けるものとなった。今回は後編(パネルディスカッション編)として、パネルディスカッションの様子をレポートする。なお、本イベントの主催は一般社団法人ニューメディアリスク協会(以下、NRA)で、金融庁や消費者庁、一般社団法人 日本ブロックチェーン協会(以下、JBA)が後援となる。

 前半パートの有識者による講演に引き続き、後半は「仮想通貨・ICOにおけるリスクとは?」と題したパネルディスカッションが開かれた。パネラーは、金融庁監督局審議官の水口 純氏、アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナーの河合 健氏、株式会社ビットポイントジャパン代表取締役社長の小田 玄紀氏、AnyPay株式会社ICOコンサルティング事業部責任者の山田 悠太郎氏、Aerial Partners株式会社代表取締役の沼澤 健人氏が登壇。NRAの中村 伊知哉理事長がモデレーターを務める。

パネルディスカッションに参加した(左から)金融庁監督局審議官の水口 純氏、アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナーの河合 健氏、株式会社ビットポイントジャパン代表取締役社長の小田 玄紀氏、AnyPay株式会社ICOコンサルティング事業部責任者の山田 悠太郎氏、株式会社Aerial Partners代表取締役の沼澤 健人氏

支払い決済手段の機能に着目して『仮想通貨』の名称が使われ始めた

Bitcoinの価格推移と、Bitcoinを取り巻くトピックスを示した資料

 パネルディスカッションでは、Bitcoinの価格推移と、Bitcoinを取り巻くトピックスを示した資料を表示しながら、仮想通貨やICO(Initial Coin Offering:仮想通貨による資金調達方法)に関する議論を行う。最初の話題は、2017年4月に施行された「改正資金決済法」に関するものとなった。

 金融庁監督局の水口 純審議官は、「2014年2月に、当時、世界最大級のBitcoinの取引所であったMt.Gox(マウントゴックス)が破綻したこと、2015年にマネーロンダリングやテロ資金対策を行うFATF(金融活動作業部会)における議論や、各国首脳会議において、法定通貨と仮想通貨の交換業者に対してライセンシングするといった提言が行われたことなどを背景に、日本では資金決済法を改正した」と口火を切った。水口審議官は、「仮想通貨が支払い決済手段としての機能があるという点に着目して、仮想通貨の名称もこのときに使い始めた」という。「ただ、これは通貨として認定したものではなく、通貨とは異なるものとの認識には変わりない」と説明。

金融庁監督局審議官の水口 純氏

資金決済法と犯罪収益移転防止法

 アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナーの河合 健氏は、「改正資金決済法では、仮想通貨が、電子的に取り引きされる財産的価値を持ち、不特定の人たちの間で決済手段に利用されるものであり、かつ売買ができることなどを定義すると同時に、仮想通貨の交換業がどういうものであるかを示した」という。

 続けて河合氏は、「また、併せて仮想通貨交換業者の登録制度を開始した。Mt.Goxの破綻という日本における状況と、FATFによる国際合意をもとに施行されたものになっている。さらに、資金決済法とともに犯罪収益移転防止法が成立した。これは、本人確認を行うことや、疑わしい取引についての報告義務が生じることなどを示しているが、仮想通貨交換業者もこの対象となり、マネーロンダリング対策やテロ資金対策を行うことになる」と解説した。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナーの河合 健氏

仮想通貨交換業者の内部管理体制が今後の論点

 水口審議官は、「仮想通貨交換業者は、インターネットを用いて財産的価値を交換、移転する事業を行っており、これを会社の財産と分別しなくてはならないため、事業者法の観点からは高度な業務管理が求められている。システムの安全性やサイバーリスクへの対応、経営体制を含めた内部管理体制をしっかりしておく必要もある」と語る。「システムリスク、マネーロンダリング対策やテロ資金対策、分別管理、利用者へのリスク説明などが求められている。2017年後半からは、仮想通貨の価格が上昇し、事業が拡大しているなかで、仮想通貨交換業者の内部管理体制が追いついているのかが今後の論点になる」とも指摘した。

 ビットポイントジャパン代表取締役社長の小田 玄紀氏は、「2017年春以降、仮想通貨に対する注目が集まっているのは、改正資金決済法が出来たことをきっかけに、数多くの報道が行われたことが影響している」と前置きし、「大手の仮想通貨交換業者では、約200万人の会員がいる。野村証券の総合口座の会員数は約500万人であり、何十年もかけて増やしてきた会員数の半分近くまでを、短期間で達成している。一人一人の会員を確認しなくてはならず、仮想通貨交換業者として、そのあたりをしっかりやらなくてはならないと認識している」と発言する。

ビットポイントジャパン代表取締役社長の小田 玄紀氏

 これに対して、水口審議官は、「仮想通貨交換業者の登録は、最初の段階であり、さらに審査する領域も幅広い。外部から採用した人材を含めた専門家集団によって対応している。金融庁本体に専門家を集め、2017年8月には、仮想通貨モニタリングチームを、兼任を含めて30人規模で立ち上げ、ここで、登録業務およびモニタリング業務を行っている」と、登録および監視に関する金融庁の取り組みを紹介した。

仮想通貨の税金問題「税理士でも計算することが煩雑」

 続いての話題は、2017年12月の1か月間でBitcoinの価格が高騰したことについて取り上げた。パネルディスカッションでは、これに関する税金の取り扱いに関して議論をした。

 Aerial Partners代表取締役の沼澤 健人氏は、「2017年は年間を通じて仮想通貨は右肩上がりで価格が上昇したが、ここで財を成した人の税金の問題が社会的にも取り上げられた。まだ定義はされていないが、2017年12月に国税庁が、仮想通貨の投資にかかる基本的な方針を、Q&A方式で示している。投資家にとっては、税金を計算すること事態が煩雑になり、今年3月の確定申告の時期を過ぎても、まだ混乱している状況にある。具体的には、仮想通貨は売買だけでなく、ICOへの参加やマイニングといった経済活動、少額決済での利用など、複数の取引形態が組み合わさって所得を形成しているため、税理士の専門性を持っても計算することの煩雑性が高い。申告をしたくてもできないという人が増えているのが現状である」と指摘。

Aerial Partners代表取締役の沼澤 健人氏

 沼澤氏は、「制度を変えようとしても、分離課税の導入など、投資家が望んでいるようなダイナミックな改正についてはまだまだ議論をしていく必要がある。投機、投資、実需という見方をすれば、当初は投機が注目を集めていても、一般的に取引が行われる実需が伸びる必要がある。だが、現状では、仮想通貨の少額決済でも、その都度、所得税の計算が必要になっている。仮に、一定の範囲内では課税をしないといったような動きが出てくると、仮想通貨取引が増え、法人税収の増加につなげることができるのではないか」などと述べた。

日本で仮想通貨による決済利用が伸びない理由

 AnyPayのICOコンサルティング事業部責任者の山田 悠太郎氏は、「現時点では、仮想通貨を使った人全員が確定申告をしなくてはならなくなるという問題もある。たとえば、100万人の会員のなかには、未成年者も、高齢者もいる。このままでは仮想通貨の利用の発展を止めてしまう要因になるのではないかという議論も出ている」と指摘した。

AnyPayのICOコンサルティング事業部責任者の山田 悠太郎氏

 さらに、河合氏は、「仮想通貨は値上がり期待から、まだ投機の手段という見方が強いが、その一方で、日本で仮想通貨による決済利用が伸びないのは、税制の影響が大きいと感じている。先日、仮想通貨に詳しい人たちだけでバーに入って、そこで仮想通貨で決済をしようとしたが、結局、あとあと面倒だということで、全員が現金で支払った。毎回、税率計算をしなくてはならないのは障害以外のなにものでもない。仮想通貨は決済手段として伸びていくことが大切であり、その点を考えなくてはいけない。投機的要素の値上がり益とは別に、少額決済のところは非課税にするといったように、うまい組み合わせを考えてほしい」と提案した。

 議論が、1月のコインチェックによるNEM流出事件についても話題がおよぶと、小田氏は、「残念ながら、取引所に預けずに、自分でウォレットによって管理をするのがいいとは、言い難い実状である。様々なウォレットアプリが登場しているが、正直なところ、そのなかにはこれで大丈夫なのかと思うようなものもある。自分が信用できるものをどう選ぶかが大切である」と語った。

白熱するICOの話題「詐欺」「玉石混交」「いいICOも増えている」

 次にパネルディスカッションのテーマは、ICOに関する議論に移った。白熱する意見交換から、その関心度の高さを伺うことができた。

 山田氏は、「2017年春以降、日本のメディアでICOに関する記事が増えはじめ、多くの人に情報が入るようになってきた」という。「海外の動向を見ても、その多くが投機だと見ている。そして、ICOに関する各企業のホワイトペーパーを見て、どの企業のトークンを購入したらいいのかということを判断できる人の数が少ないのが実態である」と語る。

 さらに、「詐欺のような案件や、詐欺をする気はないが、実質的には出来ないようなサービスに資金が集まってしまうということもある。これではICOという仕組みは、社会的に無い方がいいということになりかねない。ルール作りなどを通じて、正しくICOが進められ、サービスが作られ、そのサービスが世の中に浸透するという流れが作られれば、ベンチャーキャピタルやクラウドファンディングなどの資金調達と並列で、ICOが機能していく未来ができるだろう」と提案。また、「富裕層や投資家などを対象にしたプレセールの段階で資金を集めきってしまうケースが増えている。プロの投資家が、ICOの領域に入ってきている。これは正しい情報が開示され始めたことの証ともいえる」と語った。

 一方、河合氏は、「事業者目線で見れば、スピード感やグローバルへの広がりがメリットだといえる。短期間でプロダクトを作り、市場に出したいというニーズには、ICOによる資金調達は適している。また、ベンチャーキャピタルは、目利きの人に評価をしてもらい、支援をしてもらう仕組みだが、ICOは、うまくコミュニティが形成できれば、ユーザーに近い目線のところから意見を聞きながら、広く海外からも調達するといった仕組みを構築できる。日本でのプロダクトは閉じられている環境にあることが多いが、海外はグローバルで勝負したいと考えている企業が多く、グローバル目線で資金を調達するにはICOは適している。だが、資金だけ集めて逃げればいいと考えている人が一定数いるのも確かだ。ポテンシャルはあるが、玉石混合というのが実態である」などと語った。

 だが、小田氏は、「最近になって、いいICOが増えてきている」と報告。また、山田氏も、「金額の伸張以上に、件数が伸びている。つまり競争が激しくなっていることの裏返しでもあり、しっかりしたものを出さないといけないという意識が働き、設計の内容を精査したり、情報開示に取り組んだりといった例がある。経営陣の腹の括り方も変わってきたのではないか」ともいう。さらに小田氏は、「仮想通貨交換業者がしっかりと調査を行い、リスクを負うことについても、浸透してきたように感じる」とICOを支援する仮想通貨交換業者側の変化も指摘した。

 山田氏は、「トークンを発行する企業と話をすると、日本は、トークンを発行するには、レギュレーションが厳しく、求められる水準も高く、法律が今後どう変更するかもわからないため、日本の市場には入りにくいという話がある。日本には特有の法律があると誤解している人が多いのも事実である」とも指摘する。

 河合氏は、「今のところ、仮想通貨の定義があり、仮想通貨交換業者という仕組みがあるのは日本だけである。今後、各国政府の動向で変わる可能性はあるが、現時点では、世界的に、仮想通貨は、金融商品のひとつに近いものであるという認識はあるが、有価証券に当たるとしているため、有価証券のルールに準拠することになる」と状況を説明した。

自主規制団体による柔軟なルールの設定に期待

 ここで、モデレーターを務めたNRAの中村 伊知哉理事長は、これまでの議論をまとめ、「ICOの件数は増加し、いい案件も増加しているが、世界的に見ると、日本でのICOが難しく、日本を対象にしたICOが海外で行われ、これが、ジャパンバッシングといえる動きにつながっている。ICOは、メリットは大きいため、健全に伸ばしていくことが大切であり、そのためにはルール化、制度化を進め、ベストプラクティスを共有すべきである」とした。

モデレーターを務めた一般社団法人ニューメディアリスク協会(NRA)の中村 伊知哉理事長

 これに対して、水口氏は、「イノベーションの芽を摘まないようにしながら、利用者保護をどう図っていくかというバランスが大切だと考えている。ICOについては、欧米での事例でも詐欺まがいのものがあったという話は聞いており、日本でも昨年暮れから注意喚起を行っている。注意喚起の動きは世界各国で見られている。2018年4月に、金融庁において、仮想通貨交換業に関する研究会を設置し、ICOを含めて幅広く意見を聞き、実態を把握しながら、今後どういう方向に持っていけばいいのかを議論している。単に規制をすればいいという話ではなく、また、世界を結んだインターネットの取引であるということを考えれば、日本だけが規制を厳しくすればいいということでもない。自主規制団体として、日本仮想通貨交換業協会が設立され、今後、認定資金決済事業者協会の認定を取得することになる。自主規制団体によって、機動的に、柔軟なルールの設定ができるようになる。この動きに期待している」と述べた。

仮想通貨・ブロックチェーンに関する人材不足と育成の必要性

 パネルディスカッションは、仮想通貨に関する人材育成についても触れた。

 沼澤氏は、「国内では人材が圧倒的に不足している。仮想通貨の取引所をはじめ、ブロックチェーン関連企業では、人材獲得競争がし烈になっている。中国やロシアでは、ブロックチェーンに関する教育で先行しており、日本の企業が、こうした人材を獲得しようという動きもある。だが、国内でも人材を育成をしなくてはならないのは確かだ。ブロックチェーンのエンジニアを対象にしたコワーキングスペースを設置するといった動きも始まっているほか、エンジニアを育成するといった機運も高まっている」などと語った。

パネルディスカッションの最後に

 最後は、まとめとして各登壇者が発言。沼澤氏は、「ブロックチェーンに関わる各社が自ら正しいと思うことを行い、制度化に取り組み、範となることが大切である。これが業界の健全化につながる」とし、山田氏は、「これまでにいくつかの事件があり、仮想通貨は、危ないという認識が前提にある。そして、ICOで面白い成果が出てこないと、ICOは駄目ではないのか、ブロックチェーンは駄目ではないのかという議論が出てくることになる。ブロックチェーンがどんな社会問題を解決できるのか、ICOがビジネス成長にどう貢献するのかといった成果が必要である」とコメント。

 小田氏は、「いいICOや、いい仮想通貨の成果をイチから作っていくことが大切であり、そこに仮想通貨交換業者が果たす役割は大きい」と発言。河合氏は、「今後5年に向けてどうしていくのかということを、官だけでなく、民間も考えていく必要がある」と提言した。

 また、水口氏は、「ブロッチクェーンの技術は様々なところに転用ができる技術として注目を集めている。仮想通貨やトークン、そしてICOに関しては、自主規制団体によって、民間の意見を取り入れながら、適切に対処していきたい」と述べた。

 閉会の挨拶で、NRAの中村 伊知哉理事長は、「ニューメディアリスク協会(NRA)は、最初は、ネットの炎上対策を目的に設立したものであり、『炎上協会』と呼ばれていた時期もあった。だが、新たなジャンルのものが生まれ、リスクそのものも進化をしていくなかで、様々なネットに関するリスクを考えていかなくてはならなくなった。仮想通貨、ICO、ブロックチェーンについても我々として取り組んでいきたいと考えている。今後、登場するリスクについても目配せをして、皆さんと一緒に考えていきたい。当協会に対して、様々な相談を持ちかけてほしい」と語った。

大河原 克行

1965年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、25年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウド Watch、家電 Watch(以上、インプレス)、日経トレンディネット(日経BP)、ASCII.jp(角川アスキー総合研究所)、ZDNet Japan(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に『図解 ビッグデータ早わかり』(KADOKAWA)、『究め極めた「省・小・精」が未来を拓く』(ダイヤモンド)など。