イベントレポート
仮想通貨とブロックチェーンに大きな潮流 〜金融庁後援イベント
仮想通貨・ブロックチェーンフォーラム2018
2018年5月22日 06:40
「仮想通貨・ブロックチェーンフォーラム2018」が5月11日、東京・千代田区美土代町のベルサール神田で開催された。主催は一般社団法人ニューメディアリスク協会(以下、NRA)で、金融庁や消費者庁、一般社団法人 日本ブロックチェーン協会(以下、JBA)が後援した。
「仮想通貨、ICOで沸くFintech分野におけるリスクマネジメント最前線」をテーマに、有識者や事業者による講演やパネルディスカッションを通じて、仮想通貨やICO(Initial Coin Offering)、ブロックチェーンの可能性とリスクについて理解を深めることを目的としたフォーラムだ。仮想通貨やブロックチェーンに関する企業の経営者のほか、これらに関する事業を検討中の企業、システム開発やリスクマネジメントなどを支援する事業者など、約700人が来場した。
今回は「仮想通貨・ブロックチェーンフォーラム2018」の内容を2回に分けて完全レポート。前編(講演編)となる本稿では講演部分について詳しく紹介し、後編(パネルディスカッション編)ではパネルディスカッションの様子をレポートする。
「仮想通貨とブロックチェーンに大きな潮流」~内閣府大臣政務官の村井氏
午後2時から開演した「仮想通貨・ブロックチェーンフォーラム2018」は、内閣府大臣政務官である村井 英樹氏の挨拶から始まった。
村井氏は、「これだけ多くの方々が来場したことをみても、仮想通貨、ブロックチェーンに対する、大きな潮流があること、注目の高さを感じる」という。「政府では、未来投資戦略2017を打ち出し、IoT、ビッグデータ、人工知能、シェアリングエコノミーなどを活用したイノベーションによって、Society 5.0を実現しようとしている。そして、FintechをSociety 5.0の実現に向けた戦略分野に位置付けている」と切り出した。
金融庁では、Fintech実証実験ハブを開設して、スタートアップ企業と金融機関の協業支援の取り組みを行っているとのこと。「仮想通貨については、イノベーションと利用者保護に留意するために、世界に先駆けて、仮想通貨交換業者に対する登録制を導入するなど、環境整備を進めてきた」と語った。
また、「発展途上のブロックチェーン技術は、サービスの実用化が急激に進められた場合、技術の本質を捉えたサービスの提供がおろそかになりがちで、ユーザーリスクが発生する可能性がある。イノベーションとリスクのバランスが重要だ。そのためには、より実効的な登録審査を行っていく考えであり、自主規制団体が自律的に行動していくことも求められる。一方で、Fintechによる金融のグローバル化への対応に向けては、クロスボーダーの連携が重要になってくる。金融庁では、海外の規制関係当局と連係して、2018年3月には、ブロックチェーンラウンドテーブルを立ち上げた。革新的技術の適切な活用による金融セクターの成長促進につなげたい」と述べた。
「仮想通貨・ICOの可能性とリスク」~bitFlyer加納氏による基調講演
続いて行われた基調講演では、「フィンテックのリスクマネジメント-注目を集める仮想通貨・ICOの可能性とリスク-」と題し、株式会社bitFlyer代表取締役の加納 裕三氏が登壇した。
加納氏は、冒頭でbitFlyerの事業内容を紹介するとともに、同氏が代表理事を務めるJBAについても説明。「bitFlyerは、世界の全取引の15%程度を占める規模の仮想通貨の流動性を供給している。また、JBAは、2016年に日本価値記録事業者協会(JADA)としてスタート。その後、法律に使用されている『仮想通貨』の名称を使うようになった。これまでにも政策提言や定義策定などを行っており、現在、仮想通貨取引に関する9つの自主規制案を立案。これを16社の交換事業者によって設立した新団体の日本仮想通貨交換業協会において実行することになる」などと述べた。
基調講演のなかでは、Bitcoinの歴史や非中央集権型であるブロックチェーンの特徴などについて触れる一方、法定通貨や電子マネーとの違いについても説明。Bitcoinでは、ロボット同士が取引をするような世界で想定される「1円以下の支払い」ができること、グローバルの利用が可能であり、国境を超えた取引に適しているなどのメリットがあるものの、価格変動リスク、流動性リスク、ネットワークリスク、取引所の営業時間リスク、取引所のシステムリスク、手数料や費用変更リスク、取引所破綻リスク、法令・税制変更リスク、ログイン情報漏洩・ハッキングリスク、秘密鍵/プライベートキー紛失リスクという10個のリスクを挙げ、「仮想通貨取引におけるリスクがあることを知っておくべきだ。当社の創業時に比べると、仮想通貨に関する相談が何10倍にも増えていることも、仮想通貨取引における課題が増えていることを示している」とし、「顧客の資産を守るために、一定水準のセキュリティ対策を行うなど、業界としての自主規制が必要である。また、リスクに対して、どんな技術で対応していくのかといったことも研究していく必要がある」と指摘する。
加納氏は、仮想通貨交換業者が、情報セキュリティに関する規程やガイドライン、マニュアルを製作したり、ネットワークの監視やモニタリングの実施をしたりといった数々のセキュリティ対策を行っていることを示したほか、利用者は、ほかのサービスで使っているパスワードを仮想通貨取引には使わないこと、二経路認証を行うことが利用上必須であることなどを訴えた。また、安全に管理ができるコールドウォレットによるBitcoinの保管方法を紹介し、バックアップと暗号化を組み合わせて利用することを勧めた。
ICOについては、「ブロックチェーン関連の調達では、ICOがVC(ベンチャーキャピタル)を上回っており、資金調達したい企業側にとっては魅力的なものである。だが、日本では法律や規制が未整備であり、bitFlyerではすべてのICOを断っている。また、あまりよくないICOもあるため、気をつけてほしい」としたほか、民間主導でICOによる資金調達の標準を確立することを目的に、ICOビジネス研究会が設立されており、すでに活動を開始していることにも言及した。
「スマートコントラクトの可能性とリスク」~DMM.comラボの加嵜氏、篠原氏
続いて行われた講演では、株式会社DMM.comラボのスマートコントラクト事業部のエバンジェリストである加嵜 長門氏と、テックリードである篠原 航氏が、「ブロックチェーン・スマートコントラクト技術の可能性とリスク」をテーマに話をした。
DMMは、エンターテイメント分野におけるECサイトの運営でスタート。その後、新規事業に投資して業容を拡大。DMMでは、2016年から、Bitcoinの決済を開始し、2017年からはマイニングや交換所事業を開始した。また、2018年にはスマートコントラクト事業部を設置して、ブロックチェーン技術の実用化に向けた研究開発やビジネス利用のための実証実験を開始している。
スマートコントラクト事業部のエバンジェリストである加嵜 長門氏は、「インターネットはネットワークを通じて電子化した情報をコピーできる点にメリットがあったが、それだけに、インターネット技術では、現金を電子化できないという課題があった。ブロックチェーンは、コピーや改変ができないデジタルデータを実現したり、管理者がいない自立分散システムを実現することができるため、インターネットの課題を解決することができる。また、ブロックチェーンは、誰もが簡単に、トークンを設計、発行できるプロトコルを提供することにもつながり、資産の取引や存在証明、契約などにも利用することができる。さらに、スマートコントラクトによって、契約をプログラム化し、条件が整えば、取引を自動的に執行させることも可能になる」とメリットをあげた。
一方で、テックリードの篠原 航氏は、「仮想通貨のウォレットは、自己責任で管理する必要があり、秘密鍵を無くしてしまったり、見せてしまうことによるリスクがある。また、スマートコントラクトはプログラムであり、変更ができないものである。そこにバグがあると、意図しない挙動をしてしまうといった課題がある。なかには、多額の資金を失ったり、権限が奪取されてしまったという例もあった。さらに、ICO(Initial Coin Offering:仮想通貨による資金調達方法)では、資金が集まりすぎて、開発のモチベーションが下がったり、そもそもプロジェクトの中身がない詐欺のようなものもある。資金の分配機能などを通じて持ち逃げされない仕組みを作る必要がある。DAICOと呼ばれる健全なICOを実現するための構想があり、これを利用することもできる。ただ、実態は、未解決な課題が山積みであり、その課題を解決していく必要がある。だが、それを解決するための人材が不足している点も問題である」とした。
「ニーズが高まるブロックチェーン人材への対応」~インロビ 後藤田氏
続いて、株式会社インロビ代表取締役社長の後藤田 隼人氏が、「ニーズが高まるブロックチェーン人材への対応」と題して講演をした。同社では、今年夏から秋にかけて、求人サービスやエージェントサービスを提供する予定だという。
後藤田氏は、「ブロックチェーンは、2021年には298億円の市場になると予測されるなど、大きな成長が見込まれているが、それにも関わらず、ブロックチェーンに精通したエンジニアが少ない点が課題となっている。海外からの人材を活用するという手もあるが、2,000~3,000万円の費用がかかる。国内の人材育成を進めていく必要がある」と指摘した。
今回のイベントの主催者であるNRAでは、仮想通貨・ブロックチェーン人材育成部会を新設することを発表。インロビが同部会の運営サポートを行うことになるという。
同部会では、無料および有料のブロックチェーン人材育成講座を通して、ビジネスパーソンやエンジニアに適したスキルを提供する。また業界内での交流の活性化、健全な業界の発展につなげるための各種活動に取り組む考えを示した。
「デジタルリスクマネジメントの重要性を認識してほしい」~エルテス平野氏
続いて、株式会社エルテス執行役員の平野 元希氏が、「仮想通貨、情報銀行、今後求められるデジタルリスクマネジメント」について講演をした。
「ブロックチェーン技術によって、仮想通貨取引が普及したり、口座開設がオンラインで完結したり、パーソナルデータの預託や活用などの動きが進むが、こうしたテクノロジーの発達によって発生するリスクにも注意しなくてはならない。本人確認業務、本人認証業務、そして、これらの業務の複数事業者間連係において、デジタルリスクマネジメントが、今後、求められてくるだろう」と平野氏は発言した。API提供型KYCソリューションや本人認証技術を搭載したアプリケーションの提供ほか、国立研究開発法人科学技術振興機構などにおいて、複数組織データ利活用を促進するためのプライバシー保護データマイニング研究に取り組んでいることを紹介した。
平野氏は、「デジタルテクノロジーの発達に伴い、創出されるマーケットにおいては、新たなリスクが発生することになるだろう。また、リスクマネジメントを怠ると自社だけでなく、マーケットそのものが消滅する可能性がある。健全なデジタル社会の発展のために、デジタルリスクマネジメントの重要性を認識してほしい」と呼びかけた。
「日本におけるICOの必要性と可能性」 ~ビットポイントジャパン小田氏
講演の最後は、株式会社ビットポイントジャパン代表取締役社長の小田 玄紀氏による「日本におけるICOの必要性と可能性」をテーマにした内容となった。
小田氏は、「BITPointは、安心、安全な仮想通貨取引をモットーに創業しており、独自のウォレット管理手法『ウォームウォレット』を構築している。そして、投資プラットフォームだけでなく、仮想通貨の決済、送金も展開しており、世界最大の仮想通貨ネットワークを実現している」と同社の取り組みを紹介。
また、ICOに関する課題についても説明。「ICOには、それを語った詐欺や盗難、あるいは計画したプロジェクトの失敗などの課題があるが、一番問題だと考えているのは、日本国内においてICOができないと誤解して、海外で発行体を作り、ICOしてしまうという動きだ。このなかには、日本の居住者を対象としたトークンもあり、海外からは、日本に対する不信感が生まれていることも課題である」と発言。また「いいICOの定義を、調達金額や時価総額ではなく、そのブロジェクトの社会的価値と捉えるべきである」と提言し、「BITPointのICOに対する審査ポイントは、ビジネスモデルの価値や継続性、ブロジェクトを実現できる経験と基盤を有しているかどうか、そして、ホワイトペーパーが正確に書かれているかといった点などを重視している」と述べた。そして「仮想通貨交換業者が一定の責任と監視機能を持ち、適切なICOが、日本で誕生できるように発行体への支援およびICO管理体制を構築すべきである」と語った。
「仮想通貨・ブロックチェーンフォーラム2018」完全レポートの後編(パネルディスカッション編)では、パネルディスカッション「仮想通貨・ICOにおけるリスクとは?」の内容をお届けする。