イベントレポート

インフォテリア、ブロックチェーン開発企業Zilliqa社と事業提携

パブリックブロックチェーンの速度問題を「シャーディング」で解消し企業導入を促す

 インフォテリア株式会社は8月2日、ブロックチェーン分野における経営戦略の一環として、シンガポールを拠点とするスタートアップ企業Zilliqa Research Pte. Ltd(ジリカ)社との事業提携を発表した。同日に、記者会見を実施。両社のCEOが出席し、ビジネス用途に耐える高速・高セキュリティなパブリックブロックチェーン技術の国内普及を目指すとアピールした。

インフォテリアの平野洋一郎氏(左)とZilliqa社のXinshu Dong氏

スピードと透明性を「シャーディング」で両立

 今回の事業提携の核となるのが、Zilliqa社によって現在開発が進められているブロックチェーン技術「Zilliqa」だ。

 一般的にブロックチェーンは「パブリックブロックチェーン」「プライベートブロックチェーン」の2種に大別される。パブリックブロックチェーンは不特定多数のユーザーの接続を前提としたブロックチェーン。莫大な数のノードが取引を相互に監視しあうためセキュリティは高いが、スピード面で劣る。Bitcoin(BTC)のマイニングでブロックの確定が10分に1回しか行われないといった点は、遅さの一例である。

 対して、プライベートブロックチェーンは、単一の企業やごく少数のノードだけでの運用を前提としたもの。保守性、運用ルールの柔軟な変更といった面で優れるが、改ざん防止や取引透明性ではパブリックブロックチェーンより劣るとされる。

 Zilliqa社はパブリックブロックチェーンがベースの技術ながら、プライベートブロックチェーンの利点の取り込みを目指している点が特徴。具体的には「シャーディング(Sharding)」と呼ばれる技術が用いられており、ブロックチェーンのノードをいわば“分割統治”することで、処理スピードの向上、取引透明性の両立を狙っている。なお、シャーディングは、主要な仮想通貨の1つであるEthereum(ETH)において導入が検討されている技術として知られる。

「企業でパブリックブロックチェーン」の時代が到来!?

 記者会見では、インフォテリアの代表取締役社長・CEOである平野洋一郎氏がまず登壇。「ブロックチェーンを使ったビジネスを手がける企業は数多く、インフォテリアもまさにその1社。だがZilliqa社のようにブロックチェーンそのものを開発している企業は少ない」と、その提携の位置付けに言及した。

提携の狙いを解説する平野氏

 インフォテリアでは中期経営計画においてブロックチェーンへの注力を明言しているが、中でも「企業におけるブロックチェーン活用の推進」は大きな目標となっている。ブロックチェーンは必ずしも仮想通貨やフィンテックにのみ適用される技術ではなく、汎用のデータベース技術として、さまざまな企業活動への応用が期待されている。

 ただし、企業導入において壁となっている要素の1つがスピードだ。平野氏は、10分に1回しかブロックが確定しないBitcoinを例に挙げ、「これでは銀行の業務に使えないといわれてきて、それを解決するためにプライベートブロックチェーンが出てきた」「我々自身、3年前にブロックチェーンを商品として発表したときはプライベートブロックチェーンがあるからこそ企業導入できると説明した」と振り返る。

 しかし、時を経てその流れも変わりつつあると平野氏は指摘。「Zilliqaはパブリックブロックチェーンでありながら速い。しかも拡張性がある」と述べ、企業導入のハードルがさらに下がってきていることを伺わせた。

インフォテリアでは、これまでもブロックチェーン関連の施策を多数展開

 とはいえ、企業のシステムが今すぐ全てブロックチェーン化する訳ではない。既存のシステムに対して、少しずつブロックチェーンが連携していく中で、インフォテリアが得意とするXMLなどのデータ連携プラットフォームの出番がさらに増えると考えられる。今後は、インフォテリアが手がけるコンサルティングサービスにおいても、「Zilliqa」をラインアップに加える。

 そして、ブロックチェーン普及の先に見据えるのが「DApps(Decentralized Applications)」、つまり「非中央集権型アプリ」の実現だ。ブロックチェーンは分散データベースゆえに、必ずしも管理者を必要としない。個人間送金を例にした場合、これまでは金融機関の介在が不可欠だったが、ブロックチェーンはそれを過去のものとし、真の意味での個人間直接送金を実現しうる。

 「非中央集権」の考えは、組織論や企業間競争の在り方にもつながっていく。平野氏は「固定的で動きの遅い組織は、今後恐竜のような(絶滅しゆく)存在になっていくだろう。速く動き、ドンドン結果を出していけるDecentralized(非中央集権)な企業のために貢献していきたい」と述べている。

「DApps」の実現によって、サービス改善が期待される領域の例

取引処理能力200倍を謳う「Zilliqa」

Zilliqa社のXinshu Dong氏。同社の歴史は2015年のシャーディング関連の論文に遡ることができるという。従業員は今のところ15人ほど

 続いて、Zilliqa社のXinshu Dong氏が登壇した。ブロックチェーンを巡っては、速度やスケーラビリティが常に技術的課題として横たわってきたことに触れた。「Bitcoinの取引処理能力は1秒間に7回程度。しかしクレジットカードのVISAは1秒で最大8000件の処理ができる。この差こそ、ブロックチェーンの課題だ」とDong氏はいう。

 Zilliqa社ではその解決を図った。シャーディング技術を用いる事で1秒間に最大で2800回の取引処理を実現。これは一般的なパブリックブロックチェーンの200倍の速度だという。

パブリックブロックチェーンながら取引処理能力が高い点をアピール

 また、ブロックチェーンに参加するノードが増えた場合、取引処理件数が増加するのも「Zilliqa」のメリットである。会見中のデモ映像では、400ノード参加時の取引処理件数が400件/秒だったのに対し、ノード数が1000に増加すると2000件/秒へ向上するとアピールした。

 「Zilliqa」は今まさに開発が進められており、これまでにもシンガポールの証券取引所などで実証実験が進められてきた。またDong氏は、デジタル広告取引市場においても「Zilliqa」が活躍できると説明。一般的に、デジタル広告は代理店をはじめとして流通に関わる企業が多く、中間手数料も多くかかってしまう。しかし「Zilliqa」のようなブロックチェーンベースの取引システムがあれば、手数料を最小限に抑えつつ、それでいて取引の透明性も確保できるとした。

ノード数の増大によって取引処理速度の向上も見込める

森田 秀一