イベントレポート

2018年秋にブロックチェーンがふくおかフィナンシャルグループの地域ポイントで実稼働

アクセンチュアのソリューション、特定技術への密結合を避ける「ブロックチェーン・ハブ」を利用

 複数の事業会社を横断的に結ぶ企業ポイントのソリューションを、ブロックチェーン技術を活用して構築する──このような取り組みが日本国内で立ち上がろうとしている。

 8月3日、アクセンチュアは、ブロックチェーン技術を活用するためのプラットフォームソリューション「ブロックチェーン・ハブ」(仮称)の本格展開を開始すると発表。その第1号ユーザーとして、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)の関連会社iBankマーケティングが「ブロックチェーン・ハブ」をこの2018年6月から先行利用中であることを明らかにした。この2018年秋には実稼働に入る予定だ。日本の金融機関がブロックチェーン技術を実稼働させる案件は、公表されている範囲ではおそらく初めてとなる。

 iBankマーケティングは、沖縄銀行、熊本銀行、親和銀行、福岡銀行の各行と連携するスマートフォンアプリ「Wallet+」を提供する。この「Wallet+」サービスの一環として地域ポイントサービス「myCoin」も運営する。ブロックチェーンを適用する対象は、地域ポイント「myCoin」のシステムである。アクセンチュアの「ブロックチェーン・ハブ」(仮称)およびブロックチェーン技術Hyperledger Fabricを活用する予定だ。

 日本の金融機関がブロックチェーン技術に取り組んだ実証実験としては、三菱UFJ銀行の「MUFGコイン」や、3大メガバンクによる銀行間送金の実証実験、全銀協による実証実験などの事例がある。ただし、公表されている範囲では実稼働に至ったプロジェクトはまだない模様だ。

特定のブロックチェーン技術から切り離した「疎結合」システムを狙う

 以下、「ブロックチェーン・ハブ」説明会での取材に基づき、アクセンチュアの構想とiBankマーケティングの取り組みを説明する。

 アクセンチュアが作り上げた「ブロックチェーン・ハブ」の狙いは、エンタープライズシステム向けに、複数のプライベート型ブロックチェーン技術(あるいはパーミッション型ブロックチェーン)の違いを吸収し、アプリケーションを特定のブロックチェーン技術に依存しないようにすることである。情報システムが1種類のブロックチェーン技術に密結合されないようにする。

ブロックチェーン・ハブのアーキテクチャ全体像

 併せて、ブロックチェーン技術だけでは提供できない機能群、例えばユーザー情報の管理、ブロックチェーンへのアクセス制御、ユーザーインタフェース、取引の訂正・取り消しの機能、各種運用機能、他システム連携などの機能群を提供することを狙う。ここで「取引の訂正・取り消し」機能に注釈を加えておくと、本来のブロックチェーン技術は取引として記録した内容の取り消しが不可能である点が特徴だが、アクセンチュアはカメレオンハッシュと呼ぶ技術を使いブロックチェーンの記録内容を訂正・取り消しできる技術を開発済みである。これはGDPR(EU一般データ保護規則)が求める個人情報の削除権に対応することなどを目的に開発された技術である。

ブロックチェーンエンジンの外側で提供する機能群
「ブロックチェーン・ハブ」のアーキテクチャ

 当面、利用するブロックチェーン技術はHyperledger Fabricである。他のブロックチェーン技術への対応については明言は避けたが「Ethereumへの関心は強い」(アクセンチュア テクノロジーアーキテクチャグループ テクノロジーコンサルティング本部 マネジング・ディレクター山根圭輔氏)とコメントしている。

アクセンチュア テクノロジーアーキテクチャグループ テクノロジーコンサルティング本部 マネジング・ディレクター山根圭輔氏

ブロックチェーン技術のメリットを、ITコスト削減、業務コスト提言、平等な情報活用の3つに整理

 ブロックチェーン技術(あるいは分散型台帳技術:DLT)そのもののメリットについて、アクセンチュアは次のように整理している。

アクセンチュアによるブロックチェーンのメリットの整理

(1)ITコスト削減。従来の情報システムでは冗長性、スケーラビリティ、セキュリティ、災害対策などの機能群を、個別のソフトウェア製品やハードウェア製品の組み合わせでコストをかけて提供してきた。これらの機能をブロックチェーン技術を提供するソフトウェア製品によりひとまとめに「仕組み」として提供できる。

(2)業務のコスト低減・スピード向上。ブロックチェーンは記録内容を信用できる台帳として機能するので、業務依頼の“出し手”と“受け手”の相互確認を不要とする。例えばリコンサイル(伝票の確認作業)が不要になるよう業務を設計できる。

(3)等しく情報活用が可能。管理者、権限者が特定の組織に集中しないよう運用できる(集中型のシステムではなく、コンソーシアム型ブロックチェーンとして運用できる)。情報システムの参加者全員が平等に情報を共有して活用可能となる。

 なお、上記の(2)と(3)のメリットは、複数の組織(例えば複数の企業)が1つの台帳を共有する場合に出てくるメリットであることには注意しておきたい。今回の発表で活用事例として紹介されたiBankマーケティングのポイント管理システムの場合は、同社が運営するWallet+サービスだけでなく、ポイントの加盟店、他の事業会社などにポイントプラットフォームを広げていく構想を持っている。複数の事業会社などに展開する局面ではブロックチェーン技術のメリットが出やすいといえるだろう。

 ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)側も、金融機関の基幹システム(勘定系)の外部にあるポイントシステムからブロックチェーンを適用することで成果を上げ、経験を積み上げていくことを狙っている模様だ。複数の事業会社にシステムを展開しやすいというブロックチェーンの特徴や、スマートコントラクトにより価値移転と組み合わせたプログラムを開発しやすい特徴に期待を寄せている。「ブロックチェーン技術を活用することで、独自性がある魅力的なポイントを開発できる。また他の事業体と連携して経済圏を大きくしたい」(ふくおかフィナンシャルグループ デジタル戦略部 iBank事業グループ長 iBankマーケティング 代表取締役 永吉健一氏)。

 アクセンチュア側からは、スマートコントラクトを活用することで「ポイントにロジックを組み込み、例えば用途を限定したポイントを開発できる」(アクセンチュア 常務執行役員 金融サービス本部 統括本部長 中野将志氏)とのコメントを聞くことができた。

iBankマーケティングが考える地域ポイントプラットフォームの狙い
ふくおかフィナンシャルグループ デジタル戦略部 iBank事業グループ長 iBankマーケティング 代表取締役 永吉健一氏
アクセンチュア 常務執行役員 金融サービス本部 統括本部長 中野将志氏

 ブロックチェーン技術はまだ進展途上の技術でもある。1種類のブロックチェーン技術にロックイン(束縛)したくないというユーザーニーズも強い。アクセンチュアはそこに注目して、1種類のブロックチェーン技術に依存しない「ブロックチェーン・ハブ」を構想した形となる。

 「ブロックチェーン・ハブ」では複数のブロックチェーン技術を連携させる使い方も想定する。得意分野が異なる複数のブロックチェーン技術を使い分けるシステム構成も視野に入れる。

 アクセンチュアは今までに、外部サービス、既存システム、IoTセンサーなどと連携する枠組みの「ACTS(Accenture Connected Technology Solutions)」(2017年11月発表)、複数のAIエンジンを扱える枠組み「AI-Hub」(2018年1月発表)の各種プラットフォームソリューションを発表してきた。今回発表の「ブロックチェーン・ハブ」は、これらと並んでアクセンチュアが展開する情報システムの基盤と位置付ける。

星 暁雄

フリーランスITジャーナリスト。最近はブロックチェーン技術と暗号通貨/仮想通貨分野に物書きとして関心を持つ。書いてきた分野はUNIX、半導体、オブジェクト指向言語、Javaテクノロジー、エンタープライズシステム、Android、クラウドサービスなど。イノベーティブなテクノロジーの取材が好物。