イベントレポート

PoCを終え本稼働に入ったオラクルのブロックチェーン基盤ユースケース

レアメタルの採掘工程を透明化し紛争地域への資金供与を防止

 日本オラクル株式会社(以下、オラクル)は2月20日、Oracle Cloud Daysと題して連続開催しているセミナーシリーズの1つ、「Blockchain Day」を開催した。副題は「ビジネスでの実利用にむけて、今取り組むべきこと」とされ、5人の登壇者による講演とパネルディスカッションを通じて、オラクルが提供するクラウドプラットフォームの概説、実際のエンタープライズでの導入事例、各社の取り組みなどが報告された。

 Blockchain Dayでは、オラクルの他、株式会社NTTデータ、NTTデータ先端技術株式会社、ブロックチェーンベンチャーの株式会社INDETAILから、計5名が登壇しそれぞれ講演を行った。本稿では、セミナー冒頭部分にあたる、オラクルの大橋雅人氏と中村岳氏による「ブロックチェーンで切り拓く新たな世界、オラクルの取り組み」と題した講演をレポートする。本稿で取り上げない講演内容は後日掲載予定だ。

Hyperledger Fabricをベースとする「Oracle Blockchain Platform Cloud Service」

日本オラクル株式会社・クラウドプラットフォームソリューション統括 Cloud Platformソリューション本部 中村岳氏

 セミナー冒頭では、日本オラクル株式会社・クラウドプラットフォーム戦略統括 ビジネス推進本部の大橋雅人氏が登壇し、ブロックチェーンとは何かという基本的な説明から入り、何ができるのか、その適用領域の検討ポイントなどを解説した。その後、同社・クラウドプラットフォームソリューション統括 Cloud Platformソリューション本部の中村岳氏がオラクルの提供するブロックチェーンプラットフォームについて紹介を行った。

ブロックチェーンのシステム的な特長
エンタープライズでブロックチェーンはどこに使えるのか?

 オラクルは、「Oracle Blockchain Platform Cloud Service」(以下、OBPCS)というエンタープライズ向けのブロックチェーンプラットフォームを提供している。今回の講演で主題となるのはこのプラットフォームに関連するところだ。OBPCSのブロックチェーン技術は、Linux財団が運営するオープンソースのブロックチェーンプラットフォームHyperledgerプロジェクトの1つで、汎用ビジネス向けに開発されている「Hyperledger Fabric」をベースとしている。

 エンタープライズでのブロックチェーン導入において、必須条件の一つがデータ共有範囲の制御であると中村氏は語る。実際のコンサルティング事例でも、コンソーシアム内の参加企業にAの情報を公開するが、特定の企業にはAに加えてBまでの情報を公開したい、あるいはその逆といったニーズがあるという。Hyperledger Fabricでは、ブロックチェーンネットワーク全体を複数のサブネットワークに分割し、データの共有範囲を限定することができるため、データの運用を厳密に行える。

Oracle Blockchain Platform Cloud Serviceの概要
Hyperledger Fabricのデータ共有範囲制御

 Hyperledger Fabricは現存するエンタープライズ向けブロックチェーン基盤の中でも最も高機能で最も難解なものの一つであると中村氏はいう。OBPCSは、Hyperledger Fabricの持つ機能性を、最小限の学習コストで運用できるよう、オラクルが複数の機能を統合したものとなる。オラクルが提供するデータベースサービスとの互換性や、NetSuiteやSalesforceといった既存のERP(Enterprise Resource Planning)、SCM(Supply Chain Management)などの基幹システムとの柔軟な連携機能が特長であるという。

Oracle Blockchain Platform Cloud Serviceのシステム連携

Oracle Blockchain Platform Cloud Serviceのユースケース

日本オラクル株式会社・クラウドプラットフォーム戦略統括 ビジネス推進本部の大橋雅人氏

 冒頭でブロックチェーンについて解説を行った大橋氏が再び登壇し、OBPCSの実際のユースケースについて発表した。氏は、中村氏の説明を引き継いで、OBPCSは基幹システムや既存システムとの連携を重視していることを述べ、エンタープライズへの導入のポイントは、既存のビジネスを止めずにブロックチェーンのメリットを生かすことであると語った。

Oracle Blockchain Platform Cloud Serviceの導入事例

 OBPCSの導入事例として、大橋氏は上記のスライドを用いて公開済みのいくつかの事例を挙げた。物流、金融、サプライチェーンの分野では実証実験を終え、本稼働を開始しているものもある。まずは中国の海運企業であるCargoSmartでの事例。アジア圏で貿易コンソーシアムを立ち上げているという。ヨーロッパではオリーブの品質証明のためにOBPCSのもつトレーサビリティと透明性が活用されている。また、ヨルダン銀行の国際送金システムにも利用されているという。

 さらに、最近実稼働に至った事例として中国での学歴・資格証明の取り組み、鉱物採掘へのトレーサビリティの適用、フランチャイズビジネスの業務効率化を挙げた。これらを含めて、グローバルには10社前後の企業がオラクルのブロックチェーン技術を取り入れてビジネスを展開しているという。大橋氏は、OBPCSが実際にビジネスを支える基盤となっていることを強調した。

Circulor社の鉱物採掘事例

 各種事例の中から、サプライチェーン分野での事例であるCirculor社の鉱物採掘について、大橋氏がその詳細を説明した。サプライチェーンでの製品の製造・輸送・検証の各工程での保証、製造工程における使用材料の証明といったものは、ブロックチェーンの透明性やトレーサビリティを適用することで実現が可能で、確実に需要がある分野だという。

 Circulor社での取り組みはタンタルの採掘事業において、業務の効率化と法規制への対応を実現したという。背景として、タンタルの採掘地域では非正規の労働者が作業現場に紛れ込んで紛争地に資源を横流しするなどの問題があり、米ドッド・フランク法(鉱物紛争法)で採掘工程は厳しく管理する必要があるという。

 Circulor社は、正規の労働者を顔認証で判別する仕組みを取り入れた。そして、袋詰めした鉱物へQRコードを付与し、鉱物の各検証ステップでの重量、誰が採掘したのかといった情報をブロックチェーンに記録し、採掘から輸出までの工程における透明性を保証したという。OBPCSを用いて実装されており、2018年秋から稼働が開始し、すでにブロックチェーンに数百トランザクションが記録されているとのこと。この事例では、OBPCSの構築の早さとコンソーシアムに拡大するための他システムとの互換性が評価され、採用に至ったという。

 Circulor社の事例と関連して、鉱物紛争法の対象とはなっていないが、コバルトという鉱物もサプライチェーンの改善が懸念されている資源だという。コバルトはスマートフォン等のバッテリーに広く利用される。今後の動きとして、大橋氏はオラクル他、米Appleが加入する、米国のコバルトサプライチェーンコンソーシアムでブロックチェーンの利用が検討されていると述べた。

Oracle Blockchain Applications Cloudの概要

 オラクルは、これまでの多分野でのブロックチェーン導入事例をもとに、特定の事業用途に向けたブロックチェーン基盤をアプリケーションという形で提供することを計画しているという。たとえば、製品の部品や材料をトレースするシステム、食品や医薬品の安全管理を行うコールドチェーントラッキングなどが対象となる。IoTとブロックチェーンを組み合わせたシステムをアプリケーション化して近日提供予定であるという。

ブロックチェーンの導入検討の進め方

 まとめとして、大橋氏はブロックチェーンの導入に関して、その検討の進め方のポイントとコンサルティングを実施する上で注意していることを語った。

 初期の段階では、ビジネスのスキルを持った人とシステムのスキルを持った人が協力して、「コンソーシムをどう立ち上げるか」「どうマネタイズするか」「どういうビジネスモデルが最適か」を検討していくことが必要であるという。検討の結果、「ブロックチェーンには向いていない」という結論も許容しなければならないと大橋氏は語る。そこでさらなる代替手段を検討することで企業としての課題やできることを発見していくこともまた、有益だという。

 講演の最後に、大橋氏はエンタープライズでのブロックチェーンの活用はすでに多くの会社が検討を始めており、今回紹介したように実証実験を超えて本稼働が始まっている事例も見られるように参入障壁は確実に下がっていると述べた。そして、「早くブロックチェーンの活用を始めれば、そのメリットを享受することはもちろん、ビジネスの課題を早期に発見することにもつながる。そうしてイニシアチブを持った企業が今後のビジネスをリードしていくことになる。そのためにはエンタープライズ向けの基盤が必要となるが、それはオラクルが提供する。パートナーの皆様と新しいビジネス、新しい世の中を共に作っていきたい。」という言葉で講演を締めくくった。

日下 弘樹