イベントレポート
1000人超のエンジニアを抱えたブロックチェーン企業の実態とは?
元ConsenSysの日本担当者による「ConsenSysと2019年の業界の展望」
2019年2月21日 16:26
ブロックチェーン特化のワークスペースを運営するNeutrinoは2月19日、「ConsenSysと2019年の業界の展望」と題して、元Consensysの日本担当Jim Maricondo氏によるセミナーを開催した。セミナー前半はJim氏によるConsenSysの取り組みや分散型企業での働き方について実体験を交えて紹介する講演が行われた。後半では、幻冬舎「あたらしい経済」の竹田匡宏氏がインタビュアーを務め、座談会形式でJimさんの体験を深掘りした。
Jim氏が勤めていたConsenSysは、Ethereumの共同創設者Joseph Lubin氏が立ち上げ、CEOを務めるスタートアップ企業。最盛期には1200人の従業員を抱え、Ethereumの技術開発分野では数多のプロジェクトに取り組んでいる。ニューヨークに本拠地を置き、いくつかの国に現地法人を持つが、分散型企業という形態で従業員は世界各地に点在しているという。
Jim氏は2018年3月にConsenSysに入社。同社で日本担当として、日本法人の立ち上げに向けて動いてきた。同社は2018年12月、資本とするEthereumの価格下落を主要因として大規模なリストラを実施。Jim氏も解雇されることとなった。現在は同時期に解雇された同僚と共に、新たな事業への取り組みを行いながら、今回のセミナーのようにConsenSysでの経験を共有する活動を行っているとのこと。
分散型企業での働き方
ConsenSysでは本当の意味で上下関係がなく、自身の肩書きも働き方もすべて従業員自身が決めることができるとJim氏は語った。ほぼすべてのミーティングや会議、同僚との接点はZoomのビデオ会議を通して行われるという。このような形を取るから、地域に関係なく優秀な人材をすぐさま採用することができ、従業員側もライフスタイルを大きく変えることなくConsenSysで力を発揮することができる。スタートアップとして類を見ない急成長にはこのような働きやすい環境作りの工夫があったのだという。
また、プロジェクトの進め方、立ち上げ方も独特だ。誰もがプロジェクトを立ち上げることができるが、メンバーを集めるのも予算の承認を得るのも自らが行わなければならない。
- プロジェクトを設計する
- メンバーを集める
- 評価部署に提案する
このようなフローで誰もが自由にプロジェクトを提案し、それを進めるチャンスがある。プロジェクトが承認されれば半年分の予算が発生し、以後は定例ミーティングなどで進捗報告を行いながらプロジェクトを進める。半年経つと再び予算の評価が行われる。
進捗報告の実施はルール付けされていなかった。例えばEthereumのDApps導入環境として昨今人気を博しているMetaMaskのプロジェクトは、過去何週間にも渡って一切進捗報告をしない時期があったとJim氏は語った。プロジェクト側から報告がない場合には、外からは状況が一切分からなくなるのは社内でも問題とされていたという。
ConsenSysはなぜ大規模なリストラに至ったのか
座談会では、竹田氏から「ConsenSysは2018年12月に大規模なレイオフという形になったが、最もクリティカルな要因はなんだったのか」という問いが投げかけられた。
Jim氏は、「最も大きな要因はEthereumの価格下落。ConsenSysはLubin氏のETH資本で動いていたから、その影響はとても大きかった」と語る。「もう少し価格が維持できていれば、Lubin氏はリストラを1年程度先延ばしにしたのではないか」という推測も述べている。もう一つの要因として、各プロジェクトの遅れを挙げた。ConsenSysのプロジェクトは大半がアプリケーション開発となるが、当初の完成目標から遅延しているものが多数だという。中でも黒字になる見通しが立たなかったアプリケーション開発が整理の対象となった。一方でインフラ部分の開発には以前よりも注力しているとのこと。
Jim氏はリストラを告げられた当日のエピソードを語る。氏は2018年12月のある日、車で会社に向かっていると、Lubin氏に次ぐポジションにある人からZoomのミーティングの招待が来ていたので気軽に参加したという。そこで開口一番「あなたはクビです」と告げられ、初めて解雇を知ったという。Uターンして自宅に帰る頃には同社のアクセスがすべて凍結され、その日以降に予定していたアポイントをすべてキャンセルして回るのが大変だったと苦笑交じりに語った。
ConsenSysが日本でやろうとしていること
ConsenSysの目標は世界中にEthereumの利用を広めることだ。ConsenSys Japanとして日本法人を立ち上げる動きもまた、その目標に従うものとなる。セッション内で詳細までは語られなかったが、Jim氏がどのような戦略で日本展開を行うつもりだったのか、国内でのEthereumの利用を活性化するには今何が必要なのかを伺った。
日本法人でやろうとしていたことは、主には日本企業とのパートナーシップの構築であったという。2018年7月に、Lubin氏に直接提案してプロジェクトの承認に至ったとJim氏は語る。具体的な事業方針としては、日本のSIerと協力し、ブロックチェーンを活用したシステムの運用を行っていけるようにすることと述べた。
ブロックチェーンを社会に実装していくためには、大きな予算で大規模なプロジェクトを実施することが必要となる。日本で大きなプロジェクトを動かすための課題として、Jim氏は大企業の役員レベルでのブロックチェーン教育の重要性を説いた。ConsenSysでは発展国を中心に数日から1週間かけて役員向けの集中講座を実施してきたという。最近は韓国で同様のセミナーを多数開催しており、それらに比べて日本は、企業の役員レベルでのブロックチェーンへの理解が追いついていないことが課題だと語った。
Jim氏の立ち上げたConsenSys Japanは、氏の離脱後、予算を縮小されたもののプロジェクト自体は継続しているという。当初のパートナーシップの構築という事業は優先度を下げ、現在は異なる方針で動いているとのこと。今後の動きにも注目していきたい。