イベントレポート

DAppsゲームの課金体験から理想のDAppsについて語るメディアアーティスト、絢斗優氏

トークイベント「dApps Gameから見るパブリックチェーン業界 2019春版」レポート第1弾

 ブロックチェーンプロジェクト紹介イベントの企画・運営を行うBLOCKCHAIN PROseedは3月4日、東京・丸の内vacansにてトークイベント「dApps Gameから見るパブリックチェーン業界 2019春版」を開催した。国内外のDAppsやDAppsゲームに関わる有識者を招き、DAppsゲームから比較した主要パブリックチェーンの動向について知るイベントとなった。ブロックチェーン業界の今後のトレンドが気になる人やDAppsゲームに興味のある人々に向けて発信するイベントは、定員120名がいっぱいとなる満員御礼の開催となった。

司会進行は藤本真衣氏

 司会進行は、「ミスビットコイン」の愛称で広く知られる藤本真衣氏が務める。イベントの前半は有識者がそれぞれのテーマでセミナー形式で登壇、後半は登壇者らによるパネルディスカッションか行われた。

前半はトークセッション

 最初の登壇者は、2006年からメディアアーティストとして活動をするPremiumJapanProject合同会社・代表の絢斗優氏。絢斗氏は、ブロックチェーンを始めとする第4次産業革命がもたらす時代の精神の変化をアートとテクノロジーで表現すべく活動中だという。今回は、「gas代問題から解説する各パブリックチェーンの特徴」と題し、DAppsゲームを理解するために自らゲーマーとしてDAppsゲームで課金をするユーザーとして、DAppsとゲームについて語る。ちなみに絢斗氏は、ブロックチェーンゲーム「My Crypto Heroes」や「EOS Knights」でトップ100にランクインした実績があるという。

PremiumJapanProject合同会社・代表の絢斗優氏

 絢斗氏が代表を務めるPremiumJapanProjectでは、中国発のVeChainというパブリックブロックチェーンをトレーサビリティに活用し、富士山の麓の日本茶をブロックチェーンにてラベリングし世界に輸出するというFujiTeaプロジェクトなる実証実験を行っているという。

 絢斗氏は、世界は18世紀から19世紀に起きた石炭、蒸気機関を動力源とする軽工業中心の発展に見る第1次産業革命に始まり、19世紀から20世紀にかけて起きた鉄鋼、機械、造船などの重工業、石油資源を活用する化学工業など急速に重化学工業が発展した第2次産業革命と続いてきた。そしてインターネットの発明が第3次産業革命であるならは、現在のブロックチェーンやAI、IoT、5Gなどの登場は第4次産業革命であるという。

 第4次産業革命における重要な技術であるブロックチェーンにおいて、さらに注目の技術とされるのがDAppsであると、この数か月、痛感したという絢斗氏。DAppsは、海外のイベント等でも話題のキーワードになっているという。それで、自分でもやってみないとなと思ったのだとのこと。それからというものは、DAppsゲームにお金と時間を費やしたという。本日は、そのあたりのノウハウが若干たまったので、お話をしたいという登壇理由について語った。

理想のDAppsと現在のDAppsについて

 DAppsは、Decentralized Applicationsの略であり、日本語にすると分散型アプリケーションであるという。ざっくりいえば、ブロックチェーンを用いた非中央集権型アプリケーションだと、絢斗氏はいう。DAppsには理想のDAppsがあり、現在の多くのDAppsは、理想とは少し違うものだと話す。理想のDAppsとはすべてオンチェーンで動作するものであり、現状はオンチェーンと一部オフチェーンで運用しているDApssが多く、それは理想ではないという。なぜならば、オフチェーンの部分で中央集権的な要素が増えてしまうからだとのこと。しかし、その反面一部オフチェーンであることで、UXを向上させやすい、税金の計算が簡単、トランザクションコストが少なくなるといったメリットもあるという。しかし、将来的には、DAppsはすべてオンチェーンで動くといわれているそうだ。

 絢斗氏は、理想的なDAppsについて、さらに解説をする。

 EthereumにおけるDAppsは、Ethereumの考案者であるヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏の元ゲーマーとしての経験が影響をしているという。ヴィタリック氏は、子供の頃、米Blizzard Entertainment社の提供するオンラインゲーム「World of Warcraft」(ワールド・オブ・ウォークラフト)のヘビーゲーマーだったとのこと。毎日夢中で遊んでいたところ、ある日、運営の都合でゲーム内で自分の使っていたキャラクターの能力値を突然変更され、またヴィタリック氏が参加していたサーバーが停止になるなど、中央集権的な不条理さを味わったというのだ。それ以来、ヴィタリック氏は「World of Warcraft」をプレイしなくなったという。理想的なDAppsは、永遠にシャットダウンをすることのないゲームの世界を実現をするだろうと、絢斗氏はいう。

 民主的にフォークできるのがDAppsの特徴だが、理想のDAppsは民主的にフォークできるゲームを実現するという。理論上は、ゲーム運営に対して不満だったら、ユーザーがフォークをさせて新しいゲームを作ることができるだろうという。もっともまったく同じゲームを作るのは意味がないので、DAppsのフォークによって進化したゲームが誕生することが期待できるという。

 理想的なDAppsは、ゲームやチェーンの垣根を越えた連続性のあるゲームを誕生させることができるだろうという。ブロックチェーン上に存在するノンファンジブルトークン(NFT)データを活用して、全く別のゲームを別の会社が作ることが可能になるという。ちなみにNFTというのは、発行されるトークンそれぞれに固有の性質や希少性を持たせることができるもの。つまり、世界に1つしかないアイテムをブロックチェーンで管理ができるのだ。デジタルアセットであるNFTは、当然だが移転も可能だ。ちなみに海外においては、ブロックチェーンゲーム開発プラットフォームであるEnjinの「Multiverse assets」(マルチバースアセット)が話題だという。「Multiverse assets」では、すでに複数のゲームで同じアイテムのレベルを上げることができるという。

 そして理想的なDAppsは、ユーザーがデジタルアセットの所有権を完全に持つことができる世界を実現させるという。すべてがオンチェーンで動くDApssの場合は、ユーザーがデジタルアセットの所有権を完全に持つことか容易になる世界だという。しかしこの世界では、DAppsの人気が下がることでアセットの市場価値も下がるだろうと絢斗氏はいう。アセットの市場価値が上がるか下がるかは、DAppsに関わるすべてのステークホルダー(利害関係者)の個々の行動の掛け合わせが決める世界だという。そうなることで、プレイヤー自身が運営のように自発的に活動をする世界が構築されるだろうという。

 かなり抽象的な解説だったが、理想的なDApssが実現する世界の先には、具体的にいうと2018年に公開された米国のSF映画「レディ・プレイヤー1」のような世界がやってくると絢斗氏はまとめた。映画を見ていない人には「なんのこっちゃ?」と思うだろうが、そういう人はぜひ映画を見てほしいという。「レディ・プレイヤー1」の世界は、第4次産業革命の技術が完全な形になることで実現することができるだろうという。ちなみに「レディ・プレイヤー1」の描くVRの世界には、これまで映画やテレビドラマ、アニメ、マンガ、ゲームなどに登場した有名なキャラクターたちが多数登場し、さまざまなストーリーを繰り広げるという作品になっている。

DApssゲームの歴史

各パブリックチェーンの比較

 絢斗氏はDAppsについては、Ethereum以外にもEOSやTRONといったパブリックチェーンが盛り上がっているという。その理由は、EOSやTRONはEthereumのプログラム実行環境であるEVM(Ethereum Virtual Machine)と互換性を保ちつつ、コンセンサスアルゴリズムにDPoS(Delegated Proof of Stake)を使っていることにあるという。EthereumのPoW(Proof of Work)に比べてDPoSは、高速トランザクションと手数料の安さで急成長しているという。またEVMのトランザクション処理にかかるGAS代(Ethereumの手数料)はEthereumのDApps人気が引き金となり高騰してしまうことが問題になっている。EOSやTRONは、それが抑えられるというのだ。しかし、その反面、中央集権的な性質があることに対する懸念もあるそうだ。

 Ethereumもまた、現在、コンセンサスアルゴリズムをPoS(Proof of Stake)へと移行作業中であり、今後のアップデートでShardingやPlasmaといった新たな機能を実装することでよりスケーラブルなプラットフォームへと進化中であり、今後のDAppsを取り巻く環境はますます進化するだろうという。

各パブリックチェーンの仕様比較

マルチプラットフォーム化が進むDAppsゲーム

 そんな中で海外のDAppsゲームにおいては、現在、ゲームのマルチプラットフォーム化が進んでいるという。主要なプラットフォームのすべてに対応するDAppsのマルチプラットフォーム化だ。これは、昨今のスマートフォン向けゲームがiPhoneとAndroidの両方に対応するように、DAppsも各種パブリックチェーンに対応しつつあるそうだ。また、各プラットフォームをつなぐクロスチェーン技術の発達も見られるとのこと。

 最後に絢斗氏は自身の課金経験について語ってくれた。「My Crypto Heroes」や「EOS Knights」でトップ100にランクインした実績があるという絢斗氏は、「EOS Knights」での課金額は、409EOS。課金によって得られた売上は76EOS。結果はマイナス331EOS、日本円にしてマイナス10万円相当だったという。ちなみに「EOS Knights」のナンバーワンランカーの課金額は3826EOS、売上は2386EOS、結果マイナス1438EOS。日本円にして40万円相当とのこと。つまり40万円でナンバーワンの座を買っているようなものだと絢斗氏はいう。なぜこのように課金額がわかるのかというと、「EOS Knights」は完全オンチェーンゲームであることから、パブリックチェーンの性質上、調べることでわかってしまうという、これはDAppsのいいところであると締めくくり、絢斗氏のトークセッションは終了した。

絢斗氏の課金収支

 なお、本稿でのレポートは、第1弾としてここまでとする。さらに別稿にて、「dAppsゲームエコシステム運営秘話」と題して行われた「My Crypto Heroes」の開発・運営秘話、そしてそれに続くイベント後半戦の「日本でdAppsゲーム産業が成長する為に(仮)」と題したパネルディスカッションの内容について報告する。そちらも併せて一読いただきたい。

高橋ピョン太