ブックに学ぶ:『実践ブロックチェーン・ビジネス』

【第1回】ブロックチェーン技術の基礎知識

[著者:株式会社ブロックチェーンハブ 監修:増田 一之]

ブロックチェーンは仮想通貨の取引に限らず、為替や決済等の金融分野への応用、AIやIoTと結び付いてさまざまな産業や政府での活用が始まっています。

そういった事例を解説する書籍『新事業企画・起業のための実践ブロックチェーン・ビジネス』(日本能率協会マネジメントセンター刊)からの抜粋を、全7回に分けて記事として紹介していきます。データ類は基本的に書籍刊行時(2018年4月)のもので、書籍の脚注は省略いたします。

なお、市販書籍からの抜粋のため、仮想通貨 Watch編集部の見解とは異なる場合があります。

第1章[2]ブロックチェーン技術の基礎知識

ブロックチェーン技術の特徴(1) 改竄の難しさ

 図1-2は、ブロックチェーンの仕組みを表したものです。ひとつの箱が「ブロック」で、それが繋がっていく様子をイメージ化したものです。右側に続くブロックは「ハッシュ値」で繋がっています。ブロックの中には前のブロックのハッシュ値と、複数の取引データ、そして適当な値「ナンス」と呼ばれるものが並んでいます。これらをハッシュ関数で変換すると、固定の長さのテキストに変換されます。

 例えば、図1-2にある「web」から最後までの「eu8」まですべてをハッシュ関数で変換すると、下の固定の長さのテキストになります。ただし、ここで「適当な値」と書いてありますが、このナンスを探す作業が必要となります。ナンスは、この目的に合った数字という意味です。

 具体的には、例えば固定の長さのテキストにする際、「最初の18桁とか19桁を0にするナンスを探せ」という制約条件があります。ここでは、元のテキストの最後にある下線が引かれている「4g0gjklfvjweu8」を探す作業になります。求められるハッシュ値のはじめにある0が何桁か並ぶためにはナンスがある特定の値になる必要があります。

 目的に合ったナンスを探すには、大掛かりなコンピューターリソースを使う大変な作業が求められ、大量の計算によるトライ&エラーによって見つけられるものです。いわば、高額当選金の宝くじから当たりくじを探し当てるようなものです。この作業が「仕事をした証明」となるため、「プルーフオブワーク」、略してPoWと呼ばれます。

 そして、このような大量の計算によってなされたハッシュ関数によって変換された数字がハッシュ値(「ダイジェスト」とも呼ぶ)であり、この値が次のブロックの一番初めに置かれます。このようにして、ブロックが繋がっていくという仕組みです。

 こうした手間のかかる方法が組み込まれているため、ブロックチェーン技術はデジタル情報の改竄を防ぐことができるのです。

 以上を整理すると、ブロックを作るごとに適切な「ハッシュ値」を計算するため、適当な値「ナンス」を計算する「PoW」を行うことになります。この計算は大規模なコンピューターリソースと労力が必要であり、ハッシュ値によってブロックがそれぞれ連鎖していけば、ブロックの中の取引をひとつでも変えてしまうとハッシュ値やナンスの値が変わってしまうため、膨大な計算を初めからやり直さざるを得なくなります。それが連鎖しているため、すべてのプロセスを変えていかなければなりません。

 こうした膨大な作業が必要になることから、改竄が防げる仕組みになっているというわけです。

ブロックチェーン技術の特徴(2) 二重支払いの防止

 ブロックチェーン技術のもうひとつの特徴である「二重支払いを防ぐ仕組み」について説明します。

 二重支払いというのは、すでに使用したビットコインを再び使用するということです。ビットコインは電子データなので、理論上は容易にコピーができます。よって、ある人に支払った後、コピーして別の人に支払うこともありえるということです。そこでビットコインでは、PoWを行うマイナー(採掘者)が新しいブロックを作るときには、その中に入れる取引のコインが二重に使われていないかを調べる義務があります。こうすることで、ブロック生成時に二重支払いの取引が弾かれることになります。

 ビットコインの仕組みを簡単に言い表わすと、「一定時間に生じた取引データをマイナーと呼ばれる人たちが大量の計算競争によってデータを認証することで、そのインセンティブとして一定数のビットコインを受け取るシステム」となります。

 PoWによってビットコインのブロックを確定させる都度与えられる報奨金がマイナーへのインセンティブとなり、この仕組みを支えています。

ブロックチェーン技術の長所

 これまで説明してきたとおり、ブロックチェーンは「改竄が困難」「二重支払いの防止」を可能にします。これらに加え、参加者同士が共有データを分散管理することで実現する「管理者不在」であることも長所に働きます。

 改竄が難しいことは、データの追跡が可能だということでもあります。また、透明性の高い取引が可能となります。

 二重支払いの防止ができることは、真正性の保証された取引が可能となりますし、デジタル資産とその資産を持っている所有者の紐付けが可能となり、デジタル資産の安全な移転が行えることになります。

 P2Pで管理者不在であることは、システムの安定維持が可能となることで、システム維持の信頼性が高くなります。

 ところで、ビットコイン登場後の2013年に新たな仮想通貨「イーサリアム」が発明されました。これは当時19歳のヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)の『イーサリアム・ホワイトペーパー』によってその構想が発表されました。2015年6月にベータ版の「フロンティア」がリリースされています。これは仮想通貨の機能としてだけでなく、スマートコントラクトとしての機能に拡張しようとすることに斬新さがありました。

 スマートコントラクトとは、契約条件、履行内容をブロックチェーンの上に記述することで、第三者を介さずに契約を自動執行しようというものです。「結果を偽らない分散コンピューターを作りたい」という思想に基づいています。

 イーサリアムの登場によって、ブロックチェーンの特徴は4つになりました。「改竄が難しいこと」「二重支払いが防止できること」「中央管理者が不要なこと」、そして「スマートコントラクトが行えること」です。

 この4つは、それぞれ次のような実務上の長所として機能します。

 まず、改竄が難しいことにより、記録保存や履歴の共有ができます。二重支払いの防止ができることで、価値の移転ができるようになります。スマートコントラクトができることで、契約の自動執行ができます。

 そして、中央管理者がいないことによって、システム運用の信頼性の向上が得られますし、アプリケーションによっては低コストの運用も可能となります。

 特に、最初の3つは「ブロックチェーンの三大機能」といわれています(図1-5)。

 一言でまとめれば、ブロックチェーンは、特定の誰かの信頼を基点とすることなく、価値の保存や移転を可能にしたということです。

ブロックチェーン技術の三大機能

 ブロックチェーンの三大機能について、もう少し補足しておきましょう。

 「記録保存や履歴の共有」によって、具体的な取引などが本当にあったかどうか、きちんと処理がなされたかといった証明ができるようになります。

 例えば、本当に資格を持っているのか、免許証は持っているのか、学位は持っているのかといった資格証明や所有権証明に使えます。

 実在する資産の所有権を記録することができることによって、土地管理、財産の所有権、その他物的財産の所有権を示すことができます。投票やパスポート取得・更新などの代替、権利やサービスにアクセスする権利にも使えます。これは、電子身分証明書の意味合いでアイデンティティの用途があるということ、つまりIDとして使えるということです。

 三大機能のうちの二番めの「価値の移転」については、送金決済、地域通貨、ポイントサービス、その他のデジタル化資産(実物資産のデジタル化を含む)のやり取りがインターネット上でできるようになります。

 3つめの機能は、スマートコントラクトによる「契約の自動執行」です。これはビジネスや行政サービスに大きな変革をもたらす可能性があります。決済の自動支払や自動通知、自動売買などを行うことや、分散型アプリケーションを作ることができます。遺言やIoT、電力サービスなど、具体的な取り組みも始まっています。

 さらには、組織のあり方へも影響するといわれています。組織内の意思決定や実務などの自動化により、自律分散型の組織を可能にします。

 スマートコントラクトが進展することで、これまでの会社のあり方が全く違う形態になることが予見されています。

第1章[3]インターネット革命、そしてブロックチェーン革命

インターネット発明以来の産業革命

 以上見てきたように、社会に大変革をもたらすことになるブロックチェーンは、インターネット革命以来の大革命といわれています。

 それでは、インターネットと比較したときの位置づけをどう考えたらよいでしょうか。

 インターネットが「情報交換のネットワーク」に対して、ブロックチェーンは「価値交換のネットワーク」ということができます。ブロックチェーンは二重支払いを防止できることから、情報交換のネットワークであるインターネット上で価値を交換することができるようになったわけです。

 また、IT革命の中ではどう位置づけたらよいでしょうか。

 1985年頃にウインドウズやマッキントッシュといったパーソナルコンピュータが登場しました。これにより、情報技術のパーソナル化も進みました。1993年頃にはインターネットが活用されはじめ、電子メールやウェブ検索といった情報のデジタル化がスタートしました。2000年頃にはインターネット上で電子商取引やサプライチェーンが行われるようになり、ビジネスプロセスのデジタル化が進展しました。そして、2010年頃にはソーシャルやモバイルやクラウドが登場し、双方向のデジタル化が普通に行われるようになったのです。こうしたインターネット革命の中で、現在ではIoTが登場し、すべてのものがインターネットに繋がる時代になっています。これにより、社会と産業全体のデジタル化が進んできたという状況です。

 これとほぼ同じくして、ブロックチェーンが発明されました。ブロックチェーンはインターネット上の価値交換のネットワークです。その代表が、ビットコインです。ビットコインの登場により、価値やマネーのデジタル化が一気に進み、さらにイーサリアムの発明によって、商取引やビジネスプロセスなどのスマートコントラクト化(自律的契約化)が進んでいます。

 つまり、現在はIoTによる社会と産業全体のデジタル化とともに、ビットコインなどの仮想通貨により価値のデジタル化、そしてイーサリアムによるスマートコントラクトを用いたビジネスプロセスデジタル化の一層の進展といったフェーズにあります。

 こうした推移のなかで、ブロックチェーン技術活用分野の裾野は大変に広いと考えられています。経済産業省の調べによると、金融系、ポイント、資金調達、コミュニケーション、資産管理、ストレージ、認証、シェアリング、商流管理、コンテンツ、将来予測、公共、医療、IoT、それぞれの分野ですでにブロックチェーン技術を活用する様々なベンチャーが勃興しています。

 このうち、どのベンチャーが生き残り、成功していくかはまだ見えていません。それというのも、現時点では実用というよりは実証実験の段階が多いからです。

 社会や産業の仕組みを変える期待の技術であることは間違いありませんが、その可能性は未知数です。

 そこで大事になるのが、この技術をどう使うかを冷静に考えることです。画期的な技術なので他に先駆けて導入しようという安易な考えではなく、現在のビジネスにどう活かせるのか、どう使えるのかと検討する姿勢です。

ブロックチェーン技術を使う意味

 ここでブロックチェーンの使い方を改めて整理しておきます(図1-7)。

 現時点では、信用に関する問題を解決する技術であり、複数のステークホルダーがいるなかで、特定の誰かを信頼の基点にすることなく、価値の保存や移転を可能にしたい、といったときに使える技術といえます。

 例えば、ビジネスにおいては、参加者相互によってトランザクション(取引)を監視することで、透明性が高くなります。これはある意味で参加する人たちを全体として信頼するといえます。P2Pで中央管理者が不在ということは、言ってみれば、「信頼の分散」になるということです。

 そして中央管理者がいないということは、例えば、単一の中央管理者が攻撃を受けたり故障したりしてシステムが機能しなくなる危機、つまり単一障害点がなくなるということで、「リスクの分散」を実現します。

 また、分散型システムであることは、誰かひとりが大きなコストを負担することなくシステムが構築できたり、既存のプラットフォームを活用することで「コストの分散」が行えることになります。

 「信頼の分散」「リスクの分散」「コストの分散」というメリットを享受できることが、ブロックチェーンを活用する意義だといえます。

 ただし、技術的にはまだ発展途上であり、ブロックチェーンが抱える課題を解決すべく、様々な研究開発が進んでいる段階である点は、注意する必要があります。

お詫びと訂正:記事初出時、「ウインドウズやマッキントッシュといったパーソナルコンピュータが登場した時期」を「1975年頃」と記載しておりましたが、正しくは「1985年頃」となります。お詫びして訂正させていただきます。

著者:株式会社ブロックチェーンハブ

ブロックチェーン技術関連の情報発信・教育・コンサルティングのほか、ブロックチェーン・ビジネスにおけるベンチャー育成・支援を行う。2016年1月創業。アドバイザーに日本IBM名誉相談役及び国際基督教大学理事長北城恪太郎氏、早稲田大学教授岩村充氏 他。

監修:増田 一之(ますだ・かずゆき)

株式会社ブロックチェーンハブ代表取締役社長。京都大学経済学部卒、ペンシルバニア大学ウォートン校MBA、慶應義塾大学大学院修士(メディアデザイン学)、早稲田大学大学院博士(学術)。山形大学客員教授、早稲田大学大学院経営管理研究科講師、慶應義塾大学SFC研究所上席所員。元日本興業銀行ネットワーク業務推進部部長、IT推進室室長。