インタビュー

偽造防止や所有権移転にブロックチェーンを活用するLuxTag

NEMなど3つのブロックチェーンを活用

マレーシアのスタートアップ企業LuxTagは、NEMを始めとするブロックチェーン技術を、仮想通貨ではなく偽造防止や所有権移転のために活用するスタートアップ企業だ。そのLuxTagの提供するソリューションと技術面などについて、同社CEO(最高経営責任者)兼創設者のRene Bernard氏に話を聞いた。

LuxTag最高経営責任者兼創設者のRene Bernard氏

LuxTagは新しい企業だ。「2017年に会社を設立した。当初は小さなチームで、産業のリサーチやMVP(必要最低限のプロダクト)の開発を行った。2018年から実運用を開始した」(Bernard氏)。

同社が提供するソリューションは、所有権をブロックチェーン上に記録することで確認可能とする。例えば高級腕時計のような高額商品や、卒業証書のような重要書類の偽造防止や所有権移転のソリューションを提供する。偽造したものや盗難品ではないことを、ブロックチェーン上の記録を参照することで手軽に確認できるようにする。

高級腕時計の所有権をブロックチェーンに記録

LuxTagのビジネスモデルはB2B2Cで、同社の直接の顧客となるのは商品やサービスを提供する企業、団体である。同社の初期の顧客として高級腕時計のChronoswissとマレーシアの教育省がある。

「最初の事例の一つがChronoswissだ。ブロックチェーン上にシリアルナンバーや所有権に関する情報を記録する。利用者は、自分が所有する腕時計の情報を、QRコードとスマートフォンアプリを通して所有権を登録できる」(Bernard氏)。

Chronoswissの高級腕時計の所有者に提供するLuxTagのサービスは、QRコードによりアクセスできるセキュアな証明書を提供する。現状ではパイロットシステムと位置づける。新品の購入者は自分が所有者であることを登録でき、また中古品として販売するときには所有権移転ができる。

同社はさらに高級品向けのビジネスを拡大しようとしている。高級腕時計分野ではCPO(Certified Pre-Owned)と呼ぶメーカー認定中古品のマーケットが拡大しつつあり、この市場に同社は期待をかけている。

「あるスイスの有名腕時計ブランドと商談を進めている。高級腕時計市場の成長率は年率2.5%だが、中古市場は年率30〜40%で成長中だ。私たちのソリューションは偽造防止に役立つので中古市場で有用だ」(Bernard氏)。

卒業証書をブロックチェーンで確認

もう一つの事例が、マレーシアで展開中の大学の卒業証書の偽造を防ぐソリューションだ。LuxTagはマレーシア国際イスラム大学の一部の学生を対象にサービスを展開する。マレーシアの教育省はブロックチェーンで卒業証書を偽造防止することを義務付けたという。今後はサービスを提供する大学を増やしていく予定だ。

同社は、大学の卒業生に対して付加サービスを提供することも考えている。例えば大学の卒業生らから構成する専門家の集団、例えば教員、法律家、医師などに対して、専門資格の取得状況をLuxTagで確認可能とするソリューションを提供可能だ。

「専門資格の教育を受ける履歴の管理に用いることもできる。大勢の卒業生が、卒業証明書を発行するたびに、私たちには手数料が入る」(Bernard氏)。

NEM、イーサリアム、RSKの3種のブロックチェーンを利用

LuxTagは仮想通貨NEMのブロックチェーンを利用したサービスとして知られている。ただし、最近は他のブロックチェーンも併用する。

「3種類のパブリックチェーンにハッシュ値をアンカリングし、情報の監査可能性を担保している。3種類のチェーンとは、NEM、イーサリアム、RSKだ」(Bernard氏)。

イーサリアムは顧客からの要望や問い合わせが多かったという。RSK(Rootstockと呼ばれることもある)は、Bitcoinのブロックチェーンと連動したスマートコントラクトのプラットフォームだ。どちらも、NEMにはないオンチェーンのスマートコントラクト(ブロックチェーン上のプログラム)実行機能を備える点が特徴である。

一方、NEMのブロックチェーンでは今後利用可能になる新バージョン「カタパルト」により、よりシンプルにLuxTagのサービスを開発できるとの期待がある。「LuxTagもカタパルトの開発に参加している。またテスト版のカタパルトはすでに使っている」(Bernard氏)。

例えばカタパルトの機能であるマルチレイヤーマルチシグを使うことで、複数の人(管理者、所有者など)が秘密鍵をそれぞれ所有し、セキュアなやり方で所有権を受け渡すアプリケーションをよりシンプルに実装できるようになる。

NEMカタパルトを使ったLuxTagのアーキテクチャ

LuxTagの今後についても聞いた。「政府部門で税収を保護するソリューションを考えている。タバコやアルコール飲料に、政府に税金を払っていることを証明する印を付けるのだがその偽造印が蔓延している国がある。そこで偽造防止を図るソリューションを提案しようとしている。このほか、EU(欧州連合)の知財管理部門、資産のトークン化、粉ミルクの品質保証(偽造防止)など、いくつかの商談が進んでいる」(Bernard氏)。

LuxTagのソリューションは、仮想通貨以外のブロックチェーンの活用法としては分かりやすい。偽造品が横行している地域では特に有用となる。このような分野でブロックチェーン活用は地道に進んでいる。

星 暁雄

フリーランスITジャーナリスト。最近はブロックチェーン技術と暗号通貨/仮想通貨分野に物書きとして関心を持つ。書いてきた分野はUNIX、半導体、オブジェクト指向言語、Javaテクノロジー、エンタープライズシステム、Android、クラウドサービスなど。イノベーティブなテクノロジーの取材が好物。