インタビュー

bitFlyerの発表で話題騒然となった自己売買とは? 同社に直撃インタビュー

三根取締役「公正な取引環境を提供するため必要な情報は開示していく」

仮想通貨交換業者の株式会社bitFlyerの取引所サービスにおいて、流動性供給を目的とした自己売買を実施していることを明らかにしたことに対し、利用者などから疑問を呈する声がSNSで相次いでいた。同社の取締役であり、リスク・コンプライアンス本部・本部長を兼任する三根公博氏が今回、仮想通貨 Watch編集部の単独取材に応じた。要点を整理しながら、順を追って回答を掲載する。

仮想通貨は証券とも違い、今までにないもの

bitFlyerが顧客向けに提供するサービスのうち、bitFlyer Lightningおよび簡単取引所で「bitFlyer Lightningおよび簡単取引所では、流動性の供給を目的とした注文をbitFlyerが発注する場合がある」と公表したあと、「(収益目的でなくても)とにかく自己売買は良くない」「なぜこのタイミングで公表したのか」などといった疑問を呈する声がSNSで上がっていることは、社として把握していると三根取締役は答える。

bitFlyerの取締役でリスク・コンプライアンス本部・本部長を兼任する三根公博氏が今回の取材に応じてくれた

三根取締役は大前提として「仮想通貨は証券とも違い、今までにないもの」であり、仮想通貨の「取引所」と言われているものも、東京証券取引所のような「取引所」ではないという。

金融商品取引法において、株式は公共財であり、その値段で世の中の経済が動くことから、公正な価格形成および価格発見が法的に「取引所」の機能として求められる。だからこそ不公正取引を防止するために売買審査などを行っており、見せ玉なども禁止しているのだという。

現在、仮想通貨の取引所において、前述の公正な価格形成および価格発見という「取引所」の機能は厳密には法的に定められていないが、仮想通貨「取引所」の社会的意義から、JVCEAの自主規制規則において、仮想通貨「取引所」でも不公正取引を防止・禁止しており、各仮想通貨「取引所」では独自に不公正取引の売買審査を行っている。

なぜこのタイミングで公表したのか

2019年5月31日の改正資金決済法および改正金融商品取引法の成立に先立ち、仮想通貨交換業者の自主規制団体である日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)が2018年10月24日、資金決済に関する法律に基づく認定資金決済事業者協会に正式に認定された。JVCEAは自主規制規則を制定するほか、会員である仮想通貨交換業者に対して法令や自主規制規則を遵守させるために、指導や勧告、除名などを執行する義務を負う。

ここで注目すべきは、JVCEAの「利用者の管理及び説明に関する規則」となる。

第3章 書面の交付等

(約定の通知)

第13条第2項

会員は、成立した仮想通貨関連取引の取引日、取引金額、決済方法、約定レート、取引種別(自己、媒介、代理、取次の別)その他開示が必要な取引内容を、利用者に対して書面により通知しなければならない。ただし、取引内容等に照らして取引種別が明らかな場合、利用者に対して取引種別を通知することは要しない。

JVCEA「利用者の管理及び説明に関する規則」

同規則の第13条第2項には「(前略)取引種別(自己、媒介、代理、取次の別)その他開示が必要な取引内容を、利用者に対して書面により通知しなければならない(後略)」とあり、これを遵守するために「流動性の供給を目的とした注文をbitFlyerが発注する場合がある(自己売買する場合がある)」と公表した。そのように三根取締役は答える。

現物取引は自己勘定による取引数量公表義務の対象外?

今回の公表とは直接関係ないことだが、現物取引は金融商品取引法の規制の対象外で、かつJVCEA「証拠金取引に関する規則・ガイドライン」の第4章第15条第4項「(JVCEA会員が行う仮想通貨関連取引のうち証拠金取引については)各月の自己勘定による取引数量を公表すること」の対象外であることを筆者は懸念している。

そこで、質問ではなく要望として「現物取引についても自己勘定の取引数量を公表すべきでは?」と投げかけた際の回答はこのような内容だ。

「証拠金取引のうちの自己勘定による取引数量の公表は、協会規則上の義務であるので当然行う。それに加えて、現物取引のうちの自己勘定による取引数量の公表については、業界全体の透明性向上に関わるテーマなので、協会中心に同業他社とも議論を行いながら検討してまいりたい。」

取材を終えて

今回の取材中、三根取締役は始終「積極的に情報を開示する」と繰り返し、連日の追加取材にも快く応じた。その際に、単純に質問と回答というやり取りにならず、「何を答えれば」「どのようにすれば」顧客のためになるだろうか、といったことを真剣に考えてくれた。

一貫して、自社だけではなく業界全体の信頼回復に取り組もうとする姿勢を示したことが印象に残った。

竹元 かつみ

仮想通貨 Watch(Cryptocurrency Watch)の初代&現編集長。Twitterアカウントの中の人。歴史と社会学が好物だが、自分の生きる時代にブロックチェーンのように革新的なテクノロジーがどのようにして社会変革を実現するのか、ということが最近の関心事。1996年の後半から編集記者としてインターネット黎明期の熱狂からドットコムバブル崩壊までを見届ける。現職の直前は窓の杜の編集長を歴任。雑誌と書籍の編集経験は3・6・3で12年。NPO法人HON.jpの初代副理事、現理事も務める。