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「証券業界とフィンテックに関する研究会」の報告書を公表 ~ブロックチェーン、仮想通貨とICOが証券業界に与える影響の分析

日本証券業協会(「証券業界とフィンテックに関する研究会」報告書)

 日本証券業界協会は6月19日、「証券業界とフィンテックに関する研究会」の報告書を公表した。報告書は、協会と公益財団法人 日本証券経済研究所が共同で研究所に設置する「証券業界とフィンテックに関する研究会サーベイグループ」がまとめたもの。

 研究会では、フィンテックにより証券業界がどのように変化するのかを考察するため、2017年6月から2018年3月にかけて8回の会合を開催し議論が行われてきた。本稿では、議論の結果としてまとめられた報告書「フィンテック時代の証券業」の中から、仮想通貨に関する部分を紹介する。

証券業のバリューチェーンとフィンテック(「フィンテック時代の証券業」から抜粋)

 研究会では、フィンテックの動向を、根幹技術によって構成されるインフラレイヤーと、ユーザーが実際に利用する金融サービスであるサービスレイヤーに分類している。証券業においてブロックチェーンは、主に運用会社で行われる有価証券の売買約定後の広範な業務ポストトレードでの活用が模索され、未公開株や債券、店頭デリバティブなどの分野でさまざまな取り組みが行われているという。

 また仮想通貨取引・ICO、クラウドファンディングにおいて、投資家の保護、情報開示、顧客の資産分別保管など、証券業が培ってきたノウハウが重要な知見として活用されると分析している。

 報告書「フィンテック時代の証券業」では、証券業とフィンテックに関しするこの1年の動向、フィンテックによる証券業への影響、証券サービスや証券仲介業者の将来的な役割について、詳しくまとめられている。

仮想通貨に関する各地域の規制動向

 欧州では、金融業全体に影響を与える施策として、第二次決済サービス指令(Payment Services Directive 2:PSD2)と、一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)が注目される。国境を越える新たな資産である「データ」を通して、欧州域外のユーザーに対しても新しい規制への取り組みが進展しているという。

 決済に関する規制PSD2と個人情報に関する規制GDPRは、どちらもほかの金融機関や他業種の企業などが、ユーザーに関するデータを活用して新たな金融関連サービスを提供したり、金融機関の提供する既存のサービスを高度化・多様化させたりすることが意図されているとのこと。

 米国では、米国連邦政府の管轄だけではなく各州政府が個別に整備する規制も多く、州政府の金融規制当局は、複数の州にまたがって手続きできる仕組みの整備を進めている。仮想通貨の先物・オプション・デリバティブに関しては、商品先物取引委員会(U.S. Commodity Futures Trading Commission:CFTC)の管轄であり、CFTCは仮想通貨を金融商品と定義した。

 また、証券取引委員会(U.S. Securities and Exchange Commission:SEC)は2017年7月、ICOで発行されたトークンについては、有価証券であると判定される場合、SEC登録が必要になるとしている。

 SECは不正なICOの取り締まりと摘発を強化しており、2017年9月に同一人物による2件のICOを摘発、2017年12月に摘発1件、事前阻止1件、2018年1月にも1件の摘発をした。2018年3月には、有価証券に位置づけられるトークンを取り扱う取引所は、国法証券取引所または代替取引システム(ATS)としてSECに登録する必要がある見解も示した。

 アジア各国においても規制の引き締めは進んでいる。中国の政府当局は2017年9月、仮想通貨取引所の閉鎖およびICO停止を打ち出し、2018年からは仮想通貨取引を全面的に禁止した。

 韓国の金融委員会(FSC: Financial Services Commission)は2017年9月、ICOならびに仮想通貨の信用取引を禁止する旨の見解を示した。また、2018年1月にはマネーロンダリング対策を念頭に、仮想通貨取引には実名銀行口座への紐付けが義務付けられた。

 シンガポールの通貨監督庁(MAS: Monetary Authority of Singapore)も2017年8月、ICO に対する見解を発表した。仮想通貨の規制はないものの、同国で販売または発行されたトークンが証券先物法で規制される金融商品であれば、MASにより規制されるとしている。また、ICOはマネーロンダリングやテロリストへの資金供与に使われるリスクにさらされているとしている。

 日本では、2017年4月に改正資金決済法が施行され、関連業者も仮想通貨交換業者として登録制となることが定められた。また、金融庁に登録済みの仮想通貨交換業者16社は2018年3月、新たに自主規制のための団体を設立することに合意したと発表した。業界の健全な発展に向けた今後の取り組みが注目される。

ブロックチェーン技術の実証実験と仮想通貨による資金調達

 ブロックチェーン技術を証券業のバックオフィス・オペレーションなどに活用して効率化を目指す取り組みが、さまざまな実証実験を通して模索されているという。

 海外では、オーストラリア証券取引所(Australian Stock Exchange:ASX)は2017年12月、次期システムの更改にあたり、金融業向けブロックチェーンを専門とするスタートアップ、Digital Asset Holdingsと協業してブロックチェーンを活用することを表明した。

 また、米DTCC(The Depository Trust & Clearing Corporation)は、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)取引におけるポストトレード処理で、ブロックチェーン技術の試験試用を行っている。多通貨同時決済サービスを提供する米CLS銀行は、外為取引の照合およびネッティングにおいて、ブロックチェーンの試験適用を推進している。

 日本でも、以前からブロックチェーンの研究・検証を進めていた日本取引所グループ(JPX)が、業界連携の実証実験を2017年3月より開始しており、約定照合業務や、KYC/AML業務におけるブロックチェーンの適用実験が行われている。

 金融業界において、ブロックチェーンの本番適用や効果的な導入事例はいまだに現れていないとする見方もあるが、業界横断的なブロックチェーン活用を見据えて、各社が共同で模索する機会も生まれているという。また、ブロックチェーンが不要であっても、デジタル化が遅れていた分野や業務プロセスが非常に煩雑だった領域に目を向ける契機となっていることも副次的な影響として無視できない。結果的に、業界共通でコスト削減および効率化が求められる領域において業務水準が向上することは、業界全体の競争力に繋がり、ユーザーの利便性も向上すると分析している。

 また、仮想通貨の分析とICOへの留意点についてもまとめられている。

 同研究会によると、仮想通貨の取引は急速に拡大しているが、多くは値上がりを期待した投機的な動機によるものであり、投資商品としての傾向が強いという。また、近年では仮想通貨の発行による資金調達を行うICOへの注目が集まっている。しかし、ICOの内容は一様ではなく明確な定義もない。規制の適用についても不明確な点が多く、詐欺的な事例も少なくないという。

 資金調達者側のメリットは、

  • 資金提供者に議決権や株主としての地位を与える必要がない
  • 募集総額や1人あたりの投資額の制限を受けない
  • 将来的な元本償還・収益分配、その他の経済的な支出を伴わない

という。ただし、規制・税制などの適用関係が不明確であり、資金を拠出してもらうための商品性の工夫が必要。電子的なトークンを組成する必要があることなどが留意点としている。

 一方、資金提供者にとってのメリットは、

  • ベンチャー企業への投資が容易である
  • 株式等と比較して、簡単に第三者へトークンを移転できる
  • トークンの値上がりによる利益が生じる場合がある

などがある。しかし、企業からの情報開示が不十分であることや、資金を提供することから得られる権利関係が明確に定められていないことなどが留意点としている。