マンガでわかるブロックチェーン
第5回問おう、貴方が私のマスターか?〜マスターとトランザクション
2019年3月4日 06:30
[企画・原作:森 一弥]
[作画:佐倉 イサミ]
主人公・仲元サラが派遣会社を通じてやってきたのはブロックチェーンを主な事業とする会社。ITにも疎く、ブロックチェーンの「ぶ」の字も分からないサラは、果たしてこの会社で生き残れるのか!?話題のブロックチェーン技術を漫画で解説します。
なお、本記事はアステリア株式会社のオウンドメディア「in.LIVE」にて掲載されたものを再編集したものです。
「なんでも出来ると思っていたブロックチェーンだけど、それだけでシステムが完成するわけじゃないんですね…」
「ブロックチェーンだけだとデータの検索とかも弱いな。指定したユーザーの取引一覧を出すってことはすぐできるけど、その中から『○×会社への接待費用』ってメモが入ったものを検索するってことはできない。」
「なんだかブロックチェーンの万能感が薄れていく気がしてます…」
「そもそも万能じゃないしな。得意なところを活かすように使わないと意味ない。特長を掴んでないで話題性だけでブロックチェーンはすごいと思っていると誤解だらけになるんだ。」
「す、すいません…」
「普通にソフトウェアを仕事としている人たちの中でも誤解は多いからな。正しく理解してくれればいいさ。」
「でもブロックチェーンだけでシステムが作れないんだと、どうやって作るんですか?」
「基本的には、マスターデータを入れておく従来のデータベースとブロックチェーンを組み合わせてつくるのが一般的かな。」
「ふむー、つまりブロックチェーンを使ったシステムを作りたければ、マスターデータもつくる必要があるってことですか?」
「そう。既存のシステムをブロックチェーンに置き換えようと思うと、全部を捨てて作り直すと考える人がいるけど、そんなことしなくていいんだよな。ブロックチェーンだけだと、さっき話したような検索ができなかったり、システムとして弱いところも出てくる。」
「ブロックチェーンが当たり前になれば、既存のシステムが全部なくなっていくのかと思ってましたけど、そういうわけでもないんですね。」
「適材適所で置き換わる可能性もあるけど、既存の仕組みが何もかも駆逐されていくなんてことは無いんだよ。既存の技術が置き換わってしまうと誤解されることも多いけど。」
「既存の技術が何もかもブロックチェーンに置き換わると誤解…。」
「さっきの仲元みたいにブロックチェーンを魔法のツールのようにポジティブに誤解している人たちもいるし、既存の技術を持っている人たちは自分たちの仕事が奪われるとネガティブな誤解をしていたりと、両方いるな。」
「そうなんですね…」
「どちらもブロックチェーンのことを聞きかじっているだけだったり、だいぶ古い情報に惑わされていたりすることが原因なんだ。正しい理解をしてくれれば誤解も減るはずなんだけどな。仲元も広報だろ? 誤解されない感じの情報発信を頼むよ。」
「分かりました!」
~自席にて~
「ブロックチェーンにも苦手なものがあったんじゃのぉ。」
「そうだね。ブロックチェーンに仕事が奪われると誤解する人もいたなんて…。」
「あまり悲観的に捉えすぎるのも良くなかろう。日本だとその傾向は強いようじゃが。」
「海外はそうでもないの?」
「新しいものをなんとか自分のものにして成功をたぐり寄せたいハングリーな者が多い気がするのぉ。」
「トー君、海外のことには詳しいんだね。正しい情報を発信してみんなにわかってもらわなくっちゃね。」
「ふむ。それも小さいながら助力にはなるじゃろう。」
次回「IT後進国の日本!? 海外と日本の温度差」につづく!
今回の補習授業|ポイントと用語解説
漫画の原作者である、アステリア株式会社 ブロックチェーン推進室長の森が、今回のお話の概要や会話に登場したキーワードについて簡単に解説します!
- マスターデータ
慣習的にシステムで扱うデータをマスターとトランザクションに大別する事が多いが、名称が定義されているわけではない。本編で扱っている顧客情報のような、「顧客マスター」の他、取り扱う商品である「商品マスター」や、製造業での「部品マスター」など、システムによって扱うマスター情報は様々。マスターデータの追加、更新は人手でやることが多く、表記の揺れや記載間違いがシステムの問題となることもある。
たとえば、「NHK」と書く人もいれば、「エヌ・エイチ・ケー」や「日本放送協会」と記入する人もいるために起こる。作者がこれまで見たことあるものだと、同じ会社名を表す表記が11種類あったこともある。マスターデータ管理(MDM)は情報システム部門にとって避けては通れない課題として認識されている。 - トランザクションデータ
マスターデータに対して、日々追加されていくデータのことをトランザクションデータと呼ぶ。ビットコインなど仮想通貨関連では、ひとつひとつの取引が主なトランザクションデータとなる。第4話のトレーサビリティの例だと、倉庫からの出庫などもひとつのトランザクションデータになるので、マスターと同じく取り扱うシステムによって、様々なトランザクションデータが存在する。 - よくあるブロックチェーンのシステム構成(Webアプリ編)
Webアプリでの構成は上記のような形になる。トランザクションを扱うブロックチェーンに、マスター情報は従来のRDBに格納し、アプリケーションは両方を取りまとめて画面を表示する。マスターやアプリケーションサーバーはブロックチェーン側とは異なり、改ざんされる危険性や停止する可能性もあるので、二重化やセキュリティの対策をこれまでのシステムと同様にする必要がある。
逆に言うと、従来のシステムのトランザクション部分だけをブロックチェーンに置き換えることで、コストダウンや対改ざん性などのメリットを取り込める可能性もある。 - よくあるブロックチェーンのシステム構成(スマホアプリ編)
スマホを使ったアプリの構成は上記のようなものが一般的。マスター情報は自分が取引する相手の情報だけを持っている、アドレス帳のようなものを想像してほしい。 - 「ーーー問おう、貴方が、私のマスターか」
近年、マスターといえばこれであろう。。ということでタイトルに採用した、某有名ゲームのセリフ。
企画・原作:森 一弥
アステリア(旧インフォテリア)株式会社 ブロックチェーン事業推進室 室長 ストラテジスト。2012年よりインフォテリア勤務。2017年3月までは主力製品「ASTERIA WARP」のシニアプロダクトマネージャーとしてデータ連携製品の普及に務め、特に新技術との連携に力を入れる。 2017年4月より新設されたブロックチェーン事業推進室にて実証実験やコンサルティングなどを実施。またブロックチェーン推進協会(BCCC)では技術応用部会を立ち上げ、技術者へブロックチェーンアプリケーションの作り方を啓蒙している。