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仮想通貨のマイニングリグが、あの「MSI」から発売、その理由と特徴を聞いてみた

長年のPC製造から得たノウハウを投入、メンテナンス性にも優れる「BLOCKCHAIN F-12」

 「仮想通貨を本格的にマイニングする」というと、特殊なマザーボードやケースを用意し、多数のビデオカードを買いそろえ、そして組み立てて、マイニング用ソフトを稼働させる………と、なかなか手間がかかるイメージがある人も多いだろう。

 しかし最近は、本格的なマイニングリグを手間なく導入できる組み立て済みのシステムが複数発表、導入のハードルも下がっている。

 そして、そんな組み立て済みのマイニングリグを全世界で発表、今夏から日本でも発売するメーカーの一つが台湾MSI。

 同社は、ビデオカードやマザーボードなどのPC関連パーツを長らく製造/販売していた有力メーカーであり、ノートPCやデスクトップPCのブランドとしてもよく知られている。近年では、ゲーミング分野にも力を入れており、ビデオカードのパフォーマンス調整などに特に強みがあるメーカーとして知られている。

 PC分野では技術やノウハウの蓄積が深い同社だが、「なぜ今、マイニングリグの販売を始めるのか」そして「同社製マイニングリグの強みはなんなのか」を聞いてみた。お話をお伺いしたのは、台湾MSIでマイニング部門を担当するマーケティングディレクターのKay Chen氏と、セクションマネージャーのWilliam Lee氏だ。

MSI セクションマネージャーのKay Chen氏(左)、MSI マーケティングディレクターのWilliam Lee氏(右)

高負荷でも安定動作するゲーミングPCの技術がベース“誰でも使えて高性能”をコンセプトに開発されたマイニングリグ

――PCに詳しい人にはおなじみの「MSI」ですが、そうでない人はMSIを知らない方も多いと思います。まず、MSIとはどのようなメーカーなのか、簡単に紹介してください。

[MSI]:MSIは、1986年に台湾で設立されたメーカーです。マザーボードの生産から始まり、ビデオカード、デスクトップPC、ノートPCなど、PCのパーツから本体まで、幅広い製品を製造しています。近年ではゲーミングPCの分野に力を入れています。また、ディスプレイ一体型のオールインワンPCも人気が高まっています。

我々には、PCやそのパーツを製造する自社工場はもちろん、長年PCに取り組んで来た技術開発チームがおり、そのいずれも、高い技術や経験を備えていると自負しています。今回開発したマイニング製品も、そういった技術や経験をベースとして開発したもので、品質やパフォーマンスに高い自信があります。

マザーボードやビデオカードといったPCパーツ、ノートPCやデスクトップPCなどの完成品PC、入力デバイスなど、MSIはPC関連製品を幅広く製造するメーカーだ。

――なぜMSIがマイニングリグを販売することになったのでしょうか。

[MSI]:近年、マイニングやブロックチェーンに注目が集まっています。

我々も、ブロックチェーンは非常に重要な技術として注目しており、これまでもマイニング向けのビデオカードやマザーボードを複数ラインナップしていました。

知識のあるユーザーさんには、そうした弊社のパーツを既に多数導入いただいており、自分でシステムを構築・運用している方も多いです。

そうした中、「PCに詳しいユーザーだけでなく、興味を持った人が手軽にはじめられるようにするにはどうしたらよいのか」という課題があると思っておりまして、その答えの一つが今回のマイニングリグになります。

ハードウェアはもちろん、OSやソフトウェアを導入して、さらに最高のハッシュレートが発揮できるようにチューニングした状態で製品を提供すれば、PCに詳しくない人でもブロックチェーンのエコシステムに容易に参加できるようになると考えたからです。

自分でパーツを買い集めてPCを作る場合は、パーツごとの相性によるトラブルなどにも自分で解決しなければなりません。しかし、そうした技術を持っている人は意外に少ないのです。

今回発売した製品は、「誰でも簡単に扱えるマイニングリグ」がコンセプトになっています。

――なるほど、では、今回のマイニングリグ製品のラインナップを教えてください。

[MSI]:ラインナップそのものは非常にシンプルです。

ベースとなるのが「BLOCKCHAIN F-12」で、オープンフレーム型のケースに、Intel H310チップセット搭載のマイニング向けマザーボード「H310-F PRO」を装着したものです。これは、最大12枚のビデオカードを搭載できます。

ベースモデルのCPUはPentium Gold G5400、メモリーは8GB、ストレージは128GBのSSDで、電源ユニットは効率の良い80 PLUS GOLD認証に準拠した1,200Wユニットを2台搭載します。

この「ベースモデル」はビデオカード無しで出荷するモデルで、ユーザーさんが好きなビデオカードを装着して利用できるようになっています。

そして、ベースモデルにビデオカードを搭載した製品も用意します。

搭載するビデオカードは、NVIDIAのマイニング向けGPU「NVIDIA P104-100」を搭載するビデオカードか、AMDのGPU「AMD Radeon RX 570」を搭載するビデオカードのいずれかで、装着枚数は、どちらの場合も12枚です。

つまり、ベースモデルが1種類と、12枚のビデオカードを装着したモデルが2種類の、計3製品をラインナップしています。

これらの詳細は後ほど、詳しく説明させてください。


オープンフレーム型のケースを採用するMSI初のマイニングリグ「BLOCKCHAIN F-12」。ビデオカードを搭載しないベースモデルと、ビデオカード搭載の2モデル、計3モデルを用意


ケース上段に6枚、下段に6枚、合計12枚のビデオカードを搭載できる
搭載されるビデオカードは、こちらの「NVIDIA P104-100」搭載ビデオカードカードか、AMDのGPU「AMD Radeon RX 570」搭載ビデオカードのいずれかとなる
マザーボードは、マイニング向けの「H310-F PRO」を採用
80 PLUS GOLD認証準拠の1,200W電源ユニットを2台搭載

――こういった完成品のマイニングリグを販売して欲しいというユーザーからの声もありましたか。

[MSI]:台湾や日本では、そのような問い合わせが増えています。例えば台湾では、PCを組み立てるショップは存在しますが、そういったショップの多くが、マイニングの分野の知識を持っていません。

MSIには、「マイニングPCのどこをどのようにチューニングすればいいか」といったノウハウがありますし、製品テスト部門「MSI Testing Center」では、ビデオカードのクロックを変更した検証も行っていますので、製品を非常に高い性能にチューンできる、という自負があります。

――今回のマイニングリグ製品を製作する以前に、MSIがマイニングに対して取り組んできた事例を教えてください。

[MSI]:数年前に一時的なマイニングブームが起こり、ビデオカードが多く売れました。その時はすぐに沈静化したのですが、去年(2017年)頃からまたブームが再燃してきました。そこで、前回の知見なども合わせて製品を設計、マイニング向けのマザーボードやビデオカードを発売したのです。

マイニング向けマザーボードとしては、最初に「Z270-A PRO」という製品を発売し、それ以降も、ビデオカードを8枚や13枚装着できる製品などを発売。今では、最大18枚のビデオカードを装着できるマザーボードもラインナップしています。

また、PCパーツに詳しい方はご存知だと思うのですが、MSIのビデオカードは業界で非常に人気があります。これは、優れた性能や、優れた冷却システムによる安定した動作などが評価されてのものですが、そうした技術がマイニング向けビデオカードにも活かされています。

MSIは、マイニング用マザーボードも複数発売しており、中には最大18枚のビデオカードを装着できるものもある

――マイニング向けのビデオカードは、通常のビデオカードとどういった違いがあるのでしょうか。

[MSI]:マイニング向けのビデオカードは、(画面出力ではなく)演算のために利用するものです。ですので、不要なものを省いています。例えば、NVIDIA Pシリーズの製品には映像出力端子が無いですし、Radeon RX 470 MINERという製品ではDVI-Dを1つだけ備えるようにしています。

これは、コストダウンはもちろん、不要なパーツがなくなることで冷却性能を高まる、というメリットがあります。

また、長時間、高負荷で演算することになるビデオカードでは冷却システムがとても重要です。これにはゲーミング向けビデオカード用に設計した高性能クーラーを採用しています。ユーザーからの評価が高く、他の用途で使用しても高い性能を発揮するためです。

それ以外の部品についても、基本的には、ゲーミング向けビデオカードと同じ、高品質で耐久性に優れるパーツを使っています。ゲーミング用途で鍛えられたノウハウを、そのままマイニング用途に使うことで、高負荷が続くマイニング用途でも安定して動作するのが特徴です。

マイニング用ビデオカードは、冷却機構などは通常のMSI製ビデオカードと同じだが、映像出力端子などマイニングに使われない機能は省かれている
P104-100 MINER 4Gのブラケット部分、映像出力端子などは完全に省かれている。

――マイニング用マザーボードには、多数のビデオカードを装着できるという特徴がありますが、それ以外にもマイニングに特化した部分はありますか。

[MSI]:まず、ビデオカードを装着するPCI Expressスロット1つずつにLEDを取り付けています。接続したビデオカードが動作しなくなると、そのLEDが点灯しなくなるので、ビデオカードの不具合がすぐにわかるようになっています。

また、たくさんのビデオカードを安定して動作させられるよう、最大5台の電源ユニットを連動させて利用できる構造になっています。ご存知のように、マイニングは電源も重要な要素ですので、こうした機能で使い勝手を向上することができている、と考えています。


マザーボードのPCI ExpressスロットにLEDが取り付けられ、ビデオカードが動作しない状態ではLEDが点灯しないようになっている
このようなアダプターを利用して、最大5台の電源ユニットを連動させて利用できる

マイニング性能はチューニング済みで出荷「メンテナンス性の高さで機会損失を最小に」

――では、「BLOCKCHAIN F-12」の詳細について教えてください。まず、この製品の特徴を教えてください。

[MSI]:まず、大きな特徴が優れた冷却性です。ケースの前方と後方に、合計12個のシステムファンを装着することで、ビデオカードを強力に冷却するようになっています。一般的なPCケースでビデオカードを利用した場合には、ビデオカードの温度が70度ほどにまでなりますが、このマイニングリグでは60度ほどに抑えられますので、安定して稼働させられます。

メンテナンス性にも優れております。システムファンは簡単に取り外し、交換できますし、ビデオカードを装着するトレイも前方に引き出せますので、故障時などの交換も簡単に行えます。マイニングは、まさに”Time is money”です。わずかな時間でもビデオカードが動作しないことがあると成果が失われてしまいますので、メンテナンス性向上にはかなり力を注ぎました。

この他にも、マイニングリグを最大で200cmの高さまで積み上げて利用できるようになっている点も特徴です。

販売価格に関しては、自分でパーツを集めて組み立てる場合よりも高くなると思います。しかし、単品では手に入らないメンテナンス性に優れるリグフレームを採用し、アフターサービスや保証、チューニングなどのトータルソリューションを重視しているので、自分で作るよりも魅力があると考えています。


ケースには、前方に6個、後方に6個、計12個のシステムファンが搭載され、ビデオカードを強力に冷却する仕様
システムファンやビデオカードを装着しているトレイは簡単に着脱できるため、メンテナンス性に優れている

――今回のマイニングリグでは、オープンエアーのフレームを採用していますが、それは冷却性を考慮してのことですか?

[MSI]:冷却性を高めるという意味合いもありますが、メンテナンスのしやすさを確保するというのが最大の理由です。一般的なPCケースでは、カバーを外す必要がありますので、メンテナンスが面倒となりますが、このようなオープンエアータイプなら、すぐにパーツにアクセスできますので、マイニングに最適と考えます。

――システム全体で、特に気を付けて設計している部分はどういったところでしょうか。

[MSI]:特に注力しているのがビデオカードに関する部分です。まず、ビデオカードを接続するマザーボードのPCI Expressスロットには、安定性を高めるためにスロットごとにコンデンサーを搭載しています。これは、競合製品にはない特徴で、特に安定性を重視している大きな特徴となります。

また、中国にある「マイニングセンター」という施設で、多数のマイニングリグやビデオカードを使ってテストを行っています。自分たちでテストも行って、ユーザーよりも早く問題を把握して対策できるような体制も整っていますので、その部分も大きな特徴と言えるでしょう。


マザーボードを接続するPCI Expressスロットは、安定性を高めるためにスロットごとにコンデンサーを搭載
ビデオカードにはこのようなカードを装着して、マザーボードのPCI Expressスロットと専用ケーブルで接続する

――製品の耐久性はどうなっていますか。

[MSI]:製品の保証期間は半年です。ただ、実際に一般的な室温で1~2年ほどテストを行っていますが、大型のシステムファンによる優れた冷却能力のおかげで、全く問題は出ていません。ですので、耐久性も全く問題ないと考えています。

エアコンのない部屋にBLOCKCHAIN F-12を実際に設置、常にモニタリングしているそうだが、安定して動作しているという

――OSやマイニングソフト、管理ソフトなどはインストールされているのでしょうか。

[MSI]:基本的には、OSやソフトがインストールされていない形での販売となりますが、ビデオカード搭載モデルについては、Windowsインストール済みで販売するオプションも用意します。

 Windows以外のOSはユーザーがインストールする必要がありますが、その場合でも、ハッシュレートの調整など、設定についてアドバイスできますので、その点はパーツ単体で購入されるより、安心かと思います。

――管理ソフトなどは付属するのでしょうか。また、その特徴を教えてください。

[MSI]:監視用ソフトは、現在開発中です。マイニングリグのモニタリングだけではなく、スマートフォンなどからの設定もできるようなものをデザインしています。

――MSIは、ゲーミングPC向けにオーバークロックツール「MSI Afterburner」を提供していますが、そういったツールをこのマイニングリグ向けに提供することはありますか。

[MSI]:MSI Afterburnerに似たような調整ツールも、現在開発中です。ただ、マイニングリグでは安定性が最も重要です。オーバークロックを駆使してハッシュレートを高くできたとしても、安定性が逆に低下してしまうことも多いでしょう。ですので、バッシュレートと安定性のバランスを重視した設定を行うようにしています。

この製品を購入する人は、基本的には長期間使いたいと思っているはずです。ですので、オーバークロックによる極端に高いハッシュレートを狙うのではなく、ハッシュレート、温度、耐久性のバランスを重視した設計を採用しています。

そして、購入してすぐに利用できるよう、安定して動作しつつ、通常よりも高いハッシュレートが発揮できるようなチューニングを施してお届けします。

購入は代理店またはメーカーから日本語サポートも完備

――では、購入についてお伺いします。日本ではどこで購入できるのでしょうか。また、納期はどれぐらいかかるものなのでしょうか?

[MSI]:一般の販売店では販売予定はありません。購入したい場合には、MSIの国内正規代理店(株式会社アスク株式会社アユートWOODMAN株式会社)、もしくはMSI Japanオフィスに問い合わせてください。

製品は受注生産となります。受注は7月18日より開始しており、納期は1~2か月ほどとなります。最低発注数量(MOQ)は30台になっておりますので、1台のみ発注いただく場合、その他の発注と合わせて30台に達してから生産することになるので、時間がかかる場合もあります。

――実際に製品を購入した場合には、完成品として届くのでしょうか。それともユーザーが組み立てるパーツの状態で届くのでしょうか。

[MSI]:組み立て済みの完成品としてお届けします。重量は、NVIDIAビデオカード装着モデルで39kgほど、AMDビデオカード装着モデルで35kgほどになります。

ビデオカード搭載モデルでは、ビデオカードを装着してOSなどもインストールし、電源を入れるとすぐに使える状態で届けられますので、ユーザーが最終的な設定を行うだけですぐに使い始められます。パッケージはありませんが、専用の木箱に入れて届けられます。


製品は完成形で届けられる。パッケージはなく、このような専用木箱に入れて届けられるという

――製品はどういう場所に設置すればいいでしょうか? 必要な条件や推奨される条件を教えてください。

[MSI]:特に決まった条件はありませんが、向かい合った壁に窓があって、風通しのいい部屋で利用することをお勧めします。気温については、室温30度までを想定しています。この範囲までであればエアコンは不要です。

Kay Chen氏によると、風通しのいい部屋で、室温が30度以下にキープできるなら、エアコンがなくても動作には問題ないとのことだ

――うまく動作しない場合や、設定などに関して相談できるサポート窓口は用意されていますか。

[MSI]:サポートはMSI Japanが日本語で行います。設置台数が少ない場合には基本的に電話での対応になりますが、台数が多い場合には、台湾から技術者を派遣することも検討しています。

――ビデオカードが装着されないベースモデルでは、利用時にビデオカードの装着やチューニングなどのサポートは受けられますか。

[MSI]:ベースモデルは、マイニングやPCのハードウェアに関する知識を豊富に持っている人をターゲットとしています。ユーザーによって利用するビデオカードが異なりますし、そのあたりも把握はできませんので、チューニングなどに関するサポートの提供はありません。

日本のビットコイン市場は世界3位の規模今後は小型モデルも含めた製品展開も

――日本国内でマイニングリグを販売するのは初めてだと思いますが、日本市場に対してどの程度期待していますか。

[MSI]:日本のビットコイン関連の市場は、世界のトップ3に入るほどの大きさです。ブロックチェーンの注目度合いや技術の進歩も早いので、必ずニーズがあると考えています。また、日本ではどちらかというとPCなどの知識をあまり持っていない人もマイニングに参加する例が多いので、ユーザーに合わせてケースバイケースで最大限のサポートをしたいと考えています。

マイニングリグは日本でもニーズがあり、最大限サポートしたいとWilliam Lee氏

――今後の製品展開や、マイニングへの取り組みなどへの抱負を聞かせてください。

[MSI]:今回の製品は、ビデオカードを12枚搭載できる、比較的規模の大きな製品ですが、今後はより小型の製品もラインナップしていきたいと考えています。現在様々な製品を開発中ですので、ぜひご期待ください。

――最後に、今回発売されたマイニングリグの購入を検討している方に一言お願いします。

[MSI]:マイニングマシンのハードウェアに関する知識がなくても、我々MSIはしっかりサポートします。

 マイニングやブロックチェーンといった最新トレンドに興味のある方なら、ぜひともBLOCKCHAIN F-12をご検討いただければ幸いです。

――本日は、どうもありがとうございました。