イベントレポート

「ブロックチェーン技術と位置・時間情報の可能性」 ~セミナー・カンファレンスレポート第2回

Interop Tokyo 2018

国立情報学研究所 情報社会相関研究系の岡田 仁志准教授

 最新のネットワークコンピューティング技術とビジネスが体感できるイベント「Interop Tokyo 2018」が幕張メッセ(千葉市美浜区)にて、6月13日から3日間の日程で開催された。レポート第2回となる今回は、併催イベント「Location Business Japan 2018」にて開かれた、最新技術を知ることができる基調講演から、ブロックチェーン技術をテーマにした講演をレポートをする。

レポート第2回は、基調講演から

 基調講演は、各界のオピニオンリーダーが市場のトレンドと今後の方向性を語る、誰でも参加自由の講演だ。本稿では、国立情報学研究所 情報社会相関研究系・准教授の岡田 仁志氏が講演者を務める「ブロックチェーン技術と位置・時間情報の可能性 ~セカンドレイヤーを活用した地域通貨の流通と経済共同体の可視化~」の講演の内容を報告する。

 岡田氏は講演の冒頭、ブロックチェーン技術について概略を説明することは非常に難しく、我々研究者の間でも課題であり、また自分でも文章で説明したりするが、なかなかうまくいかないと語った。最近、ようやくそれがうまく説明できたのではないかという事例に、6月3日に放送されたEテレ(NHK)の番組「サイエンスZERO」での仮想通貨特集を挙げた。番組は、岡田氏の著書「決定版 ビットコイン&ブロックチェーン」をベースに、ハッシュとナンスをキーワードにブロックチェーンを解説しているとのこと。「さすが教育番組、うまく説明するものだなぁ」と思ったという岡田氏は、「私はNHKの回し者ではないが、ぜひオンデマンドで見ていただきたい」と冗談を交えながら、会場をなごませた。

番組「サイエンスZERO」の解説がオススメとのこと

ブロックチェーンは六つのステップで考える

 よりわかりやすり解説に努める岡田氏は、ブロックチェーン技術を理解するには、Bitcoin(BTC)の仕組みを理解することだという。Bitcoinは、「支払」「記録」「採掘」「報酬」「承認」「流通」という六つのステップに分けて考えると、理解しやすいとのこと。

 始めに「支払」ありきで、何かをBitcoinで支払ったという事実から物事が始まるが、従来の決済システムでは、まずはサーバーがあり、そこに取引記録が一つずつ時系列に合わせて記録されていくが、Bitcoinの仕組みにはそのサーバーがないという。そのかわりにBitcoinにはボランティアで参加するノード、日本語では結節点というが、そのノードが世界におよそ11,000台あり、これらがメッシュ状に互いにつながっている状況で、取引の情報をそれぞれがバケツリレーを行って「記録」している。どこにも中心がないというのが、Bitcoinの特徴であると解説をする。

 ブロックチェーンといわれる由来は、この取引記録のかたちにある。およそ2,000件程度の取引をかき集めて一つのブロックにまとめていく作業を、マイナー(採掘者)と呼ばれている人たちがおよそ10分に1回程度ブロックを作り、取引記録としてそれまでのブロックにつなげていく。それが鎖のようにつながっているから、ブロックチェーンと呼ばれていると説明。このブロックを作りつなげていくことを「採掘」と呼び、現在、520,000個ほどのブロックがつながっている状況とのこと。

 「採掘」が行われると、次にマイナーに「報酬」が支払われるが、報酬はだいたい4年に1回半減していく。現在、1回の報酬で12.5BTCが支払われるので、マイニングをする人たちは、この報酬を目当てに採掘をしているという。

 ここで報酬が支払われて、晴れてそのブロックが正しいブロックであると「承認」されることになる。よくBitcoinの決済には10分程度の時間がかかるといわれている理由が、この取引記録がブロックに取り込まれるまでの採掘の時間がおよそ10分というのが原因になっているとのこと。またこの報酬を採掘者が手放すことで、Bitcoinの「流通」量が増えていくことになるという。

 これら六つのステップの流れで成立しているのがBitcoinであり、こうやって一つずつ考えることによって、Bitcoinの仕組みが理解しやすくなると岡田氏は解説するが、問題は「採掘」の部分で、ここをきちんと説明しようとすると大変だとのこと。前述の「サイエンスZERO」では簡単にアニメーションで説明していたので、詳しく知りたい方はぜひオンデマンドで確認してみてほしいと、冗談で締めくくった。

 続いて岡田氏は、中心のないBitcoinの11,000台のノードを可視化するとこのようになるというグラフ化されたBitcoinのノードの様子を紹介する。グラフは、近畿大学産業理工学部の山﨑 重一郎教授が描画したものだそうだが、このグラフを見ると各ノードは、最大8本の手を持っていて、それぞれが自分以外の8台のノードとつながるようにネットワーク化されているのがわかるという。これがBitcoinのP2P(Peer to Peer)のネットワークの姿であるとのこと。

11,000台のノードを可視化

ブロックチェーンの活用は多方面で始まっている

 岡田氏は、このBitcoinのブロックチェーンの仕組みを通貨だけではなく、さまざまな産業に応用がきかないかという模索が、多方面で始まっているという。Bitcoinでは、ブロックチェーン上で扱われている情報がたまたま「デジタル資産(アセット)=通貨」というかたちだが、ブロックチェーンでは電子的なアセットとして表現できるものであって、アセットとして転々と流通していくことに意味があるものであれば、通貨に限らず、ブロックチェーンで表現をすることに向いているだろうとのこと。

 ここで実際に、不動産業ではブロックチェーン上で不動産登記の管理ができないかを検証したり、シェアオフィスや民泊などで利用するシステム基盤としてブロックチェーンを使用した実験中の事例を紹介する。

 経済産業省が出している報告書では、ブロックチェーン技術の最も有力なユースケースとして、ブロックチェーン上で不動産の登記を管理することができるのではないかという例が挙げられているという。もともとはNick Szabo(ニック・スザボ)氏というコンピューター・サイエンティストが2005年に「Secure Property Titles with Owner Authority」という文献のなかでスマートコントラクトという概念を提唱し(1998年にも出版している)、スマートコントラクトが不動産登記の転々譲渡に向いているという事例を書いているので、ブロックチェーンでスマートコントラクトが書けるのではないかという議論があると、やはり事例として不動産の例は挙げられるそうだ。

不動産の登記を管理することは可能か?

 しかし岡田氏は、それはそう簡単なことではないという。不動産登記というのは、すでに当事者間で成立した法律関係・権利関係を当事者以外の第三者に対して対抗(主張)する「対抗要件」であることから、ブロックチェーン上に登記情報を載せたとしても、不動産の所有権に関する論争がなくなるわけではないという。しかし不動産登記をブロックチェーンで管理することができれば、少なくも二重譲渡される心配はなくなるだろうとも述べるが、いずれにしろ不動産登記に関しては、実は法律で義務化されているわけではないので、そういう不完全な情報という難しさもあるとのこと。

 そりよりも不動産の場合は、実際の使用収益、つまり不動産から利益を得る部分、いわゆるシェアエコノミーのような領域でブロックチェーンを使ったほうが可能性が高いのではないかと、岡田氏は考えているそうだ。

 たとえば実例としては、スマートフォンの中に仮想通貨のウォレットが入っていて、民泊の部屋やシェアオフィスの鍵に、オンラインで施錠・解錠ができるスマートロックを活用する例を挙げる。実例では、スマートロック自身がウォレットのアドレスを持っていて、スマートロックに対して利用料が送金されると、自動的にスマートロックが解錠されるということができるようになるという例を示した。実験は、スマートロック一つに対してBitcoinのノードを一つずつ持っているという、ぜいたくな環境で行ったとのこと。これも近畿大学の山﨑教授が、実際に「Raspberry Pi」という小型のコンピューターを使って自作したシステムで実験を続けているそうだ。

スマートロックとRaspberry Piを使ったシステム

 山﨑教授による実証実験では、しっかりと稼働したとのこと。

グルメイベントで電子投票実験

 次に岡田氏は、ブロックチェーンの応用例として、門司港レトロ地区での実証実験を紹介した。門司港レトロ地区では、「北九州ラーメン選手権」や「北九州からあげ王座決定戦」、「北九州カレーマルシェ」といったグルメイベントが盛んで、大勢の来客者でにぎわうイベントがしばしば開催されているという。

門司港レトロ地区のグルメイベント

 このグルメイベントでは毎回投票が行われていて、出店するお店のうちどの店がおいしいかを、来客者が投票に参加し、優勝店を決めているとのこと。投票には、毎回数万人が参加する規模のイベントで、優勝店は必ずそのあと人気店になることから、投票が公平に民主的に行われるよう、努力しているイベントだそうだ。ブロックチェーンというのも、一度ブロックに書き込まれた情報は人の力で書き換えることが極めて難しく、どこか一カ所に書き込まれるのではなく、無数のノードが記録されることから、とても民主的な仕組みであるといえることから、このグルメイベントにて実験的に参加させてもらうことになったそうだ。

 なおグルメイベントでの直接の投票は、投票用紙を使用したり、食べたあとのカラのうつわが投票用紙の代わりになるなど、従来の投票方式で行い、電子投票に関してはもし集計に間違いがあると大変なことになるので、まずはアンケートというかたちで、「こういう投票方法があったらどう思いますか?」という趣旨で、従来の投票に平行して電子投票実験を行ったとのこと。

 ここで使われたのは「Open Assets Protocol(OAP)」という技術だという。簡単にOAPを説明をすると、Bitcoinのブロックチェーンは二層になっており、いうなれば2階建てのような立て付けで、1階がBitcoinのトランザクションデータで、ここにBitcoinの送金量や送信先が書かれているが、2階は空きスペースになっているとのこと。この2階部分に何か情報が書けることを利用し、Bitcoinの送金とともに情報を送るというがOAPの仕組みだそうだ。実験当時、Bitcoinが送金できる最低額は15円程度だったが、Bitcoinの空きスペースに投票に関する情報を記載し、Bitcoinを送金して情報を運ばせるという実験を行ったとのこと。

「Congrechain」アプリで電子投票

 実験は、近畿大学の学生とベンチャー企業の株式会社ハウインターナショナル(福岡県飯塚市)が共同で、実際に「Congrechain」というアプリを作って電子投票を行ったそうだ。ちなみに「Congrechain」は、Rubyというプログラミング言語で書かれており、2016年の「Ruby・コンテンツフォーラムFUKUOKA2016」にて第8回フクオカRuby大賞の「優秀賞」を受賞したそうだ。また研究開発、実験の結果として、Bitcoinの2階部分を開発するツール、Open Assets ProtocolをサポートするRubyのライブラリ「openassets-ruby」をGithub上で公開しているとのこと。

位置情報とブロックチェーンを組み合わせる

 このほかにも、Bitcoinと位置情報を組み合わせた例として、同じく近畿大学の山崎教授が研究開発をする、スマートフォンを活用した「カラードコイン」というコインを転々譲渡するアプリの実験を紹介。

カラードコインの概要

 カラードコインは、前述のBitcoinの2階部分に付加情報を追加することでBitcoinに拡張的な機能を持たせることができるOAPの上位概念で、独自の仮想通貨を発行することも可能となるとのこと。

 カラードコインアプリでは、スマートフォンの位置情報や加速度センサーを使い、半径10メートル以内にいる人同士が、お互いのスマートフォンを振ることで、客から店へ、または客同士など、企業やお店が発行したコインを譲渡することができるようになるという。これらの仕組みを使うことで、転々とするコインの決済行動を追跡することが可能となり、たとえば使わないコイン(クーポンなど)を誰かに譲渡するといった行動を追跡することも可能となり、配りっぱなしのコイン(クーポン)に終わらず、コインがどこで使われ、どこで無駄に余っているなどといった経済構造を可視化することも可能になるという。

最後に

 岡田氏は、現在の仮想通貨のうち有力な通貨は、通貨という概念だけではなく、同時にスマートコントラクトのどだいとなることを目指し、仮想通貨の一つ上のプラットフォームと呼ばれる領域を目指しているのだという。それにより仮想通貨とスマートコントラクトが一体になり、よりかみ合っていくだろうとのこと。またブロックチェーンの世界は、ブロックチェーンを使う必要があるかどうかという議論ではなく、ブロックチェーンを使って、どうやってインターネット時代に築かれた秩序を覆していくかというところで、世界は競争している、というのが本講演の結論であると締めくくった。

高橋ピョン太