イベントレポート
横浜DeNAベイスターズ、「お金の地産地消を促進する」電子地域通貨による買い物体験イベントを開催
長崎県離島限定「しまとく通貨」の来島者数&経済効果アリ実績紹介など地域通貨テーマのディスカッションも
2018年11月9日 06:29
横浜DeNAベイスターズは11月7日、同社が運営する情報発信拠点「THE BAYS」2階のCREATIVE SPORTS LABにて、体験型トークイベント「CREATIVE SPORTS LAB TALK EVENT 009」を開催した。今回のイベントは仮想通貨とは関係ないものだが、地域通貨とキャッシュレス化は「仮想通貨 Watch」としても重点的に追いかけているテーマであるため、本稿でイベントについて取り上げる。
第9回目となる今回のイベントは「地域通貨の可能性を探る」をテーマに、地域通貨に関する基調トークやパネルディスカッションが行われた。また、イベント参加者向けに「BAYSTARS Sports Accelerator」にて採択され現在開発中の電子地域通貨「BAYSTARS coin」(仮)を使って、実際に飲食ができる購買体験会が行われた。
トークイベントの会場となるTHE BAYSは、横浜スタジアムのすぐ横に位置し、1階が野球の好きな人に向けたライフスタイルを提案するショップと、クラフトビアバーを併設したブールバードカフェ「&9」といったファン同士のコミュニケーションを深める拠点となるカフェ&ダイニングが入る。また、2階のCREATIVE SPORTS LABは、「Sports×Creative」をテーマに横浜DeNAベイスターズが運営する会員制シェアオフィス&コワーキングスペースとなる、次世代のスポーツ産業を生み出す共創基地となる施設だ。
横浜DeNAベイスターズは、2017年12月より「横浜の地域経済活性化」を目的とする、スポーツ産業と地域社会に新たなイノベーションを起こすパートナーを積極的に募集するアクセラレーションプログラム事業「BAYSTARS Sports Accelerator」を実施中だ。その第1期プログラムにて採択されたのが株式会社ギフティによる地域経済活性化を目指した電子地域通貨サービス。今回、イベントで購買体験ができる「BAYSTARS coin」(仮)は、ギフティが開発中の電子地域通貨となる。横浜DeNAベイスターズは、ギフティとの地域経済活性化を目指した電子地域通貨サービスの開発の検討に向けて、今回のトークイベントを開催した。
「CREATIVE SPORTS LAB TALK EVENT 009」は誰でも参加することができる一般公募のトークイベントだが、席に限りがあるためチケット予約制になっている。今回は参加費1000円で、イベント当日限定でカフェ「&9」にて利用可能な2000円分の電子地域通貨が付与されるという内容で開催。予約は、あっという間に満席となり参加募集が早々に締め切られた、注目のトークイベントだ。
トークイベントのファシリテーター(進行役)を務めるのはDeNAの上林靖史氏。イベントは、「地域通貨」についての基調トーク、ブールバードカフェ「&9」での電子地域通貨購買体験、そして「地域通貨の可能性を探る」をテーマにパネルディスカッションを行う3部構成で進行する。
基調トークは「地域通貨」について
第1部の基調トークは日本政策投資銀行・地域企画部課長の坂本広顕氏が「地域通貨」について語った。地域における企業への融資業務や企画・調査業務などに従事する坂本氏は、本業はスポーツを生かした町作りに関する調査・研究の担当とし、通貨に関してはライフワークのように日々取り組んでいるとのこと。
坂本氏は、地域経済構造をバケツにたとえると「穴のあいたバケツ」だという。穴のあいたバケツにいくら水を流し入れても、穴から水が漏れてバケツに水がいっぱいにならないように、お金をいくら地域に流し込んでも穴があいていたらお金は貯まらないという。現在の地域経済構造は、そのような状態ではないかと坂本氏は考えているそうだ。
お金を貯めるには、つまりこの穴をふさぐ必要があるとのこと。地域経済構造においてバケツの穴をふさぐというのは「お金の地産地消」であると坂本氏はいう。
この図は徳島県名西郡神山町の神山町役場の創生戦略における資料の引用だが、「もっぱら町で買う」という地域で8割方のお金の消費行動をしている人たちと、「もっぱらよそで買う」という郊外に出かけて地域の外で消費行動をしていて地域での買い物は約2割といった人たちという仮定で話をすると、元手1万円の買い物を考えたときに、地域に落ちたお金がさらに地域の消費行動につながること考えると、左の8割方のお金を地域で消費する人たちの場合は1万円のうち8000円が地域に落ち、8000円を手にした次の消費者は8000円の8割6400円を地域に落とすというように考えると、元手1万円が実に45巡目まで消費行動に使われるという。逆に、右の2割の消費行動グループでは、わずか7巡目で終了してしまうという短い消費行動になるとのこと。
これは仮定の話で極論だが、つまり地域だけで買い物をしてもらうことにつなげると、お金の地産地消はここまで経済的な価格差が生じるといった例だという。
坂本氏は、お金の地産地消を促進する方法として電子地域通貨があることを挙げ、ここで法定通貨、仮想通貨、電子マネー、そして地域共通ポイント/電子地域通貨の各通貨の特性を知るために各通貨を比較した。
比較をした上で、電子地域通貨や地域共通ポイントには制約があるが、はたして制約はデメリットなのだろうかという疑問を投げかけつつ、実はその逆でそれらをうまく活用すれば地域にもたらすメリットになることを告げた。
地域通貨を考える際に仮想通貨を使用するという考え方もあるが、仮想通貨はボラティリティ(変動率)が高く、価値が一定でないことが地域における消費行動に使用するのは、現状は難しいのではないかとのこと。電子地域通貨や地域共通ポイントは、法定通貨である円とペッグ(価値の連動)することから安定性があり使いやすいことがメリットだという。また決済性としてエリア内でのみ決済が可能であるという決済性の制約は、地域外に資金が流出しにくいというメリットがあるという。また、電子地域通貨は有効期限が設定されているため、時間により価値の減価(消滅)が生じるため、法定通貨での貯金のような価値の貯蔵ができないという。これもまたデメリットと考えるよりは、「持ち続けて減価してしまう前に使ってしまおう」という経済的な消費行動を促すことになるので、地域内でインセンティブをもたらすいい効果ではないかと坂本氏はいう。
電子地域通貨の制約は、むしろ地域経済構造を変革し「お金の地産地消」を推進するメリットなのだという話が印象的だった。
電子地域通貨による購買体験
第2部は、1階のブールバードカフェ「&9」にて電子地域通貨による購買体験会だ。今回、一般参加者は最初にイベント参加費として1000円を支払い、各自スマートフォンに2000円分の電子地域通貨がデポジットされている状態になっている。トークイベントのために準備された電子地域通貨は、あらかじめ知らされているQRコードを使い専用URLよりWebにアクセスする形で使用する仕様になっている。
イベント参加者は、2階から降りてきて各自好きなもの電子地域通貨で購入する。今回は、カフェメニュー、軽食、クラフトビールなどが購入可能だ。
購入したい商品を店員さんに注文すると購入金額が告げられるので、金額が分かったら自分でその金額をスマートフォンに入力する。
入力した金額を確認し、問題がなければ再度その画面を店員さんに見せて、スタンプのようなものを画面に押してもらうことで支払が完了する。この一連の流れで買い物は終了し、商品を手にすることができる。
カフェ一番乗りのお客さんであるイベントに参加する宮寺さんに電子地域通貨を使用した感想を聞くと、思ったよりも簡単に使用できたと、その手軽さを聞くことができた。
第2部は、このようにみんなで好きなものを購入し、しばし2階で歓談となり、おのおの食事がてらの休憩タイムとなった。
最後は、パネルディスカッション
第3部はファシリテーターの上林靖史氏のもと、日本政策投資銀行・地域企画部課長の坂本広顕氏、長崎県の「しまとく通貨」しま共通地域通貨発行委員会に参画する久保雄策氏、横浜や関内で地域プロジェクトを通じ、市民・大学・企業の新しい関係づくりを目指す処デザイン学舎代表で慶應義塾大学SFC研究所上席所員の齋藤美和子氏が登壇し、地域通貨の可能性を探る、パネルディスカッションが行われた。
最初に自己紹介を兼ねて、しま共通地域通貨発行委員会の久保雄策氏より「しまとく通貨」について聞く。「しまとく通貨」を発行するしま共通地域通貨発行委員会は、長崎県内関係離島市町(壱岐市、五島市、小値賀町、新上五島町、佐世保市宇久町)が組織する委員会とのこと。離島の活性化や人口減少回避などを目的として、平成25年度から平成27年度に紙ベースの「しまとく通貨」を発行した。「しまとく通貨」は、5000円で6000円分の商品が購入できる長崎県内の離島でのみ使える20%プレミア付き地域通貨とのこと。
「しまとく通貨」は、島外の人に離島に来てもらい買い物をしてもらう、島外貨獲得のための地域通貨のため、島外に住む者にしか買えない地域通貨であることが特徴だという。旅行会社ともタイアップししまとく通貨付旅行商品の販売も行うなどで、3年間の売上は約90億円、来島者数47万1000人増という結果となったという。その後、平成28度からは電子版にリニューアルして販売し、この2年間で約7億円を売上げ、長崎県の離島の経済効果約44億円という実績を残している。
処デザイン学舎代表の齋藤美和子氏は、慶應義塾大学SFC研究所上席所員という立場でもあり、コンテンツ事業として企業・大学向けのワークショップの企画、学習プログラムの開発など「身体学習」分野の創出と調査研究を行っているという。またコンテクスト事業として、学び基点とした「場」の企画運営、コーディネートを行っているとのこと。関内で、大学および研究者をコアユーザーとした多目的スペース「よりみちベース」を運営する。よりみちベースのコンセプトは「あそびとまなびの交差点」だという。分野や世代、国籍を越えた地域の関係づくり、ネットワークづくりを行う、新しい「ご近所づきあい」の形を提案するといった活動をしているそうだ。
横浜スタジアム近くの「日本大通り」は有名だが、関内駅の内陸側にある「大通り公園」は地元の人にも忘れられがちな公園だと齋藤氏はいう。普段は、駅前にも関わらずほとんど人通りがないという大通り公園を、もっと活性化させていこうという活動を現在は行っているそうだ。具体的には、半年に1度程度の開催ペースで、公園内で楽しめるカフェやイベントを行っているという。実は、今月も開催をしたところだが、これまで何度かイベントを行った結果、意外と地域には外国人の方々も住んでいるということが分かり、そういった対応も行うなど、地域と付き合うことで分かることも多いという話が印象的だった。
パネルディスカッションは、自己紹介をされたおふたりに加えて、さまざまな通貨に詳しい坂本氏を交え、三者三様まったく立場の違った視点から、地域通貨をテーマにディスカッションが行われた。
まずここで進行役の上林氏は、「普段、現金を使わない日はありますか?」と登壇者ほか来場者も含めて会場の全員に質問を投げかけた。すると会場は、7、8割程度の人が手を挙げた。さすがに今回のテーマで参加された方々のせいか、世間一般の人々よりもキャッシュレス化が進んでいるような印象だ。
そんな質問のあと上林氏は、今、最も便利だという決済手段は何か? と登壇者に問いかけた。
しまとく通貨の久保氏は、電子マネーのnanacoを挙げた。チャージのしやすさ、それとポイントが付くというのが、使うメリットが分かりやすくて良いとのこと。しまとく通貨のときもそうだったが、使う側もお店側もお得であるという実感が重要だという。nanacoでそれを感じて、やられたーと思ったそうだ。
齋藤氏は、ここに参加している身で申し訳ない意見だが、実は感覚が伴わない決済はあまり使わないようにしているので電子決済は少なめだという。ただ、やはりSuicaやPASMOは使っているそうだ。それとシェアリング自転車を使用するときの電子決済は便利だと思うとのこと。
坂本氏は決して回し者じゃないと断りを入れて、Origami Payがとても便利だという。単純にユーザー還元がすごいというところから使い始めたそうだ。とにかく決済にクーポンが使えるなど、お得な要素が多いという。ユーザーの囲い込みという意味合いもあると思うが、ユーザー還元をしっかりとやっているというイメージで注目しているという。
次に上林氏は、地域通貨という地域を区切る意味はどういうところにあるのかという質問を投げかける。
外から見ると地域を区切っているように見えるが、実際に中にいるとその境界線は曖昧であることも多いので、地域を区切るということに最初はピンとこなかったという齋藤氏。それを地域通貨というテーマをもとに考えてみると、先ほど「大通り公園」を盛り上げましょうという話をしたが、ある場所という特定の地域で区切ると輪郭がしっかりしてきて、分かりやすくなるのではないかという。横浜を盛り上げましょうと、ざっくり言ってしまうと、広すぎて途端に輪郭がぼやけるので、何か人を巻き込んでいくときには、地域を区切ることで、いろいろな面が分かりやすくなる。そういう意味でも地域を区切るということに意味があるのではないだろうかとのことだった。
最後にまとめとして、実際に地域通貨を発行してきた実績のある久保氏は、徐々にみんなしまとく通貨に愛着もわいてきているし、何よりも離島のためになっているということが大前提にあるので、地域通貨にはクレジットカード等の決済とは違った良さはあるのではないかという。そういう意味でも、地域通貨を作る場合は行政がこうしましょうという上からのやり方はだめだと思うとのこと。やるときは、やはりみんなで決めていくことが地域通貨は大事なのではないだろうかと締めくくり、トークイベントは幕を閉じた。