イベントレポート

金融庁、ウォレット業者・不公正な現物取引・仮想通貨の呼称・ICOに関する規制要否を討議

ウォレット業務に対しても一部仮想通貨交換業と同等の規制適用が必要ではないか等

国際的な議論の状況、金融庁資料より引用(以下同)

 金融庁は11月12日、霞ヶ関・中央合同庁舎第7号館にて「仮想通貨交換業等に関する研究会」の第9回会議を開催した。金融庁が事務局を務める本会議は、学識経験者と金融実務家などをメンバーに、仮想通貨交換業者などの業界団体、関係省庁をオブザーバーとし、仮想通貨交換業などをめぐる諸問題について制度的な対応を検討するため、定期的に開かれている。

 今回の研究会では、「仮想通貨の売買等を伴わない仮想通貨の管理を業として行う者」「仮想通貨の不公正な現物取引への規制の要否等」「仮想通貨の呼称」「仮想通貨デリバティブ取引に係るその他の論点」の4つの議題について討議が行われた。また、楠メンバーよりICOの現状に関する資料が提出され、前回の「ICOに関する規制のあり方」についての討議に関する補足説明が行われ、ICOに関する意見交換も行われた。

 議論に関するレポートに先駆け、本稿では、まず金融庁が提案をする今回の討議すべき論点および資料について報告する。なお、報告にて挙げられた課題についての討議内容は、別稿にて報告する予定であるため、併せて一読いただきたい。

ウォレット業者に対する規制の要否について

仮想通貨のウォレットの種類

 最初に挙げられた「仮想通貨の売買等を伴わない仮想通貨の管理を業として行う者」という議題は、いわゆるウォレット業者に対する規制の要否などについての議題となる。

 現在、国内で仮想通貨の売買や交換など取引をする事業を行うには、資金決済法上、仮想通貨交換業に該当し、登録が必要になっている。

 一方で、ウォレット業者と呼ばれる事業形態では、仮想通貨交換業と同様に顧客の仮想通貨を管理し、顧客が指定する先に仮想通貨を移転させるウォレット業務サービスを提供しているが、ウォレット業務は仮想通貨の売買等を伴わないため、仮想通貨交換業には該当しないとしている。

 しかしながらウォレット業務では、顧客の支払・決済手段の管理が可能であり、顧客が指定する者(ウォレットアドレス)に対し支払・決済手段として仮想通貨を移転させることができることから、金融規制の導入が必要という意見もあるが、この点についてどう考えるか、議論の余地があるのではないかという。

 また、ウォレット業務にはサイバー攻撃による顧客の仮想通貨の流出リスクや、ウォレット業者の破綻リスク、マネーロンダリングやテロ資金供与のリスクなど、一部、仮想通貨交換業と共通のリスクがあると考えられることも挙げている。国内のウォレット業者の中には、ウォレットアプリ等が万が一何らかの事情により破損やサービスの存続が不能になっても、預かる仮想通貨についての保障がないことを掲げている業者も少なくなく、SNS等では顧客に対する周知の徹底が十分でないことも問題であることを挙げている。

 しかし、国内でウォレット業務を展開するウォレット専業業者は現状把握されていないという。また、仮想通貨交換業者の中にも、仮想通貨の売買等ができないタイプのウォレットサービスを顧客に提供するものや、海外では、広くウォレット業務を展開するウォレット業者も存在するという現状も告げている。

 仮想通貨はインターネットを介し容易に海外へ移転が可能であり、国際的に協調して対応することが重要であるといった観点から、FATF(金融活動作業部会)においては、仮想通貨交換業に加え、ウォレット業務もマネロン・テロ資金供与規制の対象にすることを各国に求める旨の改訂FATF勧告が採択されたことも併せて報告する。

 これらを鑑み、ウォレット業務に対する規制の導入についても、「登録制」「内部管理体制の整備」「業者の仮想通貨と顧客の仮想通貨の分別管理」「仮想通貨流出時の対応方針の公表、弁済原資の保持」など、一部仮想通貨交換業と同等の対応を求めるべきではないかという課題も挙っている。

仮想通貨の不公正な現物取引への規制の要否について

 現在、仮想通貨の現物取引について不公正な事案として、仮想通貨交換業者における未公表情報(新規仮想通貨の取扱開始)が外部に漏れ、情報を得た者が利益を得たとされる事案や、仕手グループがSNSで特定の仮想通貨について、時間・特定の顧客間取引の場を指定の上、当該仮想通貨の購入をフォロワーに促し、価格を吊り上げ、売り抜けたとされる事案が報告されているという。

 金融商品取引法では、有価証券の売買やデリバティブ取引について、禁止事項として不正手段・計画・技巧、虚偽表示等による取引、虚偽相場の利用といった不正行為、風説の流布、偽計、暴行又は脅迫、相場操縦(仮装売買、馴合売買、現実売買・情報流布・虚偽表示等による相場操縦)、インサイダー取引があるとし、一方、仮想通貨の現物取引については、こうした行為を禁止する規制はないが、現状このままで良いのかということが以前より論点として告げられている。

金融商品取引法上の不公正取引規制の対象範囲

 ほとんどの仮想通貨には価値を決定する本源的価値が概念的になく、また、その取引は資本市場の形成に必要不可欠な株式等の取引とは経済活動上の重要性が異なるとも考えられる。そういった仮想通貨の現物取引について、不公正な行為にに対して罰則等の導入といった対応を通じ、取引環境の健全性や公正な価格形成を確保していくべき経済的意義があるかどうかについても、考えるべき論点ではないかということも挙っている。

 有価証券取引等に関しての不公正行為規制においては、その取引の経済活動上の重要性から、証券取引等監視委員会における取引監視体制の整備・調査など、国費に基づく相応の行政リソースを費やしていが、仮想通貨の不公正な現物取引への対応が求められるかどうか、仮に対応が求められる場合にも、行政のリソースや優先度等に留意する必要があるとも考えられるが、この点についても議論すべき内容ではないかという。

インサイダー取引規制について

 金融商品取引法では、上場会社等に関する未公表の重要事実を知った会社関係者が、当該重要事実の公表前に、当該上場会社等の有価証券に係る売買等を行うことを禁止しているが、仮想通貨(株式等に相当するICOトークンを除く)の現物取引については、Bitcoin等の多くの仮想通貨には発行者が存在しないことや、発行者や仮想通貨の仕様を決定するインナーが存在する場合でも、発行者等はグローバルに存在し得るものであり、また、該当者を特定することにも困難な面があると考えられることなどから、法令上、発行者等に係るインサイダー取引規制を設けることには困難な面があるとも考えられるが、この点についてどのように考えるべきかといった論点も挙っている。

仮想通貨の呼称について

 最近、G20等の国際的な場において、仮想通貨などは「暗号資産」との表現が用いられつつある。また、仮想通貨交換業者に法定通貨との誤認防止のための顧客への説明義務を課しているが、仮想通貨の呼称の使用は誤解を生みやすいとの指摘もあるということから、今回、改めて「仮想通貨」の呼称について議論する場が設けられた。国際的な動向等を踏まえ、仮想通貨の呼称を「暗号資産」に変更することも考えられるが、この点についてどのように考えるべきかという議題が挙っている。

 ちなみに当局における「仮想通貨」という呼称については、仮想通貨交換業への規制導入時、資金決済法では、FATFや諸外国の法令等で用いられていた「virtual currency」の邦訳として、また、日本国内において「仮想通貨」という名称が広く一般的に使用されていたことから、「仮想通貨」を呼称として使用することとしたという。

仮想通貨デリバティブ取引に関するその他の論点

 金融商品取引法上、金融商品取引所は、公正な価格形成の実現を図るという公共性を有する場であることを踏まえ、市場の開設には免許を必要とし、免許制の下、市場取引の公正性や投資者保護等の観点から規律を働かせているという。

 仮に、仮想通貨デリバティブ取引を金融商品取引法の規制対象にし、当該市場の開設に免許を必要とする場合についても議論が行われることになった。これまでの議論の中でも、仮想通貨デリバティブ取引は、社会的意義の程度と比して、過当な投機を招くなど害悪の方が大きいとの意見があったことや、多くの仮想通貨には企業価値等に基づく本源的な価値が見いだせない中で、取引所の取引には、多くの個人の取引を誘引するおそれがあることなども踏まえ、多数の市場参加者の参加を可能とする公共性を有する取引所市場の存在が必要かどうかについて、どう考えるかといったことが課題として挙げている。

最後に、ICOについて

ICOに対する基本的なスタンス

 また、最後に楠メンバーよりICOの現状に関する資料が提出され、前回議論を行った「ICOに関する規制のあり方」に関する補足説明が行われ、ICOに関する知見を広めるために、メンバー間にて意見交換が行われた。ICOに関しては、今後もまた議論を行う余地があることを示した。

日本人が関与した主なICOについて

高橋ピョン太