イベントレポート

ロジャー・バー氏、スペシャルトークでBitcoin Cashへの思いや仮想通貨の展望を語る

ハードフォークの話題は一切なかったが互いに競争原理が働く? 「Future of Money~マネーの未来を探る~」レポート第1弾

ロジャー・バー氏によるスペシャルトーク

 11月18日、日経CNBC主催のイベント「Future of Money~マネーの未来を探る~」が株式会社ビットポイントジャパンの特別協賛のもとJPタワー ホール&カンファレンス(東京・丸の内)にて開催された。イベントは国内外より有識者を招き、仮想通貨を始め、ペイメント事業、ブロックチェーンを中心とした「未来のマネーおよびその周辺技術」について、トークショーという形で講演が行われた。

 本稿では、「Future of Money~マネーの未来を探る~」イベントレポート第1弾として、Bitcoinの神とも呼ばれるロジャー・バー(Roger Ver)氏の単独講演となるスペシャルトーク「キーマンが読み解く、仮想通貨の展望」について報告する。

デジタル通貨は経済的自由度を高める

 Bitcoin.com CEOのロジャー・バー氏は、Bitcoinとブロックチェーンの最初の投資をした投資家とし有名な方。この分野で8年間の経験があるというロジャー氏は、それ以前にすでに成功している起業家でありながら、すべてを捨ててBitcoinにフルタイムの時間をかけようと思ったという。当時のBitcoinは、1BTCが1ドル程度の価値しかなかったというのにだ。では、なぜロジャー氏は、Bitcoinをそれほど重要なものだと感じたのか。そして、今、どうしてこのような状況になったのか、そしてそれはただ単に投機がしたかったというわけではないという。今回は、その理由が分かるトークショーになった。

 CoinbaseのCEOであるブライアン・アームストロング(Brian Armstrong)氏は、デジタル通貨は経済的自由度を高めるために最も効果的な方法かもしれないといっているとロジャー氏が、彼の言葉を紹介する。デジタル通貨が普及することで、多くの国々の人々が貧困から抜けだし、何十億人もの人々の生活を改善し、世界のイノベーションが生まれる速度を加速する可能性があるといっているというのだ。これは本当にわくわくするゴールだと話す。ちなみにブライアンを知らない人に説明すると、彼は最初に仮想通貨をみんなが使えるように奔走した人であると、ロジャー氏はいう。

 経済の自由度が上がるとは、どういうことなのか。まず、1人当たりの所得が上がる。寿命が延びる。識字率が改善される。最貧困層の所得が上がる。環境保護が改善される。戦争・紛争の頻度を下げる。そして、幸せを感じる市民の数が増える。組織の腐敗や賄賂が減る、ということになるという。これらは経済自由度が上がれば手に入ると思われる内容であるとのこと。

経済重度の高い国・地域の1位は、香港

経済自由度の高い国・地域、低い国・地域

 ロジャー氏は、最も経済自由度の高い国・地域、低い国・地域のトップ10とワースト10を示した。資料によれば、トップ10の1位は香港、2位シンガポール、3位ニュージーランドと続くという。ちなみに日本は30位だそうだ。ワースト10は、1位北朝鮮、2位ベネズエラ、3位キューバだという。人々は、より経済自由度の高い地域に住みたくなるとのこと。日本は悪くはないが、思ったほど高くはなかったという。ロジャー氏は、もっと経済自由度を上げて、より住みたくなる国になるべきだと強調する。そして日本は、これから最も住みたくなる国になることをロジャー氏は信じているという。

写真は上部が香港、下部がキューバで、左が1950年代、右が現代

 ちなみに上記の写真は、経済自由度が高いか低いかによって都市の発展がここまで異なるという様子を比較したものだそうだ。最も住みたい場所になった香港の経済発展は、誰から見ても明らかだと、ロジャー氏はいう。1950年代は、どちらも似たような田舎の港町だったが、経済自由度の違いによって香港はここまで発展したのだという。

 また、次に示されたチャートもまた興味深い。

起業率と生活水準の関係

 チャートは人々の生活水準と起業率を表したものだが、この2つは非常に相関していることが分かる。起業するということは、経済自由度がなければできないことであり、自由でなければイノベーションは生まれないとロジャー氏はいう。そして起業家によるイノベーションがなければ、我々の生活水準は上がらないというのだ。北朝鮮やベネズエラ、キューバから新しいテクノロジーが出たことがあるか? ロジャー氏は1度も聞いたことがないという。新しいテクノロジー、素晴らしいイノベーションは、経済自由度が高いからこそ誕生するのであると力強く発言をするロジャー氏が印象的だった。

競争原理が、より進化をさせる

 また、こうしたものは競争原理が働くことで、より進化していくという。アップル、LG、ソニー、サムスンと選択肢がいろいろあるということが、互いに競争し合い、より良い製品をより良い価格で出そうと努力をする。去年よりも今年のほうが製品が良くなっていることを意味するという。

 一方、仮想通貨に関しては、まだそれほど大きな競争がないという、ロジャー氏。また、お金自体もそうであるとのこと。日本に住んでいる人は円を、ヨーロッパに住んでいる人はユーロを、そしてアメリカに住んでいる人はドルをというように、ほぼ全員がその地域のお金を使っているため、通貨にはあまり競争がないという。しかし、仮想通貨が誕生したことにより、通貨の世界にも競争が生まれ始めているとロジャー氏はいう。貨幣を発行している発行体同士の競争が生まれているとのこと。そして近代の歴史の中で初めて、貨幣の発行体と国が別々のものになり得るという可能性を持ち始めているというのだ。

 貨幣の発行体が競争するということは、人々がどのお金を使うのか選択肢が生まれることになるという。そして一番使い勝手のいい貨幣を使おうということになるだろうという。円、ドル、ユーロがオープン市場で、Bitcoin CashやEthereumなどと競争しなければならなくなるというのだ。また、何千という仮想通貨が現在あるが、これらも市場で競争することになる。これが素晴らしいことだと、ロジャー氏はいう。アップルとサムスンが競争しているように、お金そのものも互いに競争し、そしてより使いやすいお金になっていく、ということを意味しているのだという。

 しかし、投機と経済活動は別に考えなければならないという。仮想通貨を投機対象にしている人はたくさんいるが、もっと大きな視点で考えていかなければならないという。日本に住んでいる人ならば、円で自分の持つ価値を保存しようとする。それは、日本中どこでも円で買い物ができるからにほかならないという。仮想通貨に関しては、お店だけで使えるようになるのか、それとも世界中どこででも使えるようになるのか、使える場所によってその価値が変わっていくだろうとロジャー氏はいう。仮想通貨の中で、本当によく使われているもの、経済活動の中でその売買が行われているもの、それが人々に一番使われていくものになるだろうという。

 仮想通貨は、どこにいても誰にでも安い手数料で送受金ができる。これは貿易摩擦の解消にもつながるという。また、これまでの海外送金は、4000円から5000円ぐらいの手数料を銀行に取られていた。しかも送るのに2日も3日もかかるほか、銀行は土日休みであり、平日は午後3時以降はやっていないなど、いろいろな障壁があった。また政府がその送金をストップさせることもできるという。これが、仮想通貨であれば安い手数料で銀行等を介さずに、P2Pで誰でも瞬時に送金ができ、それを誰にも止めることができないのだ。これは貿易の障壁も低くなるという。自由貿易によって、人々の生活もさらに改善されるというのだ。

 こういった仮想通貨の世界、ブロックチェーンの環境は、もう誰にも止められないということもまた重要であるという。唯一止められるのは、すべてのインターネットをオフにすることしかなく、そんなことはできるとは思えないという。つまり、もはや誰にも止められないテクノロジーであると、ロジャー氏はいう。仮想通貨やブロックチェーンでいろいろなことができると思うと、本当に涙が出るほどわくわくすると感想を述べた。

 ここにいる人は、もう説明するまでもないと思うが、実はこれらの話は世間ではまだほとんど知られていないのだという。ロジャー氏は、どうか自分の知り合いにも教えてあげてくださいという言葉もまた印象的だった。

 最後にロジャー氏は、現在のBitcoinについて語った。Bitcoinは、2011年に登場した当初は、P2Pの電子キャッシュシステムとして最も安く、そして信頼できる、そして支払のできるツールだったという。この表に書いてある項目は、2011年にはすべてBitcoinでできていたというのだ。なので2011年には、Bitcoinにはわくわくしていたという。

2011年のBitcoinと現在のBitcoin、Bitcoin Cashの機能比較

 だが、今はこうなっているというのが上記の表だ。ロジャー氏いわく、今はたった2つの項目を残して、他は使えないのがBitcoinであるという。しかし、2011年の頃のBitcoinが満たしていた項目を現在も満たしているのがBitcoin Cashだとロジャー氏はいうのだ。ロジャー氏は、今はBitcoin Cashにわくわくし、自身の1日の時間のすべてをBitcoin Cashに費やしているというのだ。世界で初めてBitcoinに投資したロジャー氏が、今こうしてBitcoin Cashへの愛情をそそぐ理由が分かった気がするトークショーだった。

 そんなBitcoin Cashは先日ハードフォークが実施され、今後どのような展開になるのか誰もが気になっているところだが、残念ながら本日のトークショーではロジャー氏はそのことには一切触れなかった。しかし、ロジャー氏の本日の言葉を借りれば、互いに競争原理が働くということは、いずれにしろいい結果が出るのではないだろうか。改めてその行く末に注目していきたい。

高橋ピョン太