イベントレポート

藤巻参議院議員も参戦、株式・為替・金市場マーケットの達人が仮想通貨の可能性を探る

市場の整備や機関投資家参入が相場安定のかなめ 「Future of Money~マネーの未来を探る~」レポート第2弾

 11月18日、日経CNBC主催のイベント「Future of Money~マネーの未来を探る~」が株式会社ビットポイントジャパンの特別協賛のもとJPタワー ホール&カンファレンス(東京・丸の内)にて開催された。本稿は、「Future of Money~マネーの未来を探る~」イベントレポート第2弾となる。

 今回は、「マーケットの達人はこう見る!『仮想通貨の可能性』」をテーマに、株式、為替、金市場それぞれのマーケットを分析してきたトップランナーによるトークショーの内容を報告する。

日経CNBCアンカーの直居敦氏

 モデレーターは、日経CNBCアンカーの直居敦氏が務める。登壇者は、株・経済の達人として参議院議員であり株式会社フジマキ・ジャパン代表取締役の藤巻健史氏、為替の達人としてソニーフィナンシャルホールディングス株式会社・執行役員兼金融市場調査部長の尾河眞樹氏、そして金(ゴールド)の達人としてICBCスタンダードバンク・東京支店長の池水雄一氏が招かれた。

 モデレーターの直居氏が今回はまったくバックボーンの違うお三方をお招きしたというように、その得意とするマーケットは、それぞれ株式、為替、金市場とジャンルの違う世界で活躍をするお三方。そういった市場でトップランナーとして走る3人には、現在の仮想通貨の市場はどう映っているのか。非常に興味深い。

ますは自己紹介から

日本維新の会所属の藤巻健史参議院議員

 藤巻氏は、大学卒業後すぐに三井信託銀行に入り海外に留学させてもらったという。その後JPモルガン銀行に転職し東京支店長を務め、辞職後はジョージ・ソロスのファンドの助言をし、その後に一橋大学などで非常勤講師を務め、今から5年半ほど前に参議院選に出馬し当選、現在、参議院議員を務めるという。

 仮想通貨との出会いについて訪ねられると、藤巻氏は昔から日本の財政、そして今は日銀に対して厳しい見方をしており、そういう時代にどう対処したらいいかと考えた場合に、仮想通貨は避難通貨の手段になるのではないかということで、3、4年ぐらい前に取引を始めてみたという。藤巻氏は、まず自分でやってみないとその仕組みはわからないということで、実際にやってみたそうだ。そこで仮想通貨の魅力を感じ、避難通貨という意味と将来性という意味の両方で興味を持ったという。

 国会では、将来、仮想通貨やブロックチェーンは日本の飯の種の1つになると思っているので、それについて推進すべく、特に今は仮想通貨の税制問題について政府を追求している状況であるとのこと。

ソニーフィナンシャルホールディングス株式会社・執行役員兼金融市場調査部長の尾河眞樹氏

 尾河氏は、為替の解説等では日経CNBCを始めいろいろなところで活躍されているが、現在、ソニーフィナンシャルホールディングスの金融市場調査部長を務め、為替のアナリストをしているという。バックグラウンドはずっと為替で、最初はファースト・シカゴ銀行で為替のディーラーを務め、インターバンク(銀行間取引)、カスタマーディーラー、JPモルガン証券などを経て、ソニーの本体のほうで為替のヘッジなどの運用をやってきたという。

 仮想通貨に関しては、通貨という名称が付いていることもあり、個人投資家の方々から質問をもらうことが多いという。しかし、政府、金融庁が仮想通貨は通貨ではないといっていると聞き、これはいったいどういうことだと1度整理をしたほうがいいと思い、最近いろいろと調査をした結果、「ビジネスパーソンなら知っておきたい 仮想通貨の本当のところ」という書籍の執筆に至ったという。

ICBCスタンダードバンク・東京支店長の池水雄一氏

 ICBCスタンダードバンク・東京支店長を務める池水氏は、どちらかというと金融バックグラウンドではなく商社で貴金属や商品の取引をしてきたという。住友商事、三井物産、クレディ・スイス銀行を経て、現在に至るとのこと。現在の勤め先の名前にはバンクと付いているが、ゴールド・シルバー・プラチナ・パラジウムという貴金属、ベースメタルのカッパーやアルミといった取引を行っているという。元々はトレーダーであり、80年代、90年代は藤巻さんの本を読んで頑張っていたそうだ。藤巻チルドレンといっても過言ではないという。

 仮想通貨については価格が上がる前に注目し、Bitcoinがゴールドに似ていると思ったという。マイニングという言葉も出てくるし、政府のような発行体がないという面で、非常に似ているなと思ったそうだ。そこで2年ぐらい前から注目し始め、自分のデスクではゴールドとBitcoinのチャートを一緒に表示させていたが、ある時にBitcoinがゴールドを抜いて、「わー抜いちゃったよー」と盛り上がった頃があるが、今やBitcoinの相場が上がりすぎて、いつの間にかゴールドのチャートが、下方でほとんど水平線でしかないというふうに変わってしまったと話す。

 とにかく仮想通貨とゴールドは出自が似ているというのもあり、興味を持って見ているが、これだけ相場が動いてしまうと、Bitcoinの話に限るが通貨・決済手段として利用するのは難しいのではないかという印象だという。

今日はゴールド1kg持ってきました。450万円ぐらいですといいつつ、でもレプリカなので襲わないでという池水氏

仮想通貨のこれまで相場について聞く

 直居氏は、確かにゴールドも中央集権的な発行体がないなど、似ている面があると同調する。しかし、違うところもあるので、本日はそのあたりも含めて討論していきたいという。

 ちなみにモデレーターの直居氏も、仮想通貨の関わりについて披露をした。直居氏は、会社でそばに座っていた榎戸キャスターが去年ぐらいに、「使っても使っても減らない通貨がある」といっていたという。使ったそばから価格が上がるので、使っても増えていたというのだ。彼女はテレビ番組で、取材のために使ってみたのだとか。去年、いきなり相場が上がったので、そんな状況だったのだという。それで、まねをして直居氏も買ってみたのだが、それがちょうど1月くらいでそこをピークに今度はどんどん下がり始めたという。今、直居氏は家庭内で非常に立場が危ういというエピソードを披露し、会場の笑いを誘っていた。

 直居氏は、そんな仮想通貨の相場について3人に聞く。

 去年、特に日本ではBitcoin元年、仮想通貨元年といわれてヒットしたが、それには3つの理由があったと尾河氏は話す。

 1つ目は中国で仮想通貨に対する規制が入り、事実上は仮想通貨の取引ができなくなったということで、日本人の取引のシェアが大きくなったこと。2つ目は、世界に先駆けて金融庁が法の整備を行い、仮想通貨交換業者を登録制にしたということで、若干、個人投資家の間に安心感が広がり取引しやすくなったのではないかということ。

 そして3つは、去年1年間はドル・円のボラティリティ(変動率)がものすごく低かったのが原因ではないかという。まったく動かなかった。年間を通しても11円ぐらいの幅しかなかったのではないかと尾河氏はいう。これはFXをやっている人にとっては面白みがない。そういった投機的な人々がBitcoin市場を見たらものすごい動きで、それで個人のお金が一気に流れたというのが、去年の相場の変動の理由だと分析する。その後、仮想通貨は実際の法定通貨とくべるとものすごく流動性が低いということがわかり、去年の末ぐらいから下がり始めたが、それは一部の大口の取引をしている人が利益確定で売り始めて、さらに年明けにCoincheckの事件が発生し、より下がるという流れができたと見ているという。

 また、尾河氏は、仮想通貨の相場がファンダメンタル(相場を形成する基礎的事項)にそって動いていないという部分を指摘する。悪いニュースがあったり、規制が入るといった話があると、それだけで相場が一気に下がるという。

 今、藤巻氏が仮想通貨に感じていることは、金融商品のデリバティブ取引の萌芽期と同じじゃないかと思っているという。まだ流動性が少ない、すなわちマーケットがまだまだ十分ではない。藤巻氏は現役時代、デリバティブで非常に大きな利益を会社にもたらしているトップランナーだが、藤巻氏いわく、それはデリバティブを使いこなすことができたからだという。

 金融商品のデリバティブ取引が出始めた頃も、やはり仮想通貨と同様にまがいもの扱いされながら、ごく一部の人たちがやっていた状況だったという。それが徐々に発展し、いろいろな人が参入することで、今では金融界にデリバティブというものはなくてはならないものになっているという。それと同じような動きを仮想通貨もするだろうと、藤巻氏は思っているそうだ。仮想通貨も、本当に興味がある人しか参入していない状況であるといい、藤巻氏と同世代の人は特に、仮想通貨と聞くとまがいものだと思っている人が多いし、ほとんどの人は手を付けてない状況だという。

 仮想通貨にももう少し先物やオプションなどのヘッジ手段ができてくれば、機関投資家も入ってくるだろうとのことだった。機関投資家が入れば市場に安定性が増し、相場も安定し始め、そうなるといよいよ仮想通貨も決済手段として使われるのではないかという。藤巻氏は、仮想通貨の決済機能は非常に優れたものだと見ているとのこと。

 しかし池水氏は、デリバティブは派生商品であり、元々、国債であったりドル・円であったりというベースになるものがあるが、Bitcoinの場合はその価値はどこにあるのか、何によって相場が乱高下しているのか、どうして今、Bitcoinはこの値段なのか? 自分にはまったくわからないという。つまり原資産があってのデリバティブだと思うが、仮想通貨に関してはそこがわからないという。

仮想通貨の根源的価値とは

 池水氏の意見に対して直居氏は、それは為替に似ていないだろうかとさらに疑問を投げかけた。

 それに対して為替の達人である尾河氏は、為替の値動きの原因は購買力低下だっていったり、フェアバリューだっていったりする人もいるが、それらはあくまでも参考値であって、絶対的なフェアバリューていうものは、特に為替にはない。それぞれの通貨の相対的な価値でしかないので、そういうところは仮想通貨と似ているともいえるとのこと。そもそも仮想通貨の根源的価値とは何なのかということは、ずいぶんと議論はされてきたと思うと尾河氏はいう。

 たとえば、これは池水さんが専門だと思うが、ゴールドというものは採掘コストがあり、それが価格の下限だといわれていると思うが、Bitcoinも電力を使っているので採掘コストはかかっていると見ることもできると、尾河氏はいう。それが将来的な下限になっていくのではないかとのこと。

 また尾河氏は、藤巻さんがいっていた先物取引に関しては、アメリカでは仮想通貨の先物市場がすでに始まっているが、これが充実してくれば機関投資家も投資できるようになるだろうし、先物ができれば先行ヘッジも可能になるので、ここがしっかりとしてくればだんだんと流動性が増し、より安定するだろうという。こうした市場が整備されて、始めて安定していくと思うが、それにはもう少し時間がかかるだろうとのことだった。

 とにかく価値というものは、難しいという。ゴールドも太古の時代からただキラキラと輝いていただけで、それを価値があるとみんなが思い始めたから価値があるだけで、やはり主観的なものだろうと、尾河氏はいう。つまりBitcoinも同じで、人々がこれは便利だと思って、決済にどんどん使うようになったりすることや、まただいたい下限が決まってくるとか、そうやって時を経て価値自体も決まっていくのではないかという。個人的には、わりと未来はあるのではないかという感想を述べた。

 この後もトークショーは、互いの立場と視点から三者三様の意見で、大いに盛り上がった。全体的な話としては、現在の相場の根源的価値は見いだしにくいが、仮想通貨の流動性が高まり、実際に決済手段として使われるようになり、さらに機関投資家が参入するような市場に整備されることになれば、その価値は不変的なものになるだろうという印象だった。

 最後に藤巻氏は、この週末にはまた政府に対して仮想通貨における税制について、なぜ仮想通貨が雑所得なのか、改めて言及していきたいという言葉を残し、トークショーの幕は閉じた。

 なお、「Future of Money~マネーの未来を探る~」イベントレポートは、第1弾として「ロジャー・バー氏、スペシャルトークでBitcoin Cashへの思いや仮想通貨の展望を語る」を掲載しているので、そちらも併せて読んでいただきたい。

高橋ピョン太