イベントレポート

金融庁、仮想通貨デリバティブ取引は過当な投機を招く害悪を防ぐ方策が必要

ICO規制は一律での対応が困難「仮想通貨交換業等に関する研究会」第9回

 本稿では、11月12日に開催された金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第9回のイベントレポート第5弾として、「仮想通貨デリバティブ取引に係るその他の論点」について討議された会議内容を報告する。また、会議の最後に楠メンバーよりICOの現状に関する資料が提出され、前回の「ICOに関する規制のあり方」についての討議に関する補足説明および意見交換の場が設けられたので、併せて報告をする。

仮想通貨デリバティブ取引に対する規制について

金融商品取引法上の不公正取引規制の対象範囲、金融庁資料より引用

 第9回「仮想通貨交換業等に関する研究会」は、4つ目となる最後の議題として「仮想通貨デリバティブ取引に係るその他の論点」について討議を行った。

 金融商品取引法上、金融商品取引所は、公正な価格形成の実現を図るという公共性を有する場であることを踏まえ、市場の開設には免許を必要とし、免許制の下、市場取引の公正性や投資者保護等の観点から規律を働かせているという。

 仮に、仮想通貨デリバティブ取引を金融商品取引法の規制対象にし、当該市場の開設に免許を必要とする場合について考えるが、まずは仮想通貨デリバティブ取引に公共性を有する取引所市場の存在が必要かどうかについて議論が行われた。

 研究会では以前にも仮想通貨デリバティブ取引に関する議論を行っているが、第7回の研究会における討議では、仮想通貨デリバティブ取引は、社会的意義の程度と比べて、過当な投機を招くこと等の害悪の方が大きいといった厳しい意見もあった。仮想通貨に株式取引のような企業価値等に基づく本源的な価値が見いだせない中で、多くの個人の取引を誘引する恐れがあるといった懸念点が挙っている。

 仮想通貨デリバティブ取引については、害悪が資力や仮想通貨に関する知識が十分でない個人顧客におよぶことを防止する観点から方策を講じる必要性があるのではないかという。たとえば、取引開始基準の設定(最低証拠金等)や、顧客に対する注意喚起の徹底を行うほか、資力が不十分であるなど取引を行わせることが不適切である者に対する取引の制限措置などを行うことも考えられるのではないかとのこと。

 また、ここでも現物取引と同様、投資者の保護については重要であるものの、仮想通貨に関して投機的な意味合いが強く、特に仮想通貨デリバティブ取引はその傾向にあることから、必ずしも保護を中心に考えることもないのではという意見が聞かれた。金融商品取引法と同等の規制は必要ないのではないかという意見も多かった。あくまでも「自己責任」であることやそのリスクについて顧客に対して注意喚起を行っていくことの重要さが強調された。

ICOの議論に関する補足説明

 前回の討議では、ICOに対してさまざまな意見があった。たとえば、ICOは詐欺的な案件も多く健全な市場とはいえないのではないか。ICOは、本当に資金が必要な人による資金調達手段ではないのではないか。ICOを育成していくというスタンスで臨む必要はないのではないか、といったものだ。

 しかし、既存の資金調達手段にはない何かしらの可能性があるのではないかという考えが示された。たとえば、資金をグローバルに調達できる、中小企業が低コストで調達できる、流動性を生み出すなど、それなりに価値があるのではないかという意見も多く聞かれ、今の段階でICOを完全に封じてしまうのではなく、健全に発展するような枠組みが必要ではないかという議論が行われた結果、ICOを禁止するのではなく、詐欺的事案が多いこと等を踏まえ、規制を設けた上で、利用者保護や適正な取引の確保を図っていくべきという議論が行われた。

 そうした議論を踏まえて、今回は楠メンバーよりICOの現状に関する資料が提出され、前回議論を行った「ICOに関する規制のあり方」に関する補足説明が行われ、ICOに関する知見を広めるために、メンバー間にて意見交換が行われた。

日本人が関与した主なICOについて

 資料は、ICOに特化した縦割りの規制を考えるのではなく、横断的な横割りの規制を考えていく必要があるのではないかという意見のもとに作成された。ICOに対して新たな特別のルールを入れたり、用いる技術によって大きく規制を変えるのではなく、機能やリスクが同じであれば、基本的には同じ規制を課した上で、そこに生じる違いに応じてルールを調整するという方法が適当ではないかという意見から、国内におけるこれまでの主なICOについてまとめられたものである。

 ICOについて今後は、現存する規制を参考にしながら、機能やリスクに応じた規制を構築していく方向で議論していくことも必要であるという。ICOトークンの設計の自由度の高さを鑑みれば、あらゆるトークンについて、一律に対応することには困難な面もあるとのこと。それぞれのトークンの性質に応じた対応について議論していく必要があるが、そのためにもICOについては、もう少し分析が必要であるという意見も少なくなかった。

 また、投資目的の可能性が低いとされるユーティリティ型や無権利型とされるICOトークンについても、利用者保護の必要性を踏まえ、規制のあり方について議論していく必要があるのではないかという。これらのトークンの多くについては、現行の資金決済法上の「仮想通貨」に該当すると想定されることを踏まえれば、仮想通貨交換業者に対する制度的枠組みをベースとして、自主規制団体との連携も含め、必要な対応を検討していくことも今後は考えられるのではないだろうかという課題が浮き彫りになり、今回の討議はすべて終了した。

 なお、金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第9回イベントレポート第1弾「金融庁、ウォレット業者・不公正な現物取引・仮想通貨の呼称・ICOに関する規制要否を討議」では、金融庁が提案をする今回の討議すべき論点および資料について報告しているので、そちらも併せて読んでいただきたい。

高橋ピョン太