イベントレポート
三井物産は日本IBMとフィノバレーの3社共同でブロックチェーン活用の健康特化型ポイントの実証実験を開始
食品会社・自治体・薬局・病院等と組み、共通ポイントプログラムで消費者の健康をサポート
2019年2月13日 06:30
三井物産株式会社の100%出資子会社であるグルーヴァース株式会社は2月8日、日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)と株式会社フィノバレーの技術協力の基、「ウェルネス」をテーマに、ブロックチェーン技術を活用した共通ポイント事業「ウェルネス貯金」(ウェルちょ)を発表した。2月15日より3か月間、広島市を中心に実証実験を行う。
「ウェルちょ」は、健康に対する意識が高まる高齢化社会において、健康的な生活を望む消費者と、消費者のウェルネスを応援したい企業とを結ぶ架け橋となる、ウェルネス特化型のポイントシステムだ。健康志向を意識した消費者の購買行動に対してポイントを付与し、貯めたポイントをさらにウェルネスのために使用することができるというエコシステムを提供する。
「ウェルちょ」では企業が「ウェルネス応援隊」となり、ウェルネス応援隊は自社が提供する商品やサービスに「エール」というポイントを付与する。消費者は、商品を購入後に「ウェルちょ」のスマートフォンアプリを通じて「エール」を受け取り、貯めていく。貯めた「エール」は、健康診断やマッサージ、薬局など、こちらも健康に特化した「ウェルネスステーション」にて、心と体のケアに使用することができるという。
その「エール」を発行し、運営するのがグルーヴァースになる。三井物産・流通事業本部マーチャンダイジング第二部食品営業室に所属し、グルーヴァース・代表取締役社長に就任した福島大地氏は、「ウェルちょはベルマークのようなポイントシステムだ」という。商品の決済時にポイントが貯まる従来型のポイントシステムでもなければ、前払式支払い手段のプリペイドカードでもない、新しいタイプのポイントシステムであることを強調する。「ウェルちょ」対象商品を購入し、商品に貼付されたQRコードをアプリで読み取り、「エール」を加算していく。まさに、ベルマークだ。ただし「エール」は、個人を応援し、そして個人が使用できる点において、新しいシステムだという。
「ウェルちょ」のアプリは、フィノバレーが提供をする。フィノバレーは、株式会社アイリッジのフィンテック事業を子会社化した事業会社で、これまで「さるぼぼコイン」や「アクアコイン」等の電子地域通貨を筆頭に、地方活性化を目的とした電子通貨プラットフォームの企画・開発・運用を行ってきた。今回は、アプリ開発技術と電子通貨活用に関する知見を提供する。フィノバレー・プロダクト開発グループ長の渡邉大翼氏は、実証実験を通じて、「エール」と地域通貨がつながる世界も構築できたらなお良いと、将来的な展望についても語った。
また、これらのデータをブロックチェーンに記録していくという。ブロックチェーンプラットフォームについては日本IBMが提供、Hyperledger Fabricを採用するという。ちなみにフィノバレーのシステムは、ブロックチェーンを使用せずにも実現可能だが、今回は、非常に多くの企業が参加するプロジェクトになることから、ブロックチェーンを活用することが望ましいだろうとのこと。日本IBMのブロックチェーン・ソリューションズ事業部長の高田充康氏は、日本IBMが取り組むブロックチェーン関連事業においても、今回は最も大規模なプロジェクトであると述べた。
ブロックチェーンの活用についてグルーヴァースの福島氏は、これまでの三井物産のビジネスの進め方ではシステム全体がブラックボックスになってしまうし、仮にそうなるつもりはないがグルーヴァースの存在のありなしに関わらず、このポイントシステムが永遠に動き続けるという意味でもブロックチェーンは有効であると、ブロックチェーンを採用した意図を語った。
ちなみに、Hyperledger Fabricを採用した理由について福島氏は、かつて三井物産にて「ブロックチェーンとは」というセミナーを開催した際の講師が日本IBMだったという縁から、このプロジェクトを発想していったことも明かした。
実際にポイントを貯めてみた
「ウェルちょ」の実証実験については、これから広島市にて行われるが、すでにアプリについてはiOS版のみ公開中で、誰でもダウンロードすることができる。Android版については、近日中に公開される予定だという。今回の発表で、アプリの紹介と共に「ウェルちょ」対象商品についても実際にいくつか紹介されたので、「ウェルちょ」の実践篇として、どうやって「エール」を貯めるのか試してみた。
アプリについては、通常のスマホアプリとなんら変わりはない。実際には写真のような「ウェルちょ」のパンフレットも配られるとのことなので、アプリの導入は簡単だろう。ちなみにアプリのインストール時に、電話番号や電子メールアドレス、生年月日、居住地等の入力を要求されるが、自分のポイントとして「エール」を貯めることができ、「エール」を1ポイント1円で使用できることを考えれば、個人情報の提供は本人確認という意味においてもいたしかたがないところだろう。必要最小限の情報提供という印象だ。
「ウェルちょ」は、どの企業の何という商品で「エール」がもらえるのか、アプリからも分かるようになっている。
「エール」の付いた対象商品で、早速、ポイントを貯めてみたい。
ちなみに「エール」のQRコードは、商品ごとの固有のQRコードとなる。誰かが読み取ったQRコードは、その後、使用不可となる。
以上が「エール」の貯め方だ。こうして貯めた「エール」を、今度はサービスが受けられる「ウェルネスステーション」にて使用するわけだが、使用できる「ウェルネスステーション」については、これもアプリから最寄りの「ウェルネスステーション」を探すことができたり、カテゴリー別から目的の「ウェルネスステーション」を探すことができる。また使用する際は、エールを「使う」を選択して表示されるQRコードを提示するだけなので、すべてアプリのみで完結する。
年内に全国展開を目指す
2月15日からの広島市での実証実験は終了後、年内には全国展開していきたいという。現在、初期段階のウェルネス応援隊は、食品会社が17社。「エール」が使える「ウェルネスステーション」は28か所とのこと(アプリにて確認可能)。「エール」の使用用途は、あくまでもウェルネスに限定したものにしたいという。例えば、もしドラッグストアなどのような幅広い商品を取り扱う場所にて使用できるようになった場合も、「エール」で購入できる商品は、ウェルネスに関する商品に限定していくそうだ。
また、貯めた「エール」は誰かにあげることもできるという。都会で生活する若者が貯めた「エール」を、地方に住むおじいちゃんやおばあちゃんにプレゼントするということができるようになるそうだ。ただし、今回の実証実験においては、地域を限定していることもあり、この機能は使用しないとのこと。
「ウェルちょ」は、従来型のように小売店での購買データを取得するものではなく、生産者である企業と消費者を結ぶものであるという。目標会員数は、3年で1500万人。ここで収集されるビッグデータは販売促進に使うのではなく、消費者が健康に対してどんな商品に期待しているか、健康に対してどんな行動を取るのかを分析し、さらなるウェルネス商品やサービスの開発に役立てていきたいという。健康目標を第一に掲げていきながら、病院側の仕組みや法律の問題もあるが、今後は「エール」を一年に1回の健康診断等にも使えることを目標にしたいという。