イベントレポート
mijinブロックチェーン活用でリモートワーカー管理、情報漏洩の回避とセキュア状態の監視
「働き方改革」に伴う在宅雇用機会創出「第5回プライベートブロックチェーンmijin活用セミナー」
2019年2月7日 06:30
「トークンエコノミーの創造」をミッションに掲げるテックビューロホールディングス株式会社(テックビューロHD)は1月31日、「第5回プライベートブロックチェーンmijin活用セミナー」を開催した。本セミナーは、自社サービスにブロックチェーンを活用したい企業向けに、同社のプライベートブロックチェーン製品「mijin」を活用した事例を「mijin」導入企業自らが実践的な内容を解説する定期開催セミナーである。
今回は、テックビューロHDがナレッジオンデマンド株式会社と株式会社翻訳センターの3社共同で行った実証実験「ブロックチェーンを活用したリモートワーカー管理」について、実験の成果や実用化に向けた取り組みをmijin活用事例として紹介した。
セミナーは当初、3人の登壇者が以下の順番で解説を行う予定だった。
「リモートワーク管理のアーキテクチャ -セキュアクライアント実現の仕組み-」
ナレッジオンデマンド株式会社・代表取締役 宮下知起氏
「翻訳センターにおけるBC活用の意義と今後 -ユーザー検証と今後の活用-」
株式会社翻訳センター・社長付IT企画担当部長 深田順一氏
「BCのビジネス活用の現実と今後のトレンド -本実証実験の評価と未来-」
GIFTED AGENT株式会社・代表取締役の河崎純真氏
しかし、今回は登壇者のスケジュール都合により、GIFTED AGENTの河崎純真氏、翻訳センターの深田順一氏、そして最後にナレッジオンデマンドの宮下知起氏という順番の登壇となり、結果、解説の流れがブロックチェーンの今後のトレンド(結論として)、実証実験による成果、プロジェクト概要という順の解説になってしまった。そのままの流れで報告すると、若干、理解するのに難易度が上がってしまうので、本稿ではあえて当初の予定順で内容を伝えていきたい。
プロジェクトの概要
実証実験の概要を説明するのは、ナレッジオンデマンドの宮下氏。ナレッジオンデマンドは、ドキュメンテーションに関する総合的なサービスを提供する企業だ。複数拠点からの同時共同作業を可能とする同社のオンラインドキュメントシステムにブロックチェーンを応用するなど、積極的にブロックチェーン技術を取り入れていることで知られている。
本実証実験は、在宅勤務者や個人事業主などによる情報漏洩を、雇用主や発注者がリアルタイムに検知して阻止するための試みとなる。「働き方改革」でリモートワーカーが増えることを視野に入れ、非常駐で発注元の情報を扱うケースに幅広く活用できる技術の確立を目指すという。
具体的には、共同で実証実験を行っている翻訳センターが契約するフリーランスの翻訳者を対象に、パソコン利用時のアクティビティをブロックチェーン上にログとして記録していく。ログを収集することで(合意の上で)情報漏洩につながる不審行動の抑止力となることを想定している。今回は時間短縮のために、パソコンを使ったアクティビティは市販製品と組み合わせてログを取得する。実験にあたり、仕事以外の用途でのログを収集しないように工夫したという。
現状のリモートワーク管理では、雇用主や業務委託発注者がリモートワーカーの情報漏洩につながる行為を把握、または沮止することは技術的に難しく、管理体制に投資を行ってもコスト面で見合わないことも多く、実情は発注を見合わせたり、書面による宣誓書を交わし互いを信頼し合うしか方法はないとのこと。
そこで今回は、リモートワーカーのアクティビティを検知しブロックチェーン上に記録することで、迅速に不正検知ができるとともに、仕組み自体が不正行為の抑止力になるとしている。その結果、「印刷による情報の持ち出し」「外部媒体へのデータの書き出し」「第三者へのデータ送信」「ネットで情報を公開する事故」などの情報漏洩リスクを低減するとのこと。なお、取得するアクティビティに関しては業務に関係するファイルに限定し、個人情報の保護にも配慮する。
実証実験では、今回はクライアントPC上には既存のセキュリティ製品を使用したという。理由としては、市販の製品を組み合わせることで、センターサーバーにて集中管理するよりも、簡易に管理ソリューションを構築することが可能で、早く低コストで導入可能というメリットがあるとのこと。今回の仕組みを活用することで、多様な働き方に対する雇用機会を創出するとしている。また、将来、リモートワーカーの管理用とのみならず、メーカーとサプライヤー間にも応用が利くだろうと考えているそうだ。
宮下氏は、リモートワーカーの情報漏洩につながる行為やウイルス感染などはブラックボックスであると、リモートワークに関する具体的な課題を挙げた。そこで、まずリモートワーカーのPCのセキュア状態の監視と危険行為の監視をすることにしたという。セキュア状態の監視では、アンチウイルス等のソフトウェアが正しく稼働しているかどうかを監視する。危険行為の監視については、USBメモリへのファイルのコピーなど媒体によるデータの持ち出し、印刷による持ち出し、第三者へのメール、ネットに公開するといった行為を監視するとのこと。
危険行為を監視する上で、前述の個人情報の保護にも配慮する方法としては、暗号化された原稿(仕事のデータ)を復号し作業を行った場合にのみ対象とし、その原稿に対してのみアクティビティ(危険行為)を検出するという工夫をしているそうだ。ちなみにPCのログは、株式会社ライフボートの「LB アクセスログ2 Ver4.3」を使用している。
ログ収集について本プロジェクトでは現在、「ACT JOB」という製品化に向けた開発も行っているという。その理由の1つとして、市販ソフトには限界があり、たとえば印刷を監視することはできるがネットワーク経由の印刷は記録できないとか、Webアップロードの監視はできるがファイル名が記録できないなど、いくつか問題が発見できたという。「ACT JOB」では、それらについても実装をするとのこと。また「ACT JOB」は市販製品とも連携ができるため、これまでの市販アプリや社内の既存サービスとの組み合わせによる運用も可能であることが優位性であるという。
こうしてリモートワークの一連の作業はログとして収集され、ブロックチェーンへと書き込まれるという。ちなみに「ACT JOB」では、ブロックチェーンに送信される全ログの内容は、ユーザー(リモートワーカー)が「送信状況」画面から確認できるとのこと。送信される情報をユーザーが把握できることで、プライバシー心理を緩和するという。ちなみに危険行為に関してはリアルタイムで検知し、ブロックチェーンに書き込まれた段階で「送信状況」画面にて確認ができるそうだ。なんらかの理由で書き込みに失敗した場合は、一定のタイミングでリトライを行い、書き込みに成功するまで繰り返すという。
翻訳センターにおけるブロックチェーン活用の意義
翻訳センターの深田氏は、「翻訳センターにおけるBC活用の意義と今後 -ユーザー検証と今後の活用-」と題し、翻訳作業におけるブロックチェーン活用の意義について、報告をした。
国内における翻訳・通訳の市場規模は、2883億円相当だと深田氏は翻訳ビジネスを紹介する。翻訳会社は、国内に現在約2000社あるそうだ。翻訳作業については、CAT(Computer Assisted Translation:翻訳支援ツール)を使用し行われているとのこと。現在、約4200人の翻訳者(在宅ワーカー)が翻訳センターと契約しているという。ちなみに契約者の約90%がCATをダウンロードし利用しているというデータがあり、仕事の依頼、打診は電子メールにて行っているが、その稼働率は43%と低く、それが課題になっているという。
稼働率が低い理由の1つとしては、やはり翻訳者側の安全なセキュリティ環境の確保の難しさにあると深田氏はいう。たとえばここにセキュリティソリューションを導入したとすると、稼働翻訳者2000名分の初年度コストとして、1名1万円/年として見積もっても2000万円はかかってしまうという。もし、ここで安全なノートPCを貸し付けたとすると、1台6万円程度のノートPCを貸与したとしても1億2000万円といったコストが必要になることを挙げた。
そんな中で深田氏は、あるとき、ブロックチェーンでこれらを解決できないかと考えるようになったという。深田氏は、セキュリティ製品や環境を開発して翻訳者に使ってもらうのではなく、翻訳者が元々持っているセキュリティ製品が有効化されて稼働していることをブロックチェーンで証明することができればいいということを思いついたという。
今回の実証実験で市販の製品が使われているのは、こういった理由もあったとのこと。市販の製品で取得した情報をプライベートブロックチェーンであるmijinで記録していくことになった経緯は、パブリックブロックチェーンであるBitcoinでは、1ブロックの容量が1MBしかなく、承認に10分かかる、データが消せない(個人情報)などの理由から、プライベートチェーンを利用することにしたとのこと。
今回の実証実験に参加した被験者のアンケートによれば、「クライアントにセキュアな環境がアピールできて良い」「受注機会の創出につながるので良い」という感想が挙がったという。また、ログの検出・記録に関しては「情報漏洩に対する注意喚起ができて良い」などといった意見もあったという。
ただし課題としては、やはり「常に監視されていることに抵抗感がある」「仕事以外のログも取られているのではないかという不安がある」という声も少なくないようだ。これについては、さらに安心感を与えていく工夫が必要であると深田氏は述べた。
最後に深田氏は、今後はパブリックチェーンを活用することも考慮したり、また、CAT(翻訳支援ツール)を年間2000時間使用している人、プロ仕様のツールをより長く使っている人など、在宅ワーカーの能力の指針になるようなデータの抽出を行い、さらなる雇用機会を抽出するようなツールを目指したいと語った。
ブロックチェーンビジネス活用の現実と今後のトレンド
プロジェクト開発メンバーの一員として、GIFTED AGENT・代表取締役の河崎純真氏は、「BCのビジネス活用の現実と今後のトレンド -本実証実験の評価と未来-」をテーマに講演を行った。
GIFTED AGENTは普段、プログラミング・デザインに特化した発達障害者向けの就労移行支援施設を運営し、発達障害者にブロックチェーンやセキュリティに関するプログラミング技術を教えているという。ブロックチェーン関連のプログラミングを得意とする河崎氏自身は、去年、NEMの流出事件時に犯人の追跡等で協力をするといったセキュリティに関する活動にも有志として参加している。
そんな河崎氏は、今回のプロジェクトの開発を行うにあたり、mijinの導入は簡単すぎて時間が余り、余った時間で「Hyperledger Fabric」のブロックチェーンでも試してみたという強者だ。ブロックチェーンを活用したリモートワーカー管理については、いろいろと試してみるのもいいだろうと思ったという。
今回、河崎氏はそんな幅広いブロックチェーンの知見を持った立場から、ブロックチェーンの今後、トレンドについて語った。
スライドは、2017年、2018年の世界のICOによる資金調達の状況を表したものだと、河崎氏は語り出した。法律の整備の関係から国内でのICOは静かだが、世界ではICOによって2兆1717億円相当の資金調達が行われたという結果があるという。月平均で2171億円相当が集められているそうだ。
ICOでは、去年最も話題になったプロジェクトがBlock.oneの「EOS」が、4617億円の資金調達に成功したというのが話題になったという。EOSは分散型アプリケーションの開発をサポートするプラットフォームで、開発者の作業を容易にすることを目的に作られているという。
河崎氏いわく、仮想通貨の相場価格が下がり、仮想通貨は大丈夫か? ブロックチェーンは大丈夫か? という意見も多く聞くようになったが、世界的には今年の大きなトレンドとして、STO(Security Token Offering:セキュリティ・トークン・オファリング)が注目されているという。
今までの仮想通貨プロジェクトでは、通貨という目線もしくはユーティリティ機能として目的に特化したトークンを発行するという使われ方が多かった。しかしここに来て、いわゆる有価証券と呼ばれる株式であったり、不動産の証券化であったり、保険といった分野をブロックチェーンによりトークン化するという、STOが出てきている。国家的な法規制の部分とブロックチェーンが近づく傾向にあるとのこと。やはり今後は、STOによるしっかりとした形での資金調達がトレンドであろうとのこと。
最後に河崎氏は、しばらくはSTOの動向に注目していきたいと語った。今後は、STOの上場先となる取引所や、活躍中のSTOプレイヤーに焦点をあてて見ていきたいと述べ、気になるプレイヤーについて簡単に紹介し、終了した。