イベントレポート

金商業者による仮想通貨デリバティブへの参入はどこまで実現するのか?

日本国際金融システムフォーラム2019、JVCEA会長奥山氏ら登壇のパネルディスカッションより

 株式会社JTBコミュニケーションデザインは2月28日、第20回日本国際金融システムフォーラム2019を東京都内にて開催した。「金融ITの革新と金融・資本市場」をテーマに、3部の講演と2部のパネルディスカッションが行われた。会場は350名定員となるが、当日参加なども多数あり、途中から2列ほど席が追加されるという盛況ぶりだった。聴講者は主に金融機関で現職の方々となる。

 本稿では、「仮想通貨の次なるステップと金融機関~金融インフラ及びアセットの視点からの考察~」と銘打ったパネルディスカッションについてまとめる。日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)・会長の奥山泰全氏と、ビットバンク株式会社・代表取締役の廣末紀之氏、アンダーソン・毛利・友常法律事務所の河合健氏がパネリストとして登壇。司会はCMEグループの数原泉氏が務めた。

一般社団法人 日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)・会長の奥山泰全氏

 ディスカッションの冒頭では奥山氏が仮想通貨関連の自主規制の取り組みを紹介した。2018年10月24日から、仮想通貨交換所は自主規制を実施している。氏は、施行の前後で「全く世界観が異なる」として、関係各所の協力によって仮想通貨の安全性の向上を主張した。「Coincheckの事件発生当時からすると、現在の状況は変わっている。これから景色を変えていく」と述べ、利用者保護への取り組みを継続・強化していく考えを示した。

仮想通貨の法的な枠組み

アンダーソン・毛利・友常法律事務所の河合健弁護士

 続いて、現時点での法的な枠組みを金商業的視点から河合氏がまとめる。氏は法制度の始まりが2017年なので、まだ2年も経っていない状態にあると前置き、規制対象になっているのは仮想通貨の売買取引、交換取引、媒介、代理、取次ぎとし、それに関して行われる仮想通貨の保管(預かり業務)も規制対象となると述べた。

 国内での仮想通貨の取引量は、証拠金取引が80%を占めるが、ここにはレギュレーションがない。金商法上のデリバティブ取引は金融商品が条件となるが、金融商品の中に仮想通貨が含まれていないためだ。よって、現状は自主規制だけで運用している領域になると河合氏はいう。

 また、証券性のICOが金商法の枠内で証券の一類型として扱われるようになることを挙げ、仮想通貨のデリバティブを扱う上では「金商業者にとっては理解しやすい世界になる」と語る。ウォレットの管理といったサイバーセキュリティさえ押さえれば、金商業者の参入は容易であると主張した。

 金商業者の仮想通貨業界への参入による、今後の展開を河合氏は語る。「現状の仮想通貨デリバティブでは、先物取引、証拠金取引、現物取引のそれぞれで、アービトラージ(裁定取引)が効かない状態にある。そこに、スワップ取引やオプション取引などのヘッジニーズの金融商品を持ち込んで、取り扱おうという動きがある。実際、金商業者からそういった相談を受けることも少なくない」と述べ、仮想通貨業界デリバティブ取引の多様化を今後の予想とした。

 一方、奥山氏は金商業者による仮想通貨業界への参入は当面ないという意見を述べた。仮想通貨交換業を行うにあたって、制度は固まってきたが、その実態がよく見えておらず、事実としてCoincheckの事件以来新しい仮想通貨交換業者が増えていないことを論拠とする。金商業者の仮想通貨ビジネスへの参入を促すなら、規制への対応コストと得られる利益がきちんと釣り合うような、業界としてバランスの改善・発展が必要になるというのが奥山氏の主張だ。

仮想通貨交換所のハッキング対策、セキュリティ対策

ビットバンク株式会社・代表取締役の廣末紀之氏

 話題は仮想通貨交換所のハッキング対策、セキュリティの問題へと移る。実際の交換所の対応策を廣末氏が語る。司会の数原氏の「今は万全の対策を取られているのか?」と問いに廣末氏は、「万全の定義がないので断ずるのは難しいが、事実として我々は一度もハッキング被害を出していない」と答え、同社が運営する仮想通貨交換所bitbankのセキュリティに対する自信を示した。

 廣末氏は、「いかなる事態が起きようとも、お客様の財産を毀損しない体制」を追求していると語る。先日、カナダの交換所では社長が失踪した結果、顧客の資産が引き出せなくなる事件が発生していた。廣末氏は、同事件を「初歩的なミス」と評し、同社では廣末氏自身がいなくなっても交換所が運用できるようにしており、仮に同社が天災や戦災に遭っても顧客の資産を復旧できるように4重5重のバックアップを設定しているという。

 一方で、仮想通貨盗難のリスクは完全に0にはできないという。そんな中で、自主規制ルールにも盛り込まれた対策として、同社が実施している2つのルールを具体的な資産保護の取り組みとして挙げた。1つは内部犯行を阻止するためにバックアップを取りながら、顧客の資産をコールドウォレットに置くこと。もう1つは、盗難の可能性のあるホットウォレットにはお客様の資産は一切置かないことだ。業界全体でこれらを徹底することが非常に大切であると氏は主張した。

日下 弘樹