イベントレポート

次の時代へのレガシー産業生き残り戦略はデータテクノロジーの活用

社会の「非中央集権化」推進するベンチャー企業INDETAILによるブロックチェーンの取り組み

 日本オラクル株式会社(以下、オラクル)は2月20日、Oracle Cloud Daysと題して連続開催しているセミナーシリーズの1つ、「Blockchain Day」を開催した。副題は「ビジネスでの実利用にむけて、今取り組むべきこと」とされ、5人の登壇者による講演とパネルディスカッションを通じて、オラクルが提供するクラウドプラットフォームの概説、実際のエンタープライズでの導入事例、各社の取り組みなどが報告された。

 Blockchain Dayでは、オラクルの他、株式会社NTTデータ、NTTデータ先端技術株式会社、ブロックチェーンベンチャーの株式会社INDETAILから、計5名が登壇しそれぞれ講演を行った。本稿では、株式会社INDETAILの坪井大輔氏による「ブロックチェーンがもたらす、産業イノベーションの可能性」と題した講演をレポートする。

株式会社INDETAIL・代表取締役の坪井大輔氏

 5人目の登壇者として、本セミナーのトリを務めるのは株式会社INDETAIL・代表取締役の坪井大輔氏。INDETAILは、北海道に拠点を置くブロックチェーン技術開発のスタートアップ企業だ。

 INDETAILは、ブロックチェーン事業の他にビジネスソリューション事業、ゲームサービス事業を手がけてきた。ビジネスソリューション、ゲームサービスは収益化に成功しているにも関わらず、4月1日付けで両事業を売却し、ブロックチェーン事業一本に注力していくという。本講演では、「なぜ黒字化した事業を売却してまでブロックチェーンに投資するのか?」という疑問に対して、ブロックチェーンが作る未来像とベンチャー的なアプローチを坪井氏が語る。

ブロックチェーン流行のバックグラウンドを知る

 坪井氏は各所で講演を実施してきた経験から、ブロックチェーンをきちんと理解していない人がやはり多いと語る。その理由は周辺状況や発展の経緯を把握できていないことにあるという。講演の導入部では、ブロックチェーンを理解するためにIT産業の進化の流れという切り口で解説を行った。

 ITの進化の中で、ヒューマンインターフェースの進化、とりわけスマートフォンの登場は重要だと坪井氏はいう。携帯電話時代にはSNSに接続してオンラインにつなぐという形であったのに対し、スマートフォンの登場で常時オンラインが当たり前の環境となった。つまり、スマートフォンによって人間がオンラインになったのだという。

 そして、現在はスマートフォンの時代が次へと移り変わる段階にある。携帯電話の進化が止まって、数年の後にスマートフォンが登場した。そして、現在は同様にスマートフォンの進化が止まっている。次のデバイスとしてウェアラブルデバイスのようなものが考案されて、次の形を模索している段階にあるという。この新しいヒューマンインターフェースは、これまで扱えなかった概念をデータ化するものとなる。

データを取り巻く4つのテクノロジー

 ここ数年語られるバズワード「IoT」「クラウド」「ブロックチェーン」「AI」。これらはすべてデータを取り巻くもので、坪井氏はこれらをまとめて「4種の神器」と呼んだ。IoTデバイスでデータを取得し、クラウドに保存し、ブロックチェーンで管理して、AIで分析してアウトプットを行う。このデータの流れが、今後のスマートソサエティや「産業×テクノロジー」を実現する考え方のベースになるという。

 これら「4種の神器」と既存(レガシー)産業のかけ合わせが、今後の産業の発展に直結するという。坪井氏は、既存産業とテクノロジーを組み合わせた好例として、小売店からレジを取り払った「Amazon Go」やリユース業界に多大な影響を与える「メルカリ」を挙げながら、既存産業が生き残るためにテクノロジーを取り入れることの重要性を説いた。

中央集権社会への非中央集権技術の適用

 坪井氏は、既存の産業や社会は中央集権であるとし、未来に向かって非中央集権に移行していくと語る。現在はロボットを活用する企業などがある中、近い将来ではDAO(分散自律組織)という自立分散型の仕組みで管理され、AIとロボットが稼働する中、中央管理者不在で動く組織体系があるという。Bitcoinが注目されたのは、その非中央集権の仕組みが社会の進む未来を示すものと考えられたからだと坪井氏は語る。

非中央集権化する社会・組織の未来像

 Bitcoinは完全に非中央集権の仕組みであるため、現在の中央集権社会には適さないという。そこで、中央集権構造に適した仕組みとして考案されたものがプライベート型のブロックチェーンとなる。目先のビジネスとしては、プライベート型のブロックチェーンを現在の中央集権の社会構造に寄せていかに適用するかを検討するべきとした。

 一方、坪井氏自身を含むベンチャー企業の役目としては、DAOという未来を見越して、そこで活用されるサービスやテクノロジーに対して、先行して投資を行っていかなければならないとした。「ベンチャー企業として社会の非中央集権化を推し進めなければならない。そのためにブロックチェーンが適しているから、社会にその技術を発信していく」と述べ、冒頭の「なぜ黒字化した事業を売却してまでブロックチェーンに投資するのか?」という疑問への回答とした。

INDETAILの取り組み

 ここまでは思想的な話となった。以降は実際のINDETAILの取り組みを坪井氏が紹介した。なお、講演中に語られた下記事例は弊誌で過去に取り上げているので、合わせてご確認いただきたい。

富士通BSCと共同で開発するブロックチェーン技術を活用したネイルサロンの新形態

 富士通BSCと共同で、デジタルコンテンツ流通プラットフォームとして、ネイルサロンの新しい形態を提案したという。カフェなどに設置されたIoTデバイスのネイルプリンターを活用する。ブロックチェーンを活用することで、フリーのデザイナーがネイルアートのデザインを提供し、報酬を受け取ることができるプラットフォームとなる。

 ユーザー視点ではアプリ経由でデザインを選んで料金を支払えば、カフェで過ごしている間にネイルが終わるというメリットがあるという。従来のサロンでの施術に比べると、仕上がりは劣るが料金は安く、時短にもなるため、学生向けのサービスになるとのこと。

ブロックチェーン技術を活用したネイルサロンの新形態

自動車へのトレーサビリティ

 次の取り組みは、ブロックチェーンのトレーサビリティを生かして、自動車に使用されるすべての部品の個体管理を行おうというもの。車体情報に、部品の製造データ、販売データ、走行記録をひも付ける。部品から使用状況まですべてが関連付けられることで、同型モデルのリコール時対応の改善に役立つ。さらには従来追跡できなかった中古車市場までメーカーが販売車両を追跡できるようになるという。

自動車部品へのトレーサビリティ適用

スマートチェックイン

 先述した4種の神器から、IoTとAI、ブロックチェーンの3つをホテルのチェックインに適用したサービスがスマートチェックインとなる。北海道では外国人旅行者が非常に多いが、旅館側で外国語スタッフを満足に配備できておらず、需要を満たせていないという。

 この取り組みでは、IoTによる無人オペレーション、AIによる外国語対応をシステムが行う。スタッフを増員せずに外国人旅行客に対応可能になるという。さらには導入旅館が増えれば、ブロックチェーンによる顧客の信用管理も可能になる。契約を守らない顧客の情報を共有してNG処理などが行えるというのだ。

スマートチェックインの概略図

TVデバイスで構築するブロックチェーン

 最後の事例として、現在INDETAILが特許を取得して開発を進めている、TVを1つのノードとして構成するブロックチェーンを紹介した。TVデバイスには数KBの使用可能なデータ領域があるという。その極小スペースをいかに利用してデータのやり取りを実現するかが課題になると坪井氏は語る。

 TVデバイスによるブロックチェーンが実現すれば、他のIoTデバイスからなる分散環境にも応用することが可能だという。その例として、電気自動車を充電するEVスタンドを取り上げた。各所にあるEVスタンド同士をブロックチェーンでつなぐと、トークンによるマーケティング戦略ができる。これは既存のガソリンスタンドの仕組みを破壊する可能性もあると語る。

TVデバイスによるブロックチェーンの概略図

日下 弘樹