イベントレポート

仮想通貨交換業の認可制採用国が増加、シンガポールではSTとUTの線引きが明確に

「東南アジア各国の仮想通貨関連法規制」BCCC第19回金融部会レポート

 一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)は3月25日、第19回金融部会を開催した。「シンガポール/東南アジアでのICO/STO及び仮想通貨法規制の最新情報」を主題として、弁護士法人One Asiaの森和孝弁護士が登壇し、講演を行った。森氏はシンガポールで多数のICO(Initial Coin Offering)案件を対応してきたという実績を持つ。

 会の冒頭では、BCCC理事にして株式会社マネーパートナーズソリューションズ・代表取締役社長の小西啓太氏が、直近の国内法規制について簡単に解説を行った。今回の主題の一つとなるICOに関しては先日、ICOトークンが金商法の対象になるという改正案が閣議決定している。国内の法整備に対して、東南アジア各国の法規制の近況を学ぶのが今回の趣旨となる。

BCCC理事兼、株式会社マネーパートナーズソリューションズ・代表取締役社長の小西啓太氏

シンガポール/東南アジアでのICO/STO及び仮想通貨法規制の最新情報

 森氏はシンガポール担当として3年にわたって現地で弁護士として活動している。15件ほどのICO案件にアドバイザーとして関わったとのこと。セッションの前半では東南アジア各国のICO/STOの状況、仮想通貨交換業の規制状況が解説された。

弁護士法人One Asiaの森和孝弁護士

 東南アジアでは、外資の企業を呼び込んで、ビジネスがやりやすい土壌を作っていくことが仮想通貨に向き合うスタンスとなる。そのため、消費者保護の議論などは日本の方が進んでおり、東南アジア各国の法規制はおよそマネーロンダリング対策に焦点を当てたものだと森氏は言う。

 東南アジアの代表的なブロックチェーン先進国はシンガポールだ。同国は仮想通貨交換所の数と取引高、ICOの件数で世界的にも上位に位置する。投機的側面よりも、ブロックチェーンの技術的観点で国を挙げて注力しているという。同国を除いた東南アジア諸国では、タイ、インドネシアなども仮想通貨の取り組みが盛んな国に類する。

 東南アジアの仮想通貨交換業の規制は、最も厳しく事実上禁止となるのがベトナムとミャンマーの2国。森氏によると、現地の弁護士に尋ねても、これらの国では法律上の仮想通貨交換業がどのように扱われるか明確ではないという。これまでに現地の法人が刑事罰を受けた事例はないが、罰金などは発生しているようだ。

 東南アジア全体として、仮想通貨交換業をライセンス制に移行している国は数か月単位という早いペースで増加していると森氏は言う。特殊な例としてはフィリピンで、同国では経済特区内で仮想通貨やICOの取り扱いを推進しながら、国全体としては規制を強化する方針をとっている。

 フィリピンの経済特区では、仮想通貨交換業はライセンス制で、法定通貨との交換が不可などの制限はつくものの、税制面での大幅な優遇を受けられる。当初対象はCEZA(カガヤン経済特区)のみだったが、FAB(バターン自由港経済特区)をはじめとした同国内の別の経済特区でも仮想通貨推進の風潮が強まっているという。フィリピン全体としては規制強化路線にありながら、経済効果やイノベーションとの両立を狙う「賢い政策」を行っていると氏は評した。

東南アジアの仮想通貨交換業規制一覧

 森氏のまとめによると、ICOの規制も大枠的には各国の仮想通貨交換業に対する規制と同様の分類となる。シンガポールは許可不要に分類されるが、UT(ユーティリティトークン)とST(セキュリティトークン)の区分けが明確に定められる。基本的に換金の目的を持たないUTであれば当局の許可は必要ないとのこと。

東南アジア諸国のICO規制一覧

シンガポールにおける仮想通貨交換業への規制事情について

 シンガポールでは現在、証券取引業向けのAE(Approved Exchanges)とその他金融商品取扱関連業向けのRMO(Recognized Market Operators)という2種類のライセンス制度で規制が敷かれる。AEで4社、RMOで36社同国内仮想通貨交換業者に認可が与えられている。

 シンガポール金融庁は既存の規制を3層のライセンス制へと改める予定で、1月15日に新法が成立している。仮想通貨関連業務においても、新法上の3層目にあたるライセンスが必要になるとのこと。

 仮想通貨関連ビジネスに関わる規制は、シンガポールの決済サービス新法(Payment Service Bill)にある「デジタル決済トークンサービス」(Digital payment token service)にて定められる。仮想通貨交換業者は、月間の平均取引高に基づいて、基準値に応じて2種類のライセンスからいずれかを取得しなければならない。「標準決済機関ライセンス」(standard payment institution license)と「大規模決済機関ライセンス」(major payment institution licens
e)の分類は、月間の平均取引高300万SGD(日本円にして約2億4000万円相当)が基準値となる。

デジタル決済トークンサービスについて

 上述の2種類のライセンス取得にあたって、さまざまな条件が定められている。仮想通貨交換業者が法人化され、シンガポール国内に事業所を持つことに加えて、シンガポール国籍保有者または同国の永住権を持つ常任取締役が1名以上いること、当局既定の財務的経営的な条件を満たす必要があるという。また、ライセンスの取得によって同国内の金融業者と同様に毎年の会計監査が義務づけられる。

 「大規模決済機関ライセンス」に関しては規制が追加される。当局への預託金の納入、顧客からの預かり資産を担保できるだけの資産保証を銀行から受けることが義務づけられる。

 新法上では「デジタル決済トークン」という名称が用いられるが、これは仮想通貨全般を指さない。仮想通貨の中で、商品、サービス又は債務の支払いの媒体として少なくとも公衆の一部に受け入れられているものとして定義される。このデジタル決済トークンの中にICOが含まれるか否かは争点になると森氏は述べる。「公衆の一部」という表現が明確ではないため、発行直後のICOならば条件を満たさないが、認知度が高まった段階でデジタル決済トークンに分類される可能性もあるという。

 また、ブロックチェーンゲーム内の通貨に関しても規制対象となる可能性があるという。送金のために法定通貨を保持することがない限りライセンスの取得は不要と定められる。これに基づくと、ゲーム内通貨として利用・発行する限りではライセンスの取得は不要となる。しかし、その通貨の返金や換金、譲渡が可能な場合にはデジタル決済トークンに分類されるため、ライセンスの取得が必要になるということだ。既存のブロックチェーンゲームの多くが該当する可能性があるという。

決済サービス新法下でのブロックチェーンゲーム内通貨の扱い

シンガポールにおけるICO/STOの法的論点

 シンガポールにおけるICO/STOの法的論点として、「セキュリティトークン該当性」を森氏は挙げる。シンガポール金融庁(MAS)は、2017年11月にICOガイドライン(A Guide to Digital Token Offering)を策定した。発行されるデジタルトークンがSTに該当する場合は厳格な要件を満たす必要があるが、UTの場合規制は及ばない。

 セキュリティトークン該当性は、「株式該当性」「社債(債券)該当性」「集団投資スキーム該当性」「価値保管機能該当性」の4点から判断される。株式該当性は上場・配当等の有無による。社債該当性は、トークンが一定価値を持つ(ステーブルコイン)、または買取制度などで最低限の価値が保証される、あるいは換金可能な引換券としての働きを持つ場合に該当する。集団投資スキームは、収益分配の有無が挙げられる。価値補完機能(Stored Value Facility)としては、引換券としての利用や割引制度を持つことなどが基準となる。

セキュリティトークン該当性について

 トークンがSTに分類される場合、STOを資金調達手段として利用するのは難しいのが現状だと森氏は言う。STOにおいては、MASの承認、目論見書の作成、監査など、そのパブリックセール(上場)には、IPO(新規公開株式)を通じて資金調達をするのと同等のコストがかかってしまう。これらを軽減するために、MASとSGX(シンガポール証券取引所)が共同でSTOプラットフォームを提供する可能性も示唆されている。

 こういった背景から、これまでシンガポール国内で実施された多くのSTOは少数私募(Private placement)による資金調達であるという。少数私募では、機関投資家や認定投資家からの出資は49人までに制限され、分割譲渡の禁止や譲渡制限が生じるが、ICOのプライベートセール手続きに加えて、IM(インフォメーション・メモランダム)の作成のみで資金調達を行うことができるとのこと。

まとめ

 ICOの実施コスト自体は下がったものの、投資家のトレンドの移行や仮想通貨の市場価格から影響を受けるなど、全体としてはSTによる資金調達へ移る傾向にある。しかし、STOの最大のハードルとして、販売対象地域のすべての国の証券法上の規制をクリアする必要がある。このため、現状ではIPO以上の手間と資金が必要となる可能性もあり、有効な資金調達手段とは言えない状況にある。

STOへの移行について

 各国がSTに関する法規制と環境整備を進める中、STOの国際的枠組みを模索する流れも生まれつつあると森氏は言う。各国に共通する規制があれば、それを満たす限り複数の地域で合法的に資金調達を行うことが可能となる。一方で、中国などSTOの禁止を表明する国もあるため、共通規制の実現は各国の規制策定が進んだ将来の話になるとした。

日下 弘樹