イベントレポート

ビットコイントレードにおける重要な指標は採掘原価。その理由をエキスパートが解説

トレード学習サイト講師の佐々木徹氏が「ビットコイナー反省会」で投資を語る

(Image: Shutterstock.com)

仮想通貨(暗号資産)やブロックチェーンに関する情報を配信するYouTube動画チャンネル「ビットコイナー反省会」は9月13日、仮想通貨・先物・為替などトレードが学べるサイト「ココスタ」運営責任者であり講師でもある佐々木徹氏を招き、「ビットコインとアルトコインの市場の今と今後を考える with Cocosta佐々木さん」を放送した。

2度目の登場となる佐々木氏は、前回放送したBitcoin(ビットコイン)トレードの基本の話よりさらに踏み込んだトレード方法と最近の市場動向についてまとめた。今回はアルトコイントレードや、投資において知っておくべき指標・中長期トレンドなどを取り上げる。トレードや市場について議論を行う、同チャンネルでは珍しい放送回となった。

番組の司会進行は、「ビットコイナー反省会」のパーソナリティー東晃慈氏が務める。今回は、Zoomによるビデオ会議形式の二元中継配信となった。

【ビットコイナー反省会】
ビットコインとアルトコインの市場の今と今後を考える with Cocosta佐々木さん

Bitcoin価格と採掘原価

佐々木氏は、最初にトレードにおける重要な指標として「採掘原価」を挙げた。

Bitcoinはおよそ10分間に1回ブロックを生成し、その際に毎回12.5BTCの新しいBitcoinが採掘され、マイナーにマイニング報酬として支払われる。1日にすると1800BTCほどのBitcoinが誕生するが、この生み出されたBitcoinはすぐに市場にて売られていくものだという。なぜならば、マイナーは採掘にかかった電気代やコンピューター代など経費を支払わなければならないため、報酬を法定通貨に換える必要があるというのが理由の1つだ。そのため、採掘原価がわかると、Bitcoin相場価格のサポートラインが見えてくるという。

採掘原価は非常にパワフルな指標だと、佐々木氏は明言をする。

例えば投機目的では、売買するトレーダーが決めたポジションは、中長期的に見たときにはたいした影響力ではないという。なぜならば買いを入れた人は、まったく同じ額を売らないと市場から出ることができないから。逆に空売りをした人は、どこかで買い戻さないといけない。投機においては、一方通行のポジションがない。トレーダーが作ったポジションは、必ず将来の反対売買の種になっていることを、たいした影響力がないことの理由に挙げた。

しかし採掘原価に関する取引は、一方通行なのだ。マイナーは、電気代やハードウェア代、家賃、人件費等々の採掘にかかった経費を支払うために報酬の1800BTCを法定通貨に換えたあとは、利益が確定しても、その後に再びBitcoinを買い戻すようなことはない。つまり、採掘による取引で売られたBitcoinは長期的な売り圧力であり、売り切りとなる。誰かが意図的に買い戻さない限り、相場の値を戻さないデフレ圧力の最たるものになるため、投機ポジションよりもはるかに大事な指標だと佐々木氏は語る。

写真は、佐々木氏がDMMオンラインサロン「ビットコイン研究所」に寄稿したレポートから、採掘原価に関するデータの一部を貼り付けたもの。

ここで佐々木氏が示した採掘原価は自分で計算をしたものだが、あくまでも基準の1つだという。採掘原価は、企業努力によりこの半額で採掘ができる企業もあれば、倍以上のコストがかかっても将来性を考えて採掘を行っている企業もあるだろうという。採掘原価は企業や人によって違うということは大前提だが、しかし、市場がどの辺りのラインで取引における合意をしているのか、過去の取引を参考にしながら計算で導き出した採掘原価を照らし合わせることで、だいたいのアタリを付けることができるのだという。

データは9月2日に投稿したもので、そのときのマイナーの損益ラインは9500ドル(Bitcoin価格)ぐらいだったという。しかし、その日の前後にマイニング難易度(Difficulty)の調整が入り、採掘の難易度が上がったため(採掘原価も上がる)、Bitcoin価格も9930ドルまで上昇したという。それを見ていると、やはり採掘原価を基準にして取引価格の決定をしている人も多いのではないかと佐々木氏は語る。

マイナーの視点からすると、Bitcoinの相場価格が下がってしまうと、採掘コストのほうが上回ってしまうため、そうなるとBitcoinのマイニングを辞めてしまうだろうと東氏は補足した。

Bitcoinに影響のあるスケジュール

佐々木氏は、Bitcoinの相場に関して、Twitterのタイムラインに流れてくる情報が、相場価格が最大のピークを迎えた2017年頃と今とでは大きく変わっていることを指摘する。2年ほど前は、「○○という仮想通貨が××で採用になった」「有名人の○○がテレビや雑誌で仮想通貨を紹介していた」といった情報が錯綜していたが、最近はECB(欧州中央銀行)やFRB(米連邦準備制度理事会)、日銀等の金利やイールドカーブ(利回り曲線)がどうこうといった、証券や先物、為替取引などで利用される情報と同様なツイートが多く流れてくるようになったという。

実際に9月12日にECBが利下げや量的緩和の再開など包括的な追加金融緩和策の導入を決定した段階で、Bitcoinの相場も上昇し始めたと佐々木氏はいう。その後、ECBの緩和を受けて、FRBは9月18日に、さらに日銀がその直後に会合を行うなど、世間では金融政策の緩和が加速する流れが見られたが、そういった緩和がBitcoinの相場に影響することがなきにしもあらずで、法定通貨の値下げ(あるいは値上げ)速度を決める会合のスケジュールは、今後も注視しておいたほうが良いだろうという。これらの情報は、Bitcoinの価格が必ずしも上がるということではなく、もちろん下がることもあるが、このタイミングでなんらかの動きがあると見ることができると、佐々木氏は語る。

Bitcoinとアルトコイン「注目すべき材料と指標」

続いて番組パーソナリティーの東氏が、自身の視点によるBitcoinとアルトコインの注目すべき材料と指標について解説をする。ちなみに東氏は、実際にトレードは行っていないが、東氏は、ちまたで言われている「仮想通貨○○って良い」「悪い」という意見について違和感をいだくことが多く、「それって本当なの?」という観点から、いろいろなデータを参照し、指標を参考にするようになったという。

Bitcoinとゴールドの希少性の比較

東氏が最初に紹介するのは、「Bitcoinとゴールドの希少性の比較とモデル化」という、海外の資料について。Bitcoinとゴールドは「Stock to Flow Ratio」を求めると面白いものが見えてくるという。

「Stock」というのは、常に存在するもの(量)を意味する。市場に存在するBitcoinやゴールド、シルバー等々、それ以外のものも含めてすでにどれぐらい流通しているかを示す。また、「Flow」は毎年どれぐらい新規に生成(採掘)されているかを示す。その2つの数字の比率から求めたものが、ここでのStock to Flow Ratio(ストック対フロー比)になる。

図は、ゴールド(黄色の点)やシルバー(グレーの点)は毎年生成される量が少ないため、希少性は高まり、その希少性からマーケットバリューも高くなるということを表している。シルバーよりもゴールドのほうが生成される量が少ないので、価値もゴールドのほうが高いことが見てとれる。

Bitcoinの価値の源泉は、デジタルゴールドのようなもの、ストアバリューだと言われることがあるが、その根拠の1つとしてBitcoinのStock to Flow Ratioを求めると、それがわかるという。

ちなみに図では緑色の点がBitcoinを表している。Bitcoinは、市場に流通している量や毎年生成される量が確実に把握できるため、ゴールドやシルバーよりも正確に計算をすることが可能だ。

Stock to Flow Ratioの図からは、面白いことにBitcoinの希少性と価値がどのように変化してきたか、その経過が見てとれ、それがゴールドやシルバーと同じような動きをしてきたことがわかる。希少性が高いことでマーケットバリューが上がるものは、図のように直線上に並んでいくが、Bitcoinの動きもそれに合致している。

Bitcoinが市場の流通量の増加と共に希少性が高まるのは、Bitcoinは半減期により、徐々に生成される量が減ることから(採掘原価の上昇も意味をする)Flowも少なくなり、希少価値が高まるのだという。そう考えると、これはあくまでも仮説だがBitcoinの価値は今後も上がることを意味しており、現在のBitcoinのStock to Flow Ratioはシルバーと同程度だが、今後はゴールドに並び、その後は超えていくことも推測できるとした。

ちなみにこれはゴールドとの因果関係を表すものではないので、偶然合致した可能性もあるし、ほかの要因があるかもしれないが、結果として同様の動きをしていると東氏は語る。

Google検索トレンドから見えること

図は、過去3年の日本におけるGoogle検索トレンドをグラフ化したもの。

青色の線が「Bitcoin」を表し、黄色は「仮想通貨」、緑色と赤色は「ブロックチェーン」と「Ethereum(イーサリアム)」とのこと。頂点に達しているあたりが、Bitcoinの価格がピークを迎えた2017年後半だという。

特筆すべきは、一時期は仮想通貨のほうがBitcoinを上回っており、しばらくそれが続いたことが見てとれることだ。日本においては、一般的なワードとしては仮想通貨やBitcoinが強く、ブロックチェーンやEthereumについてはそれほどでもないことがわかる。また、後半になって再びBitcoinが仮想通貨を上回ったのは、Bitcoinの価格を検索する人が多くなったのではないかと推測をする。

Ethereumのグラフの変化は少ないものの、やはり2017年にピークを迎えている。これは「ICO」というワードの変化に類似しているという。アルトコインバブルは、ICOの存在が大きかったと予想される。今後、アルトコインが注目されるには、ICOクラスの大きなトレンドが必要なのではないかと東氏はいう。

この傾向は、韓国も似ており、韓国では一時的にEthereumの人気は日本よりも高く、検索ワードの上位にきたこともあったが、おおむね傾向は日本と同様の結果だそうだ。

しかし、日本と韓国以外の国では、仮想通貨(暗号通貨)にあたる「Cryptocurrency」といった検索ワードやその他のワードはさほど目立たず、トレンドはほぼBitcoin一択だという。仮想通貨というワードの人気が高いのは、日本と韓国のみという結果だそうだ。

Tetherと中国の関係性、EthereumのGas Feeについて

ステーブルコインTether(テザー)は、一部の人たちの間で「市場の価格操作に使われている」「Tetherが大量に発行された直後に仮想通貨の価格が上がる」という噂がささやかれていることから、Tetherをウォッチしている人も少なくないという。Tetherは、実際には中国の影響が強く、中国人が購入し、利用していると見られている。

グラフは、Tetherをオンチェーンで受け取った地域(取引所)を、四半期ごとにまとめたものだ。赤が米国、グレーがグローバル(その他)、黒が中国を表しているが、中国での取引が年々増え始め、2019年に入ってからは半数以上を中国が占めるようになったことを明確に表している。これは、Tetherと他のアルトコイン間で取引ができる仮想通貨交換所の登場により、仮想通貨の取引が禁止されている中国で、中国人がTetherを購入しアルトコイン間の取引に利用しているのではないかと見られているとのこと。それまでの中国は、裏では日本や韓国を経由し取引を行うという流れがあったようだが、Tetherが購入できるようになり、その流れが一気にTetherに来たようだ。

また、この数か月、Ethereumはトランザクションおよび総GAS量(手数料)の最高値を更新し続けているが、その背景にはEthereum上で発行されるTetherが関係しているという。Ethereumのトランザクションや総GAS量が上がり始めたタイミングが、まさにTetherに対応した時期と一致しているのだとか。

現に、Tetherの利用はEthereumに移っていることが観測されており、現時点で、Tetherだけで1日2万トランザクション程度の利用があるとのこと。これは、今後さらに増えると見られており、それはEthereumにとって良い面と悪い面もあるようだ。

良い面は、Tetherの移動によりEthereumの実需が生まれることだが、それによってEthereumの手数料は高騰し、またネットワークへの負荷がさらに上昇するといった悪い面が際立ってくることだ。そういった懸念もあると東氏は語る。

また、中国人民元と連動(ペッグ)するTetherの対応などから、今後のアルトコインの命運は中国が握っているのではないかという東氏の意見は、興味深い。逆に新規に発行されるアルトコインについては、将来、日本や韓国では難しいのではないかという推論もまた必聴だ。このあたりは直接、配信にてその内容を確かめていただきたい。

最後に

今回の放送は、Bitcoinトレードの基本、Bitcoinとアルトコインの「注目すべき材料と指標」についての解説に始まり、気がつけば仮想通貨の現状を理解することができた。そこから、アルトコインのターンは本当に来るのかも見えたのではないだろうか。仮想通貨のトレードに興味のあるなしに関わらず、知っておくべき内容だった。今回もぜひ直接ビットコイナー反省会の配信を視聴していただきたい。

高橋ピョン太