イベントレポート

仮想通貨の会計・監査の実務指針は2020年半ばまでに2回の改正を予定

ICO、STOの扱いでは不透明感が残る=BCCCブロックチェーン羅針盤

日本は世界に先駆けて仮想通貨に関する会計処理の基準と、ブロックチェーン上の記録を利用する監査の実務指針を定めた。その一方で、不透明感が残る状況も続いている。2019年10月から2020年4月頃までの半年弱で、実務指針の改正が2回も予定されている。また、ICO(新規仮想通貨発行)やSTO(セキュリティトークン発行)に対するルールについては、設定主体も時期も不明なままだ。

以上は、2019年10月25日にブロックチェーン推進協会(BCCC)が主催するイベント「BCCCブロックチェーン羅針盤」内で行われた鈴木智佳子氏(BCCC監事、PwCあらた有限責任監査法人・パートナー公認会計士、PwC Japanフィンテック&イノベーション室・室長)の講演「日本における仮想通貨・暗号資産の会計及びブロックチェーンの監査」の一部である。なお「不透明感」という表現は筆者の意見で、講演で使われた言葉ではない。

PwCあらた有限責任監査法人・パートナー公認会計士、PwC Japanフィンテック&イノベーション室・室長の鈴木智佳子氏

現行の実務指針、ブロックチェーン監査や時価評価の基準を説明

講演は、仮想通貨の会計とブロックチェーンに関する監査という大きなテーマに沿い、資金決済法と金融商品取引法(金商法)のそれぞれに関連して、適用される実務指針の詳細を説明する形で進んだ。各実務指針が適用されるのは、主に仮想通貨交換業者である。ただし、仮想通貨を保有する企業が財務諸表を作成するとき、そして監査を受けるときにも同じ実務指針が適用される。その意味では潜在的には多くの企業が影響を受ける実務指針といえる。

現行の仮想通貨分野の会計・監査に関連する実務指針は以下の3点である。

  1. 日本公認会計士協会が2017年5月に公表した「仮想通貨交換業者における利用者財産の分別管理に係る合意された手続業務に関する実務指針(No.55)」(参考資料
  2. 日本公認会計士協会が2018年6月に公表した「仮想通貨交換業者の財務諸表監査に関する実務指針(No.61)」(参考資料
  3. 企業会計基準委員会(ASBJ)が2018年3月に公表した「ASBJ実務対応報告(No.38) 資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(参考資料

いずれも、2017年4月に仮想通貨について定めた資金決済法が施行されるのに対応して、公表された実務指針である。仮想通貨交換業者は、顧客から預かった資産を分別管理し、監査を受けなければならないと法令で定められた。これを受けて、会計処理と監査のための実務指針が急ぎ整備された。

ここで、ブロックチェーンに関心がある立場から見て興味深いのは、上記2.の財務諸表監査の実務指針に、仮想通貨の背後にあるパブリック型ブロックチェーン上の記録を、「企業の外部に記録された証拠」として、監査のために活用する考え方が盛り込まれていることである。

仮想通貨の移動など取引は、多くの場合、パブリック型ブロックチェーン上に記録されている。そこで、監査では、ブロックチェーン上の記録を「仮想通貨交換業者の外部で作成される情報」として利用する。言い換えると、仮想通貨交換業者の社内システムや帳簿上の記録ではなく、外部にあるパブリック型ブロックチェーン上の記録を証拠として使うことを明記している。

ただし、ブロックチェーンだから無条件に内容を信頼できるとは限らない。実務指針には、ブロックチェーン上の記録の信頼性についてはその都度、注意を払うべきであることも記されている。

鈴木氏は、「一般的に考慮すべき監査観点」として、鍵管理や暗号化技術の安全性、コンセンサスプロトコルへの攻撃、スマートコントラクトの不具合や攻撃、ガバナンス設計の不備により資産が失われる可能性などを挙げた。ブロックチェーン上の記録を監査の証拠として使うということは、このようなブロックチェーン上の記録に対するリスクコントロールが必要となると鈴木氏は指摘した。

ブロックチェーンに関する監査で考慮すべきポイント

上記3.の会計処理の実務指針は、仮想通貨交換業者だけでなく、仮想通貨を保有、売買する企業に対しても適用する。講演で強調したポイントは、財務諸表に記載する仮想通貨の評価の基準である。

仮想通貨の会計処理については、「現金、金融資産、棚卸資産、無形固定資産のいずれにも該当しないことから、まったく新たな会計基準が作られた」(鈴木氏)。基本的な考え方として、資金決済法が定める仮想通貨を対象とする。仮想通貨に該当しないトークン(例えば支払いに使えないNFT:ノンファンジブルトークンなど)を資産計上する場合には、どのように既存の会計基準に当てはめるかを個別に判断する必要がある。

財務諸表では、「期末日に保有する仮想通貨、預かり仮想通貨の注記」を作成する。このさい、仮想通貨の評価額を決め、損益も計算しなければならない。「活発な市場の有無」によって評価額を決める方法が変わる。活発な市場が存在する場合には、保有する仮想通貨は時価評価とする。一方、活発な市場が存在しない場合には取得原価で評価する(ただし期末時点に価格が下がっていると判断される場合には、減価した価格で計上する)。「活発な市場が存在する」とは、継続的に価格情報が提供される程度に十分な取引が行われている場合とされている。

財務諸表では仮想通貨の評価額を注記する

実務指針は半年弱で2回の改正を予定。ICO、STOの実務指針は不透明

ただし、これらのルールは今後短いサイクルで改定が相次ぐ予定だ。トリガーとなるのは、(i)現行の資金決済法(2017年4月施行)の事務ガイドラインが2019年9月に改正されたこと。(ii)2020年4月から施行される予定の改正資金決済法(仮想通貨から暗号資産への名称変更などを織り込んでいる)が施行されることである。

これに合わせ、上記1.と2.の監査に関する2つの実務指針については、2019年10月(つまり本講演直後)と、2020年4月以降の2回の改正が予定されている。短い期間に実務指針が頻繁に変わることになる。

会計監査の実務指針は今後半年弱で2回の改訂を予定

また、上記3.の会計処理の実務指針については、日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)が経理ガイダンスを制定する予定だが、その時期は未定だ。ICOに関する会計基準については、設定主体も公表時期も未定の段階である。

鈴木氏は金融商品取引法(金商法)の改正で定められる「電子記録移転権利」(STOで発行するセキュリティトークン)に関しても説明した。「セキュリティトークンに関する自主規制団体の候補としては、JVCEA、日本証券業協会、あるいは先般設立された日本STO協会のどれかになるのではないか。だが、現段階ではまだ不明だ」(鈴木氏)。

金融商品取引法で定めるセキュリティトークンの会計監査の実務指針は設定主体も時期も未定

なお、講演では詳しく触れなかったが日本STO協会は2019年10月に設立されたばかりの団体である。設立の目的として「自主規制機関の機能を発揮していくことを予定」としている(参考資料)。仮想通貨に関する自主規制では、自主規制団体を目指す団体が複数あり一本化して認定されるまでには時間がかかった。セキュリティトークン分野では、二の轍を踏まないよう期待したいところだ。

星 暁雄

フリーランスITジャーナリスト。最近はブロックチェーン技術と暗号通貨/仮想通貨分野に物書きとして関心を持つ。書いてきた分野はUNIX、半導体、オブジェクト指向言語、Javaテクノロジー、エンタープライズシステム、Android、クラウドサービスなど。イノベーティブなテクノロジーの取材が好物。