ブックに学ぶ:『実践ブロックチェーン・ビジネス』

【第3回】仮想通貨ビジネスのプレイヤーたち

[著者:株式会社ブロックチェーンハブ 監修:増田 一之]

ブロックチェーンは仮想通貨の取引に限らず、為替や決済等の金融分野への応用、AIやIoTと結び付いてさまざまな産業や政府での活用が始まっています。

そういった事例を解説する書籍『新事業企画・起業のための実践ブロックチェーン・ビジネス』(日本能率協会マネジメントセンター刊)からの抜粋を、全7回に分けて記事として紹介していきます。データ類は基本的に書籍刊行時(2018年4月)のもので、書籍の脚注は省略いたします。

なお、市販書籍からの抜粋のため、仮想通貨 Watch編集部の見解とは異なる場合があります。

第3章[1] 仮想通貨のプレイヤーたち

市場拡大により登場したプレイヤー

 仮想通貨ビジネスの登場は、2009年のビットコインでした。当初はさして注目されていなかったため、その価格は2013年まで低位で推移していたのですが、その年末にかけて急進しました。資産をビットコインに逃がす動きがあったと思われます。

 しかし、2014年2月にビットコインの交換所であるマウントゴックスの閉鎖もあり、価格は下降していきました。マウントゴックス事件が落ち着いてからは横這いで推移しましたが、2017年に入り急激な上昇カーブに移行しました。

 こうした市場拡大の波に乗り、仮想通貨を取り巻く様々なプレイヤーが登場してきています。

 ここでは、ビットコインをはじめとする仮想通貨のエコシステムを形作っているプレイヤーについて概観してみましょう。主要プレイヤーは次のとおりです。

▽マイナー(ブロックチェーンのブロックの検証を行うマイニングにより、報酬を得る)
▽交換所等(仮想通貨の仲介手数料と、独自に調達した仮想通貨の売買による差益が主な収入源)
▽ウォレットサービス(仮想通貨を保管する財布「ウォレット」の役割を果たす事業者。仮想通貨の送金手数料が主な収入源)
▽インフラツール提供会社
▽ペイメントプロセッサー(オンライン決済サービス事業者)
▽入出金など各種金融サービス
▽これらのサービスを複数有する事業者

 こうした事業者のほかに、ビットコインコア開発者、業界団体、ベンチャーキャピタル、法律・会計・税務の専門家、教育機関、研究機関、学術研究者など様々なプレイヤーが取り巻き、マーケットを急速に拡大させています。

 それでは、各プレイヤーについて詳しく見ていくことにしましょう。

マイナー

 マイナーは、ブロックを生成するためにマイニングを行う事業者です。多数のコンピューターを設置し、大量の電力を投入してプルーフオブワークを行い、マイニングを勝ち抜くことによってブロックを生成し、マイニング報酬や取引手数料を得ることが彼らのビジネスモデルです。

 代表的なプレイヤーとして、ビットメイン(Bitmain)が挙げられます。この業界では有力企業として知られ、アントプール(AntPool)、BTCドットコム(BTC.com)というふたつのマイニングプール(マイニングを組織的に行う運営者)を運営しています。

 2017年9月に東京オフィスを開設したオランダ企業ビットフューリー(Bitfury)も同様の大手として知られる会社です。

 国内企業では、GMOインターネットグループ、DMM、SBIグループがマイニング事業に参入することを2017年に発表しました。

取引所・販売所・交換所

 取引所は、仮想通貨の売買を仲介する事業者です。

 販売所は、仮想通貨を販売する事業者です。

 交換所は、取引所と販売所の機能を有する事業者であり、金融庁登録を受けた事業者が仮想通貨交換業者となります。

 有力交換所の筆頭が中国・香港のビットフィネックス(BITFINEX)です。同じく、有力交換所のバイナンス(Binance)は香港からマルタ島への移転を2018年3月に発表しました。日本企業では、ビットフライヤー(bitFlyer)が最大手といえます。

 日本では2017年4月の改正資金決済法施行に伴い、仮想通貨交換業については内閣総理大臣への登録が必要となりました。

 これにより仮想通貨交換業は、「仮想通貨の売買、又は、他の仮想通貨との交換、あるいは、これらの行為の媒介、取次ぎ、代理、又は、これらに関して利用者の金銭、又は仮想通貨の管理をする業者」と定義づけられました。

 そして、仮想通貨交換業として登録するためには次の要件を満たさなければなりません。

①株式会社、又は外国仮想通貨交換業者。ただし、国内に営業所を有する
②財産的要件として資本金の額が1千万円以上
③純資産の額がマイナスではないこと
④仮想通貨交換業適正、且つ、確実に遂行する体制整備があること
⑤仮想通貨に関わる規定を順守するために必要な体制整備があること

 特に、④と⑤の体制整備に関する条件が現実的には厳しいものとなっています。体制整備を証明する書類を用意し、その体制を確実に遂行することが厳格に求められるため、人的および金銭的リソースが十分準備できなければならないからです。

 図3-1は2018年3月現在、金融庁に登録されている企業群です。

 交換所にコインを保管するときは、ハッキング被害が発生する可能性に注意が必要です。例えば、香港の交換所であるビットフィネックスがハッキング被害を受けたのは2016年8月3日でした。約12万BTC、日本円にして72億円相当の被害となりました。このニュースを受けて、ビットコイン価格は600ドル前後から一時500ドル割れに急落しました。同社では顧客への対応として、損失補填として自前のBFXコインを発行して補償を行いました。BFXコインは1ドル=1BFXで発行し、まずは損失をドル建てで換算し、ユーザー資産に充当したのでした。BFXコインは2カ月ごとにビットフィネックスの収益から配当が出る債権的な機能を持つトークン(ブロックチェーン上で発行した独自コイン)で、市場でも取引可能です。

 このケースに代表されるように、仮想通貨交換所のハッキングは頻繁に起こっており、これまで英国ビットスタンプ(Bitstamp)、香港ゲートコイン(Gatecoin)、スイス・シェイプシフト(Shapeshift)などがハッキングの被害を受けています。特に2017年、韓国のユービット(Youbit)はハッキングにより、経営破綻に追い込まれました。

 また、日本では2018年1月、コインチェックがネムのハッキングで463億円の被害を受けました。

 なお、仮想通貨交換所によって、取引価格が異なることにも注意が必要です。取引量が少なく、流動性の低い市場もあれば、取引価格が国により違うということもあります。例えば、2017年12月時点では、欧米に比べて日本のビットコイン価格が高く、それ以上に韓国のほうが高い状況が発生しています。2018年3月時点では、欧米に比べ、日本のビットコイン価格は低くなっています。国によりニーズや事情が異なるためです。

 価格が違えば、価格の差を狙うアービトラージのチャンスがあるということになります。ただし、国際間でのアービトラージには送金の問題があるうえ、個別交換所のハッキングリスクが、経営破綻に繋がるリスクもあります。

ウォレットサービス

 ウォレットとは、顧客の仮想通貨を保管する事業者や機能のことです。そのサービス提供を行うのが、ウォレットサービス事業者です。

 ウォレットサービスを行う事業者は、多数存在しています。

 2013年に香港で創業のザポ(XAPO)はビットコインウォレットのほか、デビットカードをはじめ種々のサービスを提供しています。元アメリカ財務省長官ローレンス・サマーズ氏がアドバイザーを務めています。

 ザポ以外では、ブロックチェーンインフォ(Blockchain.info)やブレッドウォレット(breadwallet)が有名です。

 また、ウォレットにはいくつかの種類があります。まず、交換所内にそのまま保管するケースです。ただし、前述のようにこれにはハッキングリスクがつきまといます。

 一般的に利用されているのが、アプリを自分のPCやスマートフォンにダウンロードして使うソフトウェアウォレットです。これ以外では、USBメモリーに似た形状のハードウェアウォレット、秘密鍵を紙に印刷して保管するペーパーウォレットもあります。

ペイメントプロセッサー

 ペイメントプロセッサーは、従来からあるクレジット会社のように、決済サービスを行う事業者です。決済時に自動的にビットコインを円に換金します。

 日本国内ではビットフライヤーが、家電量販店ビックカメラ全店にサービス提供を行っています。ビックカメラは売上を日本円で受領することで、ビットコインの価格変動リスクを回避しています。導入も手軽で、手数料はクレジットカードよりも安いことにも特徴があります。

 グローバルでは、ビットペイ(BitPay)とコインベース(Coinbase)の米国の2社がほとんどのシェアを占めています。

金融サービス

 金融サービスは入金、送金、出金を代行する事業者です。

 ジェム(Gem)はジェムオーエス(GemOS)というプラットフォームを提供しています。ジェムネットワーク、ジェムデータ、IDとしてジェムID、ビジネスロジックとしてジェムロジック、アプリケーションとしてジェムアップス、といった多様なサービスをイーサリアムやハイパーレジャーのブロックチェーン上で提供しています。

 2014年に米国カリフォルニア州マウンテンビューで創業されたアブラ(Abra)はモバイル送金サービスの事業者です。ブロックチェーン技術により、送金ネットワークを構築し、このサービスを利用すれば、金融機関を介さずともスマホで現金の送金が可能です。送金チャネルは、ビットコイン、銀行、そして「テラー」の3系統で行えます。「テラー」とは「銀行窓口」のことですが、アブラではATM代わりになる人をテラーとして契約し、このテラーを通じて送金者は現金を送ります。それゆえ、テラーは「人間ATM」とも呼ばれています。スマホに入れたアプリで自分の近くにいるテラーを探し、そのテラー経由で入金または出金を行います。

インフラツール提供会社

 2013年創業で、米国カリフォルニア州パロアルトに本社があるビットゴー(BitGo)は「マルチシグネチャー」のビットコインウォレットを提供しています。マルチシグネチャーとは、複数人の合意がなければ送金ができないシステムのことであり、売買の仲介決済であるエスクロー的にも使うことができます。ビットコインやその他のブロックチェーン活用サービスのセキュリティプラットフォームAPIも提供しています。

 コル(Colu)はイスラエル・テルアビブにある会社で、カラードコインを提供している会社です。

 2012年創業で米国サンフランシスコに本社があるコインベース(Coinbase)は、ペイメントプロセッサーの大手として知られますが、交換所をはじめ仮想通貨周りの様々な事業を複合的に行っています。

 2013年に米国ボストンで創業したサークル(circle)は、オープンソースのグローバル決済プラットフォーム「スパーク」を提供しています。これは、既存の金融インフラとビットコインや他のブロックチェーンを繋げて、これからの金融システムの利便性向上を図る野心的な企業です。創業当初はビットコインの売買も行っていましたが、国際決済サービスに重点化するため、ビットコインの売買事業を停止しました。

 その他複合事業会社として、2017年にトエンティワン(21 Inc.)からブランド変更したアーン・ドットコム(Earn.com)があります。本社は米国サンフランシスコです。ブランド変更は、ソーシャルメディアやEメールアドレスを使ったマネタイズサービスに特化するためでした。そのサービスとは、Eメールなどの回答に金銭的インセンティブを付与するというものです。例えば、1ドルの金銭的インセンティブを付与すると24時間以内の返信率は30%超に上がり、10ドルでは70%超に上がる、インセンティブが何もないと1.7%程度だというデータを踏まえたサービスを開発しています。

第3章[2] 仮想通貨を取り巻く政策課題

 仮想通貨を取り巻く政策課題の論点は、主に4つに整理されます。

 第1が、資金洗浄とテロ資金供与対策です。2013年10月に米国FBIに摘発された闇サイト「シルクロード」では、麻薬や銃器などの違法取引が行われていました。その決済手段に利用されたのが、ビットコインでした。こうしたケースが発生したこともあり、ビットコインが資金洗浄やテロ資金として利用されるリスクがあるのではないかと懸念されています。ビットコインをはじめとする仮想通貨は、こうしたリスクによりその規制のあり方が議論されています。

 第2が、利用者保護の問題です。2014年2月のマウントゴックスの破綻、2018年1月のコインチェックハッキング事件などにより、交換所に対する規制強化が図られています。また、2017年のICO(仮想通貨発行による資金調達)の多発による詐欺コインのリスクが大いに懸念されています。これにより、仮想通貨取引所やICOに対する規制が厳しくなることが予想されます。

 第3が、金融政策への影響です。ビットコインを中心とした仮想通貨が法定通貨を一部なりとも代替した場合に、金融政策にどのような影響があるかはまだ明確になっていません。法定通貨である日本円を使った金融政策と、一部決済通貨がビットコインなどの仮想通貨に代替された場合には、法定通貨による金融政策の効果は減殺されることは想像されますが、まだ具体的にどのような事態が発生するかは見えていないのが実情です。

 特に、国・中央銀行が仮想通貨を発行した場合に金融政策とどう絡めると良いのかなど、多くの議論の余地があります。

 そして第4が、決済手段インフラとしての法規制の問題です。法整備は徐々に進んでおり、取引所についての扱いの整備、規制の整備、そして税制については国税庁からの通達が出ています。

著者:株式会社ブロックチェーンハブ

ブロックチェーン技術関連の情報発信・教育・コンサルティングのほか、ブロックチェーン・ビジネスにおけるベンチャー育成・支援を行う。2016年1月創業。アドバイザーに日本IBM名誉相談役及び国際基督教大学理事長北城恪太郎氏、早稲田大学教授岩村充氏 他。

監修:増田 一之(ますだ・かずゆき)

株式会社ブロックチェーンハブ代表取締役社長。京都大学経済学部卒、ペンシルバニア大学ウォートン校MBA、慶應義塾大学大学院修士(メディアデザイン学)、早稲田大学大学院博士(学術)。山形大学客員教授、早稲田大学大学院経営管理研究科講師、慶應義塾大学SFC研究所上席所員。元日本興業銀行ネットワーク業務推進部部長、IT推進室室長。