ブックに学ぶ:『実践ブロックチェーン・ビジネス』

【第5回】ブロックチェーン非金融分野への影響

[著者:株式会社ブロックチェーンハブ 監修:増田 一之]

ブロックチェーンは仮想通貨の取引に限らず、為替や決済等の金融分野への応用、AIやIoTと結び付いてさまざまな産業や政府での活用が始まっています。

そういった事例を解説する書籍『新事業企画・起業のための実践ブロックチェーン・ビジネス』(日本能率協会マネジメントセンター刊)からの抜粋を、全7回に分けて記事として紹介していきます。データ類は基本的に書籍刊行時(2018年4月)のもので、書籍の脚注は省略いたします。

なお、市販書籍からの抜粋のため、仮想通貨 Watch編集部の見解とは異なる場合があります。

第4章[1] ブロックチェーンアプリケーションの概観

金融系

 まず、ブロックチェーンアプリケーションの概観を図4-1に示してあります。通貨系のアプリと存在証明系のアプリ、そしてスマートコントラクト(自律的契約)の応用に大きく分かれます。

 通貨系のアプリでは、ビットコインを実現するためのブロックチェーンがあり、そして、ビットコインの技術を使って作られたその他の仮想通貨(通称アルトコイン)のためのブロックチェーンがあります。

 存在証明とはドキュメントがいつ存在していたかを証明することであり、存在証明および権利証明を行うアプリケーションになります。

 価値情報以外を含む財・サービスの取引の記録として、決済、送金、証券といった分野での応用があります。金融系アプリでもスマートコントラクトによる自動執行の応用があります。例えば、貿易金融やシンジケートローン事務がその適用分野です。

非金融系

 非金融系アプリでは、例えば仮想通貨を含めた応用として、ゲームやポイントプログラムへの適用があります。また、デジタルコンテンツや不動産、ダイヤモンドなどの宝石、その他資産などの所有権管理に応用されます。

 非金融分野でも、存在証明や正真性の証明などで使われます。例えば、登記や所有権の証明などです。非金融系でも、スマートコントラクトによる自動執行での合理化、事務コスト削減などの応用があります。

 その他には、システム系の応用があります。例えば、データベースストレージの運用管理や暗号鍵管理などで、ブロックチェーンアプリケーションを支援するためのツールです。

 ブロックチェーンプロジェクトのエコシステムを分類する際、用途ではなくレイヤーに着目し、「通貨」「開発用ツール」「支配権」「フィンテック」「価値の交換」「データ共有」「信頼性」「その他」という分類をすることもあります。この分類は興味深い切り口で、今後はさらにブロックチェーンプロジェクトの整理が進んでいくと考えられます。

第5章[1] ブロックチェーンの非金融分野への応用

三大機能をどう活かすか

 ここで改めて、ブロックチェーンの三大機能を確認しておきましょう(30ページ参照)。その3つとは、「改竄が難しい」「二重支払いが防止できる」、そして「スマートコントラクト」です(図5-1)。こうした技術的特性が様々な用途で活用できることが期待されていることは既に述べたとおりです。

 まず、「改竄が難しい」ことは、「検証」や「証明」に力を発揮します。偽造に対する耐性があるからですが、この結果、具体的な社会のニーズへの対応として、例えば、「煩雑な証明手続きを解消できないか」「偽の投票を防げないか」「産地とか品質の偽装を防げないか」ということが考えられます。

 ふたつめの「二重支払いの防止」の技術特性として、デジタル資産の所有権の証明やその所有者・利用者の移転や流通に対応できることに力が発揮できます。具体的には、「デジタル資産の非流動性の解決」「違法コピーの防止」「シェアリングのスムーズな運用」といったニーズに対応できます。

 3つめの「スマートコントラクト」の技術特性として、自律分散型システム、分散型組織の構築などが期待されています。具体的な社会のニーズとして、「雇用の偏在に対応」「交通渋滞の解消」「停電やエネルギーコスト高の解消」などが考えられます。

経済産業省による5つの分類

 経済産業省のブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査によると、非金融分野の応用については次のとおり、5つに分類されます。

①地域通貨・ポイント・電子クーポン
②土地登記・特許・文書管理・届出・投票
③サプライチェーン・貿易取引・貴金属宝石管理・美術品真贋認証
④シェアリングエコノミー・CtoC・電子図書館・スマートロック(スマホなどで操作する鍵)・デジタルコンテンツ・チケット
⑤スマートコントラクト・遺言・エスクロー(第三者を介した取引)・会社清算・エネルギー管理・IoT

 この5つの区分それぞれのユースケースにおいて、管理される情報はそれぞれ異なります(図5-2)。

 例えば、①地域通貨・ポイント・電子クーポンでは、付与、譲渡、利用の履歴管理、付与条件管理が可能であり、有効期限や価値の減衰速度が管理できます。

 ②土地登記・特許・文書管理・届出・投票に関しては、権利関係の登録、証明・管理ができ、権利移転も記録管理できます。

 ③サプライチェーン他の区分では、製品の製造、流通、販売を追跡管理できますし、取引記録を管理できます。また、加工履歴、個別の単品単位の識別情報を認識し、純正品のトレーサビリティに使うことができます。

 ④シェアリングエコノミー他の区分では、資産の利用権保有者情報、利用権移転情報、金銭授受情報などが管理できます。

 ⑤スマートコントラクト系の区分では、契約条件、履行内容、各種手続き、業務プロセスを記録することができます。

 このように、ブロックチェーンの非金融分野への適用範囲は大変広範です。図5-3は経済産業省による区分です。

著者:株式会社ブロックチェーンハブ

ブロックチェーン技術関連の情報発信・教育・コンサルティングのほか、ブロックチェーン・ビジネスにおけるベンチャー育成・支援を行う。2016年1月創業。アドバイザーに日本IBM名誉相談役及び国際基督教大学理事長北城恪太郎氏、早稲田大学教授岩村充氏 他。

監修:増田 一之(ますだ・かずゆき)

株式会社ブロックチェーンハブ代表取締役社長。京都大学経済学部卒、ペンシルバニア大学ウォートン校MBA、慶應義塾大学大学院修士(メディアデザイン学)、早稲田大学大学院博士(学術)。山形大学客員教授、早稲田大学大学院経営管理研究科講師、慶應義塾大学SFC研究所上席所員。元日本興業銀行ネットワーク業務推進部部長、IT推進室室長。