インタビュー

VR/AR領域でのDApps開発プロトコル技術を米VERSES財団の日本代表に聞く

仮想空間内のアセットや場所をNEMのブロックチェーンで管理

VERSES Foundation日本代表のRussell Saito氏

 米国VERSES Foundation(以下、VERSES財団)は8月31日、同社がVR/AR領域の開発者向けに提供をするブロックチェーン関連のパートナーシッププログラム「the new Spatial Web Protocol」を、日本・中国・シンガポール・韓国を含む主要VR/ARマーケットにて展開をするために、東京にアジア初の拠点を開設することを発表した。今回設立された東京のVERSES財団を拠点としてアジア圏の開発者に向けて、VR/AR上の仮想的地理空間を利用できるDAppsをブロックチェーン上に開発できるプロトコルの提供を行っていくという。

 VERSES財団の提供する「the new Spatial Web Protocol」では、VR/AR内のモノや場所(アセット)に位置情報や所有権などアセットの基盤となる情報を、複数のブロックチェーン上で発行・流通・管理することができるようになるという。開発者が「the new Spatial Web Protocol」を使用することで、仮想空間内のモノや場所をVRやARコンテンツを体験中のユーザー同士が共有できるようになるそうだ。今回、VERSES財団の日本代表に就任したRussell Saito氏に、プロトコルについてや今後の活動について伺った。

VR/AR内のモノや場所に位置情報や所有権などの情報を共有するプロトコル(イメージ)

我々のプロトコル技術をアジア展開したい

——最初に、VERSES財団について教えてください。

Russell氏:VERSES財団は、アメリカのカリフォルニア州サクラメントで非営利団体として設立されたグループです。未来の「Web空間」を実現するプロトコル技術「the new Spatial Web Protocol」を開発し、管理、提供を行っているグループです。我々の主な活動は。「the new Spatial Web Protocol」を利用するデベロッパーと連携を取りながら、プロトコルに関する相談を受けたり、または一緒にプロダクトを開発するなど、VRやAR上でのDApps開発のサポートを行うことです。今回、アジア圏の開発者に対してプロトコルを提供していくことになり、東京に拠点を構えました。

——「the new Spatial Web Protocol」とは、具体的にどのようなものでしょうか? また、プロトコルによって実現される未来の「Web空間」とはどのようなものなのでしょうか?

Russell氏:これまでバーチャルワールドというのは、各社がいろいろ開発をされていますが、それぞれは独立した仮想空間です。どんなに一所懸命に開発をしても、そこに存在するヒトやモノ、あるいは場所などは、そこでしか存在することができない。せっかく作ったのに、そこでしか利用できないのはもったいない。もっと他の空間にも行き来ができたら楽しいよねという発想から、他のバーチャルワールドにも行き来ができるプロトコルがあればいいんじゃないか? という思いにつながり、そういうものがないか調べてみたけど、どこにもない。だったら作ればいいじゃないかということになり、こういうものは早い者勝ちなので、作ることになりました。我々のプロトコルは、これらをデジタルネットワーク上で、オープンな規格でつなぎます。

 どのような空間になるのかというのは、それぞれの開発者がすでに構築をしているVRやARで実現している空間そのものです。我々はプロトコルの提供をするので、お互いの空間で共有できる規格を提供するものになります。

「Unity」と「Unreal Engine」のプラグインとして提供

——プロトコルは、どのような形で提供されるのでしょうか? また、なぜブロックチェーンなんでしょうか?

Russell氏:プロトコルは、「Unity」と「Unreal Engine」というゲームエンジンのプラグインという形で提供します。というのも、現在、VRやARの仮想空間は、ほとんどこのどちらかのゲームエンジンが使われているので、これが最も有効である考えています。ブロックチェーンである理由は、DAppsとして構築されることにより、アセットやロケーションの真正性が簡単に証明でき、誰にも改ざんされないからです。また、アセットの持ち主は誰なのか、その権利や空間内の場所などもブロックチェーンで手軽かつセキュアに利用できるようになるからですね。

——どのようなブロックチェーンが使われているんでしょうか?

Russell氏:さまざまなブロックチェーンを活用するつもりですが、「the new Spatial Web Protocol」では、まずはNEMのCatapultを使っています。

——VERSES財団のプロトコルでどのようなことができるのか、具体例を教えていただけますか?

Russell氏:これまでのバーチャルワールドに、「Smart Spaces」と「Spatial Domains」という考え方を応用します。今まで仮想的空間だった場所に、Spatial Domainsという新しい座標セットを割り当てることで、仮想であった場所は独自のプログラマブルルールでリアルなSmart Spacesとなり、プロトコルを共有することで誰にでもアクセス可能な場所に変わります。

——Webで使用しているURLのようなものですか?

Russell氏:はい、その通りです。URLはHTTPというプロトコルで使用するものですが、Spatial Domainsは我々のプロトコルで使用されるものです。

 我々のプロトコルでは、仮想的空間内に存在するデジタルアセットを「Smart Assets」という考え方で管理します。Smart Assetsは、検証された独自の情報で、仮想的なものが物理的なもののように管理できるようになり、プロトコルによってSmart Spaces内で存在することができ、またユーザー間で安全に取引を行うことができるなど、Smart Assetsの移動、転送も管理可能になります。ブロックチェーンで管理されているので、所有権や空間の移動などもしっかりと追跡できるのが特徴です。

——1つのSmart Assetsをさまざまなバーチャルワールドで共有できるということですか?

Russell氏:そうですね。ただ、Smart Assetsは「Spatial Contracts」という概念で、オブジェクトが個々の契約によってバーチャルワールドでどのように相互作用し、取引できるかを定義できるので、こちらでは見せるけどこちらでは見せないとか、このワールドの人は売買できないというように、それぞれ自由に設定をすることができるようになります。

——これらのプロトコルでどのような世界が誕生するのでしょうか?

Russell氏:我々のプロトコルでは、プロトコルを使用するバーチャルワールド間でシームレスな口座と通貨を提供します。「the new Spatial Web Protocol」を使えば、取引と支払いをシームレスに処理することが可能になるので、現実の空間と仮想的空間をもつなげるようなことも可能だと思います。これまでにはない新しい世界を創造することができるのではないかと思っています。

 我々としては、ちょっと前に話題になった映画「レディ・プレイヤー1」の世界が現実になっていくような気がしています。現実の世界なのか仮想的な世界なのか、自分が今どちらにいるのかわからなくなるような世界が誕生することに期待しています。

——本日はありがとうございました。

最後に

 今回の東京拠点開設にあたり、VERSES財団エグゼクティブディレクターのGabriel Rene氏がコメントを寄せているので、併せて紹介したい。Gabriel Rene氏はテクノロジーの分野のみならず、これまで「Conde Naste」や「Elle Magazine」などと戦略的パートナーシップを結びメディアにも精通するほか、大統領選「Obama Campaign」にも参画するといった経歴の持ち主だ。

Gabriel Rene氏:アジアは、VERSESにとって大きな可能性のある市場です。私たちは、エンターテイメント、ゲーム、ブロックチェーン、ソフトウェア市場において、世界的に優れた才能を持つアジアの開発者達と、未来のWebを創りたいのです。私たちが提供するプロトコル技術は、テキストで構築されてきた「Webサイト」を、複数の仮想空間がそれぞれ固有のデジタルアドレスを使うことでつながる「Web空間」へと進化させます。それは、消費者とブランドなどが相互につながった、まるで現実であるかのようなまったく新しい世界なのです。

VERSES FoundationエグゼクティブディレクターのGabriel Rene氏

高橋ピョン太