インタビュー

知っておくべき仮想通貨の税金対策 〜2018年分の確定申告対応版

仮想通貨の取引には確定申告が必要?

本稿を書いていただいたクリプトリンク株式会社・代表取締役の八木橋 泰仁先生

 仮想通貨は、持っているだけでは確定申告の必要はありません。ですが、それを法定通貨に変えたり(売買)、仮想通貨で何か商品を購入したり、他の仮想通貨と交換することで、確定申告が必要になることはご存じですか?

 日本の所得税法上、仮想通貨の取引で得た利益は課税対象となります。仮想通貨による年間の取引で確定した利益は、一般に総合課税の「雑所得」として確定申告が必要になります。これまで会社員の方は確定申告をしたことがないと思いますが(1社から給与所得を得ている方)、会社員でも仮想通貨の取引で年間20万円以上の利益が出ている場合は、確定申告が必要になります。また、フリーランスや個人事業主の方は、利益の額に関わらず確定申告が必要です。

 昨年問題になった仮想通貨の不正流出も実は要注意です。取引所から補償されたケースで、補償額と流失した仮想通貨の取得原価との差額は所得となります。自分としては取引したわけではない、といっても実質的には強制的に日本円に換価されたため、ここでの損益計算が必要になるのです。

 なお、法人として取引している場合は別途法人税等の対象となります。収支の計算方法は後述の個人の場合と同様です。但し、雑所得よりも経費で計上できる範囲が広がることから、一般的には節税メリットがあると言われています。

 あわせて、個人事業主で青色申告を選択している場合や、法人の場合は、記帳義務があり、会計データを作成する必要があります。これは日々の仮想通貨取引を会計データとして作成する必要があるため、かなり手間になります。また法人の場合は期末に持っている仮想通貨の時価評価損益を所得に含める方針が平成31年度税制改正大綱で示されました。

 所得税では10種類の所得を定めています。仮想通貨の利益は原則、雑所得に分類されます。

 雑所得は収入金額から必要経費を差し引いて計算されます。この必要経費は雑所得を得るためだけに必要なものに限り、限定的です。

 実際の所得税の金額は下記速算表の通りとなり、給与所得等総合課税の対象となる他の所得と合算した金額で税額が計算されます。この他に住民税があり、市区町村によって若干の差異はありますが、およそ一律10%となっています。

【所得税の税率】
課税される所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円を超え330万円以下10%9万7500円
330万円を超え695万円以下20%42万7500円
695万円を超え900万円以下23%63万6000円
900万円を超え1800万円以下33%153万6000円
1800万円を超え4000万円以下40%279万6000円
4000万円超45%479万7000円

 所得税の最高税率は45%。住民税は10%となりますので、よく最高税率55%、というように言われているわけです。

課税対象となる仮想通貨の取引とは?

 前述の通り、課税対象となる仮想通貨の取引には、法定通貨との換金などいわゆる売買のみならず、仮想通貨で物品等を購入したり、仮想通貨同士の交換(売買)などがあります。そのほかにも、仮想通貨のハードフォークによる新しい仮想通貨の取得や、ICOによる報酬、マイニングによる報酬、Airdrop(エアドロップ)による仮想通貨の取得など、年々、その対象は増え、複雑化しているのが現状です。

 このように多様化する仮想通貨の取引で、そのすべてを把握しながら確定申告をするのは至難の業です。そこで仮想通貨の取引に関する実例を見ながら一つずつ税金について解説をしていきますので、それらを参考に今年の確定申告に備えて、万全の対策でいきましょう。

国税庁のWebサイト、タックスアンサーで示されたこと

 こうした現状を踏まえて、これからの納税環境整備のあり方について関係省庁もまた積極的に議論を行っています。国税庁では、仮想通貨取引に関する所得について、納税者自身による適正な納税ができるよう環境整備を検討するほか、「仮想通貨関係FAQ」といった情報についても公表しています。国税庁のWebサイト、タックスアンサーでも仮想通貨の取引について情報を提供しています。

2018年度確定申告で変わること

 それでは国税庁の情報をもとに、2018年度確定申告で変わることについて具体的に見ていきましょう。

国内取引所は「年間取引報告書」を利用者に対し発行する

 今回の確定申告では、関係省庁による研究会等での議論の結果、各仮想通貨交換業者で統一された様式の「年間取引報告書」を顧客に提供するようになりました。

国税庁Webサイトに掲載のエクセルファイルで総平均法については計算が容易に

 その結果、「年間取引報告書」に対応する仮想通貨交換所の顧客は、仮想通貨取引に関する収支計算が楽になりました。

 しかし、「年間取引報告書」に関しては、まだまだ対応し切れていない課題も多くあります。たとえば、移動平均法を選択(または総平均法と比較)する場合や、平成29年以前から取引を行っているケース、海外取引所を利用している顧客、ICO投資やマイニングを行っている場合の報酬、相対取引がある場合(仮想通貨FXなど)などは、「年間取引報告書」は未対応であり、これらは各自収支計算を行う必要があります。
 また取引所での送金・受取取引がある場合には年間取引報告書が発行されない場合もあります。こうなるとそもそも計算しようがない、ということになります。

確定申告に備えるコツ

 それでは、実際に仮想通貨取引による確定申告に備えるために、さまざまな事例を見ていきましょう。

事例1 仮想通貨の売買

 ビットコイン(BTC)の取得原価は@2万円。
 売却時に(60万円-2万円)=58万円の利益が確定します。

事例2 仮想通貨で物品等を購入

 ビットコイン(BTC)の取得原価は@2万円。
 物品購入時に(30万円-2万円)=28万円の利益が確定します。

 物品購入時点では「等価交換」ですが、物品購入(交換)時点で元の物品を売却し、そのお金で新たな物品を購入したとみなして取引を捉えるためです。

事例3 仮想通貨同士の売買

 ビットコイン(BTC)の取得原価は@2万円。
 Ethereum(ETH)購入時に(5万円×20ETH)-2万円=98万円の利益が確定します。

 物品購入時点では「等価交換」ですが、物品購入(交換)時点で元の物品を売却し、そのお金で新たな物品を購入したとみなして取引を捉えるためです。

事例4 外貨での仮想通貨の売買

 ビットコイン(BTC)の取得原価は100米ドル×100円=@1万円。
 ビットコイン(BTC)売却時に(5000米ドル×120円)-1万円=59万円の利益が確定します。

 外貨の変動についても売却時には認識することになります。
 いつも日本円換算の金額で考えてください(取引日のTTMレート)。

事例5 仮想通貨FXの売買

 FX(証拠金取引)はBUYまたはSELLのポジションを持つだけで、その決済は反対取引を行うことで決まります。要するに、差金だけを認識するのです。

 上記では、60万円-2万円=58万円が利益となります。
 現物取引とFX取引は別々に計算しますが、現物取引と同様、原則雑所得(総合課税)となります。

ハードフォークの場合

 ハードフォークとは、仮想通貨の仕様の変更等に伴い、仮想通貨が分割される現象をいいます。例として、BTC→BCH、BTC→BCG、ETH→ETCなど。

 ハードフォークは無償で新規コインが付与されたと考えられますので、無償で付与されたので「取得原価ゼロ」とするように国税庁からは示されました。売却・処分時に利益計上となります。

「Airdrop」(エアドロップ)の場合

 同様なもので仮想通貨が無償付与される「Airdrop」(エアドロップ)というキャンペーン等があります。国税庁のFAQ等では記載がありませんが、これは新規コイン発行者が仮想通貨をウォレットに勝手に付与してくるものと捉え、ハードフォークと同様と考えられます。

ICO投資の場合(未確定)

 ICO(Initial Coin Offering)は、新規で仮想通貨・トークンを発行して資金調達をするものです。後日、取引所で公開されるものもあります。

 ICOに投資した場合、投資時にはあくまで新規の仮想通貨を購入しただけで、利益は実際に売却(あるいは消滅)した段階で認識します。

 通常のICOの募集はイーサリアム(ETH)で申し込む等、既存仮想通貨を購入のために利用することが多いので、取得価額の計算は要注意。要するに、仮想通貨同士の売買と同じなので、投資段階での「送金した仮想通貨の時価」が取得原価となること、あわせてその時点で送金した仮想通貨について利益確定するということです。

マイニングの場合

 マイニングとは、仮想通貨の取引処理について作業を分担することで、作業の報酬として一定の仮想通貨の割り当てを受けることを言います。

 仮想通貨の多くは、その取引について分散処理で実施されています。世界中のPC・サーバーがその作業を担っています。

 マイニングでは、以下のような費用を計上することができます。

  • 電気代
  • サーバー、PC代
  • マイニング作業を行う施設の賃料、地代
  • 人件費
    ※但し、雑所得の場合、マイニングに直接かかわる費用に限ります。

 マイニングで得た仮想通貨については、どのレートでいつ計上するのかを考慮しないといけません。ビットコイン(BTC)の場合、マイニングの報酬は(理論上)10分に1回割り当てられます。しかし、秒単位で変化するレートを把握し、さらに円換算するのはかなり難しいでしょう。また、実際にウォレットで受領するまでにはかなりのタイムラグが生じます。解決策としては、1日ごとに得た報酬をどこかの仮想通貨交換所での平均レートで収益計上するという手法が考えられます。

 なお、国税庁FAQではマイニング(発掘)時点で計上と明示されました。

 この場合の所得金額は、収入金額(マイニング等により取得した仮想通貨の取引時点での時価)から、必要経費(マイニング等に要した費用)を差し引いて計算します。

レンディング(貸付)の場合

 仮想通貨交換所によっては、購入した仮想通貨を一定期間レンディング(貸付)することで、後日、仮想通貨で利息が得られるサービスを行っているところもあります。

 利子所得に関しては「預貯金及び公社債の利子並びに合同運用信託、公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託の収益の分配に係る所得」(所法23条)であるため、貸仮想通貨の利息はこれに該当しないことから、現時点では雑所得で処理すべきと考えます(利息受け取り時のレートで換算の上収入として計上)。

「事業所得等の各種所得の起因となる」とは

 「事業所得等の各種所得の起因となる行為に付随する場合」を除き雑所得としています。つまり、「明確に他の所得と判定できる場合」以外は全部雑所得、という趣旨です。

 事業所得は、仮想通貨取引以外の個人事業を営んでおり、その資金決済上仮想通貨の取引(代金収受等)がある場合を想定しています。2018年11月21日に発行された国税庁のFAQでは、仮想通貨取引の収入によって生計を立てていることが客観的に明らかである場合なども含まれる旨の記載がありますが、これはこれまでも株式投資等を事業所得とするには非常に高いハードルがあり、否認される事例が多数あるため、原則的には難しいと考えて頂ければと思います。

日本居住者は海外取引でも申告納税必要

 海外取引所を利用していても、日本国居住者はその分も申告・納税が必要です(全世界所得課税)。海外での所得について海外で納税している場合は、日本国内で外国税額控除を受けられると考えられます。ただし、現在発効している各国との租税条約との関連は要確認です。

 日本国内の取引所で所得を得た海外居住者は日本国での申告・納税はどうなるか。現段階では、非居住者・日本国内PE(恒久的施設:Permanent Establishment)なしの場合は課税されないと考えます(課税される国内源泉所得の範囲に含まれないと考えられるため)。ただし、これは個々人の実態に合わせて判断されることになりますので、慎重な判断が必要です。

参考資料

・国税庁
No.1524 ビットコインを使用することにより利益が生じた場合の課税関係
https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/1524.htm

[平成29年4月1日現在法令等]
ビットコインは、物品の購入等に使用できるものですが、このビットコインを使用することで生じた利益は、所得税の課税対象となります。
このビットコインを使用することにより生じる損益(邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益)は、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として、雑所得に区分されます。
(所法27、35、36)

No.1525 仮想通貨交換業者から仮想通貨に代えて金銭の補償を受けた場合
https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/1525.htm


仮想通貨を預けていた仮想通貨交換業者が不正送信被害に遭い、預かった仮想通貨を返還することができなくなったとして、日本円による補償金の支払を受けました。
この補償金の額は、預けていた仮想通貨の保有数量に対して、返還できなくなった時点での価額等を基に算出した1単位当たりの仮想通貨の価額を乗じた金額となっています。
この補償金は、損害賠償金として非課税所得に該当しますか。


一般的に、損害賠償金として支払われる金銭であっても、本来所得となるべきもの又は得べかりし利益を喪失した場合にこれが賠償されるときは、非課税にならないものとされています。
ご質問の課税関係については、顧客と仮想通貨交換業者の契約内容やその補償金の性質などを総合勘案して判断することになりますが、一般的に、顧客から預かった仮想通貨を返還できない場合に支払われる補償金は、返還できなくなった仮想通貨に代えて支払われる金銭であり、その補償金と同額で仮想通貨を売却したことにより金銭を得たのと同一の結果となることから、本来所得となるべきもの又は得られたであろう利益を喪失した部分が含まれているものと考えられます。
したがって、ご質問の補償金は、非課税となる損害賠償金には該当せず、雑所得として課税の対象となります。
なお、補償金の計算の基礎となった1単位当たりの仮想通貨の価額がもともとの取得単価よりも低額である場合には、雑所得の金額の計算上、損失が生じることになりますので、その場合には、その損失を他の雑所得の金額と通算することができます。
(所法35、36)

2017年12月1日
「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/171127/01.pdf
国税庁個人課税課

2018年11月
「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/virtual_currency_faq.pdf

編集部注:本稿は、2019年1月25日時点の情報を基に作成しています。

八木橋 泰仁

税理士法人ファシオ・コンサルティング 代表社員・税理士・行政書士、仮想通貨税務研究会 主宰、クリプトリンク株式会社 代表取締役 法人・個人事業主の税務・会計顧問を中心に、経営全般の課題解決を支援する『経営支援サービス』を提供。顧問先は法人約350件、個人事業主約400件、所属税理士7名・役職員数約40名。自らも仮想通貨・暗号資産の投資家であり、その経験を踏まえた収支計算ツール「クリプトリンク」を開発・提供。TV・雑誌などへの登場多数。