インタビュー
bitFlyer社、独自ブロックチェーン「miyabi」提供を事業の柱に
ブロックチェーン開発部および事業戦略部に聞くmiyabiによるブロックチェーン活用事例
2019年1月24日 11:38
2014年設立の株式会社bitFlyerは、現在、事業としてブロックチェーンの研究開発に力を入れており、独自のブロックチェーン「miyabi」という製品を出している。
実は、ブロックチェーン技術に関する研究に余念がないことも知られている。今回は、bitFlyer社・ブロックチェーン開発部部長/CISO(Chief Information Security Officer:最高情報セキュリティ責任者)の竹井悠人氏と同社事業戦略本部事業開発部ブロックチェーンチームマネージャーの小畑翔悟氏に、同社のブロックチェーン技術に対する取り組みについて伺うことができたので、紹介したい。
独自のブロックチェーンmiyabiについて
最初にエンジニアの竹井氏に、ブロックチェーンおよびmiyabiについて伺った。
bitFlyer社は、ブロックチェーンを分散データベースの一種という位置付けをしているという。よく既存のデータベースと分散データベースはどこか違うのかと問われるが、従来のデータベースはアクセス権限を持っている人が基本的にデータの更新や参照を行うものであり、アクセスコントロールリストによって管理されており、運用をする際にはグループ会社には参照権限のみを与えたり、提携先や他社にはアクセス権限を与えないといった運用が一般的であるとのこと。
ブロックチェーンによる分散データベースは、データの書き込みをアルゴリズムがコントロールするという。ブロックチェーンネットワークに参加する全員がデータの参照が可能であり、データの書き込みに関してもそれぞれが鍵を持っていることから、書き込みの際に「確かに自分が書き込んだ」という来歴を付けた状態(電子署名)でデータベースの更新を行うことができるため、誰がいつどのような形で更新したかも含めて記録されるので、基本的には誰でも更新が可能だという。ただし、データの書き込みに関しては検証が行われるため、好き勝手に書き換えられるわけではなく、権限を持っている人が権限にのっとって書き込みを行った際に、ブロックチェーンのネットワークに参加しているノードが、図では3台のノードだが、書き込んでもいいという判断をした場合に限り、データストレージに反映されるという仕組みであるという。
bitFlyer社は、創業以来、改ざんが不可能で高い信頼性を持つブロックチェーン技術を、実際の取引やスマートコントラクトに使用可能な形で実用化できないか研究を続けてきたという。その中で、Bitcoinに代表されるPoW(プルーフ・オブ・ワーク)では、すべてオープンとなり、ビジネスとして利用するには問題がある。また、マイニングにかかる膨大な電気代や時間、コストなどについても、エンタープライズとしての運用は難しいと判断。そこでmiyabiは独自のコンセンサス・アルゴリズムにより、データが必ず確定する(ファイナリティーあり)ように設計されたとのこと。
miyabiは、ブロックチェーンの特長である堅牢性を持ちながら、取引の確定や処理速度などに関連する課題を解決したブロックチェーンであるという。プライベートブロックチェーンmiyabiでエンタープライズ向けシステムを構築することが、ユーザーに多数のメリットをもたらすのだという。
miyabiの導入事例
miyabiの実際の導入事例については、事業戦略本部の小畑氏に伺う。
現在、miyabiが導入されている分野は、金融、非金融ほぼ半々であるという。miyabiを提供開始した2016年の頃は、金融分野が大半を占めていたが、ここにきて非金融が増えているという。
導入先の特徴としては、いわゆるPoCだけではなく、プロダクションとして商用化を目指し進めているものも徐々に出てきているという。世の中のブロックチェーンの応用例は、まだまだPoC段階のものが多いが、miyabiはその先に進んでいるという感触があるとのこと。
また、PoCについてはその目的が2種類あり、1つは単純にブロックチェーンを勉強してみたいというケースと、商用化を見据えて実験を行うケースがあるが、最近は後者かつ非金融の分野が増えてきているという。
詳細事例の紹介
次の事例は、不動産業界におけるブロックチェーンの活用方法になる。
不動産業界の事例は、積水ハウスとの取り組みでこちらも商用事例であるという。この事例は、積水ハウスのグループ会社である積和不動産株式会社における賃貸での活用事例とのこと。ここでは、賃貸物件にひも付く情報として、物件の詳細からオーナー情報まで、入居者情報および契約内容も含め、すべての情報をブロックチェーンにて記録するという。将来的には、これらの情報をマイナンバーカードとひも付けたり、契約履行に不備はないなど賃貸契約に関する信用情報などが蓄積されることで、他業種とも情報共有や連携ができるシステムに成長するのではないかと期待されているという。ちなみに、賃貸物件にひも付く情報の部分に関しては、すでに実業務にて稼働中であるとのこと。
社内コインの事例に関しては社名は非公開だが、製造業を営む数千人規模の企業にて導入されたPoCであるという。具体的には、企業および従業員が社内において送金、決済が可能な仕組みであるとのこと。これについてはmiyabiと、その上で動くアプリケーションレイヤー、bitFlyer社ではそれをソリューションと呼んでいるが、そこも含めて構築したとのこと。ここでは、QRコード決済や割り勘、送金ができるという。社内コインを使い、社員食堂や提携コンビニでの決済に活用中であるという。
システムを導入中の製造業社にはサプライヤーがたくさんいるため、将来的にはこれを法人間の決済に使えるところまで発展をさせたいという意図でPoCを行っているという。現状では法律が整備されていないため実現は難しいが、現在、金融機関を通して行っている業務をこれに置き換えたり、また社内コインをサービスに導入し、マーケティング等に応用できないかなど、あらゆる構想を視野に入れて実証実験中であるという。
次に挙げる事例は、まだ構想中の部分も多く含まれるが、地方におけるブロックチェーンの活用事例であるという。
これは、地方における高齢者等の見守りサービスとしてブロックチェーンを活用した事例とのこと。まずは地方において地銀等が利用者の本人確認を行う際に、利用者にひも付いた公開鍵をQRコード等で管理できるようデータをブロックチェーンにより記録することが前提になるが、そのデータを地域全体で活用し、利用者を見守っていこうというコンセプトだという。
利用者の本人確認をQRコードによって確認することができれば、たとえば地域通貨を発行することで、地域における買い物や娯楽施設、病院、宅配便等を利用する際に必ずQRコードによる公開鍵が利用されるため、利用者がなんらかの行動をしていることがわかるという。その状況下でしばらくQRコードが使用されていない場合にアラートを発令することで、地方公共団体がいち早く地域住民の異変に気づくことができるという。ブロックチェーンで利用者の行動履歴を記録していくことで、これらは実現可能であるという。
なお、この事例については現在、提案中の案件であり、PoCは今後の予定とのこと。基本的には、地方公共団体と交渉中だという。