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プログラムで投資家を保護するDAICO対応のウォレットアプリ「ICOVO」を提供開始 〜ICOプロジェクトへの申し込み、投票機能を実装予定

 スイスICOVO AGは、仮想通貨ウォレットアプリ「ICOVO」を提供開始した。iOSおよびAndroid搭載のスマートフォンで利用でき、EthereumやERC20/ERC223トークンの送受金に利用できる。最大の特徴は、自律分散型のICO投資家保護の枠組み「DAICO」のクライアント機能を備えることである。

ウォレットアプリ「ICOVO」をiOS、Android向けに提供

同社は、DAICOの機能を実装した「DAICOVO」フレームワークを開発済み。「現状、コーディングは完了し、メインのコード部分をGitHubにて公開している。現在は監査会社によるレビューを受けたり、バグバウンティを実施したりしてコードの品質を上げている段階」(同社)。同社はこのDAICOVOフレームワークに基づきICOプラットフォーム「ICOVO」の開発を進めている。今回のウォレットアプリ「ICOVO」は、ICOプラットフォームICOVOのクライアント機能と位置付ける。

 ICO(Initial Coin Offering)申し込みのためのダッシュボード機能を備える。さらに、この2018年8月にはプロジェクト監視やトークン保持者による投票の機能(DAICOVOユーザーインタフェース)を追加する方向だ。

ICOのダッシュボード機能をウォレットに搭載する

 開発会社のスイスICOVO AGは、CEO(最高経営責任者)の山瀬 明宏氏らがスイスのツーク市で設立したスタートアップ企業。山瀬氏はKDDIウェブコミュニケーションズの創業者として知られている。また同社CTO(最高技術責任者)にはEthereumウォレット「Tachyon」(タキオン)の開発者である西村 祥一氏が就任している。今回提供開始したアプリ「ICOVO」はTechyonをベースに開発したものである。

世界的なICOの活況は続いている

 ここで同社サービスの前提となるDAICO、それにICOの現状について説明しておきたい。

 まずICOの現状を説明する。日本国内では、仮想通貨交換業の規制強化に伴い2018年以降は新規のICOプロジェクトは実施されていない状況にある。その背景は大きく2点あり、1点目に、ルールが明文化されていない段階ではあるが、ICOの実施には仮想通貨交換業の登録が必要との法解釈が広まっていること。2点目として「日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)」が自主規制団体として認められた後に、金融庁の「仮想通貨交換業等に関する研究会」の議論を受けてICOの自主規制ルールを制定し運用する予定となっているのだが、その取り組みはまだ始まったばかりの段階であること。現状を見ると、日本でICOが再開するまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 もう一点、ICOプロジェクトでよく問題として指摘されることが、多くのICOプロジェクトが途中で止まっていること、さらに詐欺として摘発されたプロジェクトすらあることだ(参考記事)。

 以上のような状況を伝え聞いて「ICOは停滞期にある」と認識している人もいるかもしれない。しかし世界全体で見ればICOの活況は続いている。Coinscheduleの統計によれば、2018年に入ってからも毎月12億ドルを上回る水準での資金調達が続き、特に4月は41億ドルと突出している。2018年1〜6月のICO調達額は約119億ドル。2017年は1〜12月の調達額が約39億ドルだった。今年2018年(1〜6月)のICOによる資金調達のペースは、2017年(通年)に比べ約6倍と急増している。

ICO調達額は2018年に入ってからも月額12〜41億ドル相当と高水準で推移している(出典:Coinschedule)

 数字を見るとICOが下火になっているという印象はない。また最近のICOは機関投資家の資金が大量に流れ込んでいると言われている。一部のプロの投資家はICOに可能性を見いだしているのである。

 ここまでが現状のICOの説明となる。

ICO投資家保護をプログラミングしたDAICO

 DAICOは、Ethereumの創設者であるVitalik Buterin氏が提唱したアイデアである。その基本にあるのはDAO(自律分散型組織)の考え方だ。ICOプロジェクトをプログラムにより自動的、自律的に管理することで問題解決を図る。ここで重要な点は、プロジェクトの監督のための特別な権限を持つ人間(管理者)の存在を前提としないことである。

 DAICOを応用したICOプロジェクトでは、投資家から集めた資金はコントラクト(Ethereumのブロックチェーン管理下で動作するプログラム)が管理する。プログラムが他者に改ざんされていないことをEthereumのブロックチェーンが保証する形となる。

DAICOの機能は大きくは次の2点である。

(1)ICOプロジェクトのチームがコントラクトから取り出せる「1秒あたりの金額」(tapと呼ぶ)を設定できる。
(2)トークン保持者の投票により、以下の議決を行える。
(a)資金引き出しの流量(tap)を上昇させる。
(b)プロジェクトを精算して残った資金をトークン保持者に返す。

 資金引き出しの流速(tap)の上限を定めることにより、資金を一度に引き出して失踪するような詐欺的行為を不可能にする。プロジェクトが順調に進み、より多額の資金が必要になった場合には、トークン保持者の合意のうえ資金引き出しの流速を増やす(tapを上昇させる)ことができる。また、プロジェクトが失敗したとトークン保持者の多数派が考えた場合には、投票結果によりプロジェクトを自動的に精算できる。会社の破産手続きのように長い時間がかかることはない。

 DAICOの機能はシンプルだが、これにより「詐欺的なプロジェクト」「プロジェクトの進捗が止まる」といったICOの問題点のうち重要な部分を改善できると期待できる。今までICOの投資家側がICOプロジェクトを律する手段は皆無だった。ICOのガバナンスの提案としてもDAICOは興味深いものがある。

 「DAICOを応用した」とアピールするICOも実際に登場している。また、一般社団法人分散技術総合研究所(DRI)はDAICOの実装を公開している。

 ここで注意しなければならないのは、今までの議論の前提は「DAICOが正しく機能すること」であることだ。2016年、コントラクトを活用した投資ファンドThe DAOがハッキングにより頓挫した事件があった。コントラクトにバグや脆弱性がないか、またDAICOの投資家保護の機能が正しく実装されているのか、例えば第三者機関による監査などで確かめることが望ましいといえる。

ICOVOはDAICO+プロジェクト透明性確保の機能を搭載

 このように意欲的な取り組みといえるDAICOだが、今まではやや難易度が高かった。投票の判断のためには、信頼できる情報を元にプロジェクトを監視する必要がある。また投票を実施するにはEthereumのコントラクトに対してトランザクションを送るスキルが求められる。ある程度のリテラシーがなければDAICOの恩恵を受けられない。以上がICOVO社が解決したい課題ということになる。そこで、これらの問題の解決を図ったICOプラットフォーム「ICOVO」を提供する予定だ。

 ICOVOのサービスを解説したホワイトペーパーでは、例えば国の規制当局による属人的な監督では多数存在するグローバルなICOを適切に規制することはおそらく不可能との見方を示している。つまりDAICOのような機械的、自律分散型の監督が必要不可欠であるとの考え方を示している。

 ICOVOが提供するサービスの基本機能は、DAICOと共通する。プロジェクト起案者による「持ち逃げ」を禁止し、また投資家がプロジェクト失敗と判断した場合はトークン保持者の投票結果次第で精算、返金の措置を執行できる。以上のDAICOの基本機能に加えて、ICOVOでは、(1)起案者の存在証明、(2)GitHubの更新状況などを数値化、見える化する機能を提供する。つまりプロジェクトの実態についての透明性を向上させ、投資家がプロジェクトの健全性を評価する方法を提供する。複数のICOプロジェクトを共通のフォーマットで比較したり、ICOホワイトペーパーを改ざんを許さない形で保管する機能も提供する。これにより、ホワイトペーパーに記されていたロードマップと現状を比較することが可能となる。

 このようなICOプラットフォームを整備し、そのクライアントとなる使いやすいウォレットを提供することが、ICOVO AGの狙いということになる。ICOVOプラットフォームそのものの信頼性を確保するため、同社は「外部会社による監査を進めている」としており、またプログラマー有志がバグ発見を競う「バグバウンティプログラム」も実施している。

 前述のように日本のICOは足踏み状態が続いているが、その一方で世界を見回すとICOの活況は続いている。ICOの本質はスタートアップ投資と同じくイノベーションのための投資である。DAICOのアイデアや、今回のICOVOの提供する透明性向上の機能がうまく活用できるなら、ICOの健全化、効率化が進むと期待できるだろう。