仮想通貨(暗号資産)ニュース
FSBが暗号資産市場に関する見解を表明、世界的な金融市場への重大リスクはないが監視が必要
南海泡沫事件やドットコム、リーマンショックなど過去の経済的バブル崩壊との比較も
2018年10月18日 06:00
日本銀行は10月11日、金融安定理事会(FSB、Financial Stability Board)による報告書「暗号資産市場—将来の金融安定に対する潜在的チャネル」が公開されたことを報告した。日銀も参加するFSBは、主要25か国・地域の中央銀行、金融監督当局、財務省、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)等の代表が集う国際金融に関する措置、規制、監督などの役割を担う団体である。同報告書は、仮想通貨(報告書ではCrypto-asset:暗号資産の明記)市場に関するFSBの見解を表明するもので、財務安定性のための暗号資産の潜在的な影響力を評価している。暗号資産は、現時点で世界的な財務安定性に重大なリスクをもたらすものではないが、市場の発展の速度を鑑みて、注意深く監視していく必要があるとしている。
同報告書で扱う「暗号資産」については、公共機関等によって発行された中央銀行デジタル通貨(CBDC)または暗号資産の提案については考慮していないことを冒頭で述べている。暗号資産は、もともと信頼できる第三者の仲介者を必要とせずに価値の移転を促進するために設計されたものであるという。現時点では、暗号資産は金銭としての機能を確実に提供するものではないことから、交換や価値を持った資産として信頼することは危険であり、政府や他の機関による裏付けはなく、いずれの国や地域においても法律上認められているわけではないことを明確に記載している。
しかしながら、いくつかの企業および一部の公共部門は、暗号資産による支払いを受け入れていることも同時に報告している。また、冒頭では特定の暗号資産の例として、特に裏付けされるものがないBitcoinやEthereumが、過去1年間に大幅な価格変動と相場の上昇を経験したことについてもレポートとして挙げている。
これら暗号資産の時価総額は2017年頃から急激に上昇し始め、2018年1月8日にピークを向かえ時価総額が推定8300億ドルに達したという。そのうち約35%はBitcoinによるものであるとのこと。しかし2018年10月4日現在、その価格は210億ドルをわずかに上回る程度になっていることを図は示している。2017年の急激な価格上昇は、個人投資家の関心を引き出し、さらには規制された金融機関や仲介業者の注目も集めたという。また、暗号資産取引プラットフォーム(その多くは誤って「取引所」と呼ばれているが、登録されていない)を含むエコシステムが開発されていることも報告されている。
さらに、報告書ではこれまでの経緯を踏まえながら「暗号資産市場における主なリスク」「金融安定に影響を与える伝送チャネル」「規制アプローチとコミュニケーション」といった項目により、暗号資産の潜在的な懸念を挙げている。
特に興味深いのは、「金融安定に影響を与える伝送チャネル」にて報告を行っている「過去のエピソードと比較した暗号資産」というグラフだが、世界の金融市場が経験をしてきたいわゆる経済的バブルの崩壊と暗号資産について比較している。
図は、1990年代後半から2000年代初期に米国市場で起きたdot-com bubble(インターネット・バブル)と呼ばれるインターネット関連企業への投資による株価の急騰と暴落や、2007年から2008年にかけてのサブプライム住宅ローン問題からリーマンショックによるバブルの崩壊、さらにバブル経済の語源となった1720年の南海泡沫事件による株価の急騰と暴落など、金融市場における過去の出来事の影響と暗号資産の価格変動について比べたものである。レポートでは、暗号資産の価格の増大・変動の幅は、過去の金融市場における問題と比べると大きいものの、時価総額や資本の規模は小さく、世界の金融市場に対する危険性は低いとしている。
ただし今後、暗号資産の使用が大幅に増加するとすれば、金融市場の安定性に影響を与える懸念は潜在的にあるとし、また、消費者および投資家の保護に対するリスクと市場の完全性を含む幅広い政策上の懸念も存在するという。ほとんどの暗号資産プラットフォームが本質的にグローバルな性質を持っていることを考えると、これらの問題は国際的な調整が必要であり、国境を越えた考え方が必要であることも述べられている。さらに、その措置に対しては、イノベーションの利益を保護しながら、消費者および投資家の保護と市場の完全性のリスクへの措置をバランス良く行っていくことが大切であることも報告している。