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ゲーム理論×ブロックチェーンで転売防止、「ちけっとピアツーピア」改良版をリリース
汎用性を高め課金ゲームアカウント転売防止にも応用可能に
2019年2月12日 17:50
京都のスタートアップ企業である株式会社LCNEMは、ブロックチェーンを活用した転売防止システム「ちけっとピアツーピア」の改良版を発表した(発表資料)。汎用性を高め、イベントのチケット転売の防止のほか、課金してレベルを上げたゲームアカウントを有料で転売するなどの行為の防止にも応用できるようにした。ブロックチェーン、暗号学、そしてゲーム理論を駆使したアイデアを形にしたプロダクトである。ブロックチェーン技術としてNEMを利用する。
従来版「ちけっとピアツーピア」では、ブロックチェーン上のアドレスを「チケット」とみなし、そのアドレスに対するトランザクションが発生してブロックチェーンに記録されたなら、そのチケットを無効とみなしていた。トランザクションをチケットのアドレスに送る形で転売を通報でき、同時に異論が出ない形でチケットと通報者の証拠が残る。通報には報酬が出る。ゲーム理論に基づき、転売者とその客がそれぞれ双方を裏切るインセンティブ構造を明示することにより転売ビジネスの成立を阻害する。従来版についてはLCNEM代表取締役の木村優氏へのインタビューに基づく記事でも紹介している。
ここでブロックチェーンを使う意味は、ゲーム理論に基づく制度設計が成立する基盤となることだ。各プレイヤーの取った行動がブロックチェーン上で確実に記録に残り検証可能であることで、間に入る人間の不正の可能性を排除でき、インセンティブ構造が異論の余地なく明確になる。この枠組みは今回の改良版でも引き継いでいる。
改良版は汎用性と転売防止効果を高める
今回の「ちけっとピアツーピア」従来版と、改良版の違いは以下のようになる。
(1)サービスではなくソフトウェアライブラリとして提供
(2)従来版では、「正規の入場」と「転売通報」を区別していなかったが、改良版では両者を区別した上でブロックチェーンに記録する。これにより、例えば課金ゲームアカウントの二次購入者が通報する場合に、転売者にはペナルティを課し、二次購入者は「今回限り利用を認める」措置をとることが可能となった。このような措置を取ると宣言することにより、各プレイヤーの行動の選択肢を狭め、その状況が発生するに至らない状態(転売防止が有効な状態)を作り出すことができる(ゲーム理論の用語で「コミットメント」と呼ぶ)。
(3) 利用者の電話番号を暗号化し、トランザクションに添付する「メッセージ」としてブロックチェーン上に記録、転売が通報された場合には復号できるようにした。なお、トランザクションにメッセージを添付する機能はNEMに組み込まれた基本機能である。転売があった場合、同じ電話番号での登録を禁止する、罰金を科すなどの措置が可能となる。
内部的な仕組みの詳細は、LCNEM代表取締役の木村氏のBlog記事内の解説を参照されたい。大枠を紹介すると、「チケットID」から2種類の秘密鍵、公開鍵、ブロックチェーンアドレスを生成する。1つのアドレスは正常な利用(入場)の記録に、もう1つのアドレスは転売通報用に用いる。一方、チケットシステムも自分の秘密鍵、公開鍵、ブロックチェーンアドレスを持つ形となる。
購入時の電話番号の情報は、暗号化してブロックチェーン上にトランザクション添付のメッセージの形で記録する。電話番号を復号するには、チケットID由来の秘密鍵と、チケットシステム側の公開鍵があればよい。つまり運営側だけでなくチケットIDを知る転売者や二次購入者も電話番号を復号できる。転売すると自分の電話番号が知られる形となることも、転売しないインセンティブとなる。
NEMのブロックチェーンを活用したプロダクトは最近では活発に開発されている。NEMはブロックチェーンをAPIで制御するアプリケーションを開発しやすく、トランザクションを発行する手数料が安く、トランザクションにメッセージを添付する機能を標準搭載する。「ちけっとピアツーピア」は、これらのNEMのメリットをうまく活用した事例といえるだろう。