仮想通貨(暗号資産)ニュース

米FBIがイーサリアム開発者を逮捕

北朝鮮の暗号通貨カンファレンスに出席、制裁回避の技術を伝えた疑い

(Image: Shutterstock.com)

米国政府はEthereum Foundation(イーサリアム財団)のリサーチサイエンティストVirgil Griffith(バージル・グリフィス)氏を逮捕、告訴した。FBI(連邦捜査局)が発表した(発表資料/関連記事)。北朝鮮の暗号通貨関連カンファレンスに出席し経済制裁回避に結びつく技術に関して議論したことが、米国の国際緊急経済権限法(IEEPA)違反となる疑い。同法違反は最高20年の禁固刑が課される。

Griffith氏は11月28日にロサンゼルス国際空港で逮捕された。FBI発表資料によれば、Griffith氏は2019年4月に北朝鮮で行われた「Pyongyang Blockchain and Cryptocurrency Conference(平壌ブロックチェーンおよび暗号通貨カンファレンス)」に参加し、北朝鮮がブロックチェーンや暗号通貨を用いて制裁を回避する方法について議論したとされる。

FBIによれば、Griffith氏はこの会議の聴衆に北朝鮮政府で働いている人間が含まれていると認識しており、また米国の経済制裁を回避する方法を北朝鮮に伝えることが「法律に違反している」という知識を持っていたとしている。Griffith氏は北朝鮮と韓国の間で暗号通貨を交換する計画を進めており、また米国籍を放棄して他国の市民権を購入する方法を検討していたとしている。

Griffith氏は学生時代から有名なハッカーだった。学生時代、教育用システムのセキュリティ脆弱性を公表しようとしてBlackboard Inc.から訴えられ、後に和解している。2008年のThe New York Timesの記事によれば、この頃のGriffith氏はWikipediaを無登録アカウントで編集した企業や組織を探知するツールWikiScannerの作者として人気者のハッカーだった。LinkedInのGriffith氏のプロフィールによれば、Griffith氏は2014年にカリフォルニア工科大学(Caltech)で博士号を取得。その後シリコンバレーのテクノロジー企業でCTOを務め、ダークウェブ検索エンジンonion.linkを公開している。2015年、シンガポールに移住。2016年10月にEthereum Foundationのリサーチサイエンティストとなった。好むツールとして「Python、R、Haskell、LaTeX」を挙げている。

Griffith氏による論文のリストが公開されている。論文の中にはEthereumプロジェクトの創設者Vitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)氏と共著で、PoSアルゴリズム"Casper"を提案した論文「Casper the Friendly Finality Gadget」も含まれている(PDF)。この論文はGoogle Scholarによれば同論文は引用数126と高い評価を得ている。腕利きのハッカーで、Ethereumを初期段階から支えた優秀な研究者といえる。

歴史的に、米政府は暗号技術を広める活動に厳しい態度を取ってきた経緯がある。暗号技術は国防と密接な関係があるためだ。暗号技術PGP(Pretty Good Privacy)を開発してオープンソースソフトウェアとして公開したPhil Zimmermann(フィル・ジマーマン)氏は、長年にわたりFBIの捜査対象となった。今回の逮捕と発表の背景には、米国市民が制裁対象国に対して特定の技術やサービスを特定の国に伝えることが犯罪になることを示す「見せしめ」の側面があることも考えられる。

Griffith氏の裁判の行方は、今後の暗号技術やブロックチェーン技術の動向に大きく影響する可能性がある。FBIが発表した容疑は「カンファレンスでの技術交流が経済制裁回避に結びつき、それが米国法に違反する」ことだが、実際のカンファレンスでの議論の内容がどのようなものだったのかは分からない。容疑の内容が詳しく分からない状態が続くと、米国籍の技術者がオープンな議論をすることへの萎縮効果が出てくる可能性もある。重大な事件として今後に注目したい。