5分でわかるブロックチェーン講座

第3回

日本は再び世界をリードできるか。各国政府による暗号資産への取り組みが加速

(Image: Shutterstock.com)

暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報にわかりやすく解説を加えてお届けします。

1.日本政府はデジタル通貨(CBDC)への取り組みを加速

今週(2月4日から2月10日までの1週間)は、図ったかのように世界各国の行政および公的機関による取り組みが報道された。まずは日本における取り組みから紹介する。

自民党のルール形成戦略議員連盟は7日、政府および日本銀行が実用化を目指すデジタル通貨(CBDC)の検討を早急に進めるべきとの提言を求める意向を発表した。会長の甘利氏を中心とする同連盟は、主要国首脳会議(G7)においてデジタル通貨を議題に取り上げることを、米国に対して求めるという。

背景には、Facebook主導のLibraや中国のDCEPの存在がある。さらには、ダボス会議2020でも議題にあがった各国中央銀行によるデジタル通貨の拡大から、早急に整備を進める必要があるのも確かだ。

第1回講座でも紹介したが、日本銀行も、イングランド銀行や欧州中央銀行などを含む6つの中央銀行と共同で、デジタル通貨の研究を行う新組織の設立を発表している。この新組織が、2020年4月の中旬に会合を開くことを発表している。各行の総裁が集い、異なる通貨間での決済やセキュリティなどについて議論される予定だ。

会合は、国際通貨基金(IMF)のカンファレンスに合わせて米ワシントンで開催される。会合の結果は年内に発表される予定となっており、CBDCの今後を占う核心的な報告を期待したい。なお、日本銀行は2020年2月27日に、「決済の未来フォーラム:中銀デジタル通貨と決済システムの将来像」と題した公開討論会も開催する。有識者との議論を通して、CBDCにおける利点やリスクの検証を深めていくという。

参照ソース

  • デジタル円、早急に検討を 自民議連提言 G7で議題に [日本経済新聞]
  • Japan lawmakers to issue digital currency proposals tomorrow [TheBlock]
  • 「決済の未来フォーラム:中銀デジタル通貨と決済システムの将来像」参加者の募集について [日本銀行]
  • Bank of Japan, ECB and other central banks to discuss starting digital currencies [THE JAPAN TIMES]

2.アメリカで「クリプトママ」の重大な提言

アメリカにおいてもまた、この1週間にはいくつかの大きな発表があった。まずは証券取引委員会(SEC)についての話題から取り上げる。

SECで理事を務める「クリプトママ」ことPeirce氏は、新興の暗号資産を証券法の枠組みで規制する前に、3年間の猶予期間を設けるセーフハーバー・ルールの策定を提案した。アメリカでは、暗号資産を規制する法律として証券法が一つの基準となっている。しかし、ICO実施直後などには、証券法に準拠できる体制が整っていない場合が少なくない。そのため、Peirce氏は3年間の猶予期間を設けることで、証券法に準拠ないし抵触しない形で暗号資産を開発できるようにする必要性を説いたのである。これは規制の枠組みを考える上で、世界的にも模範となる方針であり、今後の動向に注目していきたい。

続いては、税制に関する取り組みを紹介する。ウォールストリートに拠点を置く民間同盟は、米国内国歳入庁(IRS)に対して、特定の金額以下の暗号資産決済における非課税化を主張した。現状、IRSは暗号資産を文字通り資産として定義しているため、少額の売買においても申告が義務付けられている。これに対して民間同盟は、暗号資産の普及を妨げると説明し、少額決済時の非課税化を主張。当局からの回答を待っている。

3つ目のトピックは、中央銀行連邦準備制度理事会(FRB)に関してだ。FRBで理事を務めるBrainard氏は、スタンフォード大学における講演で、デジタル通貨の研究と政策策定の重要性について語った。Brainard氏は、デジタル通貨の課題としてプライバシー保護や法的な問題について取り上げている。

最後に、金融犯罪捜査網(FinCEN)に関する取り組みを紹介する。FinCENで副局長を務めるEl-Hindi氏は、米国証券業金融市場協会(SIFMA)の主催するカンファレンスに登壇し、暗号資産におけるマネロン対策(AML)の課題について言及した。具体的なプロジェクト名はあげなかったものの、Libraを想定した上で、独自の暗号資産を発行することによる違法取引からは目を背けることができないと、厳しく主張している。

参照ソース

  • SECの「クリプト・ママ」、仮想通貨やトークン開発に3年の猶予提案【ニュース】 [コインテレグラフジャパン]
  • SEC’s ‘Crypto Mom’ Has Long-Shot Plan to Free Coins From Rules [Bloomberg]
  • 米国:仮想通貨の少額決済非課税を要求=米ウォール街の業界団体 [CoinPost]
  • FRBが中央銀行デジタル通貨発行の実現可能性を検討中 [仮想通貨 Watch]
  • The Digitalization of Payments and Currency: Some Issues for Consideration [Federal Reserve Board]
  • 米FinCEN副局長、仮想通貨企業に厳格な規制遵守求める [CoinPost]

3.世界各国の暗号資産を取り巻く環境は整備されつつある

今回の1週間は、日本およびアメリカ以外にとっても重要な期間となった。ここではスイス、ドイツ、中国について触れていく。

スイスの取り組みついては第2回講座でも取り上げたが、今回の1週間でもスイス政府による新たな取り組みが発表されている。スイスの金融市場監査局(FINMA)は、暗号資産における資金洗浄に関する新たな規定を提出した。この新たな規定では、暗号資産取引所における申告義務対象となる取引額が、現在の5000スイス・フラン(56万円相当)から1000スイス・フラン(11万円相当)にまで引き下げられる。スイス政府は、ブロックチェーンを使った先進的な取り組みを行いつつも、犯罪防止にしっかりと取り組んでいく姿勢だ。

2020年2月10日時点の国内総生産(GDP)でアメリカ、中国、日本に次いで第4位につけているドイツからも、大きな発表があった。ドイツの金融庁は、国外の暗号資産事業者に対して、国内の事業者と同様の規制を適用する方針を明確にしている。新たな法律は2020年1月1日に施行されており、ドイツ人向けに事業を行う場合には国内事業者と同様のライセンスが必要となった。

新型コロナウイルスが、中国の暗号資産業界にも猛威を振るっている。ウイグル地区を拠点とする中国の大手ビットコインマイニング事業者であるBTC.topは、コロナウイルス拡大防止を名目として、国内警察より強制的な業務停止を命じられた。BTC.topのCEOである江卓尔氏によると、マイニング工場へ訪れた警察が稼働中のマイニングマシンを強制的にシャットダウンさせたという。

参照ソース

  • スイス規制当局、仮想通貨マネロン対策を厳格化へ [CoinPost]
  • Switzerland tightens crypto regulations to curb money laundering [Decrypt]
  • 独金融庁、外国の仮想通貨事業者にも国内規制基準を適用へ [CoinPost]
  • 新型コロナウイルスの影響でウイグル地区のマイニング施設が強制閉鎖 [仮想通貨 Watch]

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。暗号資産・ブロックチェーン業界で活躍するライターの育成サービス「PoLライターコース」を運営中。世界中の著名プロジェクトとパートナーシップを締結し、海外動向のリサーチ事業も展開している。Twitter:@tomohiro_tagami / @PoL_techtec