5分でわかるブロックチェーン講座

第5回

相次ぐ大手企業のブロックチェーン参入。内閣官房が産業発展へ向けた取り組みを開始

(Image: Shutterstock.com)

暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報にわかりやすく解説を加えてお届けします。

1.DeFiエコシステムを脅かす攻撃が発生

今週(2月18日から2月24日までの1週間)は、DeFi分野のプロジェクトにとって非常に重要な1週間となった。約1550万ドルの資金総額をロックしており、現時点で7番目に大きなDeFiプロジェクトとなっているbZxへの攻撃について紹介する。

DeFiレンディングプラットフォームであるbZxは、2月15日と2月19日に渡り攻撃被害を受けた。攻撃者は、1トランザクション内であれば無担保で暗号資産を借り入れることができる「フラッシュ・ローン」の仕組みを活用し、無担保で多額の利益を上げた。被害額は、1回目の攻撃で約35万ドル(約3800万円)、2回目の攻撃で約63万3000ドル(約6900万円)にのぼるという。具体的には、異なるDeFiプロジェクトを使い一方では借り入れ、一方では返済を行い、ETHの需給バランスを崩すことでその差益を獲得。要するに、自らアービトラージを発生させたのである。

攻撃を受けたbZxは、プラットフォームの一部を閉鎖し、既に攻撃を防ぐためのアップデートを済ませている。なお、損失はbZxが補填するという。

今回の一件に関しては、Nexus Mutualが初の補償を出した事例としても話題となった。Nexus Mutualは、DeFiプロジェクトに対する攻撃の際などに被害者への補償を行う「保険」サービスで、これ自体が一種のDeFiプロジェクトだ。通常、Nexus Mutualが補償を出すか否かはコミュニティの投票によって決定される。最初の投票では、コミュニティは補償を出さない方針で決定した。なぜなら今回の攻撃は、他人の有する暗号資産を盗んだわけではなく、異なるプロジェクト間の隙間をついたアービトラージによる差益を得たにすぎないためだ。しかし、最終的にはbZxのシステムにバグが発生していたことが発覚し、補償の対象となった。

近年急速に認知を拡大しているDeFi分野では、以前よりこういったプロジェクト同士を組み合わせた脆弱性が指摘されていた。今回、実際に攻撃が発生したことにより、全世界のDeFiプロジェクトは現実から目を背けることができなくなったといえる。今後の動向に引き続き注目していきたい。

参照ソース

  • 1週間に2度の攻撃で1億円超──DeFiレンディングを悪用、その手口とは?
    [CoinDesk Japan]
  • システムの穴を突いて仮想通貨ETHを大量に獲得した方法:元GoolgeエンジニアがbZx不正利用問題を解説
    [CoinPost]
  • Hacker Makes $360,000 ETH From a Flash Loan Single Transaction Involving Fulcrum, Compound, DyDx and Uniswap
    [Trustnodes]
  • bZxの被害額に保険 DeFi保険プロジェクト、初の補償を実施へ
    [CoinPost]

2.日本の内閣官房がブロックチェーン活用を推進

2月18日、内閣官房主催の「ブロックチェーンに関する関係府省庁連絡会議」が開催された。筆者は、bitFlyerの加納氏や森・濱田松本の増島弁護士と共に有識者として招待され、政策への提言を行なった。

開催の背景となったのは、Facebook主導のLibraや中国の国家戦略としてのブロックチェーン活用方針が大きい。これまで、国内では各府省庁が独立してブロックチェーンに取り組んできたが、内閣官房が横ぐしで連携するよう促す格好だ。

「非金融」をテーマに会は設定され、有識者会議ではブロックチェーン活用に関する政策への提言が行われた。そのため、進行中は暗号資産に関する言及が少なく、まさにブロックチェーンについての会議となった印象を受けている。今後も定期的に提言を行いつつ、政府の取り組みに注目していきたい。

3.過去のICOが罰金対象に

2017年にICOを実施したエニグマが、独自トークン「ENG」に関する罰金を受け入れた。エニグマは、当時の価格で約4500万ドル(約50億円)をICOにより調達している。このICOで発行した独自トークンENGが、未登録有価証券の販売に該当するとして、米国証券取引委員会(SEC)に申し立てられていた。

エニグマは、この申し立てを受け入れ罰金として50万ドル(約5600万円)を支払った。また、ICOに参加した投資家に対しても資金の返還を請求できるようにするという。今後のENGについては有価証券としての登録を行い、法律に則った形で情報開示義務に応じる方針を公表している。

法規制が整備されていない状態でICOを実施したプロジェクトに対する申し立て事例は、エニグマ以外にもいくつか見受けられる。過去に遡って申し立てを行うことは、新規産業の勃興やイノベーションを阻害する恐れがある。第3回講座で取り上げたが、一刻も早く柔軟な規制緩和が必要なのではないか。日本でもこういった議論が活発になることを期待したい。

なお、エニグマは、SECとの議論に一区切りがついたこのタイミングで、ENGのメインネットのローンチも発表している。既に20以上のバリデータがネットワーク上で稼働しており、今後の進捗に大きな動きが出そうだ。

参照ソース

  • 仮想通貨エニグマ、ICO投資家へ資金返却も可能に 米SECの未登録有価証券判断を受入れ
    [CoinPost]
  • エニグマ(Enigma)が米国証券取引委員会(SEC)との和解、メインネット立ち上げを発表
    [CoinChoice]
  • Enigma Announces Settlement with SEC and Successful Launch of Enigma Mainnet
    [Enigma Blog]

4.相次ぐ大手企業、金融機関によるブロックチェーン事業への参入

国内で暗号資産取引所を運営するディーカレットは、KDDIとauフィナンシャルホールディングス、ウェブマネーと共に、ブロックチェーンを活用したデジタル通貨の実証実験を行うと発表した。ディーカレットが開発したブロックチェーンを用いて、資金移動業の登録業者であるウェブマネーが発行するデジタル通貨を使い、KDDIが配布役を担う。

今回の実証実験の検証内容は、デジタル通貨の発行から焼却までの一連の流れと、それに伴うプロセスの自動化が可能かどうかだ。具体的には、スマートコントラクトを使い前日との気温差に従って飲み物の価格を変動させる。この場面で、想定通りにスマートコントラクトが動作するかを検証するという。

2020年に入ってから、既存の金融機関によるブロックチェーン産業への参入が目立つようになってきた。この1週間では、みずほフィナンシャルグループによるブロックチェーンを活用した、個人向けデジタル社債の発行に関する実証実験の発表もあった。実証実験には、ヤマダ電機、オリエントコーポレーション、ファミリーマート、みずほ銀行が社債の発行体として参加。岡三証券、岡三オンライン証券、松井証券、楽天証券、みずほ証券が証券会社として、株式会社みずほ銀行が社債管理者として参加するという。

こういった動きは、2020年中の施行が予定されている改正金融商品取引法を見据えてのものだ。改正金融商品取引法では、金融機関がブロックチェーン上で発行されるデジタル通貨を有価証券として取り扱えるようになる。ブロックチェーンを活用することで、これまで煩雑であった社債発行の仕組みを簡略化し、投資家へのサービスを充実させる意向だ。

参照ソース

  • KDDIとディーカレットら、デジタル通貨×スマートコントラクトを実証
    [仮想通貨 Watch]
  • ウェブマネー、デジタル通貨をブロックチェーンで発行する実証実験開始
    [仮想通貨 Watch]
  • みずほFG、ブロックチェーン活用した「個人向けデジタル社債」発行を実証実験
    [CoinPost]
  • ブロックチェーン技術を活用した「個人向けデジタル社債」の発行およびシステム基盤構築に向けた実証実験開始について
    [株式会社みずほフィナンシャルグループ]

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。暗号資産・ブロックチェーン業界で活躍するライターの育成サービス「PoLライターコース」を運営中。世界中の著名プロジェクトとパートナーシップを締結し、海外動向のリサーチ事業も展開している。Twitter:@tomohiro_tagami / @PoL_techtec