5分でわかるブロックチェーン講座

第6回

新型コロナウイルスにより問われるビットコインの真価。イーサリアムコミュニティにはかすかな亀裂も

(Image: Shutterstock.com)

暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報にわかりやすく解説を加えてお届けします。

1.新型コロナウイルスの影響は暗号資産市場にも

全世界に甚大な被害をもたらしている新型コロナウイルスの影響が、暗号資産市場にも猛威を振るっている。今週(2月25日から3月2日までの1週間)は、米国金融市場において景気減速を警戒した売りが入り、記録的な下落相場となった。ビットコインの価格も、連動するかのように大幅な下落を見せている。

一方のゴールドは7年ぶりの高値を維持しており、「デジタルゴールド」と呼ばれてきたビットコインとは対象的な動きとなった。つまり、ビットコインはデジタルゴールドとしての潜在的な需要を満たせていなかったのだ。これは、単純な価格の下落だけでなく、より大きな影響をビットコインに与えたといえるだろう。

新型コロナウイルスは、イベントやカンファレンスにも引き続き影響を与えている。日本経済新聞社と金融庁は2月27日、3月9日と10日に開催予定だった国際ブロックチェーンサミット「BG2C FIN/SUM BB」の延期を発表した。また韓国でも、2月29日から3月1日にかけてソウル市で開催予定だった、TRON Foundation主催のniTROn SUMMIT 2020の延期が確定している。ベトナムでは、世界最大規模の暗号資産取引所を運営するバイナンス主催のBinance Blockchain Week Vietnamが延期された。

被害の影響は政策にも出始めている。韓国政府は、1日に2000件以上の感染を確認したことを受け、官僚および国民の安全を優先する方針を出してきた。その結果、FATFガイドラインに沿った新たな暗号資産に関する法案の可決に、遅れが出ることが予想されている。

感染が深刻化する中国では、ブロックチェーンを活用したマスクの予約販売プラットフォームが登場している。中国江蘇省の蘇州市で開発されたこのシステムは、マスクの販売に公平性と透明性をもたせることが目的だ。蘇州市は、同済大学などと共同で「蘇州同済区ブロックチェーン研究院」を設立しており、同院が今回の取り組みを主導している。2月10日に販売受付を開始したところ、1日で54万人以上から注文が入ったという。

参照ソース

  • 米国株の記録的な下落も「押し目買いは危険」 ゴールドマンとシティが警告 仮想通貨投資家の動向は
    [CoinPost]
  • 金融庁と日経、新型コロナウイルス対策で3月開催の「BG2C FIN/SUM BB」を延期
    [仮想通貨 Watch]
  • 中国でマスクの抽選販売にブロックチェーン活用
    [仮想通貨 Watch]
  • Coronavirus stalls crucial South Korean crypto legislation
    [Decrypt]

2.ProgPoWの実装を巡りイーサリアムコミュニティに陰り

イーサリアムコミュニティに亀裂が生じている。2月22日に発表されたイーサリアムの新たなアップデートであるProgPoWを巡り、コミュニティ内で対立が発生した。

ProgPoW(Programmatic Proof-of-Work)は、ASICマイニングに耐性を持つアルゴリズムだ。ASICマイニングが進むことによる、ネットワークの中央集権化を阻止すべく考案されている。このProgPoWの実装タイミングが2月22日に発表されたところ、まずイーサリアム共同創業者のVitalik Buterin氏がその決定プロセスに異を唱えた。氏は、実装タイミングの発表にオープン性が欠けていたと意見している。

ProgPoWの実装は確定事項ではなかったため、Vitalik氏の意見に合わせるかのように、多くのコミュニティメンバーより実装自体に異を唱える動きが生じた。2月25日、ProgPoWの実装を再検討すべきとするコミュニティメンバーにより、嘆願書と署名者リストがGitHub上で公開されている。嘆願書には、UniswapでCEOを務めるHayden Adams氏やDeFi PulseのScott Lewis氏、DARMA Capitalの共同創業者であるAndrew Keys氏など、コミュニティで大きな影響力を持つメンバーが名を連ねた。

嘆願書では、「ProgPoWの実装はコミュニティに分裂をもたらす」と主張。「実装に異を唱えるメンバーがいる状態で、強制的に実行するのは正しい意思決定ではない」とされている。

  • イーサリアム、合意形成アルゴリズムProgPoWの7月実装は決定事項ではない
    [仮想通貨 Watch]
  • Ethereum community members submit dissenting ProgPoW petition
    [The Block]
  • Master Branch:EIPs/EIPS/eip-2538.md
    [GitHub]

3.日本銀行「決済の未来フォーラム」でCBDCについて言及

日本の中央銀行である日本銀行は2月27日、「決済の未来フォーラム」を開催した。同日中に、雨宮副総裁の挨拶文が公開されている。

「中銀デジタル通貨と決済システムの将来像」と題された雨宮氏の挨拶では、昨今急激に注目を集め始めているCBDC(Central Bank Digital Currency)についてが大部分を占めた。まずは冒頭でステーブルコインを例にあげ、「民間による新たな取り組みは、決済に対する顧客ニーズを示唆している」と言及した。こういった状況の中で、日本に限らず世界中の中央銀行が、CBDCを発行すべきかどうかを重要な検討課題として認識しているという。

雨宮氏は海外のCBDC検討事例として、スウェーデンやカンボジア、中国を取り上げた。これらの国々では、経済やインターネットインフラの整備状況によってCBDCに対する需要が異なっていると主張。日本を含む多くの欧米先進国の状況を見ると、上記の国々と同じ形でCBDC発行の必要性が高まっているわけではないという。従って、「現時点では規制や監督面での対応を図るというのが、主要先進国の方針だ」と説明した。

また、CBDCの発行は民間マネー同士の橋渡しに活かせる一方、銀行振込など既存の民間決済サービスをクラウドアウトする可能性があると主張。CBDCによる決済コストが民間マネーよりも大幅に低くなる場合、多くの小売店は民間マネーではなくCBDCを選択することになるだろう。その結果、中央銀行による民間事業の圧迫が起こり、経済の縮小に繋がる恐れがある。

雨宮氏は、こういった可能性を考慮した上で、「CBDCについては、より広く決済制度や金融システム全般に与える影響を含めた総合的な検討が必要だ」と述べている。

参照ソース

  • 【挨拶】中銀デジタル通貨と決済システムの将来像
    [日本銀行]

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。暗号資産・ブロックチェーン業界で活躍するライターの育成サービス「PoLライターコース」を運営中。世界中の著名プロジェクトとパートナーシップを締結し、海外動向のリサーチ事業も展開している。Twitter:@tomohiro_tagami / @PoL_techtec