イベントレポート

「仮想通貨じゃない!」ブロックチェーンのアプリコンテスト 〜BCCC技術応用部会レポート

第1回ブロックチェーンアプリコンテスト

 5月8日、一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)は「第1回『仮想通貨じゃない!』ブロックチェーンアプリコンテスト」を開催した。参加企業はBCCC会員企業のなかから、企業ごとにチームを組んで事前にエントリーした6社となっている。

「第1回ブロックチェーンアプリコンテスト」開催趣旨

 このアプリコンテストは、BCCCの分科会のひとつである技術応用部会での活動の一環として開催されたものである。前回4月9日の技術応用部会では、ブロックチェーンのアプリの基本的なコードをデプロイしてみるハンズオンセミナーを開催したが、今回はそれをさらに進め、アプリコンテスト形式で各社のスキル向上につなげていこうということだ。

 今回のコンテストにエントリーした各社は日常業務に加え、将来の技術としてブロックチェーンの技術を研究する立場にある人が多く、こうしたコンテストでの開発経験を通じて、より技術力を高めていこうという趣旨に賛同して参加している。

 とりわけ、BCCCではブロックチェーンという基盤技術が仮想通貨だけではなく、さまざまな産業における情報共有や情報交換のための基盤技術になりうるという趣旨のもとで活動していることから、加盟会社の業種も仮想通貨交換事業者や金融事業者のみならず、非常に多岐にわたっている。そのため、あえて「仮想通貨じゃない」という条件を設け、ブロックチェーンの特性を生かしたアイディアを出して競おうというわけだ。

 このコンテストは、よくあるハッカソンのように、集まったその場でチーム・ビルディングをしたり、所定の時間内で開発したりする形式ではなく、企業ごとの有志があらかじめチームを組んで企画を立ててエントリーし、大型連休を使って具体的に開発を行い、この場でプレゼンテーションするという趣向である。

BCCC代表理事・平野 洋一郎氏

 コンテストの開催に先立ち、BCCC代表理事である平野 洋一郎(インフォテリア株式会社・代表取締役)から開催の趣旨が説明された。平野氏はこの大型連休中に、米国ロサンゼルス郊外で開催されていた“米国版ダボス会議”とも称されるミルケン・グローバル・コンファレンスへ参加したことに触れられた。この会議は米国をはじめ、各国の政財界のリーダーが集い、世界の政治・経済・産業などについて話し合う場だという。そのなかではブロックチェーンについても語られたそうだ。

 金融政策の観点からすれば、もちろん仮想通貨の話題が中心にはなりがちだが、ブロックチェーンは仮想通貨以外での課題解決にも適用が可能な技術として、世界経済の基盤になるという認識がされ、集中的に議論がされているという。日本でも同様に仮想通貨の基盤技術として捉えられていることが多いようだが、ブロックチェーンはそれだけではない、今後の重要な技術基盤であるということを広く認知してもらうためのコンテストを意図していると述べた。

BCCC技術応用部会長・森 一弥氏

 BCCC技術応用部会長の森 一弥氏からは、コンテスト採点の方針が説明された。今回の作品は仮想通貨ではないということとし、ハッシュやトレーサビリティーを使ったアイディアを求めたとしている。また、審査方針として、審査委員の評価のほか、約100人の会場(聴衆)の表情をおよそ1分ごとに1枚ずつ撮影し、それを顔認識エンジンで分析し、楽しんでいるのか、退屈に思っているかを定量的に評価し、それを審査の参考にするということも説明された。また、この評価データはブロックチェーンを使って管理されているので、聴衆もWebブラウザーを使って閲覧できるが、改ざんができないという技術的な意図も説明された。

会場の評価システム
会場の評価システムの概要

 審査委員はBCCC会員企業で、以下の5名となっている。


    平野 洋一郎氏(インフォテリア株式会社・代表取締役)
    杉井 靖典氏(株式会社カレンシーポート・代表取締役)
    福原 智氏(株式会社トリプルアイズ)
    佐藤 直樹氏(日本マイクロソフト株式会社・テクニカルエバンジェリズム本部長)
    森 一弥氏(インフォテリア株式会社・ブロックチェーン事業推進室長)

エントリー作品の概要や審査

 エントリーした各社のメンバーは、システムインテグレーターとして技術開発に携わる人もいれば、自社の利用するシステムの開発に携わる人もいる。ただし、共通しているのは、将来的には、これまでに手がけてきたような開発案件はもとより、この技術が広まることで産業そのものの課題解決にも応用可能なのではないか、というビジョンを持って取り組んでいることだ。今回のエントリーは、その第一歩としての習作という位置付けになるだろう。

 今回のアプリコンテストにエントリーし、当日、プレゼンテーションされた作品の概要を以下に紹介する。なお、各賞は審査員の所属企業から提供されるとともに、グランプリに相当する最高位賞はBCCC賞となっている。

エントリー作品一覧

<エントリー1>白いアリバイ:株式会社エクサ(あったかいIT)

 この作品は「人が『いつ、どこに』いたのか」をブロックチェーンが「信頼のおける証言者」として証言するというコンセプトである。ブロックチェーンの高い耐改ざん性、トレーサビリティーを実装しようというアイディアだ。例えば、会社帰りに飲みに行く前に誰とどこへ行くのかなどを登録しておくことで、帰宅を待つ家族から、どこにいるかを確認できるという「会社員のあるある」なシナリオが想定されている。BCCC賞とカレンシーポート賞を受賞。

「白いアリバイ」のコンセプト
デモシナリオ
サービス概要
システム構成
株式会社エクサ「白いアリバイ」開発チーム

<エントリー2>LOCAVO(ロカボ):株式会社アイ・エス・アイソフトウェアー(チーム・アイ)

 この作品の名称であるLOCAVOは、場所(Location)、投票(Vote)、声(Voice)を組み合わせた造語で、さまざまな種類の情報をブロックチェーンによって共有し、利用しようというコンセプトだ。具体的には、気象情報サイトの天気、ニュースサイトの地域イベント、交通情報サイトの渋滞情報など、分散している情報にそれぞれアクセスしなければならないのは手間なので、地域にいるユーザー同士がその地域の情報を投稿して共有しようというもの。非定型なデータをビットコインのメッセージ欄を利用して記録しているため、今後は別のブロックチェーンの検討などが課題として上がっていた。インフォテリア賞を受賞。

「LOCAVO」のコンセプト
システム構成
画面例(1)
画面例(2)
「LOCAVO」の課題
株式会社アイ・エス・アイソフトウェアー「LOCAVO」開発チーム

<エントリー3>Duty Chain(当番管理アプリ):エヌエヌ生命保険株式会社(エヌエヌブロックチェーンチーム)

 この作品は同じ部署やオフィスで働くスタッフ間で持ち回る当番作業、例えばメール便を受け取ったり、昼食休憩時間のカスタマー対応担当者になったりする作業の順番を管理する機能を提供することを意図している。スタッフ名を登録し、当番の種類とその順番を記録していくというものだ。審査員からは当番作業の質などを他のスタッフが評価し、それによって当番を回していくような仕組みができると、よりブロックチェーンらしい仕組みができるのではないかというアドバイスがあった。さくらインターネット賞を受賞。

「Duty Chain」のコンセプト
システム構成
画面例(1)
画面例(2)
画面例(3)
エヌエヌ生命保険株式会社「Duty Chain」の開発チーム

<エントリー4>Lightning Networkの監視ツール:株式会社キューブシステム(いのべぇ)

 この作品はLightning Networkの監視ツールで、このアプリコンテストの趣旨からは若干ずれていると登壇者自身も述べている。本来、狙っていたテーマはIoTへの応用ということで、今回はさまざまな理由からそこまでは開発結果が到達できなかったということだ。しかし、現在のアプリコンテストの趣旨からすれば、なんであっても試してみることは重要で、しかも、狙いそのものの着眼点は面白そうなので、次回以降のエントリーに多いに期待したいところだ。トリプルアイズ賞を受賞。

「Lightning Networkの監視ツール」の開発動機
システム構成
株式会社キューブシステム「Lightning Networkの監視ツール」開発チーム

<エントリー5>モバイルワーカーのための出退勤記録システム:株式会社アイティーフォー(ITFOR技術企画部)

 この作品は出社退社の記録をブロックチェーンに記録するものだ。また、どこからでもスマートフォンで記録をすることができる。また、出退勤の時間を記録するだけでなく、その日の気分を5段階で記録するなど、ストレスチェック機能も実装したという。データの整合性保持(改ざん防止)や、共通の分散台帳としてのブロックチェーン利用など、ブロックチェーンらしいシステムであるということなどから、カレンシーポート賞/マイクロソフト賞を受賞。

「モバイルワーカーのための出退勤記録システム」のコンセプト
開発背景
システム構成
株式会社アイティーフォー「モバイルワーカーのための出退勤記録システム」の開発者

経験と評価、アドバイスが受けられる絶好のチャンス

 審査員からは、それぞれアプリの習作としては意欲的ではあるが、今後は既存のアプリケーションの考え方、例えばデータベースによる情報の共有を置き換えただけではなく、ブロックチェーンのアーキテクチャーをうまく利用するように発想を変える必要があるという指摘があった。また、なにを解決課題として設定するのかという観点においても、日常的な活動のなかにヒントが隠されているのではないかということと、さらに新しい発想やアプローチを求めたいという趣旨の指摘もなされた。

 また、この審査で利用した顔認識技術を使った観衆の感情評価システムは、エントリーされた作品ではないが面白い仕組みだという声もあがった。

 各社の技術者たちは、日常の業務とは別に、新しい技術への研鑽を積んでいかなければならないのは共通した課題だろう。しかし、モチベーションを維持しながら、かつ、自分たちの取り組みは他社との比較においてどういう進捗状況にあるのかを知ることはなかなか難しい。こうした業界団体の場において、自分たちの技術的なアイディアをシェアすることで、審査員をはじめとし、聴衆からの評価を受けることは、今後の取り組みを継続していくうえで必ずやプラスの影響を与えることになるだろう。

 また、ブロックチェーン技術のスペシャリストである審査員からは「こう考えたらどうか」というアドバイスも得られることから、研究段階にある技術者にとっては参考になることだろう。決して、作品の質の優劣やビジネス的な可能性の有無だけでなく、そこに含まれる技術的な着想や課題解決へのアプローチを一同が経験から学ぶという意味で、興味深い取り組みと思う。

 BCCCとしては、今後もこのコンテストは開催していくということであり、よりブロックチェーンらしいアプリケーションが登場してくることや、より画期的なアイディアが持ち込まれてくることに期待をしていきたい。

中島 由弘