イベントレポート

ブロックチェーン技術を活用するソーシャルメディア「ALIS」は日本にトークンエコノミーを根付かせることができるか?

ALISクローズドβ版公開記念イベント

編集部注:当編集部では民間自主規制団体・政府による投資家保護の枠組みが出来上がるまで、ICOやそれに類することを推奨する記事の作成は自粛する方針です。しかし、実証実験の段階までプロジェクトが到達したプロダクトについては積極的に紹介していきます。ICOのリスクについては、金融庁のWebサイト「仮想通貨の利用者のみなさまへ」、特に「ICO(Initial Coin Offering)について ~利用者及び事業者に対する注意喚起~」(2017年10月27日)をご一読ください。

 株式会社ALISは4月23日、東京都渋谷区のルミネゼロで「ALISクローズドβ版公開記念イベント」を開催。同時に、ブロックチェーン技術を活用したソーシャルメディア「ALIS」を公開した。本稿ではこのイベントについてレポートする。

 ALISは2017年9月にEthereumを利用してICO(Initial Coin Offering)を実施し、目標額の3.5億円を上回る約4.3億円を調達。信頼できる記事を書いた人と、信頼できる記事をいち早く見つけた人に、報酬としてALISトークンが支払われるメディアの実現を目指している。

株式会社ALISのCEO・安 昌浩氏

 ALISへ記事を投稿したり「いいね!」をしたりするには会員登録が必要だが、まだクローズドβ版のため利用枠が制限されている。筆者もイベント後にウェイティングリストへ登録してみたものの、残念ながら本稿執筆時点ではまだ利用開始できていない。

 投稿された記事は誰でも閲覧可能だが、トピックはいまのところ仮想通貨・ブロックチェーン技術関連に限定されている。また、ALISトークンによる報酬分配も開始されているが、ALISトークンの管理ツールである「ウォレット」が開発中のため、利用はできない。まだまだこれからの、まさにβ版の状態だ。

コミュニティーとの価値共創プロセス

 さて、いま「仮想通貨」「ICO」と聞くと、あなたはどのような印象を持つだろうか? セキュリティ不備による不正流出事件やICO詐欺、マネーロンダリングやテロ資金供与の疑い――そういうニュースや噂話を見聞きしていると、この界隈にはいまだ投機目的の有象無象が群がっているのではないだろうか? というのが、筆者の正直な印象だ。

 ただ、金融庁による仮想通貨交換業者に対する行政処分や、利用者保護、規制強化への動きもある。「日本仮想通貨交換業協会」が発足し、風説の流布による相場操縦やインサイダー取引に対する自主規制ルールの整備も進められようとしている。ブロックチェーン技術には筆者も可能性を感じているし、仮想通貨が投機目的ではなく、支払手段として利用される「トークンエコノミー」が今後広がっていくだろうとも思っている。

「ALIS」

 そうした中、ICOによる資金調達を成功させたALISがその後、β版とはいえ実際に動くサービスのリリースまでこぎつけたことは福音と言えよう。仮想通貨の企画や構想を公開する「ホワイトペーパー」の時点では、「ポエム」と揶揄されるような場合もある。しかし、実際に動く仕組みが公開され、ユーザーが体験することによって、絵に描いた餅からの脱却を図ることができる。

 イベントではALISの活動状況が報告されたが、興味深いのは「コミュニティー」の価値について繰り返し述べられていたこと。CEOの安氏は、「株式会社はゴールが株主の利益になってしまうが、トークンエコノミーはゴールをコミュニティーの価値にできる」と表現する。投資家、従業員、ユーザーのゴールを一致させられるというのだ。

株式会社とトークンエコノミーの違い

 CMO(最高マーケティング責任者)の水澤 貴氏は、「ALISの歩みはコミュニティーとの価値共創プロセスそのもの」と表現する。価値共創とは、企業と顧客が中長期的な関係をしっかり築き深く理解し合うこと、そして、相互に期待を超えた新しい価値を生み出すことだという。

 中長期的な関係を築くため、「Trello」を使ってタスク一覧を公開したり、Twitter公式アカウントで「今日のALIS活動」を毎日公開するなど、活動の透明性を高める努力をしている。また、オンラインチャットや各地域でのミートアップを開催したり、「InVision」でデザイン案を事前公開してフィードバックを受けるなどといったことも行われているそうだ。

「Trello」を使ってタスク一覧を全公開

 「コミュニティーの価値」が強調される理由は、端的に言えば「それがビジネスモデルだから」だ。システム開発と提供、そして、高評価記事にALISトークンを配布、いち早く発見した人にもASLISトークンを配布――そのための原資は、「価値の上がったALISトークンの販売」によって生み出す計画なのだ。一般的なWebメディアの多くが、広告収益に依存しているのとは対照的である。

 ALISの発展に寄与した人は、より多くのALISトークンが獲得できる。ALISトークンを保有している人は、ALISがより健全に発展していくことを望む。そのため、このコミュニティーのメンバーは、より信頼できる記事を書こうとするし、より信頼できる記事をいち早く見つけようとするし、より使い勝手の良いシステムを提供しようとするインセンティブが働く。これによりALISトークンの価値が高まり、より高値で取引されるようになる、という理屈なのだ。

2020年までのロードマップを公開

 イベントでは2020年までのロードマップも示されたが、未来のことは不確実性が高いからと、STEP1のマイルストーンに絞って詳しい説明が行われた。直近では、(1)使い心地の磨き込み(非公開記事のトークン購入、トークンによる記事リクエストなど)、②評価ロジックの磨き込み(信頼性のランク制度で報酬獲得量が変化、トークンパワーの委託など)、③トークン価値の上昇(投げ銭機能の導入と外部へのAPI提供など)に注力するという。

STEP1のマイルストーン

 筆者には正直、これが持続可能性の高いやり方なのかどうか、現時点では判断ができない。ある仮想通貨の価値が、いつまでも右肩上がりで伸び続けることはあり得るだろうか? 直感的には「難しい」と思えてしまう。ただ、これは売上・利益を追求する通常の企業にも、同じことが言える。不断の努力を続けたとしても、右肩上がりに売上・利益が伸び続ける企業というのはごく少数だ。

 なお、ALISのホワイトペーパーによると、ALISが参考にした「STEEM」は同じスキームですでに3.78億ドルの評価を得ているという(2017年7月9日時点)。また、「STEEM」をフォークしてロシア語で作り替えた「GOLOS(Голос)」も1800万ドル以上の評価を得ているそうだ(2017年7月17日時点)。ALISが先行する同様のサービスと同じような評価を得られるか、あるいは、もっと高い評価を得られるか、低い評価に終わってしまうかは、クローズドβ版公開後のこれから次第であろう。今後とも注視しておきたい。

 最後に、本稿執筆時点で筆者は、仮想通貨およびトークンを一切保持していないことを明示しておく。近いところでは唯一、「VALU」でアカウントは作成したが、売買はおろか優待設定もやったことがなく、ウォレットの中はからっぽだ。とはいえ、本稿がポジショントークではないことを信じるか否かは、読者の方々の判断にお任せする。

鷹野 凌

フリーライター/ブロガー。NPO法人日本独立作家同盟 理事長。明星大学(デジタル編集論)と実践女子短期大学(デジタル出版演習・デジタル出版論)の非常勤講師。著書は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)など。