イベントレポート

iChainが保険事業者向けにインシュアテック(保険+テック)領域でのブロックチェーン技術検証を実施

BCCC 第15回金融部会

BCCC 第15回金融部会

 一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)は6月21日、第15回金融部会を開催した。今回の金融部会では、講師にiChain株式会社・取締役COOの後藤 康成氏を招き、同社が開発する保険事業者向けブロックチェーンプラットフォーム「iChain Base」の実用化に向けた、インシュアテック領域でのブロックチェーン技術検証について解説をした。

iChain株式会社・取締役COOの後藤 康成氏

 インシュアテックとは、Insurance(保険)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた造語「InsurTech」で、保険事業の収益性を高め、効率化を図ることを目的とする、保険事業における最新情報技術を指す新しい言葉。iChainは、インシュアテック領域にて起業したばかりのスタートアップ企業であると後藤氏は自社紹介をする。

 当日は、iChainが保険事業分野でのブロックチェーンの早期適用を目指している「Ethereum - Proof of Authority」を使用した保険業務プラットフォーム「iChain Base」の実用化に向けた技術検証の概要と、それに併せてインシュアテックのマーケット規模について解説が行われた。

 はじめに後藤氏は、世界におけるインシュアテック領域のスタートアップ企業の資金調達規模について説明した。まず日本でのインシュアテックは、スタートアップ企業が出てくるというよりは、保険事業を行っている既存の保険会社が自社で研究開発を行っているケースが多いそうだ。それに対して海外では、インシュアテック・スタートアップへの投資金額は2,420億円を超えており、件数にして200件以上の実績があるとのこと。また、インシュアテック企業に対するM&A(企業の合弁・買収)は、金額にして6,150億円を超え、80件を超える実例があるという数字が出ているそうだ。また、これらを地域別に金額ベースで見てみると、圧倒的に北米が多く、全体の63%を北米が占め、残りの37%をヨーロッパとアジアが分け合っている状況だという。ちなみに日本は、全体の2~3%程度ではないかと後藤氏はいう。

インシュアテック企業の資金調達状況、2017年データ(FT Partners調べ)

 この海外と日本のインシュアテックに対する投資意識の違いについて後藤氏は、社会保障制度の問題も大きく影響しているのではないかという。北米のように健康保険に加入している人が少ない地域と、日本のように国民全員が何らかの健康保険に加入している地域とでは、おのずと保険に対する意識が異なり、健康保険がない北米ではインシュアテック領域に対する関心度が高く、よりマーケットも大きくなっていると分析をしているそうだ。

 次に、iChainが独自に調べた、日本の保険業界の市場規模とインシュアテックの状況についての紹介があった。まず日本の保険業界の市場規模は、42兆円超とのこと。これは金融庁が管轄をする保険会社各社の生命保険、損害保険、少額短期保険の保険料を合算したものであるため、この数字にはそのほかの省庁が管轄をするかんぽや共済は含まれていないとのこと。

日本の保険業界の市場規模

 なお、各保険の毎年の新規契約数は、生命保険が1,930万件、損害保険は1億3,681万件、少額短期保険については数字が出ていないとのこと。生命保険の件数が損害保険と比べて極端に少ないのは、生命保険は終身保険などが多い性質上、長期契約の保険が多いからだそうだ。

 そんな市場におけるインシュアテックのスタートアップは、iChainが活動をするこの半年間で、わずかに10社に届くかどうかという数の企業しかないそうだ。この状況なので、iChainでは競合他社というよりは、一緒になってインシュアテックのマーケットを盛り上げていきましょうというスタンスで活動をしているとのこと。

 iChainは、まずは保険証券の一括管理、保険の支払い部分にフォーカスを当てた事業を進めていきながら、インシュアテックのマーケットを大きくしていきたいという。現在、iChainが無料提供をする保険ポートフォリオ管理アプリ「iChain保険ウォレット」では、加入保険の保険証の管理、契約情報の一括更新ができるとのこと。

 多くの人が、保険会社から証券が送られてくると、封筒に入れたまま金庫や引き出しにしまってしまうことから、自分の加入している保険がどういうケースをカバーしている保険なのかを正確に把握できている人は少なく、保険証券情報について家族とシェアできていないこともほとんどだという。また、引っ越しをして住所が変わったり、結婚をして名字が変わったなど、ライフイベントタイミングでの契約情報の更新を、もっと簡単に行いたいなど、そういった課題を解決するために、インシュアテックを活用していきたいそうだ。

アプリのデモンストレーションも行われた

 さらにiChainは、保険事業者向けの保険業務プラットフォームとして開発中の「iChain Base」で、保険証券情報をブロックチェーン上に保存することで安全性、信頼性が担保された環境を提供していく。「iChain Base」を保険事業者の基幹システムとAPIで連携させながら、「iChain保険ウォレット」で保険契約者に対して保険証券情報を提供していく。

 また、「iChain Base」では、保険会社に提供をするサービスとして、契約(保険証券)管理、顧客のクレーム管理、スマートコントラクトによる給付金や保険金の自動支払い、AIによる不正請求の検知を行うほか、「iChain保険ウォレット」との連携によるユーザー動向を分析した情報をベースにマーケティング情報を提供していく計画であるという。

「iChain Base」の概要

 そこでiChainでは、「iChain Base」の安定したシステムオペレーションを実現するために、ブロックチェーンによる秘匿性の確保、システムが継続して稼働できるかどうかの可用性の確認、スマートコントラクト機能の信頼性確立など、ブロックチェーンに関する技術検証を実施。今回は、Ethereum(イーサリアム)のプライベート・ネットワークを使って検証をする。

ちなみにプライベート・ネットワークとは、1つの組織が管理するノードのみが参加可能なネットワーク。将来的には、コンソーシアム・ネットワークを使い、あらかじめ参加を許されたノードのみが参加することが可能なネットワーク上で運営をしていく。また、ブロックチェーンのアルゴリズムは、決められた承認者のみが承認をするPoA(Proof of Authority)を使用する。ここでの承認者は、保険事業者を想定しているとのこと。

「iChain Base」に採用するブロックチェーン

 なお、あらかじめ決められた承認者(バリデーター)のみが承認をするPoAは、厳密にいうとブロックチェーンとは呼べないという意見もあるが、バリデーターをたとえば公証人のような公正かつ厳格に判断ができる承認者を置くことで、不正に対処できるという。また、今回の技術検証では、ノードをどこまで増やすことが可能かなど、PoAが正常動作するのかといった動作確認も行っている。

 そのほか技術検証では、金融分野における個人情報保護に関するガイドラインに適合するセキュリティーレベルを実現させるために、段階的なセキュリティーレベルの設計といった、実用面での検証も行っているとのこと。

 以上をもって、インシュアテック領域でのブロックチェーン技術検証についての解説は終了となった。なお、今回の技術検証に関する結果については、近々成果発表としてiChainよりリリースする予定とのこと。

高橋ピョン太