イベントレポート

「仮想通貨の分離課税化は国民の理解得られるか疑問」という麻生財務相の答弁、藤巻議員からの質問を含めて内容&文脈を確認してみた

参議院予算委員会

 6月25日午後の参議院予算委員会で麻生 太郎財務大臣は、日本維新の会所属の藤巻 健史議員(参議院)の質問を受けて、仮想通貨で得た利益に対する税率を「雑所得」から「分離課税」に変更すべきではないかという指摘は、国民の理解を得られるか疑問であると答弁し、仮想通貨の税制問題について慎重な姿勢を示した。

 参議院予算委員会での藤巻議員からの質問に対する麻生財務相の答弁について、ロイターは同日、「仮想通貨の分離課税化、国民の理解得られるか疑問=麻生財務相」という報道を行い、政府の見解を要約する内容の記事を掲載した。

 今回のロイターの記事では、麻生財務相の答弁について詳しく解説するも、藤巻議員がどのような質問を行ったのかについては触れられていないので、今回、本稿では公平を期するために、参議院インターネット審議中継サイトより同日の予算委員会の審議映像を視聴し、質問および答弁について、詳しく報告したい。

 なお本稿では、予算委員会の質問や答弁の内容に関して、流れの要約や意訳をせず、口語による表現を簡潔にまとめるのみにとどめることとする。

 約3時間30分におよぶ当日の予算委員会での藤巻議員の質問時間は、20分。まずは、藤巻議員の質問から行われた。

日本維新の会所属の藤巻 健史参議院議員(参議院インターネット審議中継サイト「参議院予算委員会(第二十回)(開会日:2018年6月25日)」の動画から引用)

 政府は、安倍政権で景気が良くなったというが、日本の景気は30年前の1985年(バブルの始まった年)と比べ、2015年の名目GDPは1.5倍にしかなっていない。ほかの国のGDPの成長率と比べると、かなり低いと議員はいう。そこで日本維新の会は、日本の産業にはグレートリセット(大改革)が必要であると考えていると述べる。

 将来、日本の産業、未来の日本がどうやって生き延びていくかを考え、それを国が認識をしてサポートしていかなければならないという。しかしこの国は、とかく何かの産業をリードしていこうと決まると政府が旗を振ってしまうが、そうではなくて「余計なことをするな」というのがここは重要で、余計な規制などをしないということが大切だという。

 藤巻議員は、1980年代にJPモルガンに務めていたとのこと。80年代後半にJPモルガンのウェザストン会長が東京に来て演説を行ったことがあるが、当時会長が「5年前に存在しなかったビジネスで、今の収益の40%をたたき出している」と語ったことが印象的だという。その頃のJPモルガンは、4、5兆円の利益を出していた会社だったが、そのうちの4割が5年前には存在しなかったビジネスで稼いでいるというのが思い出されるとのこと。

 その5年前には存在していなかったというビジネスは「金利スワップ」というデリバティブ(金融派生商品)で、当時の日本の銀行はまったく買ってなかった金融商品だったとのこと。なぜならば、当時の日本の銀行は「長短金融の分離」という政策で、長期取引の金融商品は長期信用銀行や信託銀行で、短期取引の金融は普通銀行である地方銀行や都銀がやるといった完全分離の政策で、金融機関の中に大きな垣根があったという。

 この「金利スワップ」というのは、その垣根を取り壊してしまうような、金融機関間での商品のため、日本の銀行は規制を壊してしまう商品を取り扱うことができず、儲かる商品だとわかっていても、5年間まったく手を出せなかったとのこと。その5年の遅れというのが、今の日本の銀行とアメリカの銀行の差につながっていると議員は言う。ウェルズ・ファーゴやJPモルガンという世界でトップクラスの金融機関は、日本のメガバンクと呼ばれている銀行の5倍から10倍の利益を上げている存在だという。つまり規制によって、日本の銀行は5年間も遅れてしまったそうだ。

 議員は、それと同じように、将来稼ぎ頭になるであろう産業を、政府が規制などで妨げてはいけないという思いがあるという。そこで今心配なのが、ブロックチェーン技術だとのこと。ブロックチェーンは、インターネットビジネスの次に来る日本の成長産業の1つではないかといわれているので、これを政府が規制し、成長を妨げてはいけないと思うと述べた。

 よく公文書などの決済で、安倍総理は電子決済を導入しようという指示をしていると聞くが、たしかに電子決済は改ざん記録なども残せるが、それを消去することができるプログラムがあるため、完璧なものではない。しかしブロックチェーンであれば、改ざん自身ができない。まさに公文書を改ざんしないという対策に使える優れた技術であると熱弁をする。また行政だけではなく、インターネットビジネスに次ぐ偉大なるビジネスである可能性が非常に高いので、まずはそれを国が守らなくてはならないと。

 まずここまではいいのだが、問題はブロックチェーンと表裏の関係にある仮想通貨だと議員は言う。ブロックチェーンは今後必要不可欠な技術となるのでサポートをするが、しかし仮想通貨はだめということになると、当然のことながらブロックチェーン技術が世界に遅れを取ることになる。これから非常に期待できる日本のブロックチェーン技術をブロックしてしまうことになりかねない。ということで、ブロックチェーンと仮想通貨は一体と考え、発展させていかなければならないと思うとのこと。そのときに何が仮想通貨で問題になるかというと、金融庁がやっている消費者保護は重要だと思うが、実は税制であると議員は言う。

 今の仮想通貨は、もうけが総合所得の中の「雑所得」になるが、去年、仮想通貨は大きく値上がりしたため、非常に多くの税金を払っている人がいるとのこと。「雑所得」は、最大で55%という高い税金になるが、しかし今年は仮想通貨の値段が落ちていることから、大損をしている人もいる。しかし、これに対してはなんの穴埋めもないことが問題だという。「雑所得」であると、「給与所得」や「不動産所得」のようなものと「損益通算」することもできないし、翌年に繰り越すこともできない。儲かればごっそり税金をもらって、損をしたら何もしないというのは、あまりにもひどい税制だと思うと議員は述べた。

 通常、もうけたり大損したりするというような金融商品で、総合課税になっているものはないとも議員はいう。要は株やFXのようにもうけたり損をしたりする商品は、税率の低い分離課税になっているのが普通ではないかという。議員は参議院の財政金融委員会にも参加していることから、税務当局からもいろいろ話が聞くが、たしかに税の論理からすれば「雑所得」で納得する部分もある。しかし日本の未来を築くかもしれないブロックチェーンならびに仮想通貨については、税の論理でいっちゃいけないと思うとのこと。税制で日本の未来をつぶしてはいけないのではないだろうか。そういう意味でいうと、今の税制は日本の未来を殺しているのではないかと思うが、仮想通貨については、税の論理ではなく、首相がリーダーシップを取って、税の改正をしていくということが重要だと思うが、いかがでしょう? というのが議員の質問の趣旨だ。

 以上の質問に対して、今回は麻生財務相が答弁をした。

答弁をする麻生 太郎財務大臣(参議院インターネット審議中継サイト「参議院予算委員会(第二十回)(開会日:2018年6月25日)」の動画から引用)

 麻生財務相は答弁の冒頭で、このブロックチェーンと仮想通貨について、国際金融の世界では、今、「仮想通貨」という言葉はほとんど使わない言葉だという。現在は、「クリプトアセット」「暗号資産」という言葉が「仮想通貨」「バーチャルカレンシー」に代わって使われてきているとまとめた。

 しかしながらまだ日本は、法改正もそこまでたどり着いていないと強調する。これらの問題に関して、使われる用語が煩雑に変わっていく、また短期間のうちに変わっていくものほど、世の中で極めてどうなるかわからんものの1つだと思っていると、麻生財務相は言う。少なくともこの仮想通貨、クリプトアセットについては、ご存じのように中国では禁止になっている。また我々金融庁は、利用者が詐欺にあったとか、損をしたといった、利用者の利益に関して、引き続きしっかりと見守っていかなければならないのが、金融庁の立場であるという。その上で、議員はこの仮想通貨の取引を20%の分離課税にせよと、おっしゃっていると思うが、これは同じ1億円を稼いだという話が、給与や事業をやって稼いだ方は、最大で55%の税率がかかり、かたわら仮想通貨、暗号資産を利用した人は20%でいいという話が、はたしてこれは世間で通用する話だろうかとつなげた。我々がまず思うのは、国民の理解が得られるだろうかということだと回答をした。

 また株などのようものと同じように、いわゆる現金を証券や債権に換えて資産運用をしていこうと、我々は言うことがあるが、その中の1つに仮想通貨を推奨するということにしたとして、このクリプトアセットというのは信用が国際社会で得られているであろうかということだという。おそらくそういうことをしている国はないと思うが、その点に関して、疑問であると述べた。

 さらに3つ目として、これは仮想通貨をやるにあたって、ブロックチェーンというコンピューターを使った技術というのが間違いなく必要。これがなければ成り立つ話ではないので、ブロックチェーン技術は育成していくが、仮想通貨以外にもブロックチェーンというのは使えるから、そういった意味ではブロックチェーンの技術をより育成していくために、いわゆる仮想通貨の購入、利用というのを後押しする必要があるのかどうか。その点について、さまざまな問題があるのではないかと思っているとのこと。

 またこの件に関しては、これは日本が遅れている話だと言われているようだが、たぶんこれは私は日本が一番進んでいる。いろんな意味で私どもは、慎重に対応していきながらも、育成をしていくという方向で考えていくことが大事なものだと考えていると答弁を結んだ。

 麻生財務相の答弁に対して藤巻議員は、育成をするということが極めて重要で、先ほどからブロックチェーンを発展させるのが重要であると、自分は言っていると主張した。だから、ブロックするような税制を変えろと申し上げているのであって、大臣は給料や事業所得が税率55%で、仮想通貨が20%の分離課税になるのはおかしいというが、それも先ほど述べた通り、給料というのは大きいマイナスがあったり儲かったりするものではないし、マイナスになるなんていうことがないのだから、それは高い税制であるのもわかるという話だと述べた。

 仮想通貨で儲かっている方は、汗をかいて働いてないかもしれないが冷や汗はかいている。リスクマネーについておかしいというのであれば、日本の「リスクテイク」なんてできなくて、日本の将来は低迷したままになりますよと、感想を述べるも、しかし時間がきたのでこれはこのままにしておくが……。と、藤巻議員は仮想通貨に関する質問を終えた。

 なお、本予算委員会の審議映像については、インターネット環境があれば誰でも参議院インターネット審議中継サイトにて視聴をすることが可能なので、興味のある方はチェックしてみていただきたい。

参議院インターネット審議中継サイト

高橋ピョン太