イベントレポート

ブロックチェーンと仮想通貨の業界健全化は反社情報共有とRPAによるKYCが鍵

BCCCの金融&リスク管理合同部会での報告

 一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)は8月31日、金融部会とリスク管理部会の合同部会を開催した。今回の部会では、前半に日本信用情報サービス株式会社代表取締役の小塚直志氏を招き、複数の信用調査会社が反社会的勢力の情報を共有し、KYCを行うコンソーシアムによる取り組みについて伺った。また後半は、株式会社マネーパートナーズソリューションズ執行役員の中尾哲也氏が、バックオフィス業務やリスク情報収集業務の自動化を実現するRPA(Robotic Process Automation)について、具体的な活用方法を解説した。

コンソーシアムによる情報の共有化が重要

日本信用情報サービス株式会社代表取締役の小塚直志氏

 日本信用情報サービスの小塚氏は、「ブロックチェーン、仮想通貨業界でのリスク情報を提供するための情報提供企業におけるコンソーシアムの結成について」というテーマで、仮想通貨業界を健全に運用していくためのリスク対策として、特に顧客の本人確認であるKYC(Know Your Customer)が重要であることを解説した。

 小塚氏が経営する日本信用情報サービスは、業務のひとつとして反社会的勢力(反社)のデータベースやKYC対策のリスク情報を提供するサービスを行っているという。現在、多くの仮想通貨交換所が金融庁より指摘されている改善すべき業務として、反社およびKYCに関する業務の改善、マネーロンダリング対策の強化が挙げられているが、それらをカバーするサービスを提供しているそうだ。しかし小塚氏は、仮想通貨のようなグローバルに業務展開をする業界において、これらの情報を一企業だけで提供して行くには、コスト面やまた情報収集の面において非常に困難だ時代だという。そこで小塚氏は、リスク対策のコンソーシアムを発足し、参加企業が互いに保有するリスク管理情報を共有しあいながら、新たな情報を蓄積していくことが重要であると述べる。

 コンソーシアムで、まずはリスク管理情報を共有し、ブロックチェーンの健全性や仮想通貨交換業務の安全性を担保するために、これらのリスク情報を導入する企業のコスト削減の実現も視野に入れ、お互いが協力し合える体制を作っていきたいとのこと。

 コンソーシアムは8月31日現在、日本信用情報サービスをはじめ、金融系取引・情報システムなどを提供する株式会社マネーパートナーズソリューションズ、IPアドレスのブラック情報に強い株式会社Geolocation Technology、そしてブロックチェーン基礎研究の第一人者であるカレンシーポート株式会社が参加し、すでに活動を開始しているとのこと。またそのほかの企業も、参加協議中であることを明かした。

 さらに小塚氏はKYCについて、今後どんな情報が有効になるか、その一例を紹介した。

 まず1つは、企業に入り込んだ不健全勢力の情報を洗い出すことが大切だという。現在、上場会社の支配株主に不健全勢力が入っている例があるそうだ。気が付けば不健全勢力が大株主となり、経営権を握って会社を支配してしまうという。これらは決まって一個人の経営判断が支配をしているのが特徴だが、企業名で偽装し健全な株主に見えるので普通は判断がつきにくいとのこと。しかし、しっかりと会社の登記簿謄本まで調べれば、不健全勢力である個人を特定することが可能であるという。こういったことを調べることも重要とのこと。

 また、口座開設におけるKYCの確認方法に免許証やパスポートを使用することが多いが、それらが偽造されていることも多々あるので注意が必要であると、小塚氏はいう。登録する銀行口座についても、外国人就労者が日本を出国する際に闇で売買している口座が使われることもあるという。一見してこれらを判断するのは難しそうだが、実は住所に着目をすると判断がつくことがあるそうだ。こういった偽造書類に使用されている住所の多くが、反社会的勢力が経営するアパートやマンションの住所を使っていることもあるので、そういった情報の収集が必要であるとのこと。

 KYC1つを取ってみても、ただ本人確認ができれば済む問題ではないことが、小塚氏の話から理解することができた。

リスク情報収集業務をRPAツールで自動化

株式会社マネーパートナーズソリューションズ執行役員の中尾哲也氏

 後半は、リスク情報収集業務の自動化を実現するRPA(Robotic Process Automation)の解説と、具体的な利用方法について、マネーパートナーズソリューションズの中尾哲也氏から伺った。

 証券取引やFXなど金融商品を扱うマネーパートナーズソリューションズは、バックオフィス業務やリスク情報収集業務に、RPAを導入しているという。RPAとは、AIなどの認知技術を活用したロボットによる情報収集のこと。Webを巡回しながら情報を収集したり、パソコンを使用した繰り返し作業など、主にホワイトカラー業務の効率化・自動化を図る取り組みを指す言葉だと、中尾氏は解説する。RPAは、人間の補完として業務を遂行できることから、仮想知的労働者(Digital Labor)とも言われているそうだ。

 RPAツールは、人と情報システムの間に介在し、人の作業の一部を代行してくれるツールとのこと。RPAツールを使うことで、既存の業務システムの変更なしに圧倒的な労働生産性の向上が見込めるため、注目されていると中尾氏は言う。

 中尾氏はRPAツールの活用例として、SNSや動画サイトの監視業務の例を紹介した。RPAツールを使用することで、法に触れるような違法コンテンツの発見や、ルールにそぐわないコンテンツの調査・監視を、24時間休まずに行えるという。

 また、マネーパートナーズソリューションズでは、これまで10人程度で行っていた口座開設のKYCについて、その8割の作業をRPAで行い、残りの2割を人がやっていると明かした。今はロボットが、全体の8割程度の口座開設の承認ボタンを押しているのだそうだ。

 中尾氏はRPAツールについて、実際にRPAテクノロジーズの「BizRobo!」というツールを使った実演で、RPAがいかに簡単であるかという実例を示してくれた。「BizRobo!」は、Webページやエクセル、テキストファイル、データベースなど、電子化された情報を扱う業務のうち、情報を検索、収集、抽出するという作業を自動的に行わせることができ、それを集計したり加工することも可能であり、また取得した情報を確認しながらルールに基づき、業務フローの分岐など、RPAツールに判断させることもできるとのこと。さらには、この結果をデータベースに書き込んだり、帳票の作成やレポートの作成、Webでの公開など、あらゆる出力にも対応させることができるという。

「BizRobo!」というRPAツールで実演

 これら一連の作業をツールに覚えされるのも簡単であると中尾氏は言いながら、Yahoo!のとあるランキングの集計を自動的にやらせる方法を実例として登録し、その結果の集計までをデモンストレーションした。

 中尾氏はRPAツールのメリットは、既存のシステムをそのまま使用し作業が行えることであるという。今後、口座開設の審査や、疑義チェックなど、自動でできる作業については、RPAでどんどん自動化し、より大変な作業を人が行うなど、そういう工夫もリスク管理では大切であろうとのこと。最後に中尾氏は、今後はブロックチェーンとRPAのコラボにも期待したいと締めくくり、本日の金融部会とリスク管理部会による合同部会は終了となった。

高橋ピョン太