イベントレポート

コーヒーの輸出入にブロックチェーン活用のトレーサビリティを導入

農園からカフェまで生産履歴管理でフェアトレード実現、BCCCトレーサビリティ部会

 一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)は10月31日、第2回トレーサビリティ部会を開催した。今回のトレーサビリティ部会では、コーヒー生産地にてブロックチェーンを活用した新たなトレーサビリティを導入する米国Yave.io Product Management社Co Founder(共同創業者)のKai Chang氏を招き、ブロックチェーンによるコーヒー豆のサプライチェーンにおける生産履歴管理について伺った。

 Yave.io社は、ブロックチェーン技術を使いトレーサビリティと取引の透明性を確保し、グローバルな環境で売買が行われるコーヒー業界においてコーヒー豆の取引が公平に行われるように、コーヒー農園から各国のコーヒーショップやカフェまでのトレーサビリティを実現するプロジェクトを推進している。Yave.io社が扱うコーヒー豆は、スペシャルティコーヒーと呼ばれるプレミアムコーヒーだ。トレーサビリティ部会では、Yave.io社がどのようにブロックチェーンを活用しコーヒー豆のトレーサビリティを管理しているのかをKai氏が解説する。

Yave.io Product Management社のKai Chang氏

活動拠点は、シアトルとバンクーバー

 Yave.io社は4名の共同創業者で設立した会社で、メンバーは米国シアトルおよびカナダのバンクーバーにて活動しているとのこと。

共同創業者メンバー

 ちなみに創業者の1人であるScott Tupper氏は、コーヒー豆の焙煎をする会社も経営しているそうだ。また、Yave.io社の経営陣には他業種のアドバイザー経験者がいるほか、コーヒー業界の専門家、政府のトレーディング関係の専門家、ブロックチェーン関連の技術者、農地の関係でスペイン語担当、コーヒー業界専門紙を刊行する出版社のメンバーが所属しているという。

la marzocco Cafe & Showroom「KEXP」

 写真はシアトルのKEXPというカフェ。シアトルでは、ランドマーク的なカフェだというKai氏は、ここでScott氏に出会い、初対面ながらもコーヒーについて意気投合し、公平にコーヒー豆の取引を行いたいというScott氏の夢と情熱に賛同し、Kai氏自身のバックグラウンドであるコンピューターや農業に携わったことなど語り合ったそうだ。

 コーヒーにはさまざまなフレーバーがあるが、Yave.io社が扱っているスペシャルティコーヒーは特にフレーバーを重視し評価されるコーヒーで、コーヒー専門家が100点満点で80点以上の評価をしたもののみスペシャルティコーヒーと認められるという高価な豆だという。ちなみに、スペシャルティコーヒーは通常のコーヒーの価格の3倍から6倍近い価格で取引が行われているのだとか。

コーヒー業界のアナログ的なトレーサビリティ

 写真は、現在のコーヒー業界におけるトレーサビリティの実情を撮影したもので、Scott氏が以前、コスタリカのコーヒー農園を訪れたときに、たまたま農園監査のプロセスを見る機会があり、この資料を拝見することができたそうだ。コーヒー農園の監査は非常に時間がかかるもので、とてもアナログ的な方法で行われているとKai氏はいう。この時の監査は、3日間ほどかかったとのこと。

 ちなみにこの監査は、フェアトレード(公正取引・公平貿易)と呼ばれているもので、発展途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することを通じ、立場の弱い生産者や労働者の生活改善と自立を目指す運動の一貫における取引のこと。資料は紙ベースで、非常に分厚いバインダーにとじられているそうだ。

 これらが、Yave.io社がコーヒー豆のサプライチェーンにブロックチェーンを持ち込んだ理由の1つであるという。コーヒー豆の取引における各種取引データが、海に浮かぶ島のようにバラバラにある状況に、我々が橋をかけてつないでいくようなイメージで、トレーサビリティと透明性を確保しようという試みであると、Kai氏は語る。

 コーヒー豆のサプライチェーンは、4つのエリアに分けられるという。それぞれのパートをアイコンで現しているのが、以下の図になる。

コーヒー豆のサプライチェーンをアイコンで分類

 まずは資料の一番左端は、プロデューサーエリアと呼ばれるコーヒー豆の栽培と出荷プロセスのエリア。アイコンのすぐ下の写真は、グァテマラのコーヒー農園の様子だそうだ。

 その次のステップは、ミルと呼ばれるコーヒー豆の加工業者の段階で、まだコーヒー豆が緑色の実の状態で加工されるプロセスとのこと。ここでも重要なコーヒー豆に関する属性データが、調査の上でシステムに入力されるという。

 そして次のステップである輸出・輸入のプロセスを経て、最後の段階としてコーヒー豆を包装して販売、あるいは焙煎をして顧客もしくはカフェにてコーヒーが提供されるという状況になるという。

 Yave.io社のプロジェクトは、この流れをブロックチェーンによりトレースするものだという。ちなみに、ここで使われているブロックチェーン技術は「HyperLedger fabric」とのことだが、Hyperledgerを選択した理由は、Yave.io社のエンジニアが開発しやすい環境で選んだという。また、プロジェクトに対してカナダ政府より助成金の許可もおり、開発も順調であるという。

現在開発中のプラットフォーム「Yave Platform」

Yave Platform

 上記の図は、Yave.io社が現在開発を行っているプラットフォーム「Yave Platform」を現しているもの。システムは、5つの要素に分かれているという。

 まず1番左の部分、ここは物理的なコーヒー豆に対して発行される「デジタルID」を発行する最初のパートとなる。プロデューサーとコーヒー農家はデジタルIDを受け取り、プロデューサー名、コーヒーの産地、出荷量のほか、コーヒー豆に関する情報を入力する。入力された情報は、デジタルIDをキーにブロックチェーンに記録されていくとのこと。

 コーヒー豆は、コーヒー農園から出荷されると次の業者であるミルなどが、コーヒー生豆にするなど加工を行うが、その際に豆の品質などをチェックするために、焙煎したサンプルを出し、コーヒーの香り、味覚、形など詳細を含むコーヒーに関する説明や品質の評価を設定する。ブロックチェーンには、こういった情報も記載され、また評価によって価格なども決定するなど、重要な記録されていくそうだ。

 そして2番目が、「スマートコントラクト」のパート。サプライチェーンに関わるすべてのエージェントや関係者がここで合流し、リアルタイムで自動的に契約や取引などを行うことができる大事なパートであるという。価格決定に関しては、それまでに記録されたコーヒー豆の情報がすべて参照されることになる。

 3番目は「ダイレクトペイメント」というパートで、コーヒーの農家が迅速に直接支払を受けることができる箇所になるとのこと。これまでの流れから、コーヒー豆の真の価格が決定し、農家は公平な評価に基づきその支払を受けることができるという。

 また、こうした取引情報は、サプライチェーンに関わるすべての人がシステムにアクセスすることができるようになっているとのこと。ただし、コーヒー農家や各業者のアドレス等プライバシーに関する情報については厳密に保護されているという。

 最後は、「グラスパイプライン」と呼ばれるパート。サプライチェーン内における取引で、今、何が起こっているのかを誰もが正確に把握できる透明性を確保する箇所になる。最終的にコーヒー豆はいくらになり、かつコーヒー農家にいくら支払われたかなど、すべての取引を全員が把握できるフェアトレードが実現する。

取引のファーストステップ

Log the First Mile

 Yave Platformにおけるアプリケーションの最初のステップは「Log the First Mile」と呼ばれているが、最初の1マイルの情報をログ(記録)するという意味で、コーヒー農園で働く人々が出勤データなどを入力するなど、農園における労働を、スマートフォンを使い記録していくステップとなる。コーヒー豆の収穫期などは収穫に関する情報も毎日記録し、どれぐらいの豆が採れたかなど、ショートメッセージのようなユーザーインターフェースで記録していくことができるという。

各種データの閲覧ももちろん可能

 トレーサビリティに関する情報については、コーヒー農園の出荷数はもちろんだが、通常出荷される豆については、最終的にはさまざまな農園の豆がブレンドされて出荷されるが、その比率などももちろん明確であり、誰でも確認することができる。

 また、コーヒーが輸出者から輸入者に、最終的には焙煎業者に渡されると、その情報もまた記録される。途中、定期的にコーヒーの試食も行われ、その品質情報についても都度更新されるという。コーヒーは、港から港、また多くの船舶を経由するため、輸入業者が貨物を受け取る際に、そのの品質が低下していることも少なくないというのだ。公平かつ透明性が確保されたトレーサビリティは、どこで品質が劣化するのかその原因についてもトレース可能になるそうだ。

 フェアトレードのためのトレーサビリティは、コーヒー農家に対して適切な対価が支払われるだけでなく、品質の良いコーヒー豆をより高い価格で市場に提供できる情報源にもなり、また、消費者も安心して購入できるメリットも生まれるという。

高橋ピョン太