イベントレポート

仮想通貨ウォレット追跡プログラム、反社会的勢力データベースによるリスク管理の有用性

BCCC 第10回リスク管理部会

第10回リスク管理部会

 一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)は6月25日、第10回リスク管理部会を開催した。今回のリスク管理部会では、前半は仮想通貨取引解析システム「Blockseer」を開発するDMG Blockchain Solutions Inc.(カナダ)CTOのDanny Yang氏を招き、「仮想通貨ウォレット追跡プログラムの説明とそれに期待すること」をテーマにお話を伺い、後半は日本信用情報サービス株式会社代表取締役の小塚 直志氏より「マネーロンダリング対策における反社データベースの構築とその有用性」について伺った。

仮想通貨ウォレット追跡プログラム「Blockseer」

DMG Blockchain Solutions Inc.・CTOのDanny Yang氏

 Danny Yang氏は最初に、DMG社の仮想通貨取引解析システム「Blockseer」と、仮想通貨ウォレットの信用格付けを行うサービス「Bitscore」についての解説をする。

 「Blockseer」は、ブロックチェーン上に記録された仮想通貨「Bitcoin」の取引をリアルタイムで解析し、同社独自のアルゴリズムで特定の取引を検知し、仮想通貨交換所での「疑わしい取引」を可視化し、特定のウォレットの取引をさかのぼって取引の経路を追跡することができるツールとのこと。現在、米国シークレットサービス、連邦調査局、および内国歳入庁(IRS)を含むいくつかの法執行機関にて正式採用されているクラウド型のソフトウェアだという。

「Blockseer」デモ画面

 また「Bitscore」は、これまで蓄積してきた「Bitcoin」ウォレットの取引データベースより、ダークマーケット、ドラッグ、違法ポルノ、ハッキング、詐欺行為、Bitcoin所有者の匿名性を高めるミキサー利用者などの取引を判断し、取引先のウォレットに対して取引の安全性を示す指標(スコア)で信用格付けを行うことができるサービスだそうだ。

 ちなみにDGM社では、オープンウェブからダークウェブまで、あらゆる情報先より収集したビッグデータから、仮想通貨やブロックチェーンに関するデータを抽出し、構造化しているとのこと。データ収集においては、同社では構造化データも非構造化データも含めた種種雑多な情報を再編集することができ、それらデータから重複や誤記、表記の揺れなどを探し出し、削除や修正、正規化などを行うデータクレンジングを施したのち、使いやすいかたちにデータを再構築しているとのこと。

 これらのデータをAIによって解析することで、「Blockseer」は取引に癖があるなどウォレットの特性を読み取ることができるという。またその癖のあるウォレットは誰のものなのかということもデータから追跡可能で、マネーロンダリング対策に役立つそうだ。なおこれらはリアルタイムで監視しているため、そのデータを解析することで、今、仮想通貨とブロックチェーンに起きていることについてを洞察することができ、解析結果をすぐに情報提供できるとのこと。これらについては、2件の特許を申請中だそうだ。

「Blockseer」によるデータのグラフ化

 この写真の上のグラフは、数年前に起きた仮想通貨交換所「Bitfinex」でのBitcoinの相場が急変したことを表している図であるとのこと。これはハッキングされ仮想通貨が盗まれたケースになるが、あるポイントで相場が変わりグラフが急降下し、10分おきに相場が落ちていることがわかったため、すぐにBitfinexに報告することができたという。

 また下のグラフは、仮想通貨交換所「Coinbase」のコールドウォレットの仮想通貨量を表している図で、こちらもあるポイントで急降下しているが、この場合はハッキングではなく、仮想通貨がハードフォークをしてほかの仮想通貨になり、元の仮想通貨の量が減ったことを表しているとのこと。そういったこともすぐにわかるという。

 ここで「Blockseer」のデモンストレーションも行われた。「Blockseer」では、ウォレットアドレスを指定するだけで、そのウォレットのBitcoin取引が瞬時に可視化され、取引の経路をたどり追跡することができるようになる。また追跡をしながら、ウォレットのアドレスにラベルをつけたり分類(クラスタリング)することができるほか、追跡情報を2次元チャート化したり、追跡・捜査状況を保存し、ほかの人と共有することもできるとのこと。

 実際の追跡捜査は、まず疑わしいウォレットアドレスを入力するのみだそうだ。ちなみに例として入力したアドレスは、ある時期に大量にBitcoinを送金していることから、怪しいウォレットの疑いがあるようだが……。

怪しいウォレットアドレスを入力

 ウォレットアドレスを入力すると、瞬時に取引の金額や日付が表示されるほか、すでに正体のわかっているウォレットアドレスの場合は、アドレスタグとしてその内容が表示されるようになっているという。ちなみにこのウォレットはEthereumがIPO(上場)した際にEthereumを購入するために大量のBitcoinを送金していることがわかり、怪しいウォレットではないということが判明しているそうだ。

左下がEthereum IPOの送金先アドレス

 また追跡する際にも、気になる取引についてクリックすることで、その取引の詳細がわかるという。ちなみにEthereum IPOのアドレスに送金しているウォレットの上流をたどってみると、それがどこから送金されてきたものかもわかるそうだ。この例では上流からもう一つ別のウォレットにも送金をしており、ここでは二つのウォレットからEthereum IPOのアドレスに送金していることがわかる。

二つのウォレットから送金されている様子

 さらに上流にさかのぼっていくと、このウォレットは「Mt.GOX」にたどり着いたという。追跡の結果、元々Mt.GOXの顧客だった投資家が資金を引き揚げ、複数のウォレットに分散させていた仮想通貨を最終的にEthereum IPOに投資したということがわかったという。

上流のMt.GOXから下流のEthereum IPOまでを表示

 これは単なるIPOの投資話を紹介しているが、もしこれがハッキングの話だとしたら、これと同じようにハッキングされた場所から経路をたどれば、どこがソースになるのかがわかるという話になるとのこと。

「Bitscore」はウォレットの信用格付けを行う

 もうひとつのサービス「Bitscore」についても簡単に説明があった。

「Bitscore」は情報提供サービス

 まず「Blockseer」と「Bitscore」の違いは、「Blockseer」はユーザーの使い勝手が良くなるように、追跡をしやすくしたり、結果のデータを加工しやすくしたりという工夫をした、ユーザーに自由に使ってもらうサービスだが、「Bitscore」はAIが判定をしてその結果を吐き出すというものになるとのこと。

 これはお金を入出金するときの話になるが、顧客は仮想通貨交換所にお金を入金するが、その仮想通貨交換所にどの程度のお金が集まっているのか、またどんな人が交換所にお金を入金しているのか、そういったこともリスクであるとDanny Yang氏はいう。出金についても、お金を送ろうとしている相手がもしかしたら危険な人である可能性もあるということも考えられるという。「Bitscore」では、そういった入出金先の相手にどんなリスクがあるかを知ることができる、マネーロンダリング防止策に使えるサービスだという。

 ちなみにこれは例だが、仮想通貨交換所に汚れたBitcoinを送ってきているのは誰なのか、このアドレスを「Blockseer」を使うことでグラフ化できるが、そのアドレスがどこから来ているのかを調べると、実は有名なダークマーケットから来ていたということがわかり、これは危ないアドレスだということが判断できるという。また逆に顧客の本人確認であるKYC(Know Your Customer)がしっかりとした仮想通貨交換所からのアドレスは信用度が高いといった評価をすることができるとのこと。そういった情報をベースに取引先のウォレットに対して取引の安全性を示す指標(スコア)で信用格付けを行っているのが「Bitscore」であり、現在、APIを提供中であり、また特定のURLにウォレットのアドレスを貼り付けてアクセスすることで、そのアドレスについての信用格付け情報をくわしく吐き出すサービスも公開中とのこと。

 なお「Blockseer」と「Bitscore」は、今のところBitcoinとEthereum(今夏対応予定)向けのサービスだが、そのほかの仮想通貨については、現在検討中とのこと。

反社会勢力、マネーロンダリング対策の重要性

日本信用情報サービス株式会社・代表取締役の小塚 直志氏

 続いて、日本信用情報サービスの小塚氏により「マネーロンダリング対策における反社データベースの構築とその有用性」について解説が行われた。日本信用情報サービスは、マネーロンダリング対策やKYCに関するリスク情報を提供する会社で、DMGとは資本提携関係にあり、「Blockseer」と「Bitscore」の日本での販売については、すべて日本信用情報サービスが行っていくそうだ。

 日本信用情報サービスの業務のひとつに、反社会的勢力(反社)のデータベース、KYC対策のリスク情報を提供するサービスがあるとのこと。現在、多くの仮想通貨交換所が金融庁より指摘されている改善すべき業務として、反社およびKYCに関する業務の改善、マネーロンダリング対策の強化が挙げられているが、それらをカバーするサービスを提供しているという。

 小塚氏は、今後仮想通貨業界が健全に発展して行くには、そういったリスク対策、厳格な顧客管理をしっかりとやっていかなければならないが、これを1企業だけでやっていくのは、コスト面やまた情報収集の面においても非常に困難なことだという。これまで同社は、不動産業、賃貸保証会社など、反社を排除していかなければならない業者に対して情報の提供を行ってきたが、これからは一般業種向けにもそういった情報を提供していくために、現在準備を行っているという。

同社のリスク情報と配信の概要

 こういったリスク情報について、反社会的勢力の情報の配信は可能だが、SNS、記事、風評、個人情報については配信ができないので、そういった難しさもあるという。同社では、これらの情報を蓄積後、AIで分析をして、二次データベースとして情報を保有しているそうだ。

 サービスのイメージとして、WEBより同社のリスク情報データベースにリスク情報の照会をかけて、検索結果として回答を得るというイメージで、フィンテック関連業者向けと一般事業者向けに、それぞれ別のサービスとして(料金体系などの違い)提供を行っていきたいと考えているとのこと。

サービスイメージ

リスク対策のコンソーシアムを発足

 しかしながら仮想通貨関連に関するリスク対策については、それでもなお難しいと小塚氏はいう。これらは先ほどから述べているように、1企業がやるのには限界があるとのこと。小塚氏は、リスク対策のコンソーシアム(仮称リスク情報連合)を発足し、お互いの企業が保有するリスク管理情報を共有しあい、業界のさらなる成長に向けて貢献していきたいという。それが最も有効な対策ではないかと、小塚氏はいう。

コンソーシアム(仮称リスク情報連合)概要

 コンソーシアムでは、まずリスク管理情報を共有することで、ブロックチェーンの健全性を担保し、さらなる企業の成長、市場の拡大を目指すという。またこれらのリスク情報を導入する企業のコスト削減の実現も視野に入れ、お互いが協力し合える体制を作っていきたいとのこと。

 なおコンソーシアムはすでに活動を開始しており、6月25日現在、日本信用情報サービスをはじめ、金融系取引・情報システムなどを提供する株式会社マネーパートナーズソリューションズ、IPアドレスのブラック情報に強い株式会社Geolocation Technology、ブロックチェーン基礎研究の第一人者であるカレンシーポート株式会社が参加を表明、そのほかの企業とも参加協議中であることを明かした。

 最後に小塚氏は、この業界の発展、リスク管理対策は、優秀なツールの存在はもちろんだが、やはり業界が一丸となってリスクに立ち向かっていくことが一番大事ではないかと締めくくり、本日のリスク管理部会は終了となった。

高橋ピョン太