イベントレポート

中央銀行主導の国家仮想通貨「CBDC」開発やブロックチェーン活用の政治投票、社会実装が進むタイという国

「海外仮想通貨ビジネス動向視察レポート第一回」前編

 「世界の仮想通貨業界で今何が起きているか?」をテーマにしたセミナー「海外仮想通貨ビジネス動向視察レポート」の第1回が1月29日、東京都内にて開催された。今回はシンガポール・タイ編と銘打って、FEB株式会社・CEOの阪間裕之氏(タイ担当)、Twitterで海外のブロックチェーン・仮想通貨の動向を発信しているロシアンOLちゃん(@crypto_russia、シンガポール担当)のお二人が登壇した。

 「海外仮想通貨ビジネス動向視察レポート」は、ブロックチェーンビジネス・技術のセミナーを手がけるコイネージ株式会社が主催。第1回は東南アジアのタイとシンガポールを対象に阪間氏とロシアンOLちゃんがそれぞれの担当地域にちなんだセッションを行った。本稿ではイベントレポート前編として、阪間氏が報告したタイの最新情報をお知らせする。

海外仮想通貨ビジネス動向視察レポート タイ編

FEB株式会社・CEOの阪間裕之氏

 まずはタイ編ということで、阪間氏が登壇した。阪間氏は2014年頃からブロックチェーンビジネスに関わり始め、ブロックチェーン関連の各種ミートアップイベント等で登壇している。今回、タイへの1週間の滞在で10社のクリプト企業等を訪問し、現地のクリプトビジネスやコミュニティの実情を確認したという。

 阪間氏はタイを訪問先として選択した理由として、タイ政府がブロックチェーンに対して積極的であることを挙げた。民間にはSuicaのような電子決済システムが広く普及しており、ブロックチェーン関連の実証実験などを実施する土壌として適していること、仮想通貨の税率が15%と安いことも注目するべき点だと語る。

 現地のクリプトコミュニティは、タイ人よりもダウンシフトしてきた欧米人の方が多数派であるという。現地ではタイ語が第一言語であるため、それらのコミュニティ間で言語の壁が問題となっている。英語ベースのミートアップイベントでは動員数に伸び悩むイベントが、タイ語をベースにした途端に数千人規模に膨れ上がるというから驚きだ。

仮想通貨Zcoin創設者、仮想通貨交換所Satang創業者のポラミン・インソム氏

 タイ発の注目プロジェクトとして、仮想通貨Zcoinの創設者であり、仮想通貨交換所Satangの創業者ポラミン・インソム氏の存在が挙げられた。Zcoinは匿名性に優れており、その特性を生かして2018年11月のタイ民主党の選挙に活用された。公的な選挙でブロックチェーン技術が利用された実例として世界初で、国中からZcoin経由で10万を超える票が集まったという(参考記事)。

タイのデジタル資産管理法

 政治的な背景として、タイでは2018年5月より国王令として「デジタル資産管理法」が施行され、仮想通貨関連の法整備が行われた。現在タイでは仮想通貨の管轄がタイSEC(証券取引等監視委員会)となっている。現地でICOや仮想通貨交換事業を展開するにはSECと財務省の認可が必要だという。認可を受けた仮想通貨交換所は現在4社が稼働中とのこと。

 続いて2018年7月に「デジタル資産管理法 許認可制」が発効され、タイ銀行による仮想通貨関連事業への参入が大幅に緩和されている。その流れで、タイで実施される最も大きなプロジェクトとして、タイ中央銀行がR3社のCordaを利用した中央銀行デジタル通貨(CBDC)プロジェクト「Inthanon」の開発が同年9月より進められているという。民間銀行を含めたタイの主要8行が参加しており、2019年第1四半期にはホールセール向けの送金テストが実施される予定となっている。

タイ中央銀行の国家仮想通貨(CBDC)プロジェクト「Inthanon」

 その後、2018年末よりSTOに関する法整備に向けた議論が進められている。当初、タイSECは「STOはタイの法律上で違法」という見解を示していたが、タイCLSA証券などから「STO市場を国内に留めるべき」という意見も挙がっていることから、阪間氏は今後の展開として「海外企業を誘致するためのSTOの環境整備が進められる」という見方を示した。

 セッションのまとめとして、阪間氏はタイSECが仮想通貨を管轄するようになってからのフットワークの軽さを高く評価した。タイは東南アジアでも一、二を争うスピードで仮想通貨に適応していっている国なので今後も注目していきたいとして、講演を締めくくった。

日下 弘樹