イベントレポート
シビラ社、トークンエコノミープロトコルの研究開発を中間発表
学術的根拠に基づいて価値の見える化を実現
2019年1月29日 15:54
シビラ株式会社は1月25日、「トークンエコノミクスを実現させる経済プロトコルについて」と題したセミナーを、東京都内のブロックチェーン特化型コワーキングスペースNeutrinoにて開催した。同社CTOの流郷俊彦氏、COOの篠原ヒロ氏、プロダクトマネージャーの佐藤基起氏が登壇し、同社の取り組む「トークンエコノミープロトコル(TEP)」について、研究開発の中間報告を行った。本稿ではセミナーで発表されたシビラ社の取り組むトークン経済圏について、その仕組みと狙いを紹介する。
シビラ社はトークンが作り出す経済圏の研究・推進に注力しているという。同社はこれまで、「ブロックチェーン×農業」で産地偽装を防ぐ宮崎県綾町での実証実験や、CERN(欧州原子核研究機構)と共同で取り組む、量子コンピュータとブロックチェーンを組み合わせた次世代インフラの研究等を行ってきた。
シビラ社が現在取り組んでいるのは、ブロックチェーンの根幹にあたるコンセンサスレイヤーと、インターフェースとなる分散型アプリケーション(Dapps)とをつなぐ、トークンエコノミープロトコルの研究であると篠原氏は語る。氏は直近のICOバブルを例に挙げ、無秩序にトークンを発行できてしまう現状のままで、明確な経済は実現可能かという問いを投げかけた。トークンの発行量や流通の仕組み、インセンティブのあり方といった経済プロトコルを定義することが必要であるという。
シビラ社はトークンエコノミープロトコルの研究において、これまで人類が行ってきた貨幣経済の歴史の中で積み上げてきた知見を取り込むという。社会の動き方やインフレの発生といったものは経済学の中で研究され尽くしている。しかし、現在のトークンエコノミクス、ひいてはブロックチェーンの全体的世界観にこれらの知見が十分に持ち込まれていないというのだ。
シビラ社が研究するトークンエコノミープロトコル
シビラ社・CTOの流郷氏から、シビラが現在開発を進めているというトークンエコノミープロトコル(TEP)について、その概要が語られた。
研究の背景には、「価値の正当な評価」があるという。現在、オープンソースのエンジニアや自然生態系農家(環境を汚さないというポリシーをもって作物を生育する農家)といった人々は、取り組みの社会的な必要性にも関わらず、正当な対価を受け取ることができていないというのが流郷氏の主張だ。シビラ社が研究するトークンエコノミープロトコルは、そういったまだ評価されていない価値を正しく見える化するものだという。
シビラ社の提唱するTEPとして、「ジェム」(Gem)というトークンを用いた経済圏構想が示された。上図に示す通り、ユーザーをクリエイター(creator)、サポーター(supporter)に便宜上分類する。各ユーザーは一定期間ごとに配布される、譲渡不可のトークンジェムを使用し、コンテンツの作成やコンテンツに対する「いいね」(Emotion)といった経済活動を行っていく。消費したジェムの量に応じてスコアが与えられ、評価が見える化されるという仕組みだ。
コンテンツの作成やそれに対するエモーションで得られるスコアは、「R-index」という指標で算出される。これは、エモーションを継続的に獲得するコンテンツと、瞬間風速の大きいコンテンツを比較し、前者のスコアを高く評価するというものだ。また、スコアには評価を行った時期的な「早さ」も関係するという。
継続的人気を重視する指標を採用する一方で、瞬間的な人気を評価するシステムとして「バッジ」があるという。バッジもまたコンテンツの一種であるが、発行者がジェムを消費し、ユーザーに与えることができる。バッジは「被災地ボランティアを行う人」だとか「素晴らしいプログラムの作成者」のような特定の行いを評価する目的で生成され、それ自身がエモーションの対象となるという。エモーションを集めたバッジは、保有者のスコアに影響を与えるとのことだ。
先述の「スコア」「バッジ」に基づいて配布されるものがガバナンスチケットだ。プロトコルアルゴリズムの変更時などに多数決を取るための投票権として消費されるという。
まとめると、TEPはジェムを消費した量、消費させた量をスコアとして見える化し、その人物の取り組みに対する熱量を評価する仕組みといえる。ゲームやオープンソースソフトウェアと連携することで、これまで評価されてこなかった分野での取り組みを評価することが可能となるという。各ユーザーの活動内容はリファレンスとしてブロックチェーン上にすべて記録されるため、企業の採用活動等で正当な評価を行うのに役立つとのこと。
プロトコルの学術的根拠
セッションの後半では、シビラ社のプロダクトマネージャーである佐藤氏が、トークンエコノミープロトコルに取り入れられている学術的根拠を語った。
トークンエコノミープロトコルは、そのゲームデザインとガバナンスデザインにおいて、経済学的根拠に基づいた設計がなされているという。経済学における「効用」という考え方をベースに、「行動契約理論」と「繰り返しゲーム理論」といった既存の理論をブロックチェーンに置き換えて取り込んでいるという。
佐藤氏からは多岐にわたる経済学的知見が語られたが、本稿では詳細な研究内容については省略する。先行研究として、2017年にJuan Beccuti氏らが発表した「繰り返しゲームとしてのマイニング」や、2018年にEthereum設立者Vitalik Buterin氏らが発表した自由急進主義に関する論文内の「Quadratic Voting(二次投票)の応用」などを基に仕様の策定や裏付けを進めているという。先述のR-indexを用いた評価基準についても研究を進めており、さらなる改善の可能性もあるとのこと(参考資料1、参考資料2)。
今後の展開
トークンエコノミープロトコルは、今回発表の通り設計が完了し、実際にブロックチェーン上に実装しリリースするための準備として、学術的な根拠を定義していく段階にあるという。実際にどのような形で実装されるのかという質問に対して流郷氏は、どのブロックチェーンを利用するか、既存の技術から将来的なものも含めて広く検討中と回答している。