イベントレポート

ブロックチェーン活用コンソーシアム展開にはデモンストレーションまでのスピードが重要

NTTデータ先端技術シタル氏が語るコンサルティング事情、不動産と自動車の業界取り組み事例

 日本オラクル株式会社(以下、オラクル)は2月20日、Oracle Cloud Daysと題して連続開催しているセミナーシリーズの1つ、「Blockchain Day」を開催した。副題は「ビジネスでの実利用にむけて、今取り組むべきこと」とされ、5人の登壇者による講演とパネルディスカッションを通じて、オラクルが提供するクラウドプラットフォームの概説、実際のエンタープライズでの導入事例、各社の取り組みなどが報告された。

 Blockchain Dayでは、オラクルの他、株式会社NTTデータ、NTTデータ先端技術株式会社、ブロックチェーンベンチャーの株式会社INDETAILから、計5名が登壇しそれぞれ講演を行った。本稿では、NTTデータ先端技術のシタル・セウェカリ氏による「事例から学ぶBlockchain導入の課題と解決策」と題した講演をレポートする。本稿で取り上げない講演内容は後日掲載予定だ。

ブロックチェーン技術のコンサルティングにありがちなこと

NTTデータ先端技術株式会社・Fintech & Disruptive Technologies ディレクターのシタル・セウェカリ氏

 NTTデータ先端技術は基盤系の開発を行ってきたが、2018年7月にグローバルテクノロジー事業部を立ち上げ、アプリケーション開発を中心にAI、ブロックチェーン、ビッグデータなど最先端技術の活用を研究しているという。同社・Fintech & Disruptive Technologies ディレクターのシタル・セウェカリ氏は、「事例から学ぶBlockchain導入の課題と解決策」という題目で講演を行った。

 2016年からブロックチェーンに取り組んできたというシタル氏は、これまでに扱ってきた国内外のさまざまなブロックチェーン案件の中で、実体験に基づく知見を共有する。氏はJPモルガンによるJPMコインの開発や、山下氏が取り上げたヨーロッパでの取り組みなど、昨今の金融業界でのブロックチェーン活用の活性化を取り上げ、これからも発展が見込める技術とした。

 実際のコンサルティングの中では、2つの困りごとがあるという。ブロックチェーンを使って既存業務をどうにかしたい、何とかしてブロックチェーンを使いたいという顧客の考えからスタートすることが多い。それを受けて、いくつかの提案を持って議論を行うと、最終的に顧客側は「もう出来上がっている仕組みに、わざわざブロックチェーンを使う必要はないのでは?」という結論になり、振り出しに戻ることが多々あるとシタル氏は苦笑混じりに語る。

 もう一つは、意図せず顧客側の上役が打ち合わせに加わることが多いとのことだ。ブロックチェーンという言葉の新しさに惹かれて、CEOや取締役が我先にと会議に加わってくるというのだ。そうした場合、エンタープライズ向けのプライベート型ブロックチェーンと、一般的なパブリックブロックチェーンの違いなど、前提知識の違いから議論が進まなくなることがあるという。

NTTデータ先端技術が取り組むユースケース

 NTTデータがさまざまな事業に取り組んできた中、シタル氏は4つの事例を紹介した。本稿では不動産情報共有コンソーシアムの取り組みと、ドイツの自動車メーカーで実用化が進んでいるという部品情報共有の取り組みについて紹介する。

不動産情報コンソーシアム「ADRE」

不動産情報コンソーシアム「ADRE」の取り組み

 1つ目は、以前に弊誌でも紹介したことのある日本の不動産業界を中心としたコンソーシアム「ADRE」の取り組み。2018年11月に不動産情報共有プラットフォームの商用化を目指して正式にコンソーシアムが設立された。

 不動産業界の解決すべき課題に「おとり広告」という問題がある。店頭などに張り出される優良物件が、実際にユーザーへ提案する段階になって既に借用済みであることが判明するというものだ。従来は、「おとり広告」を減らすために数十人態勢で電話連絡を絶えず行って最新の情報に保っているという。

 ADREのプラットフォームでは、不動産業界に加えて水道など公的機関による支払い記録やECサイトの荷送り情報などをマッチングして住居状況をより確かに、リアルタイムなものにする。情報を提供する側となるECサイト視点では、届け先の正当性を確認することが可能となり、違法な利用者の選別にデータを利用することも可能だという。

自動車メーカーにおける部品情報の共有技術

自動車メーカーにおける部品情報の共有技術

 ドイツの大手自動車メーカーで実際に行っている事例で、自動車に使用する部品情報の共有技術があるという。従来の自動車設計の工程では、ある部品のデザインが変わると、他と連動する部分に影響がないかなどの確認が必要となり、さまざまなベンダーを経由して書類ベースの確認作業が必要だ。この確認作業を、ブロックチェーンを活用して簡略化するための取り組みとなる。

 この取り組みでは開発スピードが問われたという。シタル氏は、アクセラレーターという仕組みで、再利用可能なモジュール群を駆使して、Hyperledger Fabricで実装した4つのノード上で動くデモンストレーション用のアプリケーションをわずか6週間で完成させたと語った。現在本稼働を始めており、オラクルのブロックチェーンプラットフォーム上で動いているという。

オラクルのブロックチェーン基盤に期待すること

 日本国内での事例では、コンソーシアムに企業を集めるためにはアプリケーションによるデモンストレーションを行って具体的なビジョンを見せることが重要であるとシタル氏はいう。そこで、NTTデータ先端技術が提供するブロックチェーンアプリの開発を高速に行うサービスや、オラクルのブロックチェーン基盤が有効だという。オラクルの基盤を使うことで環境構築の手間を省くことができ、アプリの開発に注力することができるのは魅力だと述べた。

 最後に、オラクルのブロックチェーン基盤に今後期待することとして、ERPやDBなど既存システムおよびOracleの展開する他製品との連携強化、最新のブロックチェーン技術の更新を挙げた。オラクルのブロックチェーン基盤を使ってワンストップで対応することが可能になれば有用だとして、公演を締めくくった。

日下 弘樹