イベントレポート
DAppsゲーム「My Crypto Heroes」は、2年先のデジタルアセットの設計も済んでいる
イーサリアムERC-721トークンで発行されたヒーローたちの今後
2019年3月12日 15:48
ブロックチェーンプロジェクト紹介イベントの企画・運営を行うBLOCKCHAIN PROseedは3月4日、東京・丸の内vacansにてトークイベント「dApps Gameから見るパブリックチェーン業界 2019春版」を開催した。
本稿では、イベントレポート第2弾として、DAppsゲーム「My Crypto Heroes」を開発・運営するdouble jump.tokyo株式会社・COOで「My Crypto Heroes」のプロデューサーでもある玉舎直人氏による「dAppsゲームエコシステム運営秘話」と題したトークセッションと、それに続くイベント後半戦の「日本でdAppsゲーム産業が成長する為に(仮)」をテーマに語り合うパネルディスカッションについて報告する。
なお、イベントレポート第1弾「DAppsゲームの課金体験から理想のDAppsについて語るメディアアーティスト、絢斗優氏」にて、トークイベント前半を報告しているので、そちらも併せて読んでいただきたい。
世界で話題のDAppsゲーム
「ミスビットコイン」の愛称で広く知られる司会進行役の藤本真衣氏は、最近、海外の友人から日本のゲームということで「My Crypto Heroesって知ってる?」と聞かれることが多くなったそうだ。先頃、海外で行われたノンファンジブルトークンのイベントでも「My Crypto Heroes」が話題になったという。「My Crypto Heroes」の登場で日本のDAppsゲームが注目されつつあるという藤本氏は、自分でもDAppsゲームについてもっと知りたい、「My Crypto Heroes」について詳しく知りたいということで、今回のイベントを企画したという。
という藤本氏の企画から、トークセッション2番目の登壇者は、「My Crypto Heroes」のプロデューサーである玉舎直人氏となった。玉舎氏は、ブロックチェーンゲームとエコシステムについて、今、「My Crypto Heroes」に起きていることを中心に、開発秘話や運用の苦労話など、「My Crypto Heroes」の事例を披露する。
「My Crypto Heroes」を開発・提供をするdouble jump.tokyo社は、2018年4月に設立されたばかりで、設立後1年にも満たない会社だという。double jump.tokyo社は、「ブロックチェーンの技術を使いゲームの未来を再構築する」をコンセプトに、ブロックチェーンゲーム開発専業会社として誕生したという。コンピューター系の出版社を経て大規模MMORPGやモバイルゲームを多数プロデュースしてきた玉舎氏は、まずは開発チームを紹介をするが、そのチーム構成がユニークだ。
開発チームは、double jump.tokyo社・CEO兼CTOの上野広伸氏が開発トップを務め、上野氏のもと3世代に渡るチーム構成になっているという。内訳は、40代50代の旧来ゲーム業界出身が3名、30代のITソーシャルゲーム業界出身が3名、20代のブロックチェーンネイティブのインターンが3名と、まさに3世代。「My Crypto Heroes」は、上野氏を入れて、合計10名で作っているそうだ。その他に社外アドバイザーとして、ゲームやブロックチェーンに強いメンバーが参画する。社外アドバイザーの居住地が、マレーシア、ルワンダ、東京に住む3名というのも面白いが、何よりも面白いのは上野氏だ。上野氏は、元々野村総研で金融システムを開発し、その後モバイルゲームを開発する会社でゲームのプラットフォームやアプリの開発基盤を構築してきたという経歴の持ち主とのこと。ちなみに玉舎氏と上野氏は前職から一緒に仕事をしているそうだ。
「My Crypto Heroes」について
「My Crypto Heroes」は、ゲームにかけたお金も時間も情熱もすべてユーザーの資産になる世界を実現させたくて開発をしたゲームだと玉舎氏はいう。
ちなみに玉舎氏は登壇の冒頭で「My Crypto Heroes」をやったことがある人はどれぐらいいるかと会場に問いかけたところ、9割以上の人の手が挙がったことを理由に、「ここではゲームの内容についての説明を省きます」と解説を飛ばし、会場の笑いを誘っていた。ゲームは、ざっくりと歴史上のヒーローが戦うゲームであると解説をする。
「My Crypto Heroes」は、歴史上のヒーローたちを集め、育て、バトルに挑む、そしてまた育成、この繰り返しでより強いチーム、ヒーローを手に入れていく、RPG。double jump.tokyo社は、これをワーカープレイスメント型RPGと呼ぶが、いわゆる有名どころのRPGのようにフィールドがあって、突然スライムが出てきたり、宝箱が出てきたりするタイプのゲームではない。ワーカープレイスメント型とは、ボードゲームのジャンルの一種だが、ワーカー(労働者)を配置して、ゲームのルールにのっとって何か行動をするタイプのゲーム。「My Crypto Heroes」は、ヒーローで組んだチームをクエストで敵と戦わせレベルを上げたりアイテムを手に入れるたりしながら、デュエルで他のプレイヤーのチームと対戦するなど、チームをベースにあれこれ行動をするゲームだ。そういう意味で、ボードゲームに近いかもしれない。キャラクターを操作して歩き回るフィールドがないので、ユーザーの想像力がものをいう世界になっている。それと、ヒーローを手に入れ、コレクションをしていくという要素もまた大きな特徴の1つだろう。
「My Crypto Heroes」のヒーローは、プレセールではEthereum(ETH)で、ゲーム内ではゲーム内通貨となるGUM(Ethereumで購入する)で購入することになる。ただしゲームは、無料で入手できるヒーローもいるため、基本無料プレイも可能だ。仮想通貨を持っていなくてもすぐに遊べる、初心者にも優しいゲームになっている。購入した多くのヒーローは、所有権はユーザーにあるため、ゲーム内のマーケットで売ることも可能だ。希少価値の高いヒーローは、人気の度合いで価格が高騰することもあるという。
ゲームは、ヒーローの他に、アイテム(エクステンション)やランド(領地)など、これらすべてが、Ethereumのスマートコントラクト規格「ERC-721」のトークンとして発行されており、ブロックチェーンのアセットとして管理されているのが特徴だ。だから、所有権はユーザーにあり、そして売買も可能なのだ。
またゲーム内で、アートエディット機能を使うことでヒーローの絵柄を変更することができ、自分だけのヒーローを作ることが可能だ。変更された画像により、能力値が変わるのもまた面白い。ちなみに初回のアートエディットは無料だが、2回目以降のアートエディットは40GUMという費用がかかる。
これらの機能を実現する「My Crypto Heroes」は、EthereumのブロックチェーンとLoom Networkというサイドチェーン技術を活用し、オンチェーンとオフチェーンのハイブリッドアーキテクチャにより構築されている。そのため、スケーラビリティが向上しており取引の待ち時間がかなり短く、ストレスなくアセットの取引が可能になっている。さらにサイドチェーンであるメリットとして、Ethereumの手数料、いわゆるGAS代がかからない。ブロックチェーンの課題とされている部分がかなり改善されているものになっている。
「My Crypto Heroes」の歴史
現在世界で最も遊ばれているDAppsゲームへと成長した「My Crypto Heroes」は、正式リリースが2018年11月30日。実はまだ3か月しかたっていないことに驚かされる。わずか3か月で、世界一になったことになる。しかし「My Crypto Heroes」の歴史としては、9月に行われた「ヒーロー プレセール」や、先行公開の「バトルβ」もまた話題になったことから、そのちょっと前から存在感はあったが、それでも5か月弱なのだ。そして、このトークショーが開催された3月4日は、奇しくも「ランド」グランドオープンの日だったという。玉舎氏は、本当は忙しくてトークショーどころじゃなかったと発言し、会場の笑いを誘った。ランドの提供でようやく「My Crypto Heroes」のエコシステムは完成であると、安堵の表情も見せた玉舎氏が印象的だった。ちなみに「ランド」とは、ユーザーが購入した領土になる(ノードのようなもの)。他のユーザーを自分の領土に招き、遊ばせることができるのだ。ランドはもちろん自分の世界観でカスタマイズすることができるという。いうなればゲームの運営権をもユーザーに譲渡している形が「ランド」だ。
ここで玉舎氏は4桁の数字「3519」を会場に向けて提示した。「この数字は何だと思いますか?」とクイズ形式で、「My Crypto Heroes」にちなんだ数字を発表した。「3」は、ユニークユーザー3万人だという。そして「5」は、DAUが5000人(1日のユニーク訪問者数)、「1」は累計売上1万ETH突破、「9」はランドの数、9か国を示しているという。DAppsゲームでここまで成長したものはこれまでになく、世界一のブロックチェーンゲームになったとはいえ、玉舎氏いわく、これは既存のゲーム業界のヒットゲームと比べたら、まだまだ2桁以上差がある結果であり、満足はできないという。やはりこの世界は、まだこれからの市場であるとのこと。ちなみに、現在の「My Crypto Heroes」は、日本のユーザーと海外ユーザーの比率が7対3だという。これは恐らく年末年始にキャンペーンとしてテレビCMを流したせいだと見ているという。しかし、当面は海外に注力し、この比率を5対5の比率まで戻したいそうだ
エコシステムはどこへ向かうのか?
こうしてキャラクター、アイテム、そしてランドというゲームの運営権の所有をもユーザーに譲渡してしまうDAppsゲームのエコシステムは、これからどこに向かうのだろうか? 玉舎氏は、その答えではないが、これまでのゲームでは見たことがない現象として、「My Crypto Heroes」に起きた世の中の現象を紹介する。
「My Crypto Heroes」はEthereumのブロックチェーンを活用したゲームであることから、どうしても仮想通貨が必要になる。現在、自分で仮想通貨を用意するには、まずは数日かけて仮想通貨交換所に口座を開設し、その上でEthereumを購入する必要があるが、ブロックチェーンゲームで遊ぶ者にとって、これが大きな障壁であることは紛れもない事実であるという玉舎氏。しかし、現在、「My Crypto Heroes」を遊びたいという人のためにEthereumを配る活動をしている人たちが現れたというのだ。これは、「My Crypto Heroes」を遊んでファンになった人が、自主的にやり始めたという。double jump.tokyo社は一切関わっていないありがたい現象が起きているというのだ。「My Crypto Heroes」ユーザーが自主的に初心者支援や互助企画が日常茶飯事になっているようだ。
偶然にも玉舎氏もまた、DAppsが進化し、ブロックチェーンゲームが発展した先には映画「レディ・プレイヤー1」の世界が待っていると、前段のトークセッションでメディアアーティストの絢斗優氏と同意見の結論を示し、トークセッションが終了したことが面白かった。
最後は、パネルディスカッション
トークイベント「dApps Gameから見るパブリックチェーン業界 2019春版」の後半戦は、「日本でdAppsゲーム産業が成長する為に(仮)」をテーマに語り合うパネルディスカッション。登壇者は、司会進行役の藤本真衣氏とメディアアーティストの絢斗優氏、そして「My Crypto Heroes」プロデューサーの玉舎直人氏の3名。
パネルディスカッションは、トークセッション中に寄せられた会場からの「My Crypto Heroes」に対する質問をチョイスし藤本氏が投げかけるという方式で進行した。
最初の質問は、藤本氏も気になっていたことだという「何でドット絵にしたんですか?」という直球の質問が玉舎氏に対してぶつけられた。
玉舎氏いわく、そもそも最初は、アートも含めてすべてオンチェーンに載せようとしていたという「My Crypto Heroes」。そういう理由から、データは小さい必要があったため、ドット絵が選択されたとのこと。また、開発コストの問題もあるという。最近のゲームは、アートに3Dを使ったり、仮に2Dでも非常にリッチな絵ばかりで、ゲーム開発コストのざっくり7割から8割はグラフィックにコストを割いている状況だという。しかし、玉舎氏の会社はベンチャーでスタートしていることから、スモールビジネスの形で事業を進めなければならない中で、ブロックチェーンゲームの収益性が十分に見えない中、グラフィックにコストを割いてしまっては、開発費用のほとんどがそこに消えてしまい、本質的なゲームの面白さであったり、ブロックチェーンでやるべき技術の部分に十分な投資ができないのは問題であると考えたという。悪いいい方をするとゲームのぜい肉のような部分は、すべてカットした結果だという。
という理由もあるが、実は私たちのチームは「おっさん」が多く、「おっさんは3Dとかもう疲れちゃって、絵はドットかいいんじゃないの?」という結論にもなったといい、ここでも笑いの渦が巻きおこった。メディアアーティストの絢斗氏の「ファミコン世代ぐらいですか?」という質問に対して、間髪入れず「そうですね」というやり取りがまた面白かった。
「My Crypto Heroes」の開発にかかった工数はどれぐらいか? という質問も非常に多いと話す藤本氏。
簡単に工数をひと言でいうのは難しいという玉舎氏。会社を作ったのが4月で、4月から1か月間は玉舎氏と上野氏の2人だけで会社がスタートし、創業メンバーのもう1人高宮氏は前の会社のプロジェクトの関係でジョインがずれ込み、実質4月はゲーム会社としては珍しいゲームのホワイトペーパーを書くという作業をしていたという。当時は、ICOをすることも考えていたが、状況的にICOは難しくなり、そのホワイトペーパーは世に出ることはなかったが、現在の「My Crypto Heroes」のエコシステムを設計するための基礎はすべてそこで生まれたという。また「My Crypto Heroes」は仮想通貨を使うゲームであることから、当時、金融庁に伺いをたてるのにホワイトペーパーは役立ったとのこと。ということで、ゲームの開発がスタートしたのは5月になるが、実はいったん作ったゲームとチームをシェイプアップするために作り直したので、本当のスタートは6月だという。ということで「My Crypto Heroes」の工数は、5か月ぐらいとのこと。10人のメンバーで作っているので、人月計算をすると50人月程度だという。
それに対して絢斗氏は、ブロックチェーンまわりのエンジニアはどのくらいの人数かと、改めて尋ねた。玉舎氏は、トップの上野氏もオールマイティでブロックチェーンに関わっているので、実質は3名だとのこと。その他のエンジニアは、Webまわりのフロントエンドのエンジニア、オフチェーンまわりのエンジニアに分かれるという。
「My Crypto Heroesのヒーロー、アセットに関して、エコシステムとして2年先までの提供アセットを考えていると伺っているが、それは大変じゃないか?」という絢斗氏の質問への回答は「大変でした」と、ひと言だったのがまた大変さを醸し出していた。
ヒーローは、当初、128体の予定だったが、今、200体に増やしているという玉舎氏。そのヒーローのアセットの設計を先に行い、先々2年分のアセットの量をまず決めているとのこと。それから逆算をして、リリース時に出すヒーローや、その途中に登場するヒーロー、そしてどういうふうにゲームを展開していくかを考えてやっているとのこと。そういう意味で「大変でした」と話す。まだ、いえないことだらけだという言葉に期待がかかった。
そのあたりは、ゲームの開発という範疇を超えて、金融関係等、さまざまなノウハウが必要なのではないか? という質問もあった。
玉舎氏は、「当社のトップの上野は、金融システム開発の経験者であり、ゲームの開発者でもある」という経歴が功を奏しているという。そんな人材は、あまりいないのではないかという言葉もまた印象的だった。「My Crypto Heroes」のエコシステムの設計に対しては、大きな影響を与えていると思うと述べた。
絢斗氏の「今後、DAppsを開発するエンジニアは、両方の経験が必要ですか?」という質問に対して玉舎氏は「そんな経験は難しいので、いったんMy Crypto Heroesの開発チームにくればいいんじゃないですか」と冗談をいうも、実際に金融システム開発者とゲーム開発者との垣根は高いのではないだろうかという結論だった。「My Crypto Heroes」は奇跡的に誕生したともいえるものではないかという印象だ。
結論として、パネルディスカッションは、「DAppsゲームを作るのは大変だった」という印象にも関わらず、和みのトークが展開する、終始、笑いが巻き起こるコーナーだった。笑いながらも、その実、かなり計算されたエコシステムであることが実感できるイベントだったのではないだろうか。「My Crypto Heroes」は、まだ始まったばかりだと話す玉舎氏がいうように、この先、さらに楽しくなる予感のする、期待したいゲームの 1本だ。